予期せぬ告白。
ジークが生まれた後も試合は続いた。
勝ち方はともかく、取りあえず今年の目標は最後まで勝ちきることだったので、
「格上には剣で、同等以下では斧で」のポリシーを最後まで貫いた。
結果としてリーグ戦を全勝で終え、無事優勝することができた。
...勿論エルネア杯の年までこのままでいいわけじゃない。
だが、探索の成果も上々だったので、来年以降は斧で勝ち通せる自信が既にあった。
***********************************************
「あれ、アンテルム?お前がなんでいるんだ?カティーナさんは?」
リーグ戦終了後の日々はあっという間に過ぎていき、気づいたら「炉じまいの儀式」の日になっていた。
この場を取りしきるのは今年度の兵団長ー、ペトレンコ家の隊長カティーナのはずなのに、彼女はその場におらず、替わりに来ていたのは息子のアンテルムだった。
アンテルムは何とも所在なげな感じでしょんぼり立っている。
サンチャゴはそんなアンテルムの姿を目ざとく見つけて、声をかけたのだった。
「...母さんは引退したよ」
アンテルムは下を向きながら呟いた。
「エルネア杯でも近衛のお義父さんにあっさり負けちゃったし、今回もイグナシオにすら勝てなかったろ?本職の騎士じゃないのに...。自分の限界をこれで悟ったって。あとはあなたがしっかりやりなさい、てさ...」
...おれの行動が彼女の引退を早めてしまったのかもしれない。
だけど、遅かれ早かれ誰でもその時は必ずやってくるんだ。
あれだけ強かった父もそうだった。だから、同情はしない。
「カティーナさんもう1年くらいやるかと思ったが、意外だな...。まあ、お前も嫁さんもらったんだし、いい頃合いじゃないか。一緒に頑張ろうぜ」
サンチャゴはアンテルムの肩をポンポン叩いて励ました。
「オレ、もう少しのんびりしたかったよ...。どうせ来年はみんなにボコボコにやられるに決まってるんだ!...勘弁してくれよって感じさ...」
誰がどう見てもアンテルムは兵隊長に向いていなかった。向いていなくてもやる気があればまだしも本人にもその気がない。普通の国民であれば、本人の希望通りのんびり暮らしていけるものを...。
残念ながら、山岳家の長子に生まれた以上選択権はほぼない。
まず、兵隊長の側から「引き継ぐ相手」を「選ぶ」ことはできない。
何か特別な事情があって、引き継ぐにはあまりにも不適格な場合は長子以外に引き継ぐことも可能だが...それには他の兵隊長と兵団顧問全員の同意が必要となっている※
兵隊長が恣意的に長子から継承権を奪うことを防止するため定められたものだ。
いっぽう、長子が望めば、継承権を弟妹に引き継ぐことは「一応」可能になっている。
ただし、弟妹が成人済みでなおかつ長子が独身である場合に限る。
勿論弟妹自身の同意が必要なのは言うまでもない。
弟妹に同意してもらえるかどうか解らない状態で、自身の結婚を先延ばしにする...というのは中々に度胸のいる行動になるので、この選択肢を選ぶ者も、そう沢山はいない。
アンテルムが兵隊長に向いていないといっても、こいつがなったら兵団に著しい損害をもたらすとか、そこまで酷いレベルではない。
また、妹に継承権を譲る選択肢についても、妻のロシェルにはとにかく惚れ込んでいたので、譲れるかどうかわからない継承権のために結婚を延期するなんて、おっかない賭けに出る気は全くなかったようだ。
...おれたちは選べない。
ならば、選べない中で覚悟を決めるしかない。
「ボコボコにされたくないんだったら、強くなるしかないだろ?ここに来た以上、くだらない泣き言言うなよ」
「...酷いよ、イグナシオ...そ、そこまで言わなくても...」
「泣き言は家でロシェルにでも聞いてもらえよ」
アンテルムは泣きそうな顔をしていたが、相手にしないことにした。
別に家で泣き言をいうことまで駄目出しをしていないんだ、間違ったことは言ってない。
「全く、お前は相変わらず言い方に身も蓋もなさすぎるぞ...。とはいっても、来年の兵団長サマだからな...。言い返せないよ。今はな」
サンチャゴが肩を竦めて溜息をついた。
そうこうしているうちに儀式が始まった。
引退したカティーナの代わりにカランドロ家のアイオンがその場を取り仕切り、滞りなく儀式は終わった。
来年は自分がこの役割を担うことになるー。
***********************************************
29日になると、殆どの国民は仕事休みに入るが、来年度の組織長予定者だけは重要な仕事が残っていた。
来年の評議会議長決定のための選挙に出なくてはならない。
「評議会の一員になるということは、兵団のみならず、王国の政治にも責任を持つということだ。しっかりやれよ」
父はそう言って送りだしてくれた。
「イグナシオ、兵団長就任おめでとう!まさかお前と一緒に評議会に出れるとは思ってなかったよ。これから宜しくな!」
議会に出向くと真っ先に、伯父のカールが笑顔で声をかけてきた。
伯父はこの度のトーナメントでも、勿論危なげなく優勝していたのだった。
「偉大な龍騎士」である伯父と自分が肩を並べる存在になるとは...何とも不思議な感覚だ。
選挙の結果は...勿論若造で新参者のおれが選ばれるなどということはなく...
陛下の信任厚い「龍騎士カール・オブライエン」が今年に引き続き議長に選ばれた。
勿論おれも伯父に投票したひとりだった。
「カールさん、評議会で一緒になれた記念...というわけじゃないんだけど、良かったら練習試合に付き合ってもらえないかな」
選挙終了後、思い切って伯父を練習試合に誘ってみた。
「ああ、構わないよ。そういえば、お前と試合するのは初めてだな。いくらでも、かかって来いよ」
伯父はいたずらっぽく笑いながら、快く承知してくれた。
2年後のエルネア杯では、伯父の存在が一番の脅威となるのは間違いない。
昨年のバグウェル戦の勝利から、伯父は更に力を伸ばしている。
勿論今の自分で勝てるとは思えないが、相手の力は早くから知っておく必要があった。
今後自分がどのように強化すればよいか、相手を知ってこそわかるというものだ。
「闘技場の使用料は120ビー!お前の分も、俺が出しておこうか?」
伯父が目くばせして聞いてきた。これは勿論冗談だ。
「おれはもういい大人だよ。その120ビーはいずれジークがお世話になった時でも」
「..........。ああ、そうそう、俺はジークが近衛に入るまで待ってなきゃいけなかったな。じゃあ、始めるかイグナシオ」
伯父が一瞬沈黙したのが何故か気になったが、取りあえず今は試合に集中するべき時だ。
「正々堂々、いざ!」
先手を取られるのを覚悟していた。
だが実際に、先手を取れたのはおれの方だった。
数回刃を交わしただけなのに、伯父のほうがあっさりと膝をついてくずおれてしまった。
...明らかに様子がおかしい。
「カールさん!」
おれは慌てて伯父にかけよったが、もう悪い予感しかしなかった。
「...見ての通りさ」
伯父は額に手をあてながら、ゆっくりと立ちあがった。
「寿命が近づいているようだ。残念ながら、俺はもう長くない...。時々こんな風に、身体が言うことを聞かなくなるのさ...。このところ、だいぶ回数が増えてきてな...。」
伯父は微笑んでいたが、その顔色は青白くなっている。
それは一番聞きたくなかった言葉だった...。
ゲーム内の性格設定だとイグは伯父さんでも呼び捨てにしちゃうんですけど、流石にそれはいかがなものかということで、イグの「おじさんズ」四人のうちカール・ガイスカ・マティアスの三人は普通に「さん」付けで呼ぶ設定にしています。カールやガイスカなら呼び捨てだと注意しそうだしね。しかしグラハムだけは呼び捨てかもしれない(^^;なんとなく
※山岳のこんな設定は勿論ゲーム本編ではありません。捏造です。毎度すみません...(>_<)
幸運の輝き。
「イグナシオさんどうしたの、試合の時と全然違うわ、そんなにウロウロしなくても。もう三人目ですもの、大丈夫よ...」
「何人目だろうと心配なことに変わらないよ...オリンピア、痛いところはない?大丈夫?」
試合が終わった後すぐ、飲みにいこうという悪友アシエルの誘いを一蹴して自宅に戻った。
今日は特別な日だった。
三人目の子供がこれから生まれることになっている。
産む当人のオリンピアは落ち着いていたけれど、見守る立場の自分で出来ることは少なく、かといって何もできないことも申し訳なく、結局ただ所在なげにウロウロしているだけだった。
「ウロウロしてるだけでも、いいのよ。その場にいないことが一番、腹立つの!」
