遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

イグナシオ編おまけ:マブダチになった日。

話の流れをブッタ切ってすみません(^^;重たい話が続いて中の人がちょっとしんどくなったので息抜きに番外編。時間軸は「性格を変える薬」123とほぼ同じくらい。

 

「サンチャゴ、お隣のイグナシオ君と遊ばないの?せっかく同い年の男の子がいるんだから、遊べばいいのに...」

「やーだ!あいつ、ナヨナヨしてて弱虫だから、きらーい!」

俺はプラマー家、イグナシオはコロミナス家の跡取りで、それぞれ山岳の家1と2に住んでいる。同じ山岳長子、しかも同級生でご近所...という「友達になる最高条件」を満たしているというのに、俺はイグナシオとは滅多に遊ばなかった。

お袋に言ったように、ナヨナヨしているあいつと行動派の俺とは気が合わない...、ということもあるが、今更だから恥を忍んで言うと...実はあいつがやたらと女の子にモテるのが気に入らなかったからだ。イグナシオは無駄に女友達が多かった。それも結構可愛い子ばかりだ。更に年上の美人からもモテテいた。

「サンチャゴ君、乱暴だから、あそばなーい!あたし、優しいイグナシオ君と、あそぶっ!イグナシオ君、いこっ!」

「う、うん...」

そんな感じで、何度女の子を横から掻っ攫われたことか...。いや別に、イグナシオ本人が掻っ攫ったわけじゃないんだが、俺にとってはそう見えていた。

更にそんな時、イグナシオがなんとも困った顔をしてコッチをチラチラ見ながら、女の子と去っていくのもイライラした。

俺を置いていくのがそんなに気になるなら、お前が仲立ちしてくれればいいだろ!俺だって、お前と全く遊びたくないかというと...そんなことは、ないんだ。

 

イグナシオ自身は俺と仲良くなりたかったのか、それなりに話しかけてきた。だが俺は上述のこともあって、こいつのことが気に入ってなかったので、わざと「ボクと仲良くなりたいなら鳥石を見つけてこいよ」と無理難題を持ちかけたりしていた。鳥石はそんなに簡単に見つかるもんじゃないのに。

結局「サンチャゴ君、ごめんね...見つからなかったよ..」なんて申し訳なさそうに言ってくるので更にイライラした。

 

そういうわけで、俺とイグナシオは大して仲良くならないまま成人した。もし俺達が普通の国民であったなら、きっとそのまま互いの距離が縮まることなくそれぞれ結婚し、完全に疎遠になっていただろう。

だが俺達は、「山岳長子」という特殊な立場にいた。

将来の兵隊長となるべく、成人直後から武術職の一員として日々鍛錬を行わなくてはならない。同世代の国民とは練習試合が出来ない自分たちにとって、お互いは練習相手として必要な存在だった。気に入らないなどと言ってる場合ではなかったのだ。俺達はしょっちゅう組んで試合をすることになった。

 

とはいっても俺にとってはイグナシオは「いいカモ」みたいなもので、試合をすれば大抵俺が勝つ。はん!弱っちい奴!そう思っていた。

あのイグナシオが弱かったのか...?と思い返すと実はそうではない。イグナシオに先手を取られる方が実は多く、そのたび「やばい!やられる!」と何度か思ったものだ。

なのに奴はいつも、なぜかそこで一瞬躊躇するのだった。

誇り高きプラマー家の嫡子たる俺様を舐めてんのか?いっぱしの戦士なら先手を取ったらブチノメスのが当たり前だろうが!

「もらったぜイグナシオ、はああっ!」

その隙を逃さず反撃し、結局俺の勝ちとなる。

「大丈夫?サンチャゴ君、痛かったでしょう?ほんとに、ごめん...」

まれにあいつが勝つと、こんな感じで無駄に心配をしてくる。

そりゃあ、技を受けたら痛いに決まっているが、俺が勝った時はお前だって痛いだろう。戦う以上お互い様だ!そんなこと気にすんじゃねえ!

...結局勝っても負けてもイライラする。

 

イグナシオは終始こんな感じだったので、可哀そうにこいつは一生、兵隊長になっても周りにいいカモにされて、いつもヘラヘラヘコヘコして過ごすんだろう...。ま...しょうがないから、その時は俺がかばってやってもいい...そんなふうに思っていた。

 

-あの時までは。

 

ちょうどエルネア杯の狭間にあった休日だったか...俺はいつものようにイグナシオを練習試合に誘った。

「ああ、別に構わないけど...?」

この俺と試合するのに「別に構わない」だと?何だその言い方は...いや、そもそもコイツってこんな口調だったか?

違和感を感じながらも、イグナシオが一人で先にスタスタ闘技場まで歩いていくので、それ以上は突っ込めずにいた。

「闘技場の使用料は120ビー!イグナシオ、用意はいいか?」

「そんなのいいに決まってるじゃん。さっさと始めない?」

...ン?

違和感は更に高まったが、とりあえず試合を終わらせてから突っ込むことにしよう。

「正々堂々、いざ!」

カキィン!

...えええ?

気づいたら俺はイグナシオに先手を取られ、反撃するまでもなく吹っ飛ばされていた。

ドシャアン!俺は盛大に地面に尻餅をついた。情けないが打ち付けた臀部が痛い。

「はい、終わったね、じゃ、おれはいくよ」

イグナシオは踵を返して、またスタスタと闘技場を出ていこうとする。

ちょっと待て!

いつものイグナシオなら、ここで駆けつけてきて「サンチャゴ君、大丈夫?」じゃないのか?なんでそうなるんだ?

「イグナシオ、待てっ!」

俺は臀部をかばいながらよろよろと起き上がり、イグナシオを呼び止めた。

イグナシオは振り向いた。

「お前っ...いつもみたいにオロオロしろとは...言わないがっ、一応、た、倒した相手の怪我の様子ぐらい...確認しろ!この馬鹿野郎!」

イグナシオの表情が一瞬固まり、それからおもむろに神妙な面持ちに変わった

「そうだよな...。おれ...全く気が回ってなかった。サンチャゴ、ごめん、ほら」

そう言って、俺に肩を貸してくれた。

臀部をさすりながら歩くのはみっともなかったが、イグナシオが上手く支えてくれたお陰で、歩くのに支障はなかった。

幸い打撲の痛みは一時的なものだったらしく、家路に向かううちに少しずつひいてきた。

「これ、祖父ちゃんからもらった薬だから、よく効くと思う。家に帰ったら使って」

別れ際、イグナシオが薬を差し出してきた。こいつの祖父は魔銃導師なので、効能はお墨付きだ。

口調や態度はいつもと全く違うが、こうして薬を差し出す仕草は変わっていなかった。

いつも過剰に心配してくれていたので、心配されること、手を貸してくれることが当たり前になっていた。

「...大した怪我じゃないのに、いつも悪いな。ありがとう。」

これまでろくに言えなかった、この一言が自然と出てきた。

イグナシオの表情は再び固まった。

「...いきなり言われたら気持ち悪い。じゃ、また。薬しっかり塗っとけよ」

...そして返ってきた言葉がこれだ...。いったい、何なんだコイツは...!

「おう!ガッツリ塗ってしっかり治してやる!また試合するぞ、次は覚えてろよ!

次はお前がこの薬使う番だからな、その分取っといてやるよ!」

「そうなればいいけどね」

イグナシオは振り返らず、片手だけひょい、と上げて別れの合図をした後、すぐ裏の自分の家まで帰って行った。

...何が起こったかよく解らんがいきなりムカツク野郎になったな...。

けど、何かゾクゾクワクワクするぞ?この感情は、一体、何だ?

 

「飯食いに行かね?」

数日してから、俺はイグナシオを食事に誘った。

初めてのことだった。あれからイグナシオはムカツク野郎に変わったままで、逆に興味が出てきたのだ。

「...いいよ」

別にいいけど、なんて言われるかと思ったら案外素直だった。

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「...あのさ」

席に着くと、先に言葉を発したのはイグナシオの方だった。

「ん?」

「おれ...前と違うだろ?気持ち悪いとか...変に思ったりしないのか?」

一応本人にも自覚はあるらしい。

「いや、変には思ってる」

「だろうな...」

そう答える奴の目はちょっと寂しそうだった。そんな顔をされると、何か言ってやりたくなる。

「だが、面白いから、いい!」

イグナシオはまたここで一瞬固まり、それからふっと安堵した顔になった。

「こうなってから、沢山友達が離れていった。勿論それは想定の範囲内だったけど...。」

こいつは交友範囲が広くて友達が沢山いた。あからさまに優しい奴だったからな。俺は自覚してなかったが...だからこそ今まで近づこうと思わなかったのかもしれない。イグナシオに優しくされても、別に友達と思われてるわけじゃなくて、こいつは誰にでも優しいだけだから...って。

「全然態度が変わらなかったのはアシエルだけさ。まあ、あいつはそもそもが大雑把にできてる奴だから...。サンチャゴ、お前が面白いと言ってくれるのは想定外だったよ。...と、元から別に仲良くなかったよな、そういえば」

