ジークが生まれた後も試合は続いた。
勝ち方はともかく、取りあえず今年の目標は最後まで勝ちきることだったので、
「格上には剣で、同等以下では斧で」のポリシーを最後まで貫いた。
結果としてリーグ戦を全勝で終え、無事優勝することができた。
...勿論エルネア杯の年までこのままでいいわけじゃない。
だが、探索の成果も上々だったので、来年以降は斧で勝ち通せる自信が既にあった。
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「あれ、アンテルム?お前がなんでいるんだ?カティーナさんは?」
リーグ戦終了後の日々はあっという間に過ぎていき、気づいたら「炉じまいの儀式」の日になっていた。
この場を取りしきるのは今年度の兵団長ー、ペトレンコ家の隊長カティーナのはずなのに、彼女はその場におらず、替わりに来ていたのは息子のアンテルムだった。
アンテルムは何とも所在なげな感じでしょんぼり立っている。
サンチャゴはそんなアンテルムの姿を目ざとく見つけて、声をかけたのだった。
「...母さんは引退したよ」
アンテルムは下を向きながら呟いた。
「エルネア杯でも近衛のお義父さんにあっさり負けちゃったし、今回もイグナシオにすら勝てなかったろ?本職の騎士じゃないのに...。自分の限界をこれで悟ったって。あとはあなたがしっかりやりなさい、てさ...」
...おれの行動が彼女の引退を早めてしまったのかもしれない。
だけど、遅かれ早かれ誰でもその時は必ずやってくるんだ。
あれだけ強かった父もそうだった。だから、同情はしない。
「カティーナさんもう1年くらいやるかと思ったが、意外だな...。まあ、お前も嫁さんもらったんだし、いい頃合いじゃないか。一緒に頑張ろうぜ」
サンチャゴはアンテルムの肩をポンポン叩いて励ました。
「オレ、もう少しのんびりしたかったよ...。どうせ来年はみんなにボコボコにやられるに決まってるんだ!...勘弁してくれよって感じさ...」
誰がどう見てもアンテルムは兵隊長に向いていなかった。向いていなくてもやる気があればまだしも本人にもその気がない。普通の国民であれば、本人の希望通りのんびり暮らしていけるものを...。
残念ながら、山岳家の長子に生まれた以上選択権はほぼない。
まず、兵隊長の側から「引き継ぐ相手」を「選ぶ」ことはできない。
何か特別な事情があって、引き継ぐにはあまりにも不適格な場合は長子以外に引き継ぐことも可能だが...それには他の兵隊長と兵団顧問全員の同意が必要となっている※
兵隊長が恣意的に長子から継承権を奪うことを防止するため定められたものだ。
いっぽう、長子が望めば、継承権を弟妹に引き継ぐことは「一応」可能になっている。
ただし、弟妹が成人済みでなおかつ長子が独身である場合に限る。
勿論弟妹自身の同意が必要なのは言うまでもない。
弟妹に同意してもらえるかどうか解らない状態で、自身の結婚を先延ばしにする...というのは中々に度胸のいる行動になるので、この選択肢を選ぶ者も、そう沢山はいない。
アンテルムが兵隊長に向いていないといっても、こいつがなったら兵団に著しい損害をもたらすとか、そこまで酷いレベルではない。
また、妹に継承権を譲る選択肢についても、妻のロシェルにはとにかく惚れ込んでいたので、譲れるかどうかわからない継承権のために結婚を延期するなんて、おっかない賭けに出る気は全くなかったようだ。
...おれたちは選べない。
ならば、選べない中で覚悟を決めるしかない。
「ボコボコにされたくないんだったら、強くなるしかないだろ?ここに来た以上、くだらない泣き言言うなよ」
「...酷いよ、イグナシオ...そ、そこまで言わなくても...」
「泣き言は家でロシェルにでも聞いてもらえよ」
アンテルムは泣きそうな顔をしていたが、相手にしないことにした。
別に家で泣き言をいうことまで駄目出しをしていないんだ、間違ったことは言ってない。
「全く、お前は相変わらず言い方に身も蓋もなさすぎるぞ...。とはいっても、来年の兵団長サマだからな...。言い返せないよ。今はな」
サンチャゴが肩を竦めて溜息をついた。
そうこうしているうちに儀式が始まった。


引退したカティーナの代わりにカランドロ家のアイオンがその場を取り仕切り、滞りなく儀式は終わった。
来年は自分がこの役割を担うことになるー。
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29日になると、殆どの国民は仕事休みに入るが、来年度の組織長予定者だけは重要な仕事が残っていた。
来年の評議会議長決定のための選挙に出なくてはならない。
「評議会の一員になるということは、兵団のみならず、王国の政治にも責任を持つということだ。しっかりやれよ」
父はそう言って送りだしてくれた。
「イグナシオ、兵団長就任おめでとう!まさかお前と一緒に評議会に出れるとは思ってなかったよ。これから宜しくな!」
議会に出向くと真っ先に、伯父のカールが笑顔で声をかけてきた。
伯父はこの度のトーナメントでも、勿論危なげなく優勝していたのだった。
「偉大な龍騎士」である伯父と自分が肩を並べる存在になるとは...何とも不思議な感覚だ。
選挙の結果は...勿論若造で新参者のおれが選ばれるなどということはなく...
陛下の信任厚い「龍騎士カール・オブライエン」が今年に引き続き議長に選ばれた。
勿論おれも伯父に投票したひとりだった。
「カールさん、評議会で一緒になれた記念...というわけじゃないんだけど、良かったら練習試合に付き合ってもらえないかな」
選挙終了後、思い切って伯父を練習試合に誘ってみた。
「ああ、構わないよ。そういえば、お前と試合するのは初めてだな。いくらでも、かかって来いよ」
伯父はいたずらっぽく笑いながら、快く承知してくれた。
2年後のエルネア杯では、伯父の存在が一番の脅威となるのは間違いない。
昨年のバグウェル戦の勝