母はそう言いながら、隣に立つ父の顔をチラっと見やった。
「どこかの誰かさんみたいにね」
「...あ、あの時は仕事や探索で余裕がなくて...でも、出産の時には間にあっただろう」
父は痛いところを突かれてしどろもどろになっている。
「まあいいわ...ジャスタス君頑張ってたのは知ってるから許してあげる。そうそう、イグナシオはあの時から優しかったものね。忙しいお父さんの代わりにずっと側についててくれたわ。」
...あの時母の側にいたのは今のおれじゃない。
意識の底に沈めた昔のイグナシオだ。
自分にあの時と同じ優しさが残っているかどうか、自分ではわからない。
けれど、オリンピアの気持ちが少しでも落ち着くなら...今は彼女の側についていたかった。それは本心からの気持ちだった。
「お義母さん...イグナシオさんは勿論今でも優しいですよ...あッ!」
普通に話していたオリンピアの表情がいきなり苦痛に歪んだ。陣痛が始まったようだ。
「オリンピアちゃん!いけない...巫女さんまだかしら?探してくるわね。イグナシオ、オリンピアちゃんの手をしっかり握ってあげてて!」
母が階下に降りようとしたときー、
「兄貴、巫女さんきたよー!」
一階から、妹のヒルデガルドの声がした。ちょうど到着したらしい。
「良かったわ...。じゃあ、邪魔になるといけないから、私たちは一階で待っていましょうね」
「えー、わたし、赤ちゃんが生まれるとこ、みたいー」
「あたしもー!」
娘たちはぐずったが、父が二人の頭を撫ぜながらなだめた。
「あんまり沢山人がいると、赤ちゃんもびっくりしちゃうんだよ。赤ちゃんとは後でいっぱいお話できるから、下でじいじとばあばと一緒に待っていようね。」
「うん...おじいちゃん、待ってる間遊んでくれる?」
「じいじ、お人形遊び、しよう!」
「お人形...あ...ああ、いいよ...じゃあ、行こう」
父は孫二人の手を引いて下に降りて行った。
厳めしい父が人形遊びをしている姿を見たいところだが...今はそれどころではない。
家族と入れ違いに巫女のフローラがやってきて、いよいよ出産が始まった。
苦しむ妻の手を握って励ますことしかできないのがもどかしいが...
後はフローラと妻に全てを託すしかなかった。
ふぎゃあ、ふぎゃあ!!
上二人の娘たちの時よりひときわ大きな産声が響いた。
「お母さん、頑張りましたね。元気な男の子ですよ」
...三番目の子供は、夫婦にとって初めての男の子だった。
「可愛い赤ちゃん...」
ようやくひと仕事を終えたオリンピアは、安堵に満ちた笑顔を浮かべた。
「名前をつけてあげてくださいね」
フローラがそう言って、息子をオリンピアに引き渡したその瞬間ー
子供の左肩のあたりがキラリと光った。
フローラはその輝きが何であるかすぐに気づいたようだ。
「あら?この子は神から特別な才能を授かったようですね。ほら...ここに印が※」
フローラが指し示した息子の鎖骨のきわには、小さく星形の痣があった。
「これは”グリニーの導き”の印だわ...おめでとうございます!」
グリニーの導き。
それは別名”罠除けの才”とも呼ばれ、この才を持つ者は、ダンジョンに張り巡らされた無数の罠を事前に察知できる特殊な感覚を持つことになる。武術職には就く者には非常にありがたい才能だった。
自分の血統には出やすい才のようで、曽祖父・祖父・父もこの才能の持ち主だ。
残念ながら自分にも弟妹にも発現しなかったし、二人の娘も同様だったから、てっきり父の代で途切れたと思っていた。
「イグナシオさん...この子に名前をつけてあげないと」
才能の発現に気を取られていて、大事なことを忘れるところだった。
名前は二人で事前に考えていた。
「ジーク」
「この子の名前は、ジーク・コロミナスです」
子供たちの名前は、ワ国に伝わる有名な叙事詩の登場人物から選んでいた。
「ジーク」はなかでもひときわ強力な戦士で、その名は「勝利」を意味する。
天賦の才を持つこの子にはうってつけかもしれない。
「ほら、赤ちゃんも素敵な名前をもらって喜んでますよ」
何はともあれ、オリンピアの胸に抱かれて微笑む息子は、才能など抜きにして愛らしかった。特徴的な長い睫毛は妻の方に似たようだ。
おれはジークのふわふわの頬をそっと撫でてみた。息子は反応してきゃっきゃと笑った。
「すごいよ...可愛いなあ。きっとオリンピアに良く似た、綺麗な目をした子になるね。男の子だけど...女の子みたいな美人になったりして!」
「イグナシオさん...早くも親バカだね」
「はは...だってそりゃあ...自分の子供は可愛いに決まってるよ。」
「親バカなくらいでちょうどいいんですよ...愛情で健やかに育ててあげてくださいね」
フローラは優しく穏やかな声でそう言い残して帰っていった。
「パパ!赤ちゃん生まれたの!!」
「おとうとー!あたし、おねえちゃんになったんだね!」
入れ違いに娘たちがけたたましい声をあげて二階に駆け登ってきた。
「こらこらあんた達、そんなに大きな声を上げると赤ちゃんびっくりしちゃうよ、そーっとしなきゃ、ダメ」
「ヒルダ姉ちゃん、はーい」
妹、それに父と母も一緒にやってきた。
「オリンピアちゃん、お疲れ様、イグナシオもね。明日はケーキでお祝いだね」
「二人ともおめでとう。無事に生まれて何よりだよ...。」
家の中全体が喜びの空気に包まれていた。めいめいがジークを抱きあげたり話しかけたりして、新しい家族の誕生を祝福してくれた。
夜も更け、家族達もそれぞれの床に入ってようやく寝静まったが、おれはまだ一人眠れずにいた。
ジークはおれの横ですやすやと寝息を立てている。
ーさて、まだ先のことだけど、どうするかなー
子供の人数は三人にしておこうと、オリンピアと事前に決めていた。そのうち長女のミカサも成人して結婚するから、娘の子作りに差し障りがないようにするためだった。
となると、例の「龍騎士の力の後継者」はこの三人から選ばなければいけない。
ジークがある程度大きくなり性格がはっきりしたら、その時が決め時だ...。
後継者が誰になろうと、その子が自分のように「ハートドロップ」を飲む羽目になるのだけは避けたかった。
三人のうち誰かが、自ら望んで宿命を背負い、使命を果たす意欲を持ってくれれば、それに越したことはない...。そうなってくれることを祈りたかった。
「はい、今日はケーキだよ。昨日ジークが生まれたお祝いね。」
「わーい!でもおばあちゃんのケーキがないよ?おばあちゃんだけパウンドケーキ?」
「ボワの実が足りなかったの。でもいいの。こっちにはたっぷりポムの火酒を効かしてるからね、おばあちゃんは大人の味で、い・い・の♪」
翌日もコロミナス家は祝祭ムードだった。
「よう!今度は男の子だったって?おめでとう!!」
そこへ伯父夫婦が訪ねてきてくれた。
「わーい!カールさんとアラベルさんだー!」
子供好きの二人の登場に、娘たちは歓声をあげて喜んだ。
「ジーク君何が好きか解らないから、お祝いにおもちゃ一通り持ってきたのよ」
「えー?ジークだけ?わたしたちには?」
アラベル伯母さんはにっこり微笑んで、ミカサとアニにリボンを巻いた小箱を手渡した。
「はい、ミカサちゃんには、積み木。アニちゃんにはお人形ね。二人の好きなものは、大伯母さんちゃーんと解ってますからね。」
「わーい、ありがとう!!」
「アラベルさん、いつもすみません...」
こんな感じで、伯父夫婦は折に触れて娘たちに贈り物をよこしてくれる。
「うちはもうアルドも成人しちゃったから...。ランスの所に二人目ができるのも当分先だしね。こうしてミカサちゃんたちと遊べるの、私たちこそ楽しみにしてるのよ。気にしないでね」
「じゃ、早速だけど坊主の顔を見させてもらおうか。」
「どうぞどうぞ、ぜひ私の可愛い孫に会ってあげてちょうだい!」
母が伯父夫婦を先導して二階に案内してくれた。
「さて。未来の大物君、初めまして。君のご所望のおもちゃ、教えてくれるかな?」
伯父がまるで王族に対するような恭しい手付きで、オリンピアに抱かれたジークの目の前に、三種類の玩具を差しだした。
「ぱぷ...?」
ジークは一瞬だけきょとん、と首をかしげたが、すぐに木剣に手を伸ばし、しっかりと握りしめたと思ったら、今度はブンブンと振り回し始めた。
「きゃ、きゃは、きゃはは!」
「ハハハ!こいつは随分とやる気満々だな!俺はそういうの大歓迎だよ、お前、将来近衛騎士隊に入るかい?」
「はーいー♪」
「はーいー?そうか!じゃあ俺、長生きして待ってなきゃいけないな!」
...こいつが伯父の言う通り近衛騎士隊に入ってくれるなら、龍騎士の剣とスキルを得る確率が上がるわけだから、確かにこちらとしても願ったりだ。
だけどそう上手くいくかな?