確かにその通りだが、そう言われると何故かスゴク寂しく思えた。

そうだ、今更だが、俺はこいつと友達になりたいんだ。

「ああそうだな、仲良くは...なかった。だから...」

俺は深く深呼吸して、それから、言った。

「今から友達にならね?お前面白いから、何か好きになってきた」

「好き?いまのおれが?口悪いし素っ気ないし空気も読めないこのおれが?」

身も蓋もないことを自分で言っているが、どうやらそのように、今までの友達に評されてきたらしい。

「いや、その位で、いいんじゃね?前のお前、無駄に空気読み過ぎ。...それにまあ、そんなに...根っこのところは、変わってないと思うぜ、お前。なんとなくだけど」

「そうか...」

イグナシオはしんみりとした表情で俺の話に聞き入っていた。その様子を見て俺はちょっと嬉しくなった。そもそもこいつに何が起こったのか聞きたい気持ちがゼロではないが、俺が今したいのはそんなことではない。

「...と、いうことで、とりあえず!俺達は友達、な!」

俺は持ってたグラスを強引にイグナシオのグラスに合わせて、カチンと音をたてた。

イグナシオは呆気に取られた顔をしていたが、ふいにニヤッと笑って、今度は自分のほうからグラスを合わせてきた。

「友達か...。減る友達もいれば、こうして増える友達もいるとは、不思議なもんだね」

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「まあ、そもそも、人間って変わっていくもんじゃないのか?そのたびに、別れがあったり出会いがあったりするのは自然なもんだと思うぜ?とりあえず...今のお前とは末永く付き合って行きたいと思ってるけどな」

俺はちょっと声に力を込めて言ってみた。我ながらいいことが言えたと思う。

「...あーそう?また変わっていくなら、おれ達だってこれからどうなるか、全然わからないんじゃない?」

しかしイグナシオはあっさり切り返してきた。何と可愛げのない奴だ。

「うるさい!この俺様がお前と友達でいるって決めたんだ!お前にもう、拒否権は、ない!」

コイツと俺は山岳長子だ。いずれはお互い兵隊長となり、兵団長の座を巡ってリーグ戦を戦うことになる。言ってみればライバルだ。

でも、ライバル兼親友って、カッコヨクね?

それも言ってみたかったが、切り返しが怖くもあり、聞いてみたくもあり...。

何はともあれ、俺はしばらくこんな感じで、コイツとの付き合いを楽しむことにした。

 

〚あとがきのようなもの〛

最後までお読みいただいてありがとうございます。

PCをイグナシオに引き継いだ時、仲良しはほぼ女の子。唯一の男の子の友人はここでちらっと名前だけ出てるアシエルだけでした。そのアシエルもこちらがわざわざ仲人したのです。サンチャゴ君は、ご近所・同級生という「仲良しになる要素テンコモリ」にも関わらず、引き継ぎ時点では他人。この後の4代目・8代目もイグと同様山岳育ちですが、こちらはちゃんと山岳長子の仲良しさんがいたのです。ということはイグとサンチャゴ、本来は無茶苦茶相性悪かったのでしょうか...。実際「仲良し」になるには若干時間がかかったのです。もしかしたら「性格変更」が良い風に作用したのかもしれない...ということで今回の妄想...ゴホゴホ番外編が出来上がりました。

本編のほうでは気苦労の多いイグナシオですが、少し和ませてあげたくて、今回のお話を作ってみました。盟友サンチャゴ君は本編の方でもこれからチョクチョク登場しますが、彼とのエピは基本的に楽しい感じで進めていけたら...と思っています(^^)

 

 

 

遺言。

「...じゃあ、これで一通り引き継ぎは終わったかな。お前が後任で安心だよ。今までも事務仕事はかなりお前に頼ってきたからな...。本当に助かってた。ガイスカ、ありがとう。」

兄はいつもと変わらぬ笑顔をこちらに向けながらぱたん、とノートを閉じた。

2日の着任式が終わった後、兄と私は隊長居室で業務の引き継ぎに追われていた。

とりあえず新年の誓いと着任式に影響はなかったが、それでも兄に残された時間は僅かしかないのは明白だった。

その時がいつ起こっても騎士隊の業務に影響がないよう、副隊長である私が業務を把握しておく必要があった。ましてや兄は今年は評議会議長にも選ばれている。こちらも私が繰り上がりで代行する予定になっていたから猶更だ。引き継ぎの内容は多岐にわたり、終わったころにはもうとっぷりと陽が暮れていた。

 

「カールも、ガイスカ君も、お疲れ様。良かったら、さあどうぞ」

机の上に広げた書類を二人で片づけていると、義姉のアラベルがホットミルクを持ってきてくれた。

ミルクの優しい香りが周囲にふわり、と漂った。

「いつもありがとうございます...お義姉さん。いただきます」

「俺としてはここで一杯やりたい所だけど、お前が酒に弱いからな。まあ、普段使わない頭を使った後は、甘い飲み物も悪くない」

「本当にそうだね。私も流石に情報量が多すぎて、頭がパンクしそうだったから、有難いよ。お酒だとそのまま眠っちゃいそうだしね...」

お互いホットミルクのカップを手にしながら、顔を見合わせてくすりと笑った。

私が副隊長に昇格したときから、ずっと二人三脚で業務をこなしてきた。こんな風に仕事の後のひと時を過ごすのも、ごくごく当たり前の習慣だった。

しかしその「当たり前」はもうすぐ消えてなくなってしまう。

そのことを思うと憂鬱になるばかりだったが、「頼むから湿っぽく接するのはやめてくれ」という兄の要望により、私はつとめて平静を装う必要があった。ここで暗い顔を見せるのは、兄本人だけでなく、義姉に対しても良いとは思えない...。

 

「さてと、じゃあ、今日はもう帰るよ。」

兄や義姉としばらく談笑した後、私は椅子から立ち上がり帰り支度を始めた。
「あらガイスカ君、夕飯食べていかないの?」

残念そうな義姉の様子に、兄はすかさず茶々を入れてきた。

「おいおい、エリスちゃんの料理は天下一品なんだぜ?エリスちゃんはこいつにべた惚れだから、毎日これでもかとご馳走作って待ってるんだ。アラベル、妹の生きがいを奪うなんて野暮なことするなよ」

※ガイスカ君の妻エリスちゃんはアラベルちゃんの妹でもあります(^^)末の妹グルナラちゃんはもう一人の弟グラハムの妻。姉妹三人ともオブライエン家に嫁いだのです☆

「そう、そうそう、そうだったわね。ガイスカ君、妹によろしくね」

「ええ、エリスに伝えておきますよ。ミルクご馳走さまでした。それじゃあ...」

帰ろうとしたところで、兄が呼び止めた。

「ガイスカ、途中まで送っていくよ」

「...兄さん、私は子供じゃないよ...、と言いたいところだけど、折角だから送っていただこうかな」

いつもここで別れているのにどうしたことかと思ったが、逆に何か話したいことがあるのかもしれない。兄の誘いに乗ることにした。

「おう、じゃあ、行こう。アラベル悪い、アルドが帰ってきたら先に夕飯済ませてもらって構わないから」

義姉はしょうがないわね、と言いたげな表情をした。多分兄の意図をわかっているのだろう。

「解ったわ...あなたも、エリスが待ってるんだから、ガイスカ君を早く解放してあげてね」

「はいはい、ご心配なく」兄は手をひらひらさせながら、私と一緒に隊長居室を後にした。

 

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「...さて、ここら辺でいいか。」

城下通りの私の家に向かうはずが案の定、兄の足は城門ではなく、城の中庭の方向に向かっていた。特殊な条件下でしか入れないダンジョンの入り口が並ぶ場所で、兄はようやく足を止めた。各ダンジョンから緑色の光が不気味にぼう、と漏れている。

「どうしたの、兄さん...一体?」

「すまないな、大した話じゃ無いんだが...あんまり、アラベルの耳には入れたくなかったんだ...基本、仕事の話ではあるんだが」

確かに近衛騎士隊の隊長・副隊長として外部に漏らしたくない話というのはある。だが、「騎士隊長の居室」はそういう話をするための場所だ。騎士隊長の家族は隊員同様、そこで話されたことに対して守秘義務を負う。

義姉は当然弁えているはずなのに、耳に入れたくないとは一体なぜ。

 

「次のエルネア杯の話だよ。これまでの目の上の瘤は魔銃師会だったが...これに関しては実は心配していない。あそこは世代交代が上手くいっていないし...お前が前回の大会で、対魔銃兵の戦法を皆に共有してくれたろう?多分次まではそれで凌げると思う」

あの時、私は何としても決勝に進出したかったので、目の前に立ち塞がる魔銃導師を倒す必要があった。そのために徹底的に研究した魔銃兵対策のノウハウを、日頃の訓練の中で隊員たちに伝授していたのだった。

魔銃兵だけではなく、騎士隊で横行する「銃持ちの騎兵」に対する牽制策でもあった。武器相性だけで勝ち抜かれて要職に就き、エルネア杯の貴重な枠を潰されるのは避けたかったからだ。

しかしそんなことはわざわざ、この場所で言うことか?

「まあそうだけど...魔銃師会だって馬鹿じゃない。前回の対策で全て切り抜けられるとは思わないけど?」

「四人全員は無理でも、半分は片づけられたら十分だ。あとは...」

兄は一瞬だけ黙った後、普段の兄に似つかわしくない皮肉さを秘めた表情で言葉を続けた。

「山岳兵団が始末してくれるさ...」

今は引退した義兄が兵団長に就任して以来、山岳兵団が力を付けているのは事実だ。新しい団長は息子のイグナシオだが、その路線は恐らく変わらないだろう。

確かにこのままでは、形としては騎士隊と山岳兵団が挟撃して、魔銃師会を抑え込む形になるに違いない。それにしても別に、これは義姉を避けるような話題ではない。

「そして、その山岳兵団の中心になるのは俺達の甥...イグナシオだ。あいつは父さんとマグノリアの力を受け継いでる。必ず決勝まで登ってくるだろう」

...!

