遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

波乱の兵隊長デビュー。

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 ...父さん、何か似合わないなあ...。

今日は山岳兵団リーグの開会式。兵団顧問となった父が目の前で司会をしている。

同日に開催される騎士隊トーナメント開会式の厳かな雰囲気に較べて、山岳兵団のそれは何ともくだけた雰囲気だ。

尤も、あちらは陛下が列席し、試合の審判は神官直々に執り行う。くだけてなんていられようはずがない。

対してこちらは審判も自前、観戦者も殆ど身内ばかり。

どうしても「親戚の集まり」的な内輪のノリになってしまうのは仕方ないのかもしれない。

 ...ともあれ去年までは、「威厳ある兵団長」だった父が、無理して明るい口調で司会をしている姿はとても違和感があり、寂しくもあった。

かつてナトルで教師をしていたとき、「ジャスタス先生はなんか怖い」と子供たちに言われたことがあるそうなので、父なりに気にしているのだろうか。

 

似合わないのは自分も同じだった。

父に替わってコロミナス家の兵隊長となったものの、ここで熱く意気込みを語るような気分にはどうしてもなれなかった。

長子の立場にある以上覚悟はしていたが、今日一緒にデビューを果たす幼馴染サンチャゴと違って、別にいまかいまかとその日を待っていたわけでない。

どちらかと言うと、ああ...ついに来てしまったか、といった感じだ。

 

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 ...しかしある意味この開会式が「内輪のノリ」で良かったと思う。

 取りあえず「序列最下位の兵隊長」らしく、道化のような台詞で笑いを取ることで、その場を取り繕うことができたから。

 

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山岳兵団のリーグは長丁場だ。

自分の力量に関わらず、最上位から最下位まで、兵隊長5人全員と戦うこととなる。

おれの初戦の相手はウォルター・カランドロ。

現時点での兵団内序列は第二位。明らかに格上の相手だった。

「パパ、頑張って!」

「あたしが応援するから、ぜったい勝つよ!」

「イグナシオさん...頑張ってね」

家族の応援を受け、これから人生初の試合が始まる。

 

家督を引き継いだばかりの新米兵長が「ベテランの洗礼」を受けるのも、兵団リーグの風物詩だ。

試合前に出くわしたウォルターも、よもや自分が負けるなどとは全く考えないようで

ーさて、この新人をどう料理してやろうか-

明らかにそんな目でこちらを見ていた。

開会式では道化のように振舞ったけれど、試合でまで道化になる気はなかったので

おれは自分から、相手を挑発する言葉を投げかけた。

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-新人のくせに生意気な-

ウォルターはそう思っただろうが、別に構わない。

 

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相手は確かに「格上」だ。

「斧使い」としては。

 

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だが、ウォルターのエルネア杯での戦いぶりを見ていたから

苦手武器を克服するだけの力量でもないのを知っていたー。

 

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おれが選んだ武器はビーストセイバーだった。

自分の才は斧より剣の方にあったので、これなら相手に勝てる自信があった。

「...!!」

ウォルターは明らかに驚いていた。

その動揺にそのまま乗じる形で、おれは相手の斧を剣で弾き飛ばした。

「勝者、イグナシオ・コロミナス!!」

 

「パパ、やったー!!」

父親の初勝利に、娘たちは歓声を挙げ喜んでいたが、子供の歓声に混じってザワザワとした声も聞こえた。不穏な空気だ。

ウォルターも何か言いたげな表情だった。

おそらくは「卑怯だ」とでも言いたいのだろう。

試合に出てくる兵隊長で剣を使う者はいない。

別に武器種類の定めはないのに、暗黙の了解でなぜかそうなっている。

もし卑怯だと言われたら、言い返す言葉は沢山あった。

今まで散々、銃持ちの兵隊長を恰好の餌食にしてきたくせに、自分が不利になる条件では文句を言うのはおかしい、同じ武器の決まった相手としか戦わないから、いつまでたっても山岳兵団はエルネア杯で勝てないのだ-云々。

...が、相手は現時点のNO.2。

流石にそんな子供じみた突っかかりはしてこなかった。

 

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すぐに落ち着いた表情に戻り、向こうから握手を求めてきた。

再び観客席から拍手が鳴り響き、不穏な空気はとりあえずは浄化された。

家族のもとに戻ると、皆口々に良かったねと笑顔で労ってくれた。

が、父だけは苦笑いの表情のまま腕組みをしていた-。

何か言われるかと思ったけれど、父は何も言わなかった。

 

 試合は続いたが、その後もおれは勝ち星を重ねた。

同等以下の実力の者には斧で。

格上の相手には剣で。

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 山岳兵らしく、普通に斧で戦いつつ、年単位で少しずつ順位を上げる-

そういう方法もあることは解っていたが、とっとと兵団長になってしまいたかった。

素質に恵まれた父でも、兵団長に上がるには4年近くかかっている。

残念ながら、自分には祖父や父のような素質はない。「普通の方法」では最悪、兵団長に上がれぬまま兵長の任期を終える危険すらある。

兵団長になれば新しい技も得られるし、報酬も増えて強化のための費用を補える。

そしてエルネア杯では、有利な立場で試合に臨むことができるー。

それに、斧と並行して剣の能力を鍛えるのも、来るべき「騎士隊長との対決」に役立つはずだ。剣によって磨かれる速さの能力を高めれば先制される確率は下がる。

その時の相手が誰になるかはわからないが、龍騎士となった伯父カールであれば正直厄介だ。あの父でさえ勝てなかった相手で、しかも今は龍騎士の剣とスキルを持っている...。

