遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

選ばれなかった子(10)※完結

「おにいちゃん、まってー!」

マグノリア、こっちだよ、はやくはやく!」

父の初めてのバグウェル戦。

前の晩から眠れないくらい楽しみだった。

試合が始まる夕刻に間に合うように、導師居室から闘技場までの長い道を、

妹と二人で息せき切って、一気に駆けて行ったことを覚えている。

 

「わたし、いちばんまえにいく!」

闘技場に着くと、妹は一番前の特等席にトコトコと走って行き、そのまま目の前の手摺に貼りつくようにして、護り龍と戦う父の姿を、最後まで食い入るように見入っていた。まだ歩きだしたばかりだというのに、すごい度胸だ。

 

f:id:OBriens185:20201104211935p:plain
f:id:OBriens185:20201104211947p:plain

いっぽう、兄貴である俺はといえば...

朝には「いっしょうけんめいおうえんする」なんて大見得を切っていたのに

いざその時が来て、龍が目の前に降りてくることを想像すると、なぜかいきなり怖くなって足がすくんでしまい、闘技場の最上段に吊るされていた「王家のタペストリー」の後ろにすっぽりと身を隠してしまった。

結局タペストリーの後ろからチラチラと出たり入ったりしながら、恐る恐るかろうじて覗き見していた..なんていう格好悪さだ。

 

f:id:OBriens185:20201104212844p:plain

あれから16年後...

 

f:id:OBriens185:20201104223715p:plain

f:id:OBriens185:20201104223920p:plain

あの時の臆病な子供が、勇者の剣を携えてこの場所に立っているなんて、

一体誰が想像しただろう?

 

いや。

あんな情けないガキだって、ここまで辿りつくことができたんだ。

本来人間は弱い存在かもしれないが

決して諦めず、強くあろうとすることで、龍と相対する存在にもなれる。

それを護り龍に示すことこそが、この戦いの目的だ。

-弱かった自分だからこそ、今ここにいる意味がある-

俺はそう思いたい。

  

f:id:OBriens185:20201105201449p:plain

名前がコールされると、いつもの試合の何倍もの歓声が沸き起こった。

その声の分だけの願いが、自分を支えてくれる。

 

これからバグウェルが舞い降りてくる。

あの時タペストリーに隠れていた、臆病な自分が顔を出しそうになるけれど

「しっかりしろ、お前は勇者なんだ」

 

そう心の中で言い聞かせ、その時を待つ。

f:id:OBriens185:20201105204908p:plain
f:id:OBriens185:20201105211852p:plain

...護り龍のお出ましだ。

f:id:OBriens185:20201105213601p:plain
f:id:OBriens185:20201105213618p:plain

雷鳴のような轟音とともに、凄まじい風が吹いて砂埃が舞い上がった。
間近で受ける風の威力は、観客席でのそれとは桁違いで、

俺は吹き飛ばされないように足をしっかりと踏みしめた。

 

f:id:OBriens185:20201105220254p:plain
f:id:OBriens185:20201105220327p:plain

耐えているうちにようやく風が止み、目の前の護り龍と向き合う。

 

f:id:OBriens185:20201105214706p:plain

f:id:OBriens185:20201105214757p:plain

見上げるバグウェルは、畏怖すべき霊気を全身から放っていた。

当たり前だが、瘴気の森で戦う魔人などとは格が違いすぎる。

父は今までこんな相手と戦ってきたのか...。

護り龍は目の前にいる人間が、4度にわたって自分に挑戦してきた勇者の息子だと、

果たして知っているのだろうか?

 

-人間よ、アベンの森の魔獣よりは楽しませてくれるのであろうな-

毎回お決まりのバグウェルからの挑発だ。

f:id:OBriens185:20201105220951p:plain

父はこの時、いつも不敵に笑っていた。

f:id:OBriens185:20201105221108p:plain

俺も真似をして笑ってみた。

...が、父みたいに恰好付けられなかった。

でもそれでいい。

 

「バグウェルよ、本年はここに控えるカール・オブライエンがお相手致す

ねぐらの森で夕食を捕らえるようにはいかぬぞ」

陛下が挑戦者の名を告げると、バグウェルは値踏みするような目で見下ろしてきた。

-4年も待たされるのだから、そう願いたいな-

...こいつは今まで待ってきた甲斐のある戦士なのか?