話の糸口が見えてきた気がした。義姉と姉マグノリアは親友だ。その親友の息子に関わることは、義姉の耳には入れたくないだろう。

「...ガイスカ」

私の名を呼んだ兄の顔は、いつもの陽気で屈託のない姿とは全く異なっていた。

私は本当に、兄と話しているのだろうか...。

「次のエルネア杯は確実に、お前とイグナシオの戦いとなるだろう...だから...」

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イグナシオを倒せ」

その時、その場の空気が凍り付いたような気がした。なぜだかは解らない。

「お前ならできる」

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そう私に告げた兄の目は、いつのまにか緑色に変化していた。この色と輝きはー。

闘技場で見た、あの護り龍の鱗の色と同じだった。

ドラゴンドロップ!

龍に打ち勝った者、「龍騎士」へのバグウェルからの贈り物。護り龍の力の源。

それを口にした者は、潜在能力を飛躍的に向上させることができるというー。

龍騎士となった兄がドラゴンドロップを口にしたのは間違いない。しかしー。

同じく能力増大の効果を持つ、ウィム族の秘薬ラムサラは、実はこのドラゴンドロップの成分に似せて作られたという噂だった。そのラムサラにも、瞳の色を変える効果があった。

-ドラゴンドロップとラムサラの大きな違いは、精神への影響の有無だよ。ラムサラは下手したら摂取した者の精神、特に他者への共感や労わりの部分に大きな影響を与える。しかしドラゴンドロップはそんな心配をしなくていい。これが護り龍の聖なる力と、紛い物の人造品との違いさー

かつて父はそう言っていたが...本当にそうだろうか?

本当にドラゴンドロップは、人の心に影響を与えないのか?それが悪しきものでないにせよ...。

私の驚愕と困惑をよそに、兄は淡々とした口調で話し続けた。この口調も兄らしくない。

「イグナシオは...父さんが残した、我々に対する挑戦状のようなものさ...。イグナシオと戦うことは、即ち父さんと戦うことでもある。最強の龍騎士に勝ち、それを超えることこそ俺達、今の人間に与えられた課題なんだよ。お前なら...できるだろう?」

兄は普段なら絶対しないような、挑発的な笑みを浮かべていた。緑の瞳がいっそう輝きを増している。

兄さん、何を言っている?

私にそれができるとでも?

私は父に勝てるなんて今まで一度も思ったことがなかった。それなりの力を付けた今でもそうさ。それは兄さんに対しても同じだ。私は兄さんが思ってるほど、強い騎士ではない。

私が彼に対して有利な点があるといえば武器相性だけだ。だが、イグナシオは討伐の報酬で、それすらも克服する武器を得たという。そんな武器にビーストセイバーで立ち向かえと?

イグナシオに勝てる可能性があるのは、龍騎士のスキルと武器を持つ、兄さんだけじゃないのか?

「......」

「...それに」

私が返事をしかねて黙りこくっていると、兄の声のトーンが少し下がったような気がした。目の色も少しずつ、元の青に戻りつつあった。

「イグナシオは父さんの妄執に囚われている...。龍騎士の幻に縛られているんだ。そんな幻に...あいつが犠牲になることは..ないんだ。力の継承なんてしなくても、人間はそのままで一人で強くなれる。そのことを、俺は良く知っているんだ。だから頼む...あいつを倒すことで、あいつを開放してやってくれ...」

その声は、私が知っているカール・オブライエンのものだった。そこには絞りだすような生身の感情がこもっている。私は少し安堵した。

兄はそう言いながら私の両肩に手を置いたが、想いを訴えるときに肩に手を置くのも兄の昔からの癖だった。

「兄さん...」

倒すことで、妄執から解放する...か。

本当にそうだろうか?

イグナシオは、龍騎士になることだけを目標に生きてきた。自分の心を犠牲にしてまで。その彼を倒すことが本当に彼の開放に繋がるのか?

むしろそれこそ、今まで彼が生きてきたことを全否定することになるんじゃないの?

また、良かれと思ってイグナシオに力を託した、姉マグノリアの姿も心に浮かんだ。

姉さんは父の妄執に操られて、イグナシオに引継ぎをしたわけじゃない。

それなのに兄さん。開放してやるなんて...それこそ傲慢だよ..。

兄さんは自分の生きてきた世界しか見ていない。イグナシオの世界は見えていないんだ。

だがそれを告げるのはためらわれたー。兄がそのことに向き合うにはもう、残念ながら時間がない。

 

だからただ、私はこう答えるだけだった。

「解った。イグナシオを呪縛から解放するのは、私の役目だね。私に任せて」

-兄さん、任せてほしい、「開放する」その役目は引き受けよう。ただしそれは、私のやり方になるけれどー

「ガイスカ、ありがとう。後は任せたぞ...」

安堵の表情を見せる兄の姿には、もう「緑の目の龍騎士」の面影は消えていた。

 

「さあこれで、仕事の話は終わりさ」

兄は溜息をつきながら、そしてゆっくりと目を閉じた。

「後はー、どうか祈っててくれないか。俺が5日まで、なんとか戦える状態でいられるように...。俺はランスと戦いたい。ランスと戦えれば、あとはもう本当に、何も望むことは無いんだ...」

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兄の長男ランスは昨年無事騎士選抜を突破し、5日の初戦では新人騎兵として、騎士隊長である父親と対戦することになっていた。

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イグナシオを開放するにはどうするべきなのか、そもそもその必要があるのかすら、私にはまだ解らない。

 

ただ...ガノスへの旅立ちが近い兄の最後の願い、その願いには純粋に、弟として心を添えていたかった。

 

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「兄さん...そうだね。私も祈るよ。兄さんとランスが無事に対戦できるように...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白鋼のハルバード

異次元に巣くう魔物の討伐も大詰めとなり、報酬がある程度たまったので、キャラバン商会で武器を注文することにした。

期間限定で良い武器が入荷しているらしい。

「ようイグナシオ、久しぶりだな。今回の討伐じゃあ随分と活躍しているそうじゃないか?報酬もたんまり溜まったからここに来たんだろう?お勧めがあるぜ」

店主のカルロスはニヤリと笑いながら出迎えてくれた。

活躍しているのは実はおれじゃなくて、祖霊として呼びだしている祖父ファーロッドだ。多少複雑ではあるが、祖霊は異次元の中でしか実体化できないので、どのみち武器を注文することはできない。

それにおれが得た武器は、祖父が祖霊として存在し続ける限り、これから半永久的に使うことができるんだ。注文する人間が違うだけのことだ。

おれもいつかは自身の影を祖霊に変えて、遠い子孫を助けることになる。そして子孫がその報酬で新しい武器を得る、そうやって順繰りに巡っていくんだ。だから遠慮なくおれの名義で注文させてもらうことにしよう。

「お勧め?どんな感じ」

「まあ、待ってな」

カルロスは倉庫から六種類の武器をいそいそと取りだし、目の前に広げた絨毯の上にゆっくりと置いた。

「今回のお宝は両手武器だ。残念ながら防御力はないが...それを引き換えにしてもお釣りがくるくらいの破壊力がある代物だ。「鉄」と「白鋼」の二種類があるが、勿論「白鋼」のほうが頑丈にできてる。斧と剣に関しては切れ味も違う。その分値は張るがな...どうだい?」

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安いが威力はそこそこの武器と、高い分高性能の武器。

買えるだけの資金があるなら、答えは決まっている。

ショボい武器を多数集めても意味がない。それであれば通常の探索で手に入る武器で十分だ。

「じゃあ、これをもらおうかな...「白鋼のハルバード」」

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今回武器を仕入れる目的は勿論、「山岳兵の代表」として、来るエルネア杯で勝つこと。

ならば選ぶのは、この武器以外に考えられなかった。

「白鋼のハルバードか。流石目が高いね。魔人の洞窟の怪物なんかもう、ひとたまりもないぜ!それに、見た目も随分と派手だろう?これを持って立ってるだけで目立つし箔がつく。」

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通常の戦斧と違い、柄がとにかく長い。刃先を含めた全長はおれの身長をゆうに超えるほどだ。この長い柄をうまく使いこなせれば、相手の懐に飛び込むことなく攻撃できるので、通常は不利となる騎士相手にも互角以上に戦える。

また、斧部分で切り払うだけでなく、柄の上部と斧部分の反対側に突いている突起を使って、「突く」「引っ掛ける」等多彩な攻撃を繰り出すことができる。

カルロスが言うような見た目の派手さも有難い。

おれ自身は別に派手好みではないけれど...