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が、相手が龍騎士であろうと、負けるわけにはいかない。

任期の中で自分に与えられた「エルネア杯への出場チャンス」は二回。

絶対に最初の機会で龍騎士になろうと決めていた。

おれにとって、あくまでもこれは「仕事」だから。

締め切り間際で焦る羽目にはなりたくなかった。

 

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「イグナシオ、解っているとは思うが...」

ある夜、今まで何も言ってこなかった父が、ようやく重い口を開いた。

「お前が勝つためにどういう手段をとろうと、試合の規定に沿ったものである限り、俺は咎めだてをする気は一切ない。」

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 「ただ...山岳兵団から龍騎士が初めて現れるとするならば、それは兵団の「希望の星」となるはずなんだ。ずっとこんな山奥の辺境の地で、過酷な採掘や精錬作業に従事してきた俺達のな...」

 

確かに、山岳兵団に割り当てられた仕事は他組織より重労働だった。

炭石や輝光石程度であれば浅く掘る程度で採掘できるので、一般国民の協力を簡単に得られる。

...が、貴重な資源となるゴールドや、鉄や鋼の元となるハッカ石・鉄鉱石を掘り出すのはかなり骨の折れる仕事のため、基本山岳兵団員に限定されていた。

更にそこから先の高炉の操作は肉体的な過酷さと共に危険も伴う。しかもおれたちは、その仕事を自ら「やりたくて」希望する訳ではない。

たまたま山岳家系に生まれついたというだけで付随する義務だ。

仕事の過酷さと引き換えに、多額の報酬と☆5ダンジョンに無条件で入れる特典が付与されていたが、全ての団員がそれを欲する訳ではないだろう。

 

父は話を続けた。

「仕事は過酷だが、我々の作りだす工芸品は我が国の基幹産業だ。俺達の仕事の成果が王国にもたらす富は計り知れない。それゆえに誇りを持って取り組んできた。

そして「斧」は始祖ドルム・ニヴの時代から、山岳兵団の力の象徴だ。だからこそ、兵団を束ねる者には「戦斧の達人」の称号が付与される。

その英雄となる者が、他組織で主流とされる武器を使って龍騎士になるということは...

皆がどういう気持ちになるか...できれば考えてほしいんだ」

「......」

「俺は、息子のお前が兵団の夢を叶えて英雄になれるなら本望だよ...。だからこそ...言っておきたかった」

おれ個人にとって龍騎士になることは使命であっても夢ではない。

でも、自分に与えられた二つの使命のうちもう一つは、「兵隊長として山岳兵団の発展のために尽力すること」だった。

兵団が、自組織初の龍騎士に求めているのは「剣や銃の英雄」などではなく、あくまで「斧の英雄」だ。

組織が求める役割を完璧に果たすのも、確かに自分の仕事なのだった。

ここで仕事をしっかり果たさないと...ハートドロップで無理やり意識の底に沈めた「以前のイグナシオ」にも申し訳がたたない。

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「解ってるよ。今年は剣無しで勝ちきるのは厳しいと思うけど...探索の成果も順調なんだ。来年には斧一本で行けると思う」

「そうか...。お前がここ数年で順調に力をつけてきているのは解っている。その言葉を信じるよ。最終的に斧で勝てるようになるのであれば、現時点での過程は問わない。」

父は安心したようだった。

ついでにこの機会に、気にかかっていたことを聞いてみることにした。

「父さん」

「...何だ?」

「おれがこういうやり方で勝っていることで...父さん、周りから風当りが強くなったりしていない?」

別に自分が何と思われようと全く気にならないが、父に余計な気苦労を与えるのは本意ではなかった。

「まあ...古参の長老たちには嫌味を言われることもあるが...。別にお前が悪事を働いているわけじゃない。お前に全てを任せると決めたのは俺だ。俺は気にしていないし、お前も気にする必要はない」

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「ありがとう...父さん」

 

母が自分の夢を諦めてまで、父との人生を選んだのも分かった気がした。山岳長子の立場に生まれたのは自分の本意ではなかったが...父の息子で良かったと思えた。

託された使命は未だに重いが、家族の存在に随分と助けられていた...。

 

 

-最後までお読みいただいてありがとうございます-

 

【イグの口調についての補足】

性格変更後のイグは「行動的な性格」のため一人称は基本「俺」なのですが...

カール伯父さんも「俺」ジャスタス父ちゃんも「俺」幼馴染サンチャゴも「俺」。

かようにイグの周りに「優しさ-1の一人称俺男子」が多すぎて、「俺」が乱立したあげくに大阪のオバチャンよろしく「どこの俺や!」となる事態を避けるため、主役のイグはひらがなの「おれ」で表記することにしました。悪しからずご了承くださいませ(^^;