おれはジークがご機嫌でケラケラ笑う姿を見ながら、今後のことをぼんやりと考えていた...。
※天賦の才の発現と種類、巫女さんどうしてわかるの?とプレイしながら疑問だったので、ついつい「聖痕」みたいなものがあるに違いない!と設定を勝手に捏造してしまいました(^^;痕が出る位置については個人によって異なります。ジークの位置を「鎖骨の際」にしたことは...単純に、「成人した後セクシーだから」という理由です。変態ですねすみません...(^^;
波乱の兵隊長デビュー。
...父さん、何か似合わないなあ...。
今日は山岳兵団リーグの開会式。兵団顧問となった父が目の前で司会をしている。
同日に開催される騎士隊トーナメント開会式の厳かな雰囲気に較べて、山岳兵団のそれは何ともくだけた雰囲気だ。
尤も、あちらは陛下が列席し、試合の審判は神官直々に執り行う。くだけてなんていられようはずがない。
対してこちらは審判も自前、観戦者も殆ど身内ばかり。
どうしても「親戚の集まり」的な内輪のノリになってしまうのは仕方ないのかもしれない。
...ともあれ去年までは、「威厳ある兵団長」だった父が、無理して明るい口調で司会をしている姿はとても違和感があり、寂しくもあった。
かつてナトルで教師をしていたとき、「ジャスタス先生はなんか怖い」と子供たちに言われたことがあるそうなので、父なりに気にしているのだろうか。
似合わないのは自分も同じだった。
父に替わってコロミナス家の兵隊長となったものの、ここで熱く意気込みを語るような気分にはどうしてもなれなかった。
長子の立場にある以上覚悟はしていたが、今日一緒にデビューを果たす幼馴染サンチャゴと違って、別にいまかいまかとその日を待っていたわけでない。
どちらかと言うと、ああ...ついに来てしまったか、といった感じだ。
...しかしある意味この開会式が「内輪のノリ」で良かったと思う。
取りあえず「序列最下位の兵隊長」らしく、道化のような台詞で笑いを取ることで、その場を取り繕うことができたから。
*******************************************************
山岳兵団のリーグは長丁場だ。
自分の力量に関わらず、最上位から最下位まで、兵隊長5人全員と戦うこととなる。
おれの初戦の相手はウォルター・カランドロ。
現時点での兵団内序列は第二位。明らかに格上の相手だった。
「パパ、頑張って!」
「あたしが応援するから、ぜったい勝つよ!」
「イグナシオさん...頑張ってね」
家族の応援を受け、これから人生初の試合が始まる。
家督を引き継いだばかりの新米兵長が「ベテランの洗礼」を受けるのも、兵団リーグの風物詩だ。
試合前に出くわしたウォルターも、よもや自分が負けるなどとは全く考えないようで
ーさて、この新人をどう料理してやろうか-
明らかにそんな目でこちらを見ていた。
開会式では道化のように振舞ったけれど、試合でまで道化になる気はなかったので
おれは自分から、相手を挑発する言葉を投げかけた。
-新人のくせに生意気な-
ウォルターはそう思っただろうが、別に構わない。
相手は確かに「格上」だ。
「斧使い」としては。
だが、ウォルターのエルネア杯での戦いぶりを見ていたから
苦手武器を克服するだけの力量でもないのを知っていたー。
おれが選んだ武器はビーストセイバーだった。
自分の才は斧より剣の方にあったので、これなら相手に勝てる自信があった。
「...!!」
ウォルターは明らかに驚いていた。
その動揺にそのまま乗じる形で、おれは相手の斧を剣で弾き飛ばした。
「勝者、イグナシオ・コロミナス!!」
「パパ、やったー!!」
父親の初勝利に、娘たちは歓声を挙げ喜んでいたが、子供の歓声に混じってザワザワとした声も聞こえた。不穏な空気だ。
ウォルターも何か言いたげな表情だった。
おそらくは「卑怯だ」とでも言いたいのだろう。
試合に出てくる兵隊長で剣を使う者はいない。
別に武器種類の定めはないのに、暗黙の了解でなぜかそうなっている。
もし卑怯だと言われたら、言い返す言葉は沢山あった。
今まで散々、銃持ちの兵隊長を恰好の餌食にしてきたくせに、自分が不利になる条件では文句を言うのはおかしい、同じ武器の決まった相手としか戦わないから、いつまでたっても山岳兵団はエルネア杯で勝てないのだ-云々。
...が、相手は現時点のNO.2。
流石にそんな子供じみた突っかかりはしてこなかった。
すぐに落ち着いた表情に戻り、向こうから握手を求めてきた。
再び観客席から拍手が鳴り響き、不穏な空気はとりあえずは浄化された。
家族のもとに戻ると、皆口々に良かったねと笑顔で労ってくれた。
が、父だけは苦笑いの表情のまま腕組みをしていた-。
何か言われるかと思ったけれど、父は何も言わなかった。
試合は続いたが、その後もおれは勝ち星を重ねた。
同等以下の実力の者には斧で。
格上の相手には剣で。
山岳兵らしく、普通に斧で戦いつつ、年単位で少しずつ順位を上げる-
そういう方法もあることは解っていたが、とっとと兵団長になってしまいたかった。
素質に恵まれた父でも、兵団長に上がるには4年近くかかっている。
残念ながら、自分には祖父や父のような素質はない。「普通の方法」では最悪、兵団長に上がれぬまま兵長の任期を終える危険すらある。
兵団長になれば新しい技も得られるし、報酬も増えて強化のための費用を補える。
そしてエルネア杯では、有利な立場で試合に臨むことができるー。
それに、斧と並行して剣の能力を鍛えるのも、来るべき「騎士隊長との対決」に役立つはずだ。剣によって磨かれる速さの能力を高めれば先制される確率は下がる。
その時の相手が誰になるかはわからないが、龍騎士となった伯父カールであれば正直厄介だ。あの父でさえ勝てなかった相手で、しかも今は龍騎士の剣とスキルを持っている...。
が、相手が龍騎士であろうと、負けるわけにはいかない。
任期の中で自分に与えられた「エルネア杯への出場チャンス」は二回。
絶対に最初の機会で龍騎士になろうと決めていた。
おれにとって、あくまでもこれは「仕事」だから。
締め切り間際で焦る羽目にはなりたくなかった。
*******************************************************
「イグナシオ、解っているとは思うが...」
ある夜、今まで何も言ってこなかった父が、ようやく重い口を開いた。
「お前が勝つためにどういう手段をとろうと、試合の規定に沿ったものである限り、俺は咎めだてをする気は一切ない。」
「ただ...山岳兵団から龍騎士が初めて現れるとするならば、それは兵団の「希望の星」となるはずなんだ。ずっとこんな山奥の辺境の地で、過酷な採掘や精錬作業に従事してきた俺達のな...」
確かに、山岳兵団に割り当てられた仕事は他組織より重労働だった。
炭石や輝光石程度であれば浅く掘る程度で採掘できるので、一般国民の協力を簡単に得られる。
...が、貴重な資源となるゴールドや、鉄や鋼の元となるハッカ石・鉄鉱石を掘り出すのはかなり骨の折れる仕事のため、基本山岳兵団員に限定されていた。
更にそこから先の高炉の操作は肉体的な過酷さと共に危険も伴う。しかもおれたちは、その仕事を自ら「やりたくて」希望する訳ではない。
たまたま山岳家系に生まれついたというだけで付随する義務だ。
仕事の過酷さと引き換えに、多額の報酬と☆5ダンジョンに無条件で入れる特典が付与されていたが、全ての団員がそれを欲する訳ではないだろう。
父は話を続けた。
「仕事は過酷だが、我々の作りだす工芸品は我が国の基幹産業だ。俺達の仕事の成果が王国にもたらす富は計り知れない。それゆえに誇りを持って取り組んできた。
そして「斧」は始祖ドルム・ニヴの時代から、山岳兵団の力の象徴だ。だからこそ、兵団を束ねる者には「戦斧の達人」の称号が付与される。
その英雄となる者が、他組織で主流とされる武器を使って龍騎士になるということは...
