もう一つの準決勝(2)
「兄さん、勝利おめでとう」
「ガイスカ、次はお前の番だな。一足先に決勝で、待ってるからな!」
15日の準決勝。兄は義弟にあたる山岳兵団長にあっさり勝利した。
祝福の言葉を告げた自分に、兄は上機嫌で話を続けた。
「知っての通り、俺たち近衛騎士隊ではここしばらくの間、龍騎士はおろか、勇者さえ輩出していない...。王立闘技場は俺たちのホームグラウンドであり、初代龍騎士ローゼルは、近衛騎士だったにも関わらず、だ。
優秀な先輩たちをもってしても、魔銃師会の勢いを破ることはできなかった。
だが、目の上の瘤だった魔銃師会は、既に全員敗退した。
これでお前が準決勝に勝利すれば、決勝戦は俺とお前、騎士同士の対戦となる。
どちらが勝っても騎士隊の勇名を、世に轟かすことができるんだ。
俺たちに課せられた使命は重いぞ。まあ魔銃導師にすら勝てたお前のことだから..
勿論大丈夫だと思ってるけど、な!」
兄はばん!と私の肩を叩いた。
「兄さん、解ってるよ、決勝で待ってて。期待通りの戦果を上げてくるから」
「それでこそお前だよ。といっても、決勝ではいつも通り容赦しないからな!」
「お手柔らかに...とは言えないね。私も遠慮なく当たらせてもらうから」
...そうだね、兄さん。
それが自分たちに課せられた使命なら、私はそれを全力をもって果たすのみだ。
ただ...悪いけれど
私が決勝で戦いたかった相手は、本当は兄さんじゃなかったんだ...。
13日の魔銃導師との対戦では、誰も私が勝つとは思っていなかっただろう。
それだけ武器・能力...全てにおいて相手が勝っていた。
ただ、私は何が何でも勝ちたかった。勝って決勝に進みたかった。
そのために、それまでの試合で魔銃師達の動きをつぶさに観察し、徹底的に分析した※
結果は...辛勝ではあるが、私の勝利だった。
そこまでしたのは...決勝でしか戦えない相手がいたからだった。
あの組織には年齢制限がある。相手がこの場に立つのはこれで最後だろう。
龍騎士になれる最後のチャンスを相手が逃すはずはない。
騎士隊員としても、オブライエン家の人間としても、自分の立場を裏切ることではあるけれど..
実はあの時私は、兄の勝利を願ってはいなかった。
...が、自分の予想と密かな願望はあっさりと覆された。
私の、立場を除外した、極めて個人的なエルネア杯への動機は、ここで終わることになった。
気乗りのしない準決勝の相手は山岳兵団のカティーナ・ペトレンコ。
ナトル時代は同級生だった。
といっても話をしたことは殆どない。いつも生真面目にノートを取ってる姿だけはなんとなく覚えている。
彼女の印象はその程度で、お互いが武を競う立場となった今も、そこから大して変わったわけではない。
娘ロシェルが、図らずも彼女の息子と婚約することになったが...
正直言うと気乗りのしない縁組だ。
だが子供の頃から育まれた愛情を、否定するわけにもいかなかった。私と妻もそのようにして結ばれたからだ。
幼い頃からの慕情というものは...消し去ろうとして簡単にできるものではない。
それは私自身がよくわかっている。
「..アンテルム君がすでに武術職で嬉しいよ。上級ダンジョンでも一緒に探索ができるからね。今度ぜひ一緒に、ゲーナの森へ行こう。それとも帰らずの洞窟の方がいいかな」
「...は、ハイッ...」
婚約パーティの際、私がこう話しかけると、彼は明らかに狼狽していた。その様子から、彼が8歳にもなるのに碌に探索に行っていない事実が見てとれた。
それでも、こんな頼りない男でも、いずれ兵隊長の地位につき、更にはエルネア杯の出場権も得るのだろう。なんといっても6人中4人が出場できる緩い条件だ...。しかも6人に入るには試験などなく、年配になると強者は順番に引退していってくれる。一方で娘ロシェルは、これからどんなに鍛錬しようと試合に出ることも叶わない。
姉さんも、ロシェルも-。
どうして大事な者たちは、望んでこんな古臭くて、馬鹿げた因習に縛られた組織の一員になってしまうのか...
個人的な意欲は落ちたしても、ここで山岳兵団に花を持たせるわけにもいかなかった。
兄が語る通り、「騎士隊の強さを王国に示す」ことも、騎士隊副隊長としての私の任務だから。
既に義兄は兵団長の地位を降りたと聞く。
兵団代表の任を譲られた彼女は、必死にこちらに向かってくるだろう。
どんな相手でも、ガムシャラに向かってこられるほど厄介なことはない。
悪いがこちらも、全力で君を倒させてもらうよー。
私が戦いたかった山岳兵は、君ではなかったんだけど、ね...
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17日 エルネア杯準決勝(第二プール)
山岳兵団 兵団長代理 カティーナ・ペトレンコVS
近衛騎士隊 副隊長 ガイスカ・オブライエン
勝者:ガイスカ・オブライエン
「ガイスカ!やったな!これで決勝は、俺とお前の一騎打ちだ。
騎士隊長の座同様、龍騎士の座も渡すつもりはないからな。覚悟しておけよ」
「ありがとう。兄さんも覚悟しておいて」
「...何かお前、勝った割には、あんまり嬉しそうじゃないな...戦ってる時も、なんだか苛ついてるようだったけど...気のせいか?」
「いや...そんなことはないよ。初めてのエルネア杯だから...柄にもなく緊張しているだけさ...」
(準決勝編・おわり)
※エルネア杯編はもうちょっと続きます(^^;
※最初の文章ではエゴンさんの動きだったんですけど、考えたらエゴンさん魔銃導師だったからシード取ってたので、VSガイスカがエルネア杯初戦なのでした。この「魔銃師対策」のノウハウはガイスカから他の騎士隊員にも後に伝授され、騎士VS魔銃で騎士が勝つ確率が上がります←うちの国ではまじに騎士強い(^^;