きっとそう考えているに違いない

その答えは今、これから試されるというわけだ。

 

「ハハハ!勇者カール・オブライエンよ、遠慮はいらぬ

この不遜な龍を闘技場の床に叩き伏せて見せよ!」

 

f:id:OBriens185:20201106194150p:plain

陛下が高らかに笑い激を飛ばす。

これに応える言葉は、遥か昔からただ一つだ。

 

f:id:OBriens185:20201106195128p:plain
f:id:OBriens185:20201106195202p:plain

 

「陛下のご命令のままに!」

 

f:id:OBriens185:20201106194713p:plain

そして試練が始まる。

f:id:OBriens185:20201106195651p:plain

 

f:id:OBriens185:20201106195708p:plain
f:id:OBriens185:20201106195723p:plain

 

f:id:OBriens185:20201106195743p:plain
f:id:OBriens185:20201106195800p:plain

龍の皮膚は固く、勇者の剣の攻撃ですら中々通らない。

一方で、吐き出される息の威力は凄まじく、容赦なくこちらに襲い掛かる。

息だけでなく、腕や翼での攻撃でも打ちのめされそうになる。

護り龍の猛攻を必死でガードし、反撃の好機を見出してはひたすらに技を打ち込む...

俺にできるのはその繰り返しだった。

それは悪夢のように長い時間に感じた。

強烈な炎の一撃をくらい、なんとか反撃を返したものの

もはや精も根も尽き果てそうになった矢先、バグウェルがゆっくりと膝をつく姿が

霞む視界に入ってきた。

「そこまで!」

神官の声が響いた。

「勝者、カール・オブライエン!」

f:id:OBriens185:20201106202331p:plain
f:id:OBriens185:20201106202351p:plain

俺はバグウェルに勝利した...!

 

f:id:OBriens185:20201106204704p:plain

-人間にしては中々の腕前だったではないか-

膝をついたはずのバグウェルは、いつの間にか何事もなかったかのように

再び俺を見下ろしていた。

あんなに恐るべき力を見せておきながら、どうやら本気ではなかったらしい。

f:id:OBriens185:20201106204917p:plain

それでも、護り龍は俺のことを「待った甲斐のある相手」と認めてくれたようだった。

f:id:OBriens185:20201106205458p:plain

f:id:OBriens185:20201106205549p:plain

前回戦った相手と較べてどうだったか...聞いてみたい衝動に駆られたが、やめておいた。まだ父と比較するのはおこがましいだろう。

 

「見事であった、勇者カール・オブライエン!

今日の勝利をたたえ、そなたには龍騎士」の称号を授ける」

f:id:OBriens185:20201106210350p:plain

f:id:OBriens185:20201106211108p:plain

f:id:OBriens185:20201106210639p:plain

歓声の中、陛下の言葉を恭しく受け取りながら

かつての父と同じ場所に 俺は立っていた

その時なぜか 懐かしい記憶、自分の言葉が思い起こされた。

f:id:OBriens185:20201106211903p:plain

龍騎士でも何でも自分の力で掴み取るまでさ”

 

あの時の言葉は現実になっていた。

憧れていた龍騎士の称号。

俺はそれを自分の力で 掴み取ることが出来たのだった。

 

父さん

俺は父さんに「選ばれなかった子供」だった。

それを寂しく思うこともあった。

もしかしたら無意識に 父さんを憎んだことすらあったかもしれない。

でもそれで良かったんだ。

俺は選ばれなかったからこそ

自分で全てを選ぶことができた。

選ばれなかったからこそ

自分の力で ここまで辿りつくことが...

 

-ではまた4年後を楽しみにしておこう-

 

f:id:OBriens185:20201106215812p:plain

その言葉で我に帰ると、

新たな龍騎士の誕生を見届けた護り龍バグウェルは、

再び「ねぐらの森」で眠りにつくべく、空高く飛び去って行った...

 

f:id:OBriens185:20201106215835p:plain
f:id:OBriens185:20201106215757p:plain

 

俺はバグウェルが去った空を、しばらく名残惜しく眺めていた。

そうしていると、今日のこの日に至るまでの脳裏の記憶が一気に押し寄せてきて、

目頭が急激に熱くなった。

 その瞬間、目から涙が流れ落ちてきたー。

f:id:OBriens185:20201106215146p:plain

俺は空を見上げたまま、手でそっと涙を拭った。

 

涙を拭いた後ふと観客席に目を向けると、妹夫婦の姿を見つけた。

二人は笑顔で、祝福の拍手を送ってくれていた。

彼らの想いも引き受けて、俺は戦ったんだった...。

俺は泣き笑いの顔のまま、二人に向かって手を振った。

 

「兄さん、おめでとう!」

「兄貴、やったな!」

「隊長!おめっとさんです!」

その時ドドドドという足音がしたので振り向いたら、

近衛騎士隊の面々が、弟達を先頭に集団で押し寄せて来ていた。

「お前ら...!」

俺はもみくちゃにされながら、手荒い祝福を受けることになった。

f:id:OBriens185:20201106222758p:plain

新人のアシエルが胴上げをしようと言いだすので、頼むからそれは勘弁してくれと断るのに苦労した。アシエルはそれでもやりたそうにしていたが、ガイスカが上手くなだめてくれた。明日からはまた同じように、彼らとの日々が始まるだろう。

 