皆がどういう気持ちになるか...できれば考えてほしいんだ」
「......」
「俺は、息子のお前が兵団の夢を叶えて英雄になれるなら本望だよ...。だからこそ...言っておきたかった」
おれ個人にとって龍騎士になることは使命であっても夢ではない。
でも、自分に与えられた二つの使命のうちもう一つは、「兵隊長として山岳兵団の発展のために尽力すること」だった。
兵団が、自組織初の龍騎士に求めているのは「剣や銃の英雄」などではなく、あくまで「斧の英雄」だ。
組織が求める役割を完璧に果たすのも、確かに自分の仕事なのだった。
ここで仕事をしっかり果たさないと...ハートドロップで無理やり意識の底に沈めた「以前のイグナシオ」にも申し訳がたたない。
「解ってるよ。今年は剣無しで勝ちきるのは厳しいと思うけど...探索の成果も順調なんだ。来年には斧一本で行けると思う」
「そうか...。お前がここ数年で順調に力をつけてきているのは解っている。その言葉を信じるよ。最終的に斧で勝てるようになるのであれば、現時点での過程は問わない。」
父は安心したようだった。
ついでにこの機会に、気にかかっていたことを聞いてみることにした。
「父さん」
「...何だ?」
「おれがこういうやり方で勝っていることで...父さん、周りから風当りが強くなったりしていない?」
別に自分が何と思われようと全く気にならないが、父に余計な気苦労を与えるのは本意ではなかった。
「まあ...古参の長老たちには嫌味を言われることもあるが...。別にお前が悪事を働いているわけじゃない。お前に全てを任せると決めたのは俺だ。俺は気にしていないし、お前も気にする必要はない」
「ありがとう...父さん」
母が自分の夢を諦めてまで、父との人生を選んだのも分かった気がした。山岳長子の立場に生まれたのは自分の本意ではなかったが...父の息子で良かったと思えた。
託された使命は未だに重いが、家族の存在に随分と助けられていた...。
-最後までお読みいただいてありがとうございます-
【イグの口調についての補足】
性格変更後のイグは「行動的な性格」のため一人称は基本「俺」なのですが...
カール伯父さんも「俺」ジャスタス父ちゃんも「俺」幼馴染サンチャゴも「俺」。
かようにイグの周りに「優しさ-1の一人称俺男子」が多すぎて、「俺」が乱立したあげくに大阪のオバチャンよろしく「どこの俺や!」となる事態を避けるため、主役のイグはひらがなの「おれ」で表記することにしました。悪しからずご了承くださいませ(^^;
カール編おまけ:ヘタレ山岳兵と龍騎士様
※こちらは「兵長継承」「もう一つの準決勝」とほぼ同時期のお話です(^^;
「よう騎士隊長殿、ムタンの種が採りたい。ゲーナの森まで、付き合ってくれよ」
親友のルチオから誘いを受けたのは、エルネア杯の準決勝が終わった翌日のことだった。こっちは決勝を控えた大事な時期だというのに...コイツは一体何を考えているのか。
「なんだよ、お前王配なんだから護衛がいなくても一人で入れるだろ※」
「こらこら、俺達か弱い王族をお守りするのも騎士隊長さまのお仕事だぞ。サッと行ってサッと出てくるだけのことさ。いいじゃないか」
俺としてはゲーナでコイツとちんたら散歩する暇があるなら、瘴気の森に籠って少しでもレベルを上げたいところだ。
...が、確かに「王族の護衛」も騎士隊の重要な任務であるので、要請がある以上は断れないのだった。
といってもその護衛内容が「ムタンの種採りのお手伝い」というのは断じて納得がいかないが。
「全く...しょうがないな。じゃあ、お言葉通りサッと行ってサッと帰るぞ」
「狙い通り種が出たら、な。出なかったらもうひと往復だ」
そう言いながら、ルチオはご自慢の白い歯をむき出しにして二カッと笑った。
この男と「ムタン種採りマラソン」を何往復もするのは御免被りたいので、最初の探索でムタンの種が大量に出るのを期待して、俺達はゲーナの入口へと向かった。
「...カール、おい、なんだ、ありゃ?」
入り口付近まで来てみると、緑色の髪をした若い山岳兵が、何度も入口を出たり入ったりしているのが目に入った。心なしかブルブルと震えているようだ。
「...ど、どうしよう...えいっ....ああ、やっぱり駄目だ。怖い...」
なにか事情がありそうだ。
「君...どうしたんだ?」
「...あっ...あの...」
振り向いた青年の目は涙目になっている。
俺とルチオは顔を見合わせた。
「理由はわからないけど君が困ってるのはよく解るよ。俺達でよかったら話を聞くけど...」
その山岳兵は一瞬どうしようか...と迷った顔をしたものの、意を決したのかぽつりぽつりと話し始めた。
「オレ今度...結婚するんです。子供の頃から仲良しで...スゴク綺麗で賢くて優しくて、オレには勿体ない相手なんですけど」
「ほー!それはめでたい!...で、お前さんがここを出たり入ったりするのとそれに何の関係が?」
ルチオが即座に突っ込みを返す。
「相手のお家...お父さんが近衛騎士なんです。で、この間婚約パーティで一緒に食事したとき...〚今度一緒にゲーナの森を探索しよう〛なんて誘われちゃって」
「成程な」
「で、でもオレ...山岳兵なのに恥ずかしいんですけど、た、探索、苦手なんです!怖いんです!帰らずの洞窟さえも怖くて途中で出ちゃうのに、ゲーナの森なんて入ったこともなくて...。ほんとにお義父さんと探索に行く羽目になって、情けない姿見られちゃったら、どうしようかと...。だから勇気を振り絞って来てみたものの、やっぱり怖くて。
友達を誘おうかとも考えたんですが、いい年して一人で探索できないのもオレだけなんで、それも恥ずかしくて。両親を誘うのはもっと情けないし」
山岳兵といえば一般的に勇猛、のイメージが強いが、どうやら全員そうではないらしい。まあ、他の武術職と違って「なりたい者がなる」わけではないから、こんな悲劇?も起こってしまうということか...。
何にせよ、赤の他人といえど、話を聞いてハイ放置、というのは性分に合わない。
「わかった。じゃあとりあえず、俺達と一緒に探索してみないか?」
「えっ?い、いいんですか?」
「隣にいる彼は王配で、俺は彼の護衛でゲーナに入るところさ。えっと君は...山岳長子?」
「はいそうです...母さんも来年には18になるので...もうすぐ兵隊長に」
「なら、俺と一緒に護衛で入る...ってことにすればいいさ。兵隊長になるための勉強の一環としてさ」
「ハ、ハイ!」
「じゃあ行こうか。君の名前、聞いてもいいかな?」
「アンテルム...アンテルム・ペトレンコです。宜しくお願いします!」
ペトレンコ...ああ、明日のガイスカの対戦相手の息子ってわけか!
