遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

兵長継承。

「イグナシオ」

あの悪夢のような敗戦から一夜明けた朝食後、父が声をかけてきた。

...その用件が何であるかは薄々解っていた。

「そろそろお前に、兵長の役目を任せても良い頃合いだと思っているんだ。

お前さえ良ければ、今から継承の儀式を始めたい」

 

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「...父さん、俺、今制服着ていないよ?」

...最近は市場の福引きで当たった、着心地の良いゆったりした白いシャツを愛用していた。

その服を着ている間だけは、継承者でも山岳の後継ぎ息子でも何者でもない、只のイグナシオでいられるような気がしたからだ。

...どうせすぐに、立場上制服しか着れない時代がやってくる。

そしてそれが今だった。

 

「別に儀式時の服装の規定はない。大事なのは...お前に引き受ける覚悟があるかどうか。それだけだ。」

形式を大事にする父にしては珍しいことだ。

それだけ...思いのほうが勝っているということなのだろう。父の顔は普段にも増して真剣だった。

「分かった。任せてよ。」

答えは決まっていた。

覚悟自体はとっくにあった。

ただ...急いではいなかっただけだ。

父が龍騎士になることを疑っていなかったし、兵長を引き継ぐのはその後でいいと思っていた。

父のことは尊敬していたから、父が望むだけ続けてくれて構わなかった。

逆にもし父が、戦士として情けない男だったら、とっくの昔に自分から兵長の地位を奪い取っていただろう。「仕事」はさっさと終わらせた方が楽だから。

...自分が本来望んだタイミングではなかったが、こうなってしまった以上、自分にとっても山岳兵団にとっても、今が最良であることも確かだ。

 

父はようやく安堵した顔になった。

「...それを聞いて安心したよ。俺個人はカールに敗れたが※、山岳兵団全体としてはまだ敗れてはいない。明日にはカティーナの準決勝が控えている。ここで俺が退いて、兵団長としての全権をカティーナに譲れば、カティーナは兵団代表として試合に臨める。彼女の士気も上がるだろう。」

「...着替えてこようか?」

「いや、そのままでいい。...お前が上でゴソゴソ着替えているのを家族全員で待っているというのも、間抜けな話だろう?」

「確かにそうだね」

「それじゃあ、さっそく始めよう」

 

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父が皆の前に立ち、引き継ぎの儀式の始まりを宣言した。

 

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兵長の座を引き継ぐ者としての覚悟を次々と投げかけられる。

 

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...この儀式に臨んだ以上、その問いに否と答えるはずはなかった。

 

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この瞬間、俺はコロミナス家三代目の兵隊長となった。

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父は10年の長きに渡って背負ってきた「責務」から解放され、

その責務はこれからは、俺が背負うこととなった。

「誓いの言葉を胸に刻み、始祖と先祖に恥じぬように努めます」

...儀式は終わった...

「イグナシオ...」

最後の大任を終えた父は、心なしかかなり疲れて老け込んだように見えた。

だがその疲れはきっとこの後、母が癒すことだろう。

「お前は今後全てにおいて、俺のやり方を踏襲する必要はない。お前の考えで、お前の意志で決めていいんだぞ。」

「父さん。俺は父さんみたいに高潔でも立派でも..ないよ。そんな俺のやり方で、いいのかい?」

「俺はお前の能力も考えも信頼した上で発言している。お前の行動がコロミナス家の...ひいては山岳兵団のためになると信じているよ。役割を任せるというのは、そういうことだ。」

「分かった。ありがとう」

山岳兵団のためになる...か。何をもって「ためになる」とするのか。

俺の考えは父の...そして他の兵団員たちの解釈と果たして一致するのか。

でも、こうなった以上は、俺が考えることをやるしかないんだ。

父さんごめん...少し気苦労をかけてしまうかもしれないよ。

 

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「イグナシオ、お前もついに兵隊長になったんだって?」

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翌朝、山岳プラマー家の幼馴染、サンチャゴが声をかけてきた。

同い年の彼は昨年末、前兵隊長の母ジャンナの引退により、一足早く兵隊長になっていた。

「...ああ」

「よっしゃ!来年から遂に俺たちも試合デビューだな!

まあ何だ...最初は...先輩隊長達の洗礼にあって、ボコボコにやられちまうらしいが...。

ま、そのうちすぐに追い抜いてやるさ!俺たちで山岳兵団を盛り上げようぜ」

サンチャゴは楽天的な奴だ。超がつくぐらい前向きで、タフだ。子供の頃からそうだった。

「そうだね」

「楽しみだな!まだエルネア杯も終わってないうちになんだが...。ちょっとカティーナさんじゃ、悪いがまだ龍騎士は厳しい気がするんだ。本来はオフクロの次のNO.3の実力者だったからな。となれば、4年後は俺たちが頑張らないと。山岳兵団初の龍騎士、俺とお前のどっちが...なるかな?」

「...勿論そこは、俺が取らせてもらうよ」

「言ったな!イグナシオ、お前昔はおとなしい奴だったのに、ホント言うようになったよな。今のうちだけ言わせといてやるよ。来年見てろよ!

...でもまあ、今後のこと考えるとゾクゾクするよ。龍騎士は武術職ならだれでも憧れる目標であり...夢だからな。夢に向かって頑張れる立場で、お互い良かったな」

 

夢か...お前にとってはそうなんだな。

サンチャゴ...。俺にとって龍騎士になることは「夢」なんかじゃない。

かならず終わらせなければいけない「仕事」なんだ。

...単純に「夢」と語れる盟友を、俺は心底羨ましいと思った...。

 

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(つづく)

 

※ジャスタスを準決勝で破った騎士隊長カールは二代目PCマグノリアの兄。ジャスタスにとっては義兄にあたりますが、子供の頃からの友人のため、呼び捨てにしています。

(実際のプレイで幼少時代のカールが山岳の家に遊びにいっているのを確認済み。

逆にそこから「マグノリアとジャスタスをカップルにする」案が固まりました。)