遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

カール編おまけ:ヘタレ山岳兵と龍騎士様

※こちらは「兵長継承」「もう一つの準決勝」とほぼ同時期のお話です(^^;

「よう騎士隊長殿、ムタンの種が採りたい。ゲーナの森まで、付き合ってくれよ」

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親友のルチオから誘いを受けたのは、エルネア杯の準決勝が終わった翌日のことだった。こっちは決勝を控えた大事な時期だというのに...コイツは一体何を考えているのか。

「なんだよ、お前王配なんだから護衛がいなくても一人で入れるだろ※」

「こらこら、俺達か弱い王族をお守りするのも騎士隊長さまのお仕事だぞ。サッと行ってサッと出てくるだけのことさ。いいじゃないか」

俺としてはゲーナでコイツとちんたら散歩する暇があるなら、瘴気の森に籠って少しでもレベルを上げたいところだ。

...が、確かに「王族の護衛」も騎士隊の重要な任務であるので、要請がある以上は断れないのだった。

といってもその護衛内容が「ムタンの種採りのお手伝い」というのは断じて納得がいかないが。

「全く...しょうがないな。じゃあ、お言葉通りサッと行ってサッと帰るぞ」

「狙い通り種が出たら、な。出なかったらもうひと往復だ」

そう言いながら、ルチオはご自慢の白い歯をむき出しにして二カッと笑った。

この男と「ムタン種採りマラソン」を何往復もするのは御免被りたいので、最初の探索でムタンの種が大量に出るのを期待して、俺達はゲーナの入口へと向かった。

 

「...カール、おい、なんだ、ありゃ?」

入り口付近まで来てみると、緑色の髪をした若い山岳兵が、何度も入口を出たり入ったりしているのが目に入った。心なしかブルブルと震えているようだ。

「...ど、どうしよう...えいっ....ああ、やっぱり駄目だ。怖い...」

なにか事情がありそうだ。

「君...どうしたんだ?」

「...あっ...あの...」

振り向いた青年の目は涙目になっている。

俺とルチオは顔を見合わせた。

「理由はわからないけど君が困ってるのはよく解るよ。俺達でよかったら話を聞くけど...」

その山岳兵は一瞬どうしようか...と迷った顔をしたものの、意を決したのかぽつりぽつりと話し始めた。

「オレ今度...結婚するんです。子供の頃から仲良しで...スゴク綺麗で賢くて優しくて、オレには勿体ない相手なんですけど」

「ほー!それはめでたい!...で、お前さんがここを出たり入ったりするのとそれに何の関係が?」

ルチオが即座に突っ込みを返す。

「相手のお家...お父さんが近衛騎士なんです。で、この間婚約パーティで一緒に食事したとき...〚今度一緒にゲーナの森を探索しよう〛なんて誘われちゃって」

「成程な」

「で、でもオレ...山岳兵なのに恥ずかしいんですけど、た、探索、苦手なんです!怖いんです!帰らずの洞窟さえも怖くて途中で出ちゃうのに、ゲーナの森なんて入ったこともなくて...。ほんとにお義父さんと探索に行く羽目になって、情けない姿見られちゃったら、どうしようかと...。だから勇気を振り絞って来てみたものの、やっぱり怖くて。

友達を誘おうかとも考えたんですが、いい年して一人で探索できないのもオレだけなんで、それも恥ずかしくて。両親を誘うのはもっと情けないし」

 

山岳兵といえば一般的に勇猛、のイメージが強いが、どうやら全員そうではないらしい。まあ、他の武術職と違って「なりたい者がなる」わけではないから、こんな悲劇?も起こってしまうということか...。

何にせよ、赤の他人といえど、話を聞いてハイ放置、というのは性分に合わない。

「わかった。じゃあとりあえず、俺達と一緒に探索してみないか?」

「えっ?い、いいんですか?」

「隣にいる彼は王配で、俺は彼の護衛でゲーナに入るところさ。えっと君は...山岳長子?」

「はいそうです...母さんも来年には18になるので...もうすぐ兵隊長に」

「なら、俺と一緒に護衛で入る...ってことにすればいいさ。兵隊長になるための勉強の一環としてさ」

「ハ、ハイ!」

「じゃあ行こうか。君の名前、聞いてもいいかな?」

「アンテルム...アンテルム・ペトレンコです。宜しくお願いします!」

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ペトレンコ...ああ、明日のガイスカの対戦相手の息子ってわけか!

準決勝まで上がってくる強者が母親じゃ、確かに...プレッシャーがあるよな。

俺自身も散々「龍騎士の息子」という肩書に重荷を感じてきた人間だったので、急に目の前の相手に親近感が涌いてきた。

 

こうして俺達は三人でゲーナに入ったわけだが...まあ予想の通り、怪物をやっつけるのは専ら俺の役目で、ルチオは全くやる気なくニヤニヤ笑いながら後ろで突っ立っていて、アンテルムは逆にブルブル震えながら、一応形だけ斧を構えていたものの...前に出てくる気配は全くなかった。

こりゃあ先が思いやられるな...と少し呆れながらも、あっさり探索は終わった。

「...やったあ...」

森を出た瞬間、アンテルムは半泣きになりながらも、軽く拳を振り上げて喜んでいた。

「...初めて、ダンジョンの最後まで、途中で帰らずに、行けたああああ〜!」

...おいおいそこからか、と思わないこともないが、まあ何にせよ...少しでも以前の自分より進歩があったのなら、それは十分本人にとって収穫だろう。とにもかくにも「はじめの一歩」は大事だから。