「山岳兵初の龍騎士」として兵団の「希望の象徴」になるのであれば、武器にも「見た目の特別感」があったほうが良いだろう。

「ありがとう。一刻も早く使いこなせるようにするよ」

おれはカルロスに報酬を渡し、引き換えにハルバードを受け取った。

手にしたハルバードは通常の戦斧の倍ほどの重さがあったが、両手で扱うことを考えれば、慣れたら問題なく使いこなせるようになりそうだ。

早速明日にでも、探索で試用してみることにしよう。

「イグナシオ、老婆心だが...お前、それを試合に使うつもりなのか?」

カルロスに一瞥して帰ろうとすると、彼らしくない言葉をかけられた。

「そのつもりだよ。武器なんだから...当然じゃない?」

「俺が言うようなことじゃないが...それは本来「対魔人用」に作られた武器なんだ。それを人間相手に使うというのは...よそでは実例がないんだ」

自分から売りつけておいて人間に使うのを云々言うのは変な話だ。

「使う相手は一般国民じゃない。鍛え上げられた武術職の連中だよ。魔人と互角に戦えるレベルの連中に使うんだ。問題ないよ。武術職の人間は、いつ来るかもわからない魔物の侵攻に備えるのが本来の役目さ。魔人用の武器でどうこうなるようじゃ、役目を果たせない。」

アベンの門の封印はいつ解けるかわからないが、その時はいつか必ず来るだろう。今回の魔獣の活性化は、明らかにその兆候だった。

「そうか...。まあ、使う時はそれなりに加減しろよ。」

「大丈夫だよ。その辺は心得てるから」

「イグナシオ..お前、「変わった」な。まあ、ハートドロップを使ったから当然なんだが...。昔のお前さんが、時々懐かしくなるよ」

ハルバード同様、当のハートドロップを売りつけた張本人が言う台詞じゃないだろうと思ったが、目の前で商品の「効果」を見せつけられるのも、彼の立場に立ってみれば気持ちの良いものでないのかもしれない。

「懐かしく思ってくれたら、きっと「あいつ」も喜ぶよ、じゃあ」

あれからもう何年も経っていて、もう皆、今のおれに慣れてしまっている。まるで元々最初からこういう人格だったごとくに。

そのほうが楽であることは確かだがー時折、本来のイグナシオに申し訳なく思うんだ。

おれ自身は自分みたいな男より、あいつの方が好きだった。だから誰であっても...あいつのことを思いだしてくれるのはありがたい...。

いつか、全てが終わったら、眠ってるあいつを起こしてやることができればいいが。

「全てが終わる」それは、一体いつになるだろう...。

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「パパ、新しい武器、カッコイイ!」

「うん、うん、絵本にでてくる、英雄さんが持ってるやつみたいね!」

ハルバードを持って帰宅すると、見慣れぬ武器を前にして家族たちはちょっとした大騒ぎになった。

「凄いな...これがあれば、確かにお前の言う通り、対近衛騎士戦も有利だろう」

父は顎に手を置いた姿勢で興味深げに全体を眺めていた。

「いいな、わたしも使ってみたかったな、こういうの!」

武器を見つめる母の目は好奇心に満ちていた。確かにこれを振り回す母の姿を見てみたい気がした。武器の貸し借りが出来ないのが残念だ。

「はーうー?」

「あらあら、駄目よ、ジーク君。怪我しちゃうわ」

オリンピアに抱かれたジークが、必死に身体と手を伸ばして刃先に触れようとしたのをオリンピアが制止した。

こいつは武器に興味があるらしく、目を離すとしょっちゅうおれの武器に手を触れようとするのだった。

「刃じゃなくて、柄の部分ならいいよ、ほら」

オリンピアにしゃがんでもらって、ジークに柄を軽く触れさせようとしたところー

「ダメ!ジーク!駄目!」

長女のミカサの声がした。

「それにさわっちゃ、駄目!これは大人になったら、ミカサがもらうんだから!」

ミカサは前に飛び出して、ジークに柄を触らせないように母と弟の前に立ちはだかった。

「ミカサ...!」

ミカサはジークの代わりに自分で柄を握ると、おれを見上げてねだるような声で言った。

「ねえパパ、ミカサは将来、コロミナス家の兵隊長になるんだよね?ミカサね、頑張って訓練して、おじいちゃんやパパみたいな強くてかっこいい兵隊長になるよ。だからこの武器、そのときに...ミカサがもらえるんだよ、ね?」

ミカサはおれと違って兵隊長になることを嫌がっていなかった。それは親としては助かることだった。娘にハートドロップなんて飲んでほしくない。

娘がそれを望むなら、親として最大限の手助けをしてあげたかった。

だがー。

 

自分が迂闊だったが、ミカサは「継承者」には選べない。

なぜなら、おれがエルネア杯に出て龍騎士になる前に、ミカサは成人してしまう。

「力の継承の魔法」は残念ながら、「成人前の子供」にしか使えないのだ。

おれの次の継承者には「龍騎士の剣とスキル」を取ってもらわなくてはいけない。将来兵隊長になるミカサが継承者となる確率はもともとかなり低かった。

長女が継承者となるのは、アニとジークの双方が、能力人格共に継承者となる資質を欠き、課題を更に次の世代に持ち越す場合のみだった。

おれは長子であるがゆえに継承者に選ばれたが、ミカサは長子であるがゆえに選ぶことができない。

かつて祖父は似た理由で、伯父のカールを選ばなかったといっていた。

伯父は選ばれたらきっと、喜んでその責務を果たしただろうに。

こんなふうに生まれた順番で、意思を無視して運命が決まるのもおかしな話だ。

この不条理は、山岳を離れる次世代では解消されるだろう。

けれど今は過渡期にある。ミカサが望んでも叶えてあげることはできない。

本当は、せめてこの武器だけでもミカサに渡したいー、しかし継承には「中間の選択」などない。

あるのは「0か100か」の二択だけだった。

「ミカサ...」

おれは武器を持っていないもう片方の手で、娘の頭を撫ぜながら言った。

「ごめんよ。この武器は、ミカサにはあげられないんだ...。パパの武器は、アニかジークかどちらか、近衛騎士になる方の子に、全部、あげなきゃいけない。そういう決まりなんだ」

「...え...」

柄を握るミカサの顔がみるみる曇り、目には涙が一気に溢れてきた。

「ミカサ、その代わり、パパは一生、ミカサの側にいて、ミカサを助けるから...ごめんね。ミカサ、立派な兵隊長になれるよう、パパと一緒に頑張ろうね」

おれに言えるのはこれが精一杯だった。

「いや...」

子供に聞き入れられるわけがない。

「いやー!なんで!下の子たちはもらえて、ミカサはもらえないの、いや、いや、いやー!」

ミカサは大粒の涙を振りまきながら泣きだした。ハルバードの柄はしっかりと握ったままだった。

「うー...やあー!」

ミカサの泣き声に釣られてジークまで火のついたように泣き出してしまった。

ジーク君、ミカサちゃん、いい子にしようね...」

「おねえちゃん、ジーク、泣き止んで、ねえ...」

家族が一斉に二人をなだめに回ったが、一度泣き出した子供というものは、そう簡単に止まるものではない。おそらく泣き出した本人たちにも難しいだろう。

 

望まなかった運命に、家族全体が振り回されているー。

しかし、今後いつか必ず訪れる「その日」のことを思えば...

祖父の下した残酷な決断を、おれは責める気にはなれないのだった...。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

今回のお話、武器についての記述は、こちらを参考にさせていただきました。

www.amazon.co.jpくゲーム中に出てくる武器も紹介されててお勧めです。

「戦斧」はもともと「工具」由来の武器だと、この本で初めて知りました。山岳兵の武器にぴったりですね(^^)

 

 

 

 

          

 

 

 

 

 

 

選ばれた子と選ばれなかった子

「イグナシオ、神妙な顔にならなくてもいい...。ランスの入隊も決まったし、騎士隊はきっと、ガイスカがしっかり守ってくれる。カミサン...アラベルにも、マグノリアがついてるし、後のことは何も心配はしていないんだ。それに...俺は夢も叶えられたし、やりたいことはやりきったんだ。もう十分だよ、これ以上は...」

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伯父は優しい表情で諭すように言った。おれの動揺を和らげようとしてくれているのだろう。心残りがないはずがないのに。

せっかくランスが騎士隊に入隊できたんだ。父親として今後も成長を見守りたいだろうし、アルドヘルムだってまだ成人したばかりだ。いくら親友である母が側にいるからといっても、残していくアラベル伯母さんのことが心配でないはずがない。

伯父はいつもそうだった。軽口を叩きながらも、自分のことは後回しにして、常に家族や友人の様子を気づかってくれる。

伯父は明らかに「オブライエン一族」の精神的支柱だった。

伯父がいなくなることで、親族の皆は計り知れない悲しみを負うことになるだろう。

おれはどう言葉を返せばいいかやはり解らず、下を向いて沈黙を続けるしかなかった。

無意識のうちに唇を噛みしめていた。

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「ああそうだ、一つだけ...。俺の身体はもうこんな状態だから...例の討伐に呼んでもらっても...あまり役に立たないかもしれない。これからはガイスカやグラハムを呼んでやってくれよ。いきなり「父さん」が出て来たらびっくりするかもしれないけど...」

事務的な内容なら会話を続けられると判断してか、伯父はさらりと話題を変えた。

少し前から、王国の数か所に奇妙な空間の裂け目が出現し、それが原因で近隣の樹海に見慣れない奇妙な魔物がうろつくようになっていた。

そこで魔物の発生を根本から絶つために、各自討伐隊を結成して異空間に突入し魔物の掃討に当たるよう、武術職全員に王命が下されていたのだ。

※プレイ当時のイベント「雷炎の猛り」に準拠している設定です(^^)

おれは両親のどちらかと伯父とでチームを組んで、何度も討伐に出かけていた。

尤も、戦うのは実は自分ではない。

おれの身体を借りた祖父ファーロッドだ。

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祖父が使った「継承の魔法」は、実は子供への能力引継ぎだけではなかった。