準決勝まで上がってくる強者が母親じゃ、確かに...プレッシャーがあるよな。
俺自身も散々「龍騎士の息子」という肩書に重荷を感じてきた人間だったので、急に目の前の相手に親近感が涌いてきた。
こうして俺達は三人でゲーナに入ったわけだが...まあ予想の通り、怪物をやっつけるのは専ら俺の役目で、ルチオは全くやる気なくニヤニヤ笑いながら後ろで突っ立っていて、アンテルムは逆にブルブル震えながら、一応形だけ斧を構えていたものの...前に出てくる気配は全くなかった。
こりゃあ先が思いやられるな...と少し呆れながらも、あっさり探索は終わった。
「...やったあ...」
森を出た瞬間、アンテルムは半泣きになりながらも、軽く拳を振り上げて喜んでいた。
「...初めて、ダンジョンの最後まで、途中で帰らずに、行けたああああ〜!」
...おいおいそこからか、と思わないこともないが、まあ何にせよ...少しでも以前の自分より進歩があったのなら、それは十分本人にとって収穫だろう。とにもかくにも「はじめの一歩」は大事だから。
「良かったな。これでちょっとは自信がついたろう?この調子で少しずつ頑張っていけばいいよ。じゃあ俺はこれで...」
「...おいカール」
「任務」が終わったので瘴気の森に行こうとすると、ルチオが腕をむんず、と掴んできた。
「何だよ」
「宝箱を開けたが、ムタンの種が入ってなかったぞ」
「...だから何だ。」
「種が採れるまで続けるぞ!行くぞ!」
「あ、じゃあ、オレも一緒に行っていいですか?」
「おう!行くぞ若者!」
「...全く...何なんだよ...全く...」
こんな感じで、それから何度か、俺とルチオとアンテルム、という訳のわからない三人組で、ムタン採りに出かける羽目になってしまった。
アンテルムは相変わらず俺の後ろで斧を構えてブルブル震えていたが、一応回数を重ねるごとに「多少は」攻撃にも参加するようにはなってきた。継続は力なり...ってところか。こいつがリーグ戦に出る頃にはどうなってるだろう。見たいような、怖いような。
**********************************************************************
「パパ、おてがみ届いてるよ、おやまから。ハイこれ」
「ああ、ありがとうアルド。」
俺がバグウェルに勝利し龍騎士となった翌日、山岳兵団のマークの入った手紙と招待状が届けられた。封を開けるとアンテルムからだった。
”カールさん 龍騎士おめでとうございます。バグウェル戦、オレも観客席で見てました。こんなすごい人に探索付き合ってもらったんだ...と今更ながら恐縮しています。
突然ですが、カールさんとルチオ王配殿下にはとてもお世話になったので、お二人で是非オレたちの結婚式に参列していただけないでしょうか。ロシェルと二人で楽しみにしています”
-ロシェル?
招待状のほうを見ると、新郎新婦の署名はこう書かれていた。
アンテルム・ペトレンコ
ロシェル・オブライエン
アンテルムの「綺麗で賢くて優しい婚約者」は、弟ガイスカの娘ー、つまり俺の姪のロシェルなのだった。
-なるほどねー。
つまり「アンテルムをゲーナに誘ったお義父さん」はガイスカだったんだ!
俺はその情景を想像して可笑しくなって、手紙を手にしたままゲラゲラ笑ってしまった。
結婚式当日。
神殿でガイスカに会ったので、ゲーナの森での顛末を話し、近々アンテルムと探索に行く予定があるのかどうか聞いてみた。
「...いや、見るからに頼りなさそうな子だったから脅かしてみただけだよ。こっちとしては手塩にかけて育てた娘を山岳に取られるわけだからね...。探索は兄さんの話を聞いただけで十分さ。私なら、苛々してそのまま森の中に置き去りにしてしまいそうだ」
「いつも紳士なお前でもそんなこと思うんだな。やっぱり大事な娘が絡むと、違うんだな」
「私ならまだ、いい方さ。父さんなら彼、無事で済まないよ」
「そりゃ、そうだ!」
そうして二人で顔を見合わせて笑った。
山岳兵が結婚して所帯を持つ重みー、というのは、普通の国民とはわけが違う。
山岳兵隊長として、一族を率いる立場になるための第一歩だ。
「王配殿下!カールさん!オレ、頑張ります!」
式が終わった後、アンテルムは元気いっぱい挨拶しにきてくれたけど
さて、コイツは一体どんな兵隊長になるのかな...。
「アンテルムどうしてるかって?まあ、いつも通りだよ。やる気?あいつにそんなものそもそも、あるの?」
その後アンテルムと俺達がゲーナに行くことは無くなったが...ちょっと気になってイグナシオに様子を聞いたら、結局相変わらずらしい。
残念ながらよくも悪くも、人間はそう簡単には変わらないってことか...。
ガイスカに、一度くらいは本当にゲーナに誘うよう、言っておいた方がいいかもしれないな。
(終わり)
※実際にゲーム上では王族と武術職が誘い合って☆5ダンジョンには行けないんですよね(王族未体験なのでWikiにて確認)PC王族は☆5に入れるけど単独でしか入れないと...。なのでここは捏造です(^^;
【あとがきのようなもの】
また長々と書いてしまいましたが、最後までお読みいただいて、ありがとうございます。
10回の長さに渡りカールの話を延々と書いていたせいか、カールと離れるのがとても寂しくなってしまい、ついついこんなおまけ話まで書いてしまいました。
アンテルム君は作中に書いた通り、「帰らずの洞窟」も途中で帰ってしまうし、通常年功序列のはずの山岳リーグでも、年齢の割には順位が低かったりと...実際にかなりなヘタレな山岳兵でした。
彼はイグナシオの親友の一人でもありますが、結婚式になぜかカールと親友のルチオ王配殿下が列席していたのです。どういう経緯で親しくなったのか不思議で、脳内に膨らませていた妄想が、今回のお話のもととなりました。
他の話もですが、今までぼんやりと脳内に漂っていた妄想を、拙くはありますが形にできるのは、とても楽しいことでもあります。
次はいよいよイグナシオの兵隊長デビュー...どんな形であれきちんと書けたら...いいな
髪型と髪色って重要だよな。
髪色・髪型と顔立ち・肌色のバランス。生身の人間のお洒落には非常に重要なポイントです。
それはエルネアキャラだって同じですよね。
PCはもとよりお気に入りのNPCに関しては、いつも「ベスト髪型」で迷います。
わたしがキャラの髪型・髪色設定するときこだわってるのは、だいたい下記の3つ。
・大前提として、似合ってるか
・制服がある場合は、制服とのバランス
・そのキャラのポジションに相応しいか(PCなら主役らしい華・組織長なら大人っぽさが欲しいなど)
大体のキャラは「ベスト髪型」が割合スムーズに決まるんですが、
・初代長男カール
・三代目PCイグナシオ
この二人に関しては中々ベストが決まらず、過去のスクショを順を追って遡って見るとその迷走っぷりが甚だしく、当時の自分の試行錯誤が懐かしく思いだされます。
ということで意味もなく、二人の「髪型の変遷」を追ってみようかと(^^;
カール編
デフォルト髪型はひとつ結びでした。今思うと騎士隊長になるまでは、この髪型でも良かったかな?しかし当時の自分は「長髪全般」が苦手なので、割合すぐ断髪。
所謂「イケメンカット」にしてみました。カールは2年彼女が出来なかった「もてない君」だったので、見かねた家族がアドバイスした結果ということになっております。
父「カール。お前そのボサボサ頭なんとかしたらどうだ」
妹「お兄ちゃんまかせて。かっこよくしてあげる♪」
カ「...なんか、ちゃらくね?それに俺癖っ毛だから毎日真っ直ぐにするの面倒なんだけど」
父「そんなこと面倒くさがってるからもてないんだ」
カ「あーハイハイわかったよ!やります、やりますって、毎日丁寧に髪セット、ね!」
イケメンカットの効果か、この後アラベルちゃんという可愛い彼女ができて一件落着。しかし...誰でもイケメンになるはずのこの髪型にも一つ弱点が。
前髪で目のハイライトが隠れて虚ろな表情になって怖いσ(oдolll)
特にカールの口パーツ、笑うと八重歯?が出てくるっぽいので余計コワイฺ(☼Д☼)
本来お人形みたいに綺麗な6系26番目。前髪上げて顔立ちハッキリ見せた方が、よくね?