「良かったな。これでちょっとは自信がついたろう?この調子で少しずつ頑張っていけばいいよ。じゃあ俺はこれで...」

「...おいカール」

「任務」が終わったので瘴気の森に行こうとすると、ルチオが腕をむんず、と掴んできた。

「何だよ」

「宝箱を開けたが、ムタンの種が入ってなかったぞ」

「...だから何だ。」

「種が採れるまで続けるぞ!行くぞ!」

「あ、じゃあ、オレも一緒に行っていいですか?」

「おう!行くぞ若者!」

「...全く...何なんだよ...全く...」

こんな感じで、それから何度か、俺とルチオとアンテルム、という訳のわからない三人組で、ムタン採りに出かける羽目になってしまった。

アンテルムは相変わらず俺の後ろで斧を構えてブルブル震えていたが、一応回数を重ねるごとに「多少は」攻撃にも参加するようにはなってきた。継続は力なり...ってところか。こいつがリーグ戦に出る頃にはどうなってるだろう。見たいような、怖いような。

 

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「パパ、おてがみ届いてるよ、おやまから。ハイこれ」

「ああ、ありがとうアルド。」

俺がバグウェルに勝利し龍騎士となった翌日、山岳兵団のマークの入った手紙と招待状が届けられた。封を開けるとアンテルムからだった。

”カールさん 龍騎士おめでとうございます。バグウェル戦、オレも観客席で見てました。こんなすごい人に探索付き合ってもらったんだ...と今更ながら恐縮しています。

突然ですが、カールさんとルチオ王配殿下にはとてもお世話になったので、お二人で是非オレたちの結婚式に参列していただけないでしょうか。ロシェルと二人で楽しみにしています”

-ロシェル?

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招待状のほうを見ると、新郎新婦の署名はこう書かれていた。

アンテルム・ペトレンコ

ロシェル・オブライエン

 

アンテルムの「綺麗で賢くて優しい婚約者」は、弟ガイスカの娘ー、つまり俺の姪のロシェルなのだった。

-なるほどねー。

つまり「アンテルムをゲーナに誘ったお義父さん」はガイスカだったんだ!

俺はその情景を想像して可笑しくなって、手紙を手にしたままゲラゲラ笑ってしまった。

 

結婚式当日。

神殿でガイスカに会ったので、ゲーナの森での顛末を話し、近々アンテルムと探索に行く予定があるのかどうか聞いてみた。

「...いや、見るからに頼りなさそうな子だったから脅かしてみただけだよ。こっちとしては手塩にかけて育てた娘を山岳に取られるわけだからね...。探索は兄さんの話を聞いただけで十分さ。私なら、苛々してそのまま森の中に置き去りにしてしまいそうだ」

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「いつも紳士なお前でもそんなこと思うんだな。やっぱり大事な娘が絡むと、違うんだな」

「私ならまだ、いい方さ。父さんなら彼、無事で済まないよ」

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「そりゃ、そうだ!」

そうして二人で顔を見合わせて笑った。

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山岳兵が結婚して所帯を持つ重みー、というのは、普通の国民とはわけが違う。

山岳兵隊長として、一族を率いる立場になるための第一歩だ。

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「王配殿下!カールさん!オレ、頑張ります!」

式が終わった後、アンテルムは元気いっぱい挨拶しにきてくれたけど

さて、コイツは一体どんな兵隊長になるのかな...。

 

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「アンテルムどうしてるかって?まあ、いつも通りだよ。やる気?あいつにそんなものそもそも、あるの?」

その後アンテルムと俺達がゲーナに行くことは無くなったが...ちょっと気になってイグナシオに様子を聞いたら、結局相変わらずらしい。

残念ながらよくも悪くも、人間はそう簡単には変わらないってことか...。

ガイスカに、一度くらいは本当にゲーナに誘うよう、言っておいた方がいいかもしれないな。

(終わり)

※実際にゲーム上では王族と武術職が誘い合って☆5ダンジョンには行けないんですよね(王族未体験なのでWikiにて確認)PC王族は☆5に入れるけど単独でしか入れないと...。なのでここは捏造です(^^;

【あとがきのようなもの】

また長々と書いてしまいましたが、最後までお読みいただいて、ありがとうございます。

10回の長さに渡りカールの話を延々と書いていたせいか、カールと離れるのがとても寂しくなってしまい、ついついこんなおまけ話まで書いてしまいました。

アンテルム君は作中に書いた通り、「帰らずの洞窟」も途中で帰ってしまうし、通常年功序列のはずの山岳リーグでも、年齢の割には順位が低かったりと...実際にかなりなヘタレな山岳兵でした。

彼はイグナシオの親友の一人でもありますが、結婚式になぜかカールと親友のルチオ王配殿下が列席していたのです。どういう経緯で親しくなったのか不思議で、脳内に膨らませていた妄想が、今回のお話のもととなりました。

他の話もですが、今までぼんやりと脳内に漂っていた妄想を、拙くはありますが形にできるのは、とても楽しいことでもあります。

次はいよいよイグナシオの兵隊長デビュー...どんな形であれきちんと書けたら...いいな