遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

選ばれなかった子(6)

瘴気の森の空気は湿り気を帯び、ねっとりと絡みつくようだった。

鬱蒼と生い茂った木々のせいで光は殆ど届かず、静かな中に時折、

瘴気が噴き出るしゅう、とした音だけが聞こえる。

その中で俺は一人、狂ったように「魔人討伐」を続けていた。

ー一体、俺は今まで何をしていた?-

湧き上がる自分への怒りをひたすらに、目の前の敵にぶつけるだけだった。

  

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 「...親父は最後まで龍騎士の衣装を着たままガノスに行けたから、まあ、幸せだったんじゃないのかな?誰にも倒されずに、英雄のままで逝ったんだからさ...」

父の葬儀が終わった後、親族たちは暫く無言だったが、その沈黙を破るように弟グラハムが口を開いた。

「そうだと...いいけど...お祖父ちゃん...」

成人したばかりの息子ランスは俯いたまま涙ぐんでいた。

息子にとって父は、憧れと尊敬の対象だった。

家族の悲しみを和らげるには、ここで肯定の言葉をかけるほうが良いだろう。

だが今の俺にはできなかった。

「...そうじゃない」

「兄貴?」

「父さんを...龍騎士のままガノスに行かせては...いけなかった...」

俺はそれだけ言うと、一人地下墓地を後にした。

 

オブライエン家の長子である俺には事務仕事が残っていた。

主のいなくなった魔銃導師居室から、表札を外して一旦城に返還する手続きだ※1

導師が任期中に逝去した場合、残された業務は次席の魔銃師に引き継がれるが、

導師居室に後任が引っ越してくることはない。

これから年明けまでの長い期間、この部屋は無人のままで残されることとなる。

 

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俺は、子供時代の殆どを過ごしてきた、馴染み深い部屋を暫く眺めながら、

昨日の夜のことを思いだしていた。

父の自分への最後の言葉は、

「カール...後を頼む」

その一言だった。

その「後」が何を指すのかー。

オブライエン家の当主としての「後」なのか。

それとも、戦士として次代を託すという「後」なのか。

多分前者のほうだろう...。

父は「家族のまとめ役」としては、俺を頼りにしてくれていたが、

「戦士」としての信頼は、あの無様な敗退でゼロになったに違いない。

 

エルネア杯終了後、父は朝から晩まで探索に明け暮れる生活に戻っていった。

寿命が近づいていることが分かった後、父に呼ばれて二人で話をしたが、

話す内容は専ら、自分が亡き後の事務手続きについての説明や、

一人未婚のまま残される末娘カレンの後見依頼だった※2

闘技場での話の続きを、俺は自分から持ち出すことはできなかった。

父が亡くなる最後まで。

 

導師居室を出た後も足取りは重かった。

安心して父を旅立たせることができなかった、自分の不甲斐なさに改めて腹が立った。

俺は父に「力の後継者」には選ばれなかった。

だが、選ばれなかったことを言い訳にしていなかったか?

選ばれなかったなら自分で掴み取る。

本気でそう思っていたのか?その覚悟は足りていたのか?

その答えは否だった。

無意識に足はゆっくりと、瘴気の森を目指していた...

 

瘴気の森に辿りついたのは、もう夕刻に差し掛かる頃だった。

途中、ゲーナの森近くで、探索帰りのイグナシオとガイスカの姿が視界に入った。

二人も俺に気が付いたようだったが、今はあえて声もかけず、彼らと目も合わせずに真っ直ぐに森の入口へと向かったー。

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怒りにまかせて無我夢中で最後の魔人を倒した後は、身体はボロボロになっていた。

疲労で頭の中も茫漠としてきたが、

たった一つだけ呪文のように、何度も湧き上がってくる思いがあった。

ー掴み取って見せる

今度こそ、絶対にー

 

家に帰った頃にはもう夜三刻になっていた。

とっくに眠っていると思ったアラベルは起きて待っていてくれた。

「どうしたの...本当に...お義父さんのこともあったばかりだから...心配したよ!」

そう言いながらボロボロ状態の俺に抱きついてきた。

「心配かけたな...悪かった」

俺はアラベルの頭をゆっくりと撫でながら言った。

「アラベル」

「何?」

妻は青い大きな目を見開いて、俺の顔を見上げた。

「すまない...これからいつもこの位、遅くなると思う。先に寝ててくれて構わないから」

アラベルは少しの間、俺の目を見たまま黙っていたが、それから笑顔になった。

「わかった。...それでも待ってるよと言いたいところだけど、逆にカール、気を遣ってしんどいよね。アルド※3も寝かしつけなきゃいけないし...。今日はランスに頼んだけどね。お言葉に甘えて、明日からは先に休ませてもらうことにするね。」

「うん...そうしてくれると助かる。」

「...頑張ってね。カール」

「ありがとう...」

そう言った後軽くキスをして、俺達は寝床に入った。

 

アラベルが側にいてくれて、本当に良かったー。

 

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俺が瘴気の森の探索に明け暮れる間も近衛騎士トーナメントは続いたが、

以前とは違う「強固な信念」が俺を支えた。

もう「絶対に」負けたくはないと思った。

初戦で当たった弟にも容赦はしなかった。

「兄貴...どうしたんだよ?何か...前と全然気迫が違うよな。正直、剣を合わせてておっかなかったよ」

「...そうか?」

俺は変われたんだろうか。

もしそうであるのなら、今はそれを信じて突き進むのみだ。

(続く)

 

※1 はい、そんな設定は公式にはありません、捏造ですスミマセン...

※2 初代末子のカレンは恋人がいないまま奏女になって、エルネア杯決勝中(!)に家を出ております。そのためこの時点では奏女居室に独り暮らしです。

※3 カールの第二子アルドヘルム。愛称「アルド」。お話の中では殆ど本名で呼ばれることはありません。舌かみそうだから(^^;

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こんな感じ。初代子孫の中で唯一お祖母ちゃんのアルシアちゃんの面影が。

そのため初代が特に可愛がっていたという裏設定があります☆

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お兄ちゃんのランスは現時点ではこんな感じ。オールバックウ!

【あとがき的なもの】

最後までお読みいただいてありがとうございます。

作中の「初代葬儀後一人瘴気の森へ向かうカール」は中の人の捏造ではなく、ゲームプレイ中実際あったことでした。ちょうど「中の人」は作中でカールが目撃した「ガイスカと探索帰りのイグナシオ」の立場にありました。

どん底」の象徴である青い人魂を背負って、ゆっくりと一人で瘴気の森に入っていくカール...。その光景はとても印象的で、その場面がなかったら、今カール主役のお話を書いていなかったかもしれません。エルネア王国のNPCって、時折「本当に魂入ってるんじゃないの?」と思うような人間くさい行動をとりますよね。そういう部分がとても魅力的で、9代目まで到達した今でも、このゲームを続けている理由なのかな...と思ってます。

予想外に長くなってしまったカールのお話ですが、もう少しお付き合いいただけると、とても嬉しいです(^^)