ということで、結婚を機にヘアチェンジ!
「あれ?お兄ちゃん髪型変えた?」
「別にもうモテル必要もないし、毎朝髪セットなんてやってられないからな。いやー、これ楽でいいよ!」
「んー...ちょっとオッサンくさい...気も」
「別にいいんだよ、オッサンで!」
うん。スッキリ爽やかで良いんですが...カッコイイかというと...微妙。
でも代案も見つからないので、騎士隊に入ってからもしばらくこのままでした。
しかしある日妹マグノリアが出会った「モブ国民の髪型」がヒントとなり、カールの「髪型迷走」はようやく終わりを迎えることに♪
キタ───(´∀`)───!!
市場で出会ったモブさんがたまたまこの髪型で6系26番目。
その組み合わせがスゴク合ってたので、カールに試してみたらピッタリマッチしたのでした。26番目の綺麗さが引きだされて、華やかさもプラス。元々この髪型好きなのに、なぜカールで今まで試そうとしなかったか不思議。
弟グラハム「あれ?兄貴、何その髪型?」
カール「...ハ...ハハ...アラベルがちょっと変えてみたらっていうから...変か?」
グラハム「変じゃないけど若作りだな( *^皿^)」
カール「うるさいっ!」
最終的にカールは騎士隊長→龍騎士にまで登りつめますが、「見せ場ムービー」でもヒーローっぽい華が出て良かったと思っております♪
イグナシオ編
三代目PCイグのデフォ髪型はまさかの角刈り(スポーツ刈り?)
このまんま成長すると確実に「ヤン○ー漫画の脇役」になってしまうのが目に見えていたので、速攻でヒーロー髪型にチェンジ。
うん可愛い(^^)
子供時代のイグは、ほんと「ニャンコ」みたいで可愛かったです。
当時は無かったけど後から出てきた「猫の着ぐるみ」衣装着せたら似合っただろうな。
これ似合ってたのでそのまま成人へGO!
...んー...
PCの「兄弟」ならいいんだけど。PC=主役だし...んー。
こう...なんか「主人公の横でいつも驚いてる人」「主人公に絡むけどすぐ負けてその後友という名の手下になるやつ」みたいな感じ...(いち個人の感想です(^^;)
同じ顔パーツなのに「大人」と「子供」で印象変わるの面白いですね。
ここからイグナシオの「髪色髪型その他迷走」が始まります...
意味もなく眼鏡をかけさせてみたり。今見ると「さいきくすお」みたいだな(^^;
魔銃兵ならこれでも良かったかな?しかし山岳服との相性はイマイチ。
茶色髪にしてみた。悪くはないけど、パンチに欠ける...。
最終手段!大好きな「2番ヘア」にしてみたぞ!でもなんかチガウ...
(2番と6番以外の髪型にしないのかって?私の中で男PCもしくは女PC配偶者の髪型はこの2パターンと決まっているのです...この2つしか惚れないのです...)
髪色赤に戻す!まあ、悪くはないけど...
とりあえず6番より2番のほうが似合うので髪型はこれで決定!
いかれポンチになりヤケクソで金髪にしてみる。
あれ...意外と...いいんじゃね?
しかしこの髪色この恰好で父から家督継承を受ける羽目になり非常に後悔している
↑イグのチャラい恰好が厳格な儀式のなか思いっきり浮いてる継承式の模様はこちら
でもキンキラキン過ぎる気もするのう...
ハッ!
イグナシオの顔は基本「フランお祖母ちゃん」にソックリ!
もしかしたらアッシュヘア、いいんじゃね?
(ΦωΦ)キラーン+
試してみる☆
キタ───(´∀`)───!!
ようやくキター!!
肌色と浮かず自然でいい感じ。
癖毛が柔らかそうな感じになって三白眼の印象を和らげている!
どうでもいいんですがブラッドレイ家の長子ジェナちゃんと兄妹のようです。
2系目女子もイイネ!
ようやく主役らしい華のあるビジュアルになって中の人は大満足です!
兵隊長就任以後のイグは「クールでドライ」なキャラにしたかったので、イメージ通り!
いやーほんと、「髪色」と「髪型」って重要だよね...っお話でした。
「髪色」「髪型」でキャラが見違えるように変わるのがほんとに楽しくて、
わたしの歴代PCの「かばん」の中にはいつも、髪染め各種と「ヘアカタログ&理容セット」が常備されております(^^)
おまけ:初代のオールバック
引き継ぎ前に「お父さん」ぽくしようと変えてみたけど似合わないのですぐ撤回(^^;
グッドルーザー。
グッド‐ルーザー【good loser】
picrew.mePicrewの男メーカーで作った二代目配偶者ジャスタスです☆
脳内イメージの彼そのもの(=▽=)だったので保存用に貼りつけ(^^)
ノースリーブ衣装あるから山岳兵(風)作りやすいですよ!
...三度目の正直というか、流石に今回は勝てるだろうと思っていた二代目配偶者が、
初代長男カール(二代目PC兄)に瞬殺されてしまった時は、正直ショックでしばらく固まってしまいました。
当時のプレイ動画には私の「あ...」という呟きがひっそり録音されております(^^;
武器相性はあるにせよ、ステータスもスキルも武器レベルもカールより上。
お守りにヴェスタを渡しましたが、あくまでも「保険」のつもりで渡したのに...(>_<)
準決勝のちょっと前くらいから、カールのステータスや武器レベルがここに来て急上昇してたので、悪い予感はちょっとだけあったんですけど...ね。
かといってカールに負けて欲しかったかというとそんなことはなく。
↓で書いている二代目PCと同じく、無茶苦茶複雑な心境で「その時」を待っておりました。
ほんと、どっちを応援すべきか、どっちにも肩入れせず勝負を二人に預けるか迷ったあげく、遂にはリアル配偶者に
「兄弟と配偶者どっち応援する?」とまで聞く始末。
ここでリアル夫の「そりゃあ、配偶者に決まってるじゃん!」の一言で、迷いなくヴェスタの宝剣をジャスの方に渡すことに決めました。
(くだらなすぎる質問に真面目に付き合ってくれたリアル夫に感謝ですわ...)
ヴェスタ渡して瞬殺なら何もしなかったら当たり前のように瞬殺ですね。
まあ、ヴェスタ渡して負けられるより言い訳のしようはあるけれど。
そして、予想外のあっけない敗北...。
これはほんとに、衝撃でした。
しかし、ある程度時がたち、「家族視点」からのショックから立ち直って思うことは...