引継ぎ時点の自身の「分身」を創りだし、有事に限って「祖霊」として呼び出せることも含まれていた。呼び出された「祖霊」は現在の継承者の身体を借りて戦うことになる。

そして今、祖父の出番が必要になるということは、祖父自身が生前語っていたように、「アベンの門」が少しずつ開きかけていることを示す証拠でもあった。

 

「カールさん...。じいちゃん、伯父さんがいないと寂しがると思うよ。龍騎士になった姿見て喜んでたって言ってただろう?」

 「お前がわざわざ父さんを呼びだすのは何のためだ?討伐を有効に進めるためじゃないのか?俺と父さんが昔話をして懐かしむためじゃない。いつ何時戦えなくなるかわからない人間じゃあ意味がない。」

その通りだった。彼は生来気のいい人間だが、いっぽうで龍騎士であり騎士隊長なのだ。その辺の線引きははっきりしている。

そもそも同行者に両親と伯父を選んだのも、現時点で能力的に一番信頼がおけるメンバーだったからだ。伯父の言う通り、家族の再会のためではなかった。

自分も今はコロミナス家の兵隊長であり、間もなく山岳兵団をも預かる身だ。

その自分が今やるべきことは、一刻も早く魔物の脅威を取り去ること、それ以外にない。

「解ったよ。じゃあ、ガイスカさんにでも来てもらおうかな」

「それがいい...ガイスカには俺からも言っておくから。これでもう、お前に伝えるべきことは伝えたかな...」

伯父は安堵の表情を浮かべてから、ふと思案するように空を見上げたあと、言葉を続けた。

「本当は...」

「どうしたの?」

「お前とエルネア杯で手合わせできなかったことが残念だよ。俺は結構楽しみにしていたんだけどな」

「カールさん...」

おれとしては複雑だった。伯父が試合に出てくれば、明らかに脅威になるのが解っていたから。ある意味、仕事の邪魔者と言ってもいいかもしれない。

かといって勿論、こんな結末を望んでいたわけではない。

 「残念だけど、武人にとって最大の敵は「己の寿命」だから仕方ないな。あの父さんですら寿命にだけは勝てなかった。これはもう、仕方がない」

 伯父は寂し気に一瞬だけ目を閉じたが、すぐに笑顔に戻り、おれの左肩に手を置いた。

「イグナシオ、後は頑張れよ。立場上優勝してくれとは言えないが...。お前も龍騎士を目指してるんだろ?武人の夢であり目標だからな。健闘を祈ってるよ」

 ...夢?

一体この人は何を言ってるんだ?

龍騎士になることを、夢だと思ったことなんて一度もない!

おれにとっては単なる義務だ。しかも厄介極まりない。

その先にあるらしい自由だけが、ある意味夢かもしれない。

この人は優しく気働きができる人だけど、自分に課せられた重荷なんて、実はちっとも理解してくれてはいなかったんだ...!

おれは肩に乗せられた伯父の手をゆっくりと引きはがし、彼の目を睨みつけるようにして答えた。

「...おれは龍騎士になるよ。必ずね。誰にも負けるつもりはない。それがおれの仕事だから」

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「イグナシオ...!」

伯父は驚いた顔をしていた。何か言いたげだった。でももう話す気はなかった。

...伯父さんにはこの気持ちは、理解なんてできないだろう

「じゃあ、用事があるから、おれはこれで」

おれは伯父に背を向けて歩きだした。

冷たい風が吹いて、闘技場の砂を巻き上げていった。

余命いくばくもない伯父に対して最低の態度だとわかっていた。

でも、何も言いたくはなかった。この場にいると、伯父に不必要な苛立ちをぶつけてしまいそうだった。

 「待て、イグナシオ」

背後で伯父の声が響いた。その声にはさっきと打って変わって厳しさがあった。

振り向く以外なかった。

「気が変わった。今度討伐に参加するときは、必ず俺を呼びだしてくれ」

振り向いて対峙した伯父の顔は、険しい表情に変わっていた。

「...え?でもカールさん、身体が...」

「時々動けなくなるだけだ。討伐中万が一そうなったらその時点で離脱する。俺は父さんと話したい。頼んだぞ」

「分かったよ...」

伯父が祖父に何を言いたいのかは解らない。

だがこれは、死を前にした伯父の最後の願いだ。聞かないわけにはいかなかった...。

 

*****************************************************

俺は子供の頃のイグナシオのことを思い返していた。

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いつも優しく穏やかな子だった。

それなのに。

肩に置いた俺の手を引き剥がしたイグナシオの目は、底冷えするような冷たさをはらんでいた。

本来、あんな目をする奴じゃなかった。

マグノリアの話によると、その優しさを弱さと恥じて、性格を変える薬を飲んでしまったらしいー。

妹は、自分の選択が、結局息子を追い詰めてしまったと苦しんでいた。

山岳家にに嫁いだこと、息子にその力を引き継いだこと。

そうじゃない。

この事態を引き起こした原因は父さんだ。

父さんが、マグノリアとイグナシオに不要な重荷を持たせてしまったんだ。

力の引き継ぎなんて、する必要はなかった。自分が龍騎士になった今なら解る。

父さん...本当に、これで良かったのか?

俺は父に会って、そのことを投げかけたかったんだ。

 

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イグナシオは俺との約束を守ってくれた。

俺は父とマグノリアと三人で、魔物の討伐に召喚された。

恐らくこれが俺にとって、最後の討伐になるだろうが。

有難いことに、身体は最後まで動いてくれた。

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「カール、本当に強くなったな。お陰で討伐が楽になったよ」

「祖霊」として呼び出された15歳の父は、無邪気な様子で俺の「成長」を喜んでいた。

今では俺が父の年齢をとっくに越してしまっているのだ。

「父さん...」俺は話を切りだした。

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「なんだ?」

父の笑顔はあくまで穏やかだった。

ここにいるのは、娘に能力を引き継いだ直後の父だ。

娘と、世界にとってよかれと信じて魔法を使った男。

おそらくその決断の正しさに、微塵も疑いを持っていないだろう。

その父に俺は-。

 

「何でもない。多分、こうして父さんに会えるのは今回が最後だから...お別れを言いたくて」

言えなかった。

言ったところで何になる?

あんたの決断は間違いだった、そう言ったところで何も変わらない。

俺がそう責めたかった「本当の父」はとっくにガノスに旅立ってしまっている。

ここにいるのはあくまでも、その幻影に過ぎない。

アベンの門が再び開くその時まで、この姿のまま戦い続けるしかない幻影だ。

その「幻影の父」に、決断の結果を突き付けたところで、何もならない。

未来永劫存在し続ける人間に、今更償えない罪を突き付けたところで...相手に永遠の苦しみを与えるだけだ。俺は父さんに罰を与えたいわけじゃない。

「そうか...。カール、今までよく頑張ったな。父さんはお前を誇りに思うよ」

父は涙ながらに俺を抱きしめてきた。

側でマグノリアも目頭を押さえていた。

...結局俺は、この言葉が欲しかったのだろうか。

単なる幻影のはずなのに、父の腕は温かかった。

 

「兄さん、さっき父さんに何か別の事、言いかけたような気がしたんだけど...気のせい?」

三人で異世界のゲートを出た後、妹が心配そうに問いかけてきた。

イグナシオは用があるといって、別の方向に足早に去って行ってしまった。

「気のせいさ。それより...俺がいなくなったら、アラベルのこと、頼んだよ」

父のことも、イグナシオのことも、マグノリアには伝えないことにした。

もう妹に、余計な苦しみを与えたくなかったから...。

 

 

 

 

僕がいるべき場所

※唐突にすみません。switchで再び初期ウィルマ国をプレイしていたら、初代の駆けだし時代が急に懐かしくなって...。この時代のスクショは無いので文章だけですが、良かったら...お読みいただけると嬉しいです。

初期国民ガイスカ・フィールドさんが重要なキャラとして出てきますが、設定された性格に紐づいた人称ではなく中の人のイメージの人称と口調使ってます。御了承くださいませ。

 

「アルシアちゃん、明日から学校に行くことにしたんだ」

「学校に行くって...ファーロッドさん、誰が?」

カールをあやしていた妻が、大きな目を更に丸くして振り向いた。

「僕がだよ。」

「...えっ?どうして?...ファーロッドさん、大人なのに」

「恥ずかしいけど...僕はこの国で、子供が当たり前に知っていることすら知らないんだ。勿論旅人だったから...というのもあるんだけど、そもそも大人になるまで、学校というものに行ったことがなくて...。読み書きだけは、孤児院に時々来てた神官さんに教わったけど」

*************************

僕はこの年明け、農場管理官を首になったばかりだった。

自分なりに一生懸命やったつもりだけど、どうしても皆と同じように仕事がテキパキこなせなかったのだ。色んな作業を同時にやるのが本当に苦手だった。

「仕事が合わなかっただけ。あんたに向いてる仕事は他にきっとあるよ。」

仕事納めの日、当時代表だったキャリーさんはそう言って励ましてくれたけど、僕は打ちのめされたような気分だった。

自分の居場所を求めてこの国にやってきて、「農場管理官」に選ばれた時はとても嬉しかった。こんな自分でも必要とされているんだ、そんな気がして。

...でも駄目だった。

「...向いてる仕事...。この僕にそんなもの、あるんでしょうか?」

「あんたの好きなことをまず考えてごらん。あんたみたいな子は、好きなことならきっと夢中になって出来ると思うよ。」

好きなことか。

確かにラダの乳を絞ったり、チーズを作ることは「好きなこと」ではなかった。

麦の種を配ったりポムを採ることなんて論外だった。

「そこの新人さん、トロトロしないで!」

農場の行事があるたびに、世話役の人に何度怒られたことか。

...最終的には、一日中乳しぼりやチーズ作りをやることにどうしても耐えられなくて、午後になると探索に出るようになった。

武術職じゃないから難しいダンジョンには行けないけど、探索で出てくる色んな宝物を確認することはとても楽しかった。最初は出てくるものの一つ一つがどんなものかさっぱり解らないから、ガイを捕まえてさんざっぱら聞きまくったっけ。

※畏れ多くも初期国民ガイスカ・フィールドさんのこと。ファーロッドはずうずうしくも彼のことをこう呼んでいます(^^;

ガイは本当に物知りで、知らないことなど何もないような感じだった。それでいて魔銃の名手で、へなちょこな僕はダンジョンで随分助けてもらった。実は魔銃師会のトップ「魔銃導師」まで経験したことがあるらしい。そんなことを決して自分から言ったりはしないけれど。

...彼は僕の師匠であり憧れだった。

彼と一緒に働けたらな、その時ふとそう思った。

...そうか。

僕が魔銃師会に入ればいいんだ!