「カール」

隊員達からようやく解放されたところで、妻の声が聞こえた。

f:id:OBriens185:20201106223146p:plain

...アラベルと息子二人が待っていてくれた。

妻の目にもうっすら涙が光っていた。

俺はうなずくと、駆け寄ってきたアラベルをしっかりと抱きしめた。

俺がうだつの上がらない時代から、ずっと側を離れず支えてくれたのはアラベルだった。

どんな時でも、彼女が俺を必要としてくれたから、俺は卑屈になりすぎることなく、ここまで来れた。

「パパ、カッコ良かった!龍騎士、すごいね、すごいね!」

次男のアルドヘルムは、俺とアラベルの周りを無邪気にくるくると回っていた。

f:id:OBriens185:20201106225341p:plain

 

「父さん...何か邪魔するようで悪いんだけど...どうしても伝えたいことがあって」

f:id:OBriens185:20201106225844p:plain

長男のランスが遠慮がちに声をかけてきた。

「ランス、どうした?」

俺はランスの方に向き直った。

「決めたんだ。年が明けたら、近衛騎士隊の選抜トーナメントに志願する。

正直自信がないから迷ってたんだけど...今日必死でバグウェルと戦う父さんを見てたら、やる前から諦めちゃいけない、やれるだけやってみよう、そう気持ちが定まったんだ」

そう語る息子の目と声は力強かった。いつの間にこんなに頼もしくなったのか...。

f:id:OBriens185:20201106234402p:plain

「ランス...そうか。俺もお前くらいのころ、騎士隊に入るのを諦めかけたことがあった。やっぱり自分に自信が持てなくてな...。

でもランス、お前が生まれることになった時、俺はお前に背中を見せれる父親になりたい....そう思い直して、再び選抜トーナメントに挑戦することにしたんだ。

だからもしお前が俺の姿を見て、夢や目標を持ってくれたとするならば...

それは俺にとって...龍騎士になれたことよりも、遥かに嬉しいことだよ。」

 

俺はランスの両肩に手を置き、息子の目をまっすぐに見据えて言った。

「がんばれよ、ランス」

「ありがとう、父さん..。僕はかならず騎士隊に入るよ」

息子は笑顔で返してくれた。

「お前がしっかり考えて選んだ道だ。自分を信じて、迷わず進めよ」

 

俺は選ばれなかった存在だった。

けれど、自分が進むべき道を選ぶことができた。

そして今度は、俺の選んできた道が、違う誰かの選択の道標となる。

選ばれなかった運命を嘆くことはもうない。

選んできた人生を誇りに思って

俺はこれからも生きていくだろう。

  

f:id:OBriens185:20200924215847p:plain

  

f:id:OBriens185:20201107000321p:plain

 

「選ばれなかった子」および

「213年エルネア杯エピソード群」 完結

 

 ※この年入隊した新米騎士隊員。”享楽的な性格”で三代目PCの幼馴染。四代目PC時代結構な重要人物になります(^^;

 

 【あとがきのようなもの】

 まずは、このようなダラダラ長い話を最後までお読みいただいて、本当にありがとうございます。当初はあくまでも「213年エルネア杯」の1エピソードとして、連続3回くらいで終わらせる予定だったのが、無駄に長くなってしまいました。

それだけ、プレイの中でカールの辿ってきた道がドラマチックで、あれも残したいこれも残したいと思えるほど、自分の中で密度の濃い体験だったのです。

「中の人」としてプレイしていた時は、PCは準決勝で敗れるジャスタス側の立場だったので、敗戦はものすごいショックで唖然となりましたが...1年経った今は、この結末で良かったとしみじみ思っています。

NPCにも意思やそれに伴う選択があり、ちゃんとそれぞれの「人生」がある...そんなふうに感情移入させてくれるこのゲームの素晴らしさに、改めて拍手を送りたい!

「選ばれなかった子」カールは登場人物の一人に戻り、今度は「選べなかった子」イグナシオ中心の物語が始まります。

こういう形式で書くかどうかは分かりませんが...その際はまたお付き合いいただけると、とっても嬉しいです。

 

【原動力となった曲について】

 

youtu.be

今回おこがましくも、こちらの曲を妄想..ゴホゴホ創作の原動力とさせていただきました。ちょうど2〜3代目をプレイしていた時期、バンプのアルバム「ユグドラシル」を、通勤途中に良く聴いていたのですが、この曲の歌詞...特に『選ばれなかった名前』というフレーズが、私が思っているカールのイメージにぴったりだったのです。

今回お話を書く時も「イメージトレーニング」として、煮詰まったらこの曲を聴いて、カールの心情に寄り添うようにしていました...と、気持ち悪いですねスミマセン(^^;

この曲と「人魂背負って瘴気の森に向かうカール」のプレイ中のエピソードがなかったら、多分カール主役でお話は書いていなかったと思います...