この展開、メタ視点で捉えると、ジャスタスが負けたほうが「物語」として面白い気がするんです。
ジャスタスが勝ってカタルシスが発生するのは、今回の「三回目の挑戦」じゃなくて、「化け物状態の初代PC」が存命だった、前回のエルネア杯。
「格上の相手」を破ってこそ、鳥肌モノの感動があるというものです。
でも残念ながら、ここでは勝つことができませんでした...。
今回、カールとジャスタスの間に「格」の差はありません。
むしろキャリアからするとジャスタスの方が若干上です。
彼はエルネア杯三回出場、兵団長を12歳から6期に渡り務めてます。
一方カールは、二つ年下の義弟が兵団長になった頃、まだ近衛騎兵の下のほうをウロウロしてましたし、前回のエルネア杯は、対戦相手の不戦勝による繰り上がり出場でした。ようやく騎士隊長になれた時には、すでにもう熟年間際。
完全に「遅咲きの花」なのです。
バリバリの武術一族出身、本人も優等生の称号持ちで更にグリニー保持のエリート。
コイツが
父は英雄といえど、もともとは得体のしれない旅人。
騎士選抜三度目の挑戦でようやく受かって、その後もゼーゼーハーハー言いながらようやく騎士隊長まで登りつめた苦労人を...
サクッと破って勝ちましたあ!じゃカタルシスもヘッタクレもなく
あまりにも夢も希望もないじゃないですか...。
いや現実はあるあるですけど(>_<)だからこそ物語では夢を見たいですよね。
二代目配偶者の「敗戦後の行動」→潔く息子に家督を譲った展開-は
今でも自分のエルネア歴五指に入るくらい好きなトピックなのですが、
これがもし、普通に勝って龍騎士になった後の出来事だったら
そこまで心に残らなかった気がします。
果たせなかった妻との約束、後を継ぐ息子への万感の想い。
この時のこの敗戦、そしてその後の勇退があってこそ、
後のイグナシオでのエルネア杯挑戦にも気持ちが入り、
なおかつ私にとって彼の存在は「忘れられないNPC」となりました。
同時に、彼に立ちはだかる壁となった、二代目兄カールの存在も。
私はスポーツ中継を見るのが結構好きです。
エルネア王国での試合と同様、
必ず「勝者」と「敗者」に分かれ、そこにドラマが生まれます。
勝者のドラマに胸が高鳴るのは勿論ですが、
敗れ去る者にもまた、ある種の高貴さを感じることがあります。
きっと、それを感じさせる者こそが「Good Loser」と呼ばれるのでしょう。
時によっては勝者よりも「Good Loser」の側に心惹かれることもあります。
スペックに恵まれた優等生にも関わらず、最後まで「勝ちきれなかった」彼。
彼はエルネア王国の歴史に名を残すことはできませんでしたが、
息子イグナシオに戦士として、組織の上に立つ者としての何たるかを教えた
「偉大な父」でした。
父親として、息子に見せてやれる背中。
それは勝つ姿だけではありません。
敗戦をどう受け止め、その後どう行動するか...。
彼が最後に息子に示した「引き際の潔さ」。私はその姿がとても好きです。
その意味で、彼は紛れもなく、記憶に残る「Good Loser」なのでした。
【おまけ・夫としての二代目配偶者】
ジャスタスは自身脳内の「ロマンチック要素」を恋人時代に全て使い果たしたようで、
結婚後は一転して探索と仕事に励み、デートを結構な確率で断ってくる朴念仁野郎でした(^^;
結婚記念日忘れてることもあるし。髪型とか服装変えてもまったく気づかないし。
お義父さんのゴドウィン君はその辺マメに褒めてくれるのに(^^;←やっぱりウィルマ国屈指のモテ男は違う(^^;
スクショ見返したらほとんどの会話がコレ。根っからの武人なのです。
向こうから誘ってくるのは大概「釣り」か「風呂」。即物的すぎるぞ!
根っからの冷たい男では勿論なく、こうやって要所要所で優しさをがっちり出してくれるんですけどね☆特に右の励ましなんて、実はマグノリア側ではなく本人の身内の訃報の時だったんです。自分のほうがよっぽどキツイだろうに...(>_<)
なんやかんや言って夫としても魅力的でした☆
選ばれなかった子(10)※完結
「おにいちゃん、まってー!」
「マグノリア、こっちだよ、はやくはやく!」
父の初めてのバグウェル戦。
前の晩から眠れないくらい楽しみだった。
試合が始まる夕刻に間に合うように、導師居室から闘技場までの長い道を、
妹と二人で息せき切って、一気に駆けて行ったことを覚えている。
「わたし、いちばんまえにいく!」
闘技場に着くと、妹は一番前の特等席にトコトコと走って行き、そのまま目の前の手摺に貼りつくようにして、護り龍と戦う父の姿を、最後まで食い入るように見入っていた。まだ歩きだしたばかりだというのに、すごい度胸だ。
いっぽう、兄貴である俺はといえば...
朝には「いっしょうけんめいおうえんする」なんて大見得を切っていたのに
いざその時が来て、龍が目の前に降りてくることを想像すると、なぜかいきなり怖くなって足がすくんでしまい、闘技場の最上段に吊るされていた「王家のタペストリー」の後ろにすっぽりと身を隠してしまった。
結局タペストリーの後ろからチラチラと出たり入ったりしながら、恐る恐るかろうじて覗き見していた..なんていう格好悪さだ。
あれから16年後...
あの時の臆病な子供が、勇者の剣を携えてこの場所に立っているなんて、
一体誰が想像しただろう?
いや。
あんな情けないガキだって、ここまで辿りつくことができたんだ。
本来人間は弱い存在かもしれないが
決して諦めず、強くあろうとすることで、龍と相対する存在にもなれる。
それを護り龍に示すことこそが、この戦いの目的だ。
-弱かった自分だからこそ、今ここにいる意味がある-
俺はそう思いたい。
名前がコールされると、いつもの試合の何倍もの歓声が沸き起こった。
その声の分だけの願いが、自分を支えてくれる。
これからバグウェルが舞い降りてくる。
あの時タペストリーに隠れていた、臆病な自分が顔を出しそうになるけれど
「しっかりしろ、お前は勇者なんだ」
そう心の中で言い聞かせ、その時を待つ。
...護り龍のお出ましだ。
雷鳴のような轟音とともに、凄まじい風が吹いて砂埃が舞い上がった。
間近で受ける風の威力は、観客席でのそれとは桁違いで、
俺は吹き飛ばされないように足をしっかりと踏みしめた。
耐えているうちにようやく風が止み、目の前の護り龍と向き合う。
見上げるバグウェルは、畏怖すべき霊気を全身から放っていた。
当たり前だが、瘴気の森で戦う魔人などとは格が違いすぎる。
父は今までこんな相手と戦ってきたのか...。
護り龍は目の前にいる人間が、4度にわたって自分に挑戦してきた勇者の息子だと、
果たして知っているのだろうか?
-人間よ、アベンの森の魔獣よりは楽しませてくれるのであろうな-
毎回お決まりのバグウェルからの挑発だ。
父はこの時、いつも不敵に笑っていた。
俺も真似をして笑ってみた。
...が、父みたいに恰好付けられなかった。
でもそれでいい。
「バグウェルよ、本年はここに控えるカール・オブライエンがお相手致す
ねぐらの森で夕食を捕らえるようにはいかぬぞ」
陛下が挑戦者の名を告げると、バグウェルは値踏みするような目で見下ろしてきた。
-4年も待たされるのだから、そう願いたいな-
...こいつは今まで待ってきた甲斐のある戦士なのか?
きっとそう考えているに違いない
その答えは今、これから試されるというわけだ。
「ハハハ!勇者カール・オブライエンよ、遠慮はいらぬ
この不遜な龍を闘技場の床に叩き伏せて見せよ!」
陛下が高らかに笑い激を飛ばす。
これに応える言葉は、遥か昔からただ一つだ。
「陛下のご命令のままに!」
そして試練が始まる。
龍の皮膚は固く、勇者の剣の攻撃ですら中々通らない。
一方で、吐き出される息の威力は凄まじく、容赦なくこちらに襲い掛かる。
息だけでなく、腕や翼での攻撃でも打ちのめされそうになる。
護り龍の猛攻を必死でガードし、反撃の好機を見出してはひたすらに技を打ち込む...