そんな考えが稲妻のように閃いた。

 

*************************

「魔銃師会?...あそこに入るには探索ポイントで16人中2位以内に入らないと無理なんだぞ?ハードル高すぎるよ!」

農官時代に出来た唯一の友人、オズウェル・ホフバウエルに自分の考えを話してみた。彼も僕と同様、年明けに農官を解雇されている

お互い愚痴でも言い合おうぜ、と新年早々ウィアラの酒場に誘われて、今ここにいるというわけだ。

オズウェルは呆気にとられて、手にしていたポムの火酒の瓶を床に落としそうになっていた。

「俺達みたいな、農官首になるような奴がそんなこと出来ると思うか?」

「...農場の仕事と探索は違うよ。もうエントリーは済ませてきたから」

「まじかっ!...それでもお前、練習試合で俺にも勝てないような奴じゃん...探索、大丈夫なのか...?」

「取りあえず数さえこなせばポイントは付くから...。何にせよ、やってみないと解らないだろ?オズウェルだって受ければ良かったのに」

オズウェルも農作業より探索が好きだと前に話していた。そういう所で気が合ったのも友達になった理由の一つだった。

「そりゃそうだけど...」

「じゃあこうしよう、僕が今年二位以内に入って見事魔銃兵になれたら、君も自信がつくだろ?僕みたいなヘタレな奴でもなれるんだって。そしたら来年エントリーしたらいいよ」

「ああ、はいはい、わかったよ。お前が魔銃兵になれたら、俺も来年エントリーする」

オズウェルは明らかに僕の言葉を信じていないようで、手をヒラヒラさせながら気だるげに返事をした。ちょっと腹が立ったが、逆に闘志が涌いてきた。

 

*************************

魔銃兵の選抜試験にエントリーしたことは、当然ガイにも話をした。

ガイは細い目を一瞬大きくさせて驚いた後、顎に手を当てて首を左右に振りながら自問自答するように言った。

「...そうか...。結構大変だぞ...。古参はクセのある連中ばかりだし...うん...でもまあ、お前くらい神経図太ければ...大丈夫かな」

「大変なのは解ってる。でも、好きなことなら...もしかしたら頑張れるかなって。探索は好きだし...出てくる宝物について調べたりするのもね。」

「好きと、それを仕事に出来るかどうかは違うぞ。仕事となれば、好きな事だけやってればいいというわけじゃないからな。それに...魔銃師会の人間としていい仕事をしたいと思えば、下地となる知識も絶対必要だ。見たところ、お前にはまだそれが欠けている。勿論それはお前のせいじゃないが」

「下地となる知識って?」

「この国の人間は三歳から学舎に通う。シズニ神のことから生活に関すること、我々武術組織のことなど、幅広い基礎知識と教養を学ぶんだ。お前は他所からきた人間だから当然知らないことだ。ましてや今まで、元の国でも学校に通ったことないんだって?」

「うん...そうだけど...。魔銃兵の仕事とそれが関係あるの?」

「新年の誓いで、魔銃導師が話す言葉を聞いたことないか?〚王国の篤き庇護にお応えすべく、この世界の真理を探究し、王国にその成果を捧げる〛ってやつだ。これが本来の魔銃師会の役割だ。探索はあくまでもその手段にすぎない。

いくら探索ポイントを稼いでも、探索で得たものをきちんと分析・報告できないと、本当の意味で魔銃兵として仕事をしたことにはならないんだ。」

僕はガイが話す内容を聞いて恥ずかしくなった。単純に探索できて楽しいとか、その程度の薄っぺらい理由でしか、魔銃兵を目指していなかったから。

「...つまりだ。探索の成果をきちんと文書として形にして、更にそこから研究に繋げていくためには、下地となる知識が絶対に必要となる。だがお前にはその知識がない。」

「...」

僕は絶望的な気分になった。やっと自分が出来る仕事が見つかったかと思ったのに、そもそものスタートラインが他の国民と違っていたんだ。

だけどガイは、にっこり微笑みながら俺の肩に手を置いて、こう言葉を続けた。

「そんな顔するなよ、ファーロッド。だからここからは、俺の提案だ。お前、学校に行ってみないか?」

「え?」

晴天の霹靂だった。そんなことが出来るのか?

「学舎の方にはツテがあるから、良かったら俺から話をしてみるよ。授業の聴講自体は自由だけど、毎日大人が通ってたら奇妙に思われるかもしれないからな。子供に混じって授業を受けるのは恥ずかしいかもしれないが...どうだ?」

「いや、全然恥ずかしくないよ!行けるのなら行きたい」

絶望に叩きのめされたかと思ったら、天空に引っ張り上げられるような嬉しさだった。

「ハハ、お前にはそういう羞恥心はなさそうだから大丈夫かと思ったよ。入国そうそう初対面の俺に、図々しくも友達になってくれなんて言う奴だからな。」

「そんなこともあったっけ...。あの時はとにかく不安で、ガイのことがすごく頼もしく思えたから...」

その時の自分の直感は間違っていなかったのだと、目の前の親友に改めて感謝した。

「だが、あくまでも学校で学ぶ内容は子供のためのものだから、学んだ内容はムーグの図書室でも調べ直せよ。より深い知識を身に着けておかないと、就職した後、周りに太刀打ちできないからな。」

「大丈夫さ。調べものは好きなんだ。」

「一応釘を指しとくが、勉強だけをしておけばいい、ってわけじゃないぞ。当然他のライバルに負けないよう探索ポイントも稼がなきゃいけない。相当きついぞ?」

勉強しながら探索に行く...確かに大変そうだ。

でもその時は、大変さなんかよりも、そこから広がる新しい世界、その輝きのほうが遥かに勝っていた。

-あんたみたいな子は、好きなことならきっと夢中になってできる-

キャリーさんの言葉が脳裏に蘇った。

大丈夫。多分僕は、この仕事が好きになれる。不思議と確信があった。

「きつくても平気さ...。何より僕は、自分が必要とされる場所に行きたいんだよ」

 

*************************

「学校ねえ...。わたくしなんて、もう学校で習ったことなんて忘れてしまったわ。勉強、苦手だったもの」

妻はムタンタルトを軽やかな手付きで切り分けながら話を続けた。

アルシアちゃんは勉強は苦手かもしれないけど、それを補うだけの料理の才能がある。彼女のムタンタルトは絶品なのだった。

タンタルトに限らず、アルシアちゃんの料理は素晴らしい。レシピなど見なくても、ある食材を上手に組み合わせてあっと言う間に作ってのける。

僕にはとても真似できない。料理のことでも、家事のことでも、僕はアルシアちゃんに世話になりっぱなしなのだ。そんな自分が情けなかった。

「僕は他にできることがなさそうだから...。だからごめん、しばらくは探索と勉強中心の生活になって、一緒に出かけたりする時間がなかなか取れないかもしれないけど...。この埋め合わせは必ずするからね」

僕は膝に乗っけていたカールを抱きあげながら立ち上がり、アルシアちゃんの額に軽くキスをした。

「まあファーロッドさん...そんなことより、わたくしはあなたの身体が心配だわ。くれぐれも無理をしないでね」

アルシアちゃんはあくまでも優しい。僕は彼女がいたから、この国に留まろうと決心したのだった。この子と一緒にこの国で暮らしたいー。その気持ちが全ての始まりだった。

「自分のできることとかー、そんなに自分を卑下しないでね。わたくしはあなたが側にいるだけで十分なの。あなたの居場所は、ちゃんとここにあるのよ。それを忘れないでね。絶対よ、ファーロッドさん」

妻は僕の頬を両手で優しく包み込むようにして、唇にキスを返してくれた。

「うーあー?」

腕に抱いてるカールが首をかしげた。

僕の居場所。

今カールとアルシアちゃんがいる場所こそがそれなのだ。

もう一つを求めるなんて本来は、贅沢なのかもしれない。

これから開ける新しい世界、そこへの期待に高鳴る鼓動を、もはや抑えることはできない。

でも今ここにある幸せも、決して忘れてはいけないんだー。

カールを抱いている手にふと目をやると、薬指に付けた結婚指輪が、窓から差し込む陽光を受けてキラキラと輝いていた。

(終わり)

 

