遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

選ばれなかった子(9)

-弟に抜かれる-

ガイスカが入隊してからというもの、俺は常にそんな不安と戦ってきたような気がする。

弟は予想通り優秀だった。

入隊後初のトーナメントこそ1勝のみの成績にとどまったが、翌年には一転して勝利を重ね、並居るベテラン騎士を倒して決勝までやってきた。

f:id:OBriens185:20201103212700p:plain

弟がルーキーから、決勝進出できるレベルに到達する為に要した歳月は、僅か1年。そこまでに4年あまりを費やした俺とはえらい違いだ。

弟は、かつて俺が苦手としていた銃持ち相手にも強さを発揮していた。

f:id:OBriens185:20201103212748p:plain
f:id:OBriens185:20201103212753p:plain

 

そのことを褒め称えると、弟からは意外な答えが返ってきた。

「私だって銃持ちは苦手だよ...。だから、父さんが生きてた時、何度か練習試合に付き合ってもらってたんだ」

そう言いながら弟は、屈託のない笑顔を見せた。

f:id:OBriens185:20201024171312p:plain

「父さんに?」

「エルネア杯の期間中は、父さんもそんなに探索に出ないから時間があるじゃない?だから頼んだら、あっさり相手をしてくれたよ」

あの時ガイスカは入隊したばかりの新人騎兵だった。

「すごいな...お前...それで..父さんに勝ったりしたのか?」

「まさか。父さんの性格からして、勝たせてくれると思う?私の実力からしても...とても無理だよ。でも、目的はそこで勝つことじゃなかったから。あくまでも、魔銃使いとの戦い方を学ぶためだよ。父さんより強い銃持ちなんて、いないからね。」

...この時俺は、自分と弟との根本的な差を痛感してしまった。

俺は父さんに練習試合を頼んだことはなかった。

自分の情けなさを呆れられることが怖かったからだ。

こいつは違う。

現時点での自分の能力を冷静に把握した上で、強くなるためには何が必要かを逆算し、

目標を立て、着実に実行する。

その際、目先の体面などには拘らない。

弟の強さの根源は、こんな所から来ていたのだった。

弟は、自分の弱さを受け止められる強さを、最初から持ち合わせていた。

そんな弟に負けてしまったら、もはや思いだしたくもない、以前の弱い自分に戻ってしまうような気がした。

 

絶対にこいつには負けたくない!

 

俺はこの時を含め、2回決勝で弟と相まみえ勝利したが...

専ら「兄貴の意地」だけで無理やり、弟を捻じ伏せてきたような気がする。

f:id:OBriens185:20201103191232p:plain

エルネア杯のシードを賭けた二回目の決勝では、弟の方にも並々ならぬ気迫を感じた。

だがこの時も、俺は弟の挑戦を退けることができた。

 

そして今、俺達は再び決勝の場で戦う。

今度は「勇者」の名を賭けて。

勿論この称号も、弟に渡すつもりなどない。

 

18日 エルネア杯 決勝

近衛騎士隊 副隊長 ガイスカ・オブライエン VS

近衛騎士隊 隊長 カール・オブライエン

 

f:id:OBriens185:20201103192619p:plain
f:id:OBriens185:20201103192605p:plain

 

f:id:OBriens185:20201103193149p:plain

近衛騎士隊の名にかけて

俺達は力を示さなければならないー

f:id:OBriens185:20201103193418p:plain

f:id:OBriens185:20201103193607p:plain

15日のジャスタス戦での勝利が、俺に大きな経験値を与えていた。

 

f:id:OBriens185:20201103193851p:plain

この時も、俺は弟に反撃の隙を許さず、難なく相手の剣を弾き飛ばした。

「勝者、カール・オブライエン!」

f:id:OBriens185:20201103194628p:plain

「兄さん、勇者の称号獲得、おめでとう」

ガイスカは笑顔で祝福の拍手を送ってくれた。

勇者?

まだ信じられないが、それは現実だった。

俺はこの瞬間に、勇者になっていた。

 

感慨に浸る間もなく表彰式が始まる。

俺と弟は並んで、陛下からの祝福を受けた。

f:id:OBriens185:20201103195151p:plain
f:id:OBriens185:20201103195203p:plain

f:id:OBriens185:20201103201933p:plain

f:id:OBriens185:20201103201756p:plain
f:id:OBriens185:20201103195608p:plain

優勝者と準優勝者の二名とも騎士隊員というのは、久しく無かった快挙だった。

最後に騎士隊から勇者が出たのは、一体何年前のことだったろう...。

先人たちから託された悲願をようやく果たすことができ、

俺は隊長として、本当に肩の荷が下りる思いだった-。

 

f:id:OBriens185:20201103195930p:plain
f:id:OBriens185:20201103200033p:plain

 

**********************************************************************************

「今日の試合、おめでとう!」

勝利の興奮も冷めやらぬ夜、エルネア城に珍客がやってきた。

甥のイグナシオだった。

 

f:id:OBriens185:20201103203350p:plain

「ちょっと早いけど...明日以降は忙しいよね。渡し忘れるといけないからー」

f:id:OBriens185:20201103202609p:plain

イグナシオが持っているのは、ヴェスタの宝剣だった。

f:id:OBriens185:20201020231521p:plain

イグナシオは照れくさそうに言った。

「一応...俺がコロミナス家の兵隊長になったから、家の代表として持ってきたんだ」

ジャスタスが兵隊長を降りたのは少し前に知っていた。

彼らしい引き際だ...と思っていた。

「父さんと母さんから、伝言を預かってるよ」

「ジャスタスとマグノリアから?」

イグナシオは一呼吸置いてから、言葉を続けた。

「人間の代表として、悔いなき戦いを。勝利を祈ってる!...ってね」

...!!

 

そうだった。

次の戦いは、騎士隊長としてだけじゃなく

人間の代表として、俺は戦わなくてはならない。

 

敗れて行った者の想い。

その重みをも引き継いで、俺は勝たなくてはいけないんだ...!

 

「カールさん、受け取ってくれるよね?」

「勿論さ..。有難く使わせてもらうよ」

俺はイグナシオから剣を受け取った。

本来は軽い宝剣だったが...その時は何故か重さを感じた。

それはきっと、託された想いの重さなのだろう。

「じゃあまたね、ご武運を!」

イグナシオは手を振って帰って行った。

 

翌日ー

勇者壮行会が執り行われた。

龍との戦いは刻一刻と近づいてくる。

 

f:id:OBriens185:20201103210111p:plain

f:id:OBriens185:20201103210140p:plain

f:id:OBriens185:20201103210215p:plain

f:id:OBriens185:20201103210645p:plain

f:id:OBriens185:20201103210716p:plain

ローゼル近衛騎士隊の隊長として

今はなき父の血と名を継ぐ者として

愛する家族、友、そして敗れていった者の想いを継ぐ者として

人間の代表として

俺はバグウェルに挑む...!

 

(続く)

 

最後までお読みいただいてありがとうございます。

次でカール編及び213年エルネア杯編、ようやく完結します!