俺にできるのはその繰り返しだった。
それは悪夢のように長い時間に感じた。
強烈な炎の一撃をくらい、なんとか反撃を返したものの
もはや精も根も尽き果てそうになった矢先、バグウェルがゆっくりと膝をつく姿が
霞む視界に入ってきた。
「そこまで!」
神官の声が響いた。
「勝者、カール・オブライエン!」
俺はバグウェルに勝利した...!
-人間にしては中々の腕前だったではないか-
膝をついたはずのバグウェルは、いつの間にか何事もなかったかのように
再び俺を見下ろしていた。
あんなに恐るべき力を見せておきながら、どうやら本気ではなかったらしい。
それでも、護り龍は俺のことを「待った甲斐のある相手」と認めてくれたようだった。
前回戦った相手と較べてどうだったか...聞いてみたい衝動に駆られたが、やめておいた。まだ父と比較するのはおこがましいだろう。
「見事であった、勇者カール・オブライエン!
今日の勝利をたたえ、そなたには「龍騎士」の称号を授ける」
歓声の中、陛下の言葉を恭しく受け取りながら
かつての父と同じ場所に 俺は立っていた
その時なぜか 懐かしい記憶、自分の言葉が思い起こされた。
”龍騎士でも何でも自分の力で掴み取るまでさ”
あの時の言葉は現実になっていた。
憧れていた龍騎士の称号。
俺はそれを自分の力で 掴み取ることが出来たのだった。
父さん
俺は父さんに「選ばれなかった子供」だった。
それを寂しく思うこともあった。
もしかしたら無意識に 父さんを憎んだことすらあったかもしれない。
でもそれで良かったんだ。
俺は選ばれなかったからこそ
自分で全てを選ぶことができた。
選ばれなかったからこそ
自分の力で ここまで辿りつくことが...
-ではまた4年後を楽しみにしておこう-
その言葉で我に帰ると、
新たな龍騎士の誕生を見届けた護り龍バグウェルは、
再び「ねぐらの森」で眠りにつくべく、空高く飛び去って行った...
俺はバグウェルが去った空を、しばらく名残惜しく眺めていた。
そうしていると、今日のこの日に至るまでの脳裏の記憶が一気に押し寄せてきて、
目頭が急激に熱くなった。
その瞬間、目から涙が流れ落ちてきたー。
俺は空を見上げたまま、手でそっと涙を拭った。
涙を拭いた後ふと観客席に目を向けると、妹夫婦の姿を見つけた。
二人は笑顔で、祝福の拍手を送ってくれていた。
彼らの想いも引き受けて、俺は戦ったんだった...。
俺は泣き笑いの顔のまま、二人に向かって手を振った。
「兄さん、おめでとう!」
「兄貴、やったな!」
「隊長!おめっとさんです!」
その時ドドドドという足音がしたので振り向いたら、
近衛騎士隊の面々が、弟達を先頭に集団で押し寄せて来ていた。
「お前ら...!」
俺はもみくちゃにされながら、手荒い祝福を受けることになった。
新人のアシエル※が胴上げをしようと言いだすので、頼むからそれは勘弁してくれと断るのに苦労した。アシエルはそれでもやりたそうにしていたが、ガイスカが上手くなだめてくれた。明日からはまた同じように、彼らとの日々が始まるだろう。
「カール」
隊員達からようやく解放されたところで、妻の声が聞こえた。
...アラベルと息子二人が待っていてくれた。
妻の目にもうっすら涙が光っていた。
俺はうなずくと、駆け寄ってきたアラベルをしっかりと抱きしめた。
俺がうだつの上がらない時代から、ずっと側を離れず支えてくれたのはアラベルだった。
どんな時でも、彼女が俺を必要としてくれたから、俺は卑屈になりすぎることなく、ここまで来れた。
「パパ、カッコ良かった!龍騎士、すごいね、すごいね!」
次男のアルドヘルムは、俺とアラベルの周りを無邪気にくるくると回っていた。
「父さん...何か邪魔するようで悪いんだけど...どうしても伝えたいことがあって」
長男のランスが遠慮がちに声をかけてきた。
「ランス、どうした?」
俺はランスの方に向き直った。
「決めたんだ。年が明けたら、近衛騎士隊の選抜トーナメントに志願する。
正直自信がないから迷ってたんだけど...今日必死でバグウェルと戦う父さんを見てたら、やる前から諦めちゃいけない、やれるだけやってみよう、そう気持ちが定まったんだ」
そう語る息子の目と声は力強かった。いつの間にこんなに頼もしくなったのか...。
「ランス...そうか。俺もお前くらいのころ、騎士隊に入るのを諦めかけたことがあった。やっぱり自分に自信が持てなくてな...。
でもランス、お前が生まれることになった時、俺はお前に背中を見せれる父親になりたい....そう思い直して、再び選抜トーナメントに挑戦することにしたんだ。
だからもしお前が俺の姿を見て、夢や目標を持ってくれたとするならば...
それは俺にとって...龍騎士になれたことよりも、遥かに嬉しいことだよ。」
俺はランスの両肩に手を置き、息子の目をまっすぐに見据えて言った。
「がんばれよ、ランス」
「ありがとう、父さん..。僕はかならず騎士隊に入るよ」
息子は笑顔で返してくれた。
「お前がしっかり考えて選んだ道だ。自分を信じて、迷わず進めよ」
俺は選ばれなかった存在だった。
けれど、自分が進むべき道を選ぶことができた。
そして今度は、俺の選んできた道が、違う誰かの選択の道標となる。
選ばれなかった運命を嘆くことはもうない。
選んできた人生を誇りに思って
俺はこれからも生きていくだろう。
「選ばれなかった子」および
「213年エルネア杯エピソード群」 完結
※この年入隊した新米騎士隊員。”享楽的な性格”で三代目PCの幼馴染。四代目PC時代結構な重要人物になります(^^;
【あとがきのようなもの】
まずは、このようなダラダラ長い話を最後までお読みいただいて、本当にありがとうございます。当初はあくまでも「213年エルネア杯」の1エピソードとして、連続3回くらいで終わらせる予定だったのが、無駄に長くなってしまいました。
それだけ、プレイの中でカールの辿ってきた道がドラマチックで、あれも残したいこれも残したいと思えるほど、自分の中で密度の濃い体験だったのです。
「中の人」としてプレイしていた時は、PCは準決勝で敗れるジャスタス側の立場だったので、敗戦はものすごいショックで唖然となりましたが...1年経った今は、この結末で良かったとしみじみ思っています。
NPCにも意思やそれに伴う選択があり、ちゃんとそれぞれの「人生」がある...そんなふうに感情移入させてくれるこのゲームの素晴らしさに、改めて拍手を送りたい!
「選ばれなかった子」カールは登場人物の一人に戻り、今度は「選べなかった子」イグナシオ中心の物語が始まります。
こういう形式で書くかどうかは分かりませんが...その際はまたお付き合いいただけると、とっても嬉しいです。
【原動力となった曲について】
今回おこがましくも、こちらの曲を妄想..ゴホゴホ創作の原動力とさせていただきました。ちょうど2〜3代目をプレイしていた時期、バンプのアルバム「ユグドラシル」を、通勤途中に良く聴いていたのですが、この曲の歌詞...特に『選ばれなかった名前』というフレーズが、私が思っているカールのイメージにぴったりだったのです。
今回お話を書く時も「イメージトレーニング」として、煮詰まったらこの曲を聴いて、カールの心情に寄り添うようにしていました...と、気持ち悪いですねスミマセン(^^;
この曲と「人魂背負って瘴気の森に向かうカール」のプレイ中のエピソードがなかったら、多分カール主役でお話は書いていなかったと思います...