※オズウェル君がファーロッドと一緒に農官首になったのはプレイ中本当にあった話。オズウェル君と探索に行った記憶は無いので、首になったのはファーロッドのせいではありません...多分(^^;

ちなみにファーロッドは公約?通り一年で魔銃師会に入りますが、その翌年オズウェル君も魔銃師選抜にエントリー!上のお話の通りとなります。以後オズウェル君は”魔銃師会の盟友”として長年にわたりファーロッドと苦楽を共にすることになります☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予期せぬ告白。

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ジークが生まれた後も試合は続いた。

勝ち方はともかく、取りあえず今年の目標は最後まで勝ちきることだったので、

「格上には剣で、同等以下では斧で」のポリシーを最後まで貫いた。

結果としてリーグ戦を全勝で終え、無事優勝することができた。

 

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...勿論エルネア杯の年までこのままでいいわけじゃない。

だが、探索の成果も上々だったので、来年以降は斧で勝ち通せる自信が既にあった。

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「あれ、アンテルム?お前がなんでいるんだ?カティーナさんは?」

リーグ戦終了後の日々はあっという間に過ぎていき、気づいたら「炉じまいの儀式」の日になっていた。

この場を取りしきるのは今年度の兵団長ー、ペトレンコ家の隊長カティーナのはずなのに、彼女はその場におらず、替わりに来ていたのは息子のアンテルムだった。

アンテルムは何とも所在なげな感じでしょんぼり立っている。

サンチャゴはそんなアンテルムの姿を目ざとく見つけて、声をかけたのだった。

「...母さんは引退したよ」

アンテルムは下を向きながら呟いた。

「エルネア杯でも近衛のお義父さんにあっさり負けちゃったし、今回もイグナシオにすら勝てなかったろ?本職の騎士じゃないのに...。自分の限界をこれで悟ったって。あとはあなたがしっかりやりなさい、てさ...」

...おれの行動が彼女の引退を早めてしまったのかもしれない。

だけど、遅かれ早かれ誰でもその時は必ずやってくるんだ。

あれだけ強かった父もそうだった。だから、同情はしない。

「カティーナさんもう1年くらいやるかと思ったが、意外だな...。まあ、お前も嫁さんもらったんだし、いい頃合いじゃないか。一緒に頑張ろうぜ」

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サンチャゴはアンテルムの肩をポンポン叩いて励ました。

「オレ、もう少しのんびりしたかったよ...。どうせ来年はみんなにボコボコにやられるに決まってるんだ!...勘弁してくれよって感じさ...」

誰がどう見てもアンテルムは兵隊長に向いていなかった。向いていなくてもやる気があればまだしも本人にもその気がない。普通の国民であれば、本人の希望通りのんびり暮らしていけるものを...。

 

残念ながら、山岳家の長子に生まれた以上選択権はほぼない。

まず、兵隊長の側から「引き継ぐ相手」を「選ぶ」ことはできない。

何か特別な事情があって、引き継ぐにはあまりにも不適格な場合は長子以外に引き継ぐことも可能だが...それには他の兵隊長と兵団顧問全員の同意が必要となっている

兵隊長が恣意的に長子から継承権を奪うことを防止するため定められたものだ。

いっぽう、長子が望めば、継承権を弟妹に引き継ぐことは「一応」可能になっている。

ただし、弟妹が成人済みでなおかつ長子が独身である場合に限る。

勿論弟妹自身の同意が必要なのは言うまでもない。

弟妹に同意してもらえるかどうか解らない状態で、自身の結婚を先延ばしにする...というのは中々に度胸のいる行動になるので、この選択肢を選ぶ者も、そう沢山はいない。

アンテルムが兵隊長に向いていないといっても、こいつがなったら兵団に著しい損害をもたらすとか、そこまで酷いレベルではない。

また、妹に継承権を譲る選択肢についても、妻のロシェルにはとにかく惚れ込んでいたので、譲れるかどうかわからない継承権のために結婚を延期するなんて、おっかない賭けに出る気は全くなかったようだ。

 

...おれたちは選べない。

ならば、選べない中で覚悟を決めるしかない。

「ボコボコにされたくないんだったら、強くなるしかないだろ?ここに来た以上、くだらない泣き言言うなよ」

「...酷いよ、イグナシオ...そ、そこまで言わなくても...」

「泣き言は家でロシェルにでも聞いてもらえよ」

アンテルムは泣きそうな顔をしていたが、相手にしないことにした。

別に家で泣き言をいうことまで駄目出しをしていないんだ、間違ったことは言ってない。

「全く、お前は相変わらず言い方に身も蓋もなさすぎるぞ...。とはいっても、来年の兵団長サマだからな...。言い返せないよ。今はな」

サンチャゴが肩を竦めて溜息をついた。

そうこうしているうちに儀式が始まった。

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引退したカティーナの代わりにカランドロ家のアイオンがその場を取り仕切り、滞りなく儀式は終わった。

来年は自分がこの役割を担うことになるー。

 

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29日になると、殆どの国民は仕事休みに入るが、来年度の組織長予定者だけは重要な仕事が残っていた。

来年の評議会議長決定のための選挙に出なくてはならない。

「評議会の一員になるということは、兵団のみならず、王国の政治にも責任を持つということだ。しっかりやれよ」

父はそう言って送りだしてくれた。

 

「イグナシオ、兵団長就任おめでとう!まさかお前と一緒に評議会に出れるとは思ってなかったよ。これから宜しくな!」

議会に出向くと真っ先に、伯父のカールが笑顔で声をかけてきた。

伯父はこの度のトーナメントでも、勿論危なげなく優勝していたのだった。

「偉大な龍騎士」である伯父と自分が肩を並べる存在になるとは...何とも不思議な感覚だ。

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選挙の結果は...勿論若造で新参者のおれが選ばれるなどということはなく...

陛下の信任厚い「龍騎士カール・オブライエン」が今年に引き続き議長に選ばれた。

勿論おれも伯父に投票したひとりだった。

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「カールさん、評議会で一緒になれた記念...というわけじゃないんだけど、良かったら練習試合に付き合ってもらえないかな」

選挙終了後、思い切って伯父を練習試合に誘ってみた。

「ああ、構わないよ。そういえば、お前と試合するのは初めてだな。いくらでも、かかって来いよ」

伯父はいたずらっぽく笑いながら、快く承知してくれた。

 

2年後のエルネア杯では、伯父の存在が一番の脅威となるのは間違いない。

昨年のバグウェル戦の勝利から、伯父は更に力を伸ばしている。

勿論今の自分で勝てるとは思えないが、相手の力は早くから知っておく必要があった。

今後自分がどのように強化すればよいか、相手を知ってこそわかるというものだ。

 

「闘技場の使用料は120ビー!お前の分も、俺が出しておこうか?」

伯父が目くばせして聞いてきた。これは勿論冗談だ。

「おれはもういい大人だよ。その120ビーはいずれジークがお世話になった時でも」

 「..........。ああ、そうそう、俺はジークが近衛に入るまで待ってなきゃいけなかったな。じゃあ、始めるかイグナシオ」

伯父が一瞬沈黙したのが何故か気になったが、取りあえず今は試合に集中するべき時だ。

「正々堂々、いざ!」

 

先手を取られるのを覚悟していた。

だが実際に、先手を取れたのはおれの方だった。

数回刃を交わしただけなのに、伯父のほうがあっさりと膝をついてくずおれてしまった。

...明らかに様子がおかしい。

 

「カールさん!」

おれは慌てて伯父にかけよったが、もう悪い予感しかしなかった。

「...見ての通りさ」

伯父は額に手をあてながら、ゆっくりと立ちあがった。

「寿命が近づいているようだ。残念ながら、俺はもう長くない...。時々こんな風に、身体が言うことを聞かなくなるのさ...。このところ、だいぶ回数が増えてきてな...。」

伯父は微笑んでいたが、その顔色は青白くなっている。

 

それは一番聞きたくなかった言葉だった...。

 

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ゲーム内の性格設定だとイグは伯父さんでも呼び捨てにしちゃうんですけど、流石にそれはいかがなものかということで、イグの「おじさんズ」四人のうちカール・ガイスカ・マティアスの三人は普通に「さん」付けで呼ぶ設定にしています。カールやガイスカなら呼び捨てだと注意しそうだしね。しかしグラハムだけは呼び捨てかもしれない(^^;なんとなく

 

※山岳のこんな設定は勿論ゲーム本編ではありません。捏造です。毎度すみません...(>_<)

 

 

幸運の輝き。

「イグナシオさんどうしたの、試合の時と全然違うわ、そんなにウロウロしなくても。もう三人目ですもの、大丈夫よ...」

「何人目だろうと心配なことに変わらないよ...オリンピア、痛いところはない?大丈夫?」

試合が終わった後すぐ、飲みにいこうという悪友アシエルの誘いを一蹴して自宅に戻った。

 

今日は特別な日だった。

三人目の子供がこれから生まれることになっている。

産む当人のオリンピアは落ち着いていたけれど、見守る立場の自分で出来ることは少なく、かといって何もできないことも申し訳なく、結局ただ所在なげにウロウロしているだけだった。

「ウロウロしてるだけでも、いいのよ。その場にいないことが一番、腹立つの!」

母はそう言いながら、隣に立つ父の顔をチラっと見やった。

「どこかの誰かさんみたいにね」

「...あ、あの時は仕事や探索で余裕がなくて...でも、出産の時には間にあっただろう」

父は痛いところを突かれてしどろもどろになっている。

「まあいいわ...ジャスタス君頑張ってたのは知ってるから許してあげる。そうそう、イグナシオはあの時から優しかったものね。忙しいお父さんの代わりにずっと側についててくれたわ。」

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...あの時母の側にいたのは今のおれじゃない。

意識の底に沈めた昔のイグナシオだ。

自分にあの時と同じ優しさが残っているかどうか、自分ではわからない。

けれど、オリンピアの気持ちが少しでも落ち着くなら...今は彼女の側についていたかった。それは本心からの気持ちだった。

 

「お義母さん...イグナシオさんは勿論今でも優しいですよ...あッ!」

普通に話していたオリンピアの表情がいきなり苦痛に歪んだ。陣痛が始まったようだ。

オリンピアちゃん!いけない...巫女さんまだかしら?探してくるわね。イグナシオ、オリンピアちゃんの手をしっかり握ってあげてて!」

母が階下に降りようとしたときー、

「兄貴、巫女さんきたよー!」

一階から、妹のヒルデガルドの声がした。ちょうど到着したらしい。

「良かったわ...。じゃあ、邪魔になるといけないから、私たちは一階で待っていましょうね」

「えー、わたし、赤ちゃんが生まれるとこ、みたいー」

「あたしもー!」

娘たちはぐずったが、父が二人の頭を撫ぜながらなだめた。

「あんまり沢山人がいると、赤ちゃんもびっくりしちゃうんだよ。赤ちゃんとは後でいっぱいお話できるから、下でじいじとばあばと一緒に待っていようね。」

「うん...おじいちゃん、待ってる間遊んでくれる?」

「じいじ、お人形遊び、しよう!」

「お人形...あ...ああ、いいよ...じゃあ、行こう」

父は孫二人の手を引いて下に降りて行った。

厳めしい父が人形遊びをしている姿を見たいところだが...今はそれどころではない。

 

家族と入れ違いに巫女のフローラがやってきて、いよいよ出産が始まった。

 苦しむ妻の手を握って励ますことしかできないのがもどかしいが...

後はフローラと妻に全てを託すしかなかった。

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 ふぎゃあ、ふぎゃあ!!

 上二人の娘たちの時よりひときわ大きな産声が響いた。

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「お母さん、頑張りましたね。元気な男の子ですよ」

...三番目の子供は、夫婦にとって初めての男の子だった。

「可愛い赤ちゃん...」

ようやくひと仕事を終えたオリンピアは、安堵に満ちた笑顔を浮かべた。

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「名前をつけてあげてくださいね」

フローラがそう言って、息子をオリンピアに引き渡したその瞬間ー

子供の左肩のあたりがキラリと光った。

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フローラはその輝きが何であるかすぐに気づいたようだ。

「あら?この子は神から特別な才能を授かったようですね。ほら...ここに印が※」

フローラが指し示した息子の鎖骨のきわには、小さく星形の痣があった。

「これは”グリニーの導き”の印だわ...おめでとうございます!」

グリニーの導き。

それは別名”罠除けの才”とも呼ばれ、この才を持つ者は、ダンジョンに張り巡らされた無数の罠を事前に察知できる特殊な感覚を持つことになる。武術職には就く者には非常にありがたい才能だった。

自分の血統には出やすい才のようで、曽祖父・祖父・父もこの才能の持ち主だ。

残念ながら自分にも弟妹にも発現しなかったし、二人の娘も同様だったから、てっきり父の代で途切れたと思っていた。

 

「イグナシオさん...この子に名前をつけてあげないと」

才能の発現に気を取られていて、大事なことを忘れるところだった。

名前は二人で事前に考えていた。

ジーク」

「この子の名前は、ジーク・コロミナスです」

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子供たちの名前は、ワ国に伝わる有名な叙事詩の登場人物から選んでいた。
ジーク」はなかでもひときわ強力な戦士で、その名は「勝利」を意味する。

天賦の才を持つこの子にはうってつけかもしれない。

「ほら、赤ちゃんも素敵な名前をもらって喜んでますよ」

何はともあれ、オリンピアの胸に抱かれて微笑む息子は、才能など抜きにして愛らしかった。特徴的な長い睫毛は妻の方に似たようだ。

おれはジークのふわふわの頬をそっと撫でてみた。息子は反応してきゃっきゃと笑った。

「すごいよ...可愛いなあ。きっとオリンピアに良く似た、綺麗な目をした子になるね。男の子だけど...女の子みたいな美人になったりして!」

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「イグナシオさん...早くも親バカだね」

「はは...だってそりゃあ...自分の子供は可愛いに決まってるよ。」

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「親バカなくらいでちょうどいいんですよ...愛情で健やかに育ててあげてくださいね」

フローラは優しく穏やかな声でそう言い残して帰っていった。

 

「パパ!赤ちゃん生まれたの!!」

「おとうとー!あたし、おねえちゃんになったんだね!」

入れ違いに娘たちがけたたましい声をあげて二階に駆け登ってきた。

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「こらこらあんた達、そんなに大きな声を上げると赤ちゃんびっくりしちゃうよ、そーっとしなきゃ、ダメ」

ヒルダ姉ちゃん、はーい」

妹、それに父と母も一緒にやってきた。

オリンピアちゃん、お疲れ様、イグナシオもね。明日はケーキでお祝いだね」

「二人ともおめでとう。無事に生まれて何よりだよ...。」

家の中全体が喜びの空気に包まれていた。めいめいがジークを抱きあげたり話しかけたりして、新しい家族の誕生を祝福してくれた。

 

夜も更け、家族達もそれぞれの床に入ってようやく寝静まったが、おれはまだ一人眠れずにいた。

ジークはおれの横ですやすやと寝息を立てている。

ーさて、まだ先のことだけど、どうするかなー

子供の人数は三人にしておこうと、オリンピアと事前に決めていた。そのうち長女のミカサも成人して結婚するから、娘の子作りに差し障りがないようにするためだった。

となると、例の「龍騎士の力の後継者」はこの三人から選ばなければいけない。

ジークがある程度大きくなり性格がはっきりしたら、その時が決め時だ...。

後継者が誰になろうと、その子が自分のように「ハートドロップ」を飲む羽目になるのだけは避けたかった。

三人のうち誰かが、自ら望んで宿命を背負い、使命を果たす意欲を持ってくれれば、それに越したことはない...。そうなってくれることを祈りたかった。

 

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「はい、今日はケーキだよ。昨日ジークが生まれたお祝いね。」

「わーい!でもおばあちゃんのケーキがないよ?おばあちゃんだけパウンドケーキ?」

「ボワの実が足りなかったの。でもいいの。こっちにはたっぷりポムの火酒を効かしてるからね、おばあちゃんは大人の味で、い・い・の♪」

翌日もコロミナス家は祝祭ムードだった。

 

「よう!今度は男の子だったって?おめでとう!!」

そこへ伯父夫婦が訪ねてきてくれた。

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「わーい!カールさんとアラベルさんだー!」

子供好きの二人の登場に、娘たちは歓声をあげて喜んだ。

ジーク君何が好きか解らないから、お祝いにおもちゃ一通り持ってきたのよ」

「えー?ジークだけ?わたしたちには?」

アラベル伯母さんはにっこり微笑んで、ミカサとアニにリボンを巻いた小箱を手渡した。

「はい、ミカサちゃんには、積み木。アニちゃんにはお人形ね。二人の好きなものは、大伯母さんちゃーんと解ってますからね。」

「わーい、ありがとう!!」

「アラベルさん、いつもすみません...」

こんな感じで、伯父夫婦は折に触れて娘たちに贈り物をよこしてくれる。

「うちはもうアルドも成人しちゃったから...。ランスの所に二人目ができるのも当分先だしね。こうしてミカサちゃんたちと遊べるの、私たちこそ楽しみにしてるのよ。気にしないでね」

「じゃ、早速だけど坊主の顔を見させてもらおうか。」

「どうぞどうぞ、ぜひ私の可愛い孫に会ってあげてちょうだい!」

母が伯父夫婦を先導して二階に案内してくれた。

 

「さて。未来の大物君、初めまして。君のご所望のおもちゃ、教えてくれるかな?」

伯父がまるで王族に対するような恭しい手付きで、オリンピアに抱かれたジークの目の前に、三種類の玩具を差しだした。

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「ぱぷ...?」

ジークは一瞬だけきょとん、と首をかしげたが、すぐに木剣に手を伸ばし、しっかりと握りしめたと思ったら、今度はブンブンと振り回し始めた。

「きゃ、きゃは、きゃはは!」

「ハハハ!こいつは随分とやる気満々だな!俺はそういうの大歓迎だよ、お前、将来近衛騎士隊に入るかい?」

「はーいー♪」

「はーいー?そうか!じゃあ俺、長生きして待ってなきゃいけないな!」

...こいつが伯父の言う通り近衛騎士隊に入ってくれるなら、龍騎士の剣とスキルを得る確率が上がるわけだから、確かにこちらとしても願ったりだ。

だけどそう上手くいくかな?

 

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おれはジークがご機嫌でケラケラ笑う姿を見ながら、今後のことをぼんやりと考えていた...。

 

※天賦の才の発現と種類、巫女さんどうしてわかるの?とプレイしながら疑問だったので、ついつい「聖痕」みたいなものがあるに違いない!と設定を勝手に捏造してしまいました(^^;痕が出る位置については個人によって異なります。ジークの位置を「鎖骨の際」にしたことは...単純に、「成人した後セクシーだから」という理由です。変態ですねすみません...(^^;