遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

選ばれなかった子(4)

「...まああれだよ。大衆って奴は娯楽が見たいのさ。劇的な物語をね。

バカみたいに強い英雄が当たり前に勝って終わり...じゃつまらんだろう?」

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...エルネア杯。

その出場者にとっては、そこは己の武人としての集大成をぶつける、真剣勝負の場だ。

...が、試合に縁のない、殆どの国民にとってのエルネア杯は、

「4年に一度の大きな祭り」ぐらいの認識だった。

年が明けると同時に、酒場で優勝者が誰かを賭ける投票券「ギブル」が売り出される。

優勝者の予想で国中が盛り上がり、この期間は家庭でも酒場でもこの話題で持ちきりになる。

...今まで、このオッズの一番人気は断トツで父だった。

しかし今回は様相が異なり、一番人気は魔銃士会のNo.2アンジェリカ。

そして驚くことに、俺がなぜか二番人気になっていた。

 

アンジェリカはともかく、俺のステータスは出場者の中でも、下から数えた方が早い。

大穴狙いで買う物好きはいるかもしれないが、俺なんかに投票することは、

正直金をドブに捨てる行為と変わらないと思う。

皆目理由がわからない...と、酒場で親友のルチオに話したところ、冒頭のように返してきたというわけだ。

「お前の親父さんである龍騎士殿は、確かに強い。...が、国民はもう見飽きたんだよ。

どうせバグウェルにだってアッサリ勝つに決まってる。しかも、もういつガノスに旅立ってもおかしくない歳だ。大衆はそろそろ、新しい英雄を見たがってる...ってことだ」

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「新しい英雄...、か。で、そこで、なんで俺なんだ?」

「まず、出場者の中では、若い。顔だって...まあ...そんなに悪い方じゃないし。」

「おいおいちょっと待てよ、悪い方じゃないって何だ」

「お互い正直が身上、だろ?...で、ここが本題だ。」

俺はごくりと唾を飲んだ。

「...お前が「龍騎士の息子」だからだ」

...龍騎士の息子。

それは動かしがたい事実だが、自分がそれを名乗るに相応しい人間であるとは、全く思えなかった。今回エルネア杯に出れることになったのも、単なる棚ぼたに過ぎない。

龍騎士の息子が父を倒して新たな龍騎士となる、どうだい、劇的だろう?

ちなみに...アンジェリカが一位なのも、同じ理由さ。お前が「龍騎士の息子」なら、彼女は「龍騎士の孫」だ」

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彼女は先々代の龍騎士「イノセンシオ・アンドゥヤル」の孫だった。

しかし、彼女は俺と違って、探索ポイントで父に次いで第二位と、堂々とした実績を残していた。

「ま、彼女の場合はそれだけじゃない。お前と違って「あからさまに美人」だからな!俺もお前より、彼女の龍騎士が見たい。」

「こいつ!」

...ルチオとの会話はそのまま雑談で終わったが、

龍騎士の息子」という今はありがたくない肩書きが、

ギブルの倍率に影響するほど界隈に浸透してるかと思うと、頭が痛くなった。

 

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5日。

俺にとって初めて「出場者」として参加するエルネア杯が開幕した。
これが自身の力で掴み取ったものならば...どんなに胸が打ち震えたことだろう。

 

「カール」

開幕式と第一試合が終了した後、父から声をかけてきた。

「こうしてお前と一緒に参加できる日が来るとは...。長生きはするものだな。

お前が初戦突破すれば、私と対戦することになるな。楽しみだよ」

父はとても嬉しそうだった。

正直、父がここまで喜んでくれるとは思わなかったので、俺もつられて嬉しくなった。

「俺もだよ...父さん。父さんと戦えるよう、初戦は必ず勝つよ。」

自信など無いはずだったのに、自然とこんな言葉が口から出てきた。

子供にとって、親から期待されるということは、いい年になっても、やはり嬉しいものなのだ。

「...そうか!だが、初戦を勝つだけでなく、私にも勝ってほしいところだな。...もっとも、息子だからといって容赦をするつもりは毛頭ないぞ。覚悟しろよ」

「わかったよ、父さん」

「それに...」

父は言葉を続けた。しかし口調も表情も一転して曇っていた。

「母さんのためにも...お前の勇姿を...見せてやれよ」

そうだった...。

母さんの命は、もう長くはないことが明らかになっていた。

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母さんも、今回のエルネア杯の出場を喜んでくれていた。

「ニーナ姉さんだって、カール君のこと、きっとガノスで見守ってくれているわ。

姉さんの分まで、頑張ればいいのよ」

ニーナ伯母さんの代わりに出場することに後ろめたさを感じている俺に、

先日こう言って励ましてくれた。

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父の出世と引き換えに、夫婦で過ごす時間の大部分を失った母は、

必ずしも出世を是としてはいなかったが、

それでも母として、息子の「晴れ舞台」を喜んでくれていたのだ。

 

父と母。

妻アラベルと二人の息子、ランスとアルドヘルム。

友や兄弟たち。

俺に後を託して逝ったニーナ伯母さん。

龍騎士の息子」の肩書きはいまだに分不相応に思えたが

肩書へのプライドではなく、預けられた想いのために、

ここで初めて心からこの試合に「勝ちたい」と思えた...!

 

「大丈夫だよ。母さんのためにも...いや、俺を応援してくれるみんなのためにも、

俺は勝ってみせる」

 

 

7日。

俺の「初戦」が始まった。

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相手は山岳兵には珍しく、銃持ちの戦士だった。

悪い予感がしたが...銃持ちの騎兵とだって戦ったことがある。

剣を握る手に力がこもった。

「互いに礼」

「...はじめ!」

 

その瞬間

「...!!」

俺の剣は、相手の銃に弾き飛ばされて宙を舞った。

 

俺の「初戦」はあまりにもあっけなく終わってしまった。

相手の銃の扱いは、銃持ち騎兵のそれとは全く異なり、魔銃兵のものと同等だった...。

 

「...やった」

対戦相手は、試合が終わった後、銃を握りしめて涙ぐんでいた。

「今まで...ずっと銃で勝てなかったけど...やっと..オレのこの銃で...大事な一戦を...勝てた..」

 

あとで知ったことだが、

対戦相手の山岳兵ガルデルは、本来山岳第二子だったため、一旦結婚で山を降りていた。しかし山岳シュワルツ家の断絶により、急遽兵隊長として呼び戻されることになったと...。

けれどその時には既に、魔銃兵を目指すため、武器を銃に持ち替えていたそうだ。

この武器持ち替えが仇となり、銃使いとしては優れた腕前を持ちながら、

山岳兵団リーグでは長く、下位に甘んじる結果になっていたらしい。

だが皮肉な事に彼が「銃持ち山岳兵」だったことが幸いして、

俺との対戦に逆に有利に働いたわけだ。

 

-俺はこの試合に想いを賭けていたが

当然ながら相手にも、この場に賭ける想いがあった-

 

両者に想いはあっても「次」に繋いでいけるのは、勝者の想いだけだ。

負けた者の想いは、そこで終わりだ。

...悔しいが、戦うとはそういうことなんだ。

 

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応援してくれた家族達は誰も、俺のことを責めはしなかった。

 

「父さん...ごめん...せっかく期待してくれたのに」

俺は父に詫びた。

「まあ...仕方ないな」

 

父は責めはしなかった。

だがその目は...氷のように冷ややかだった...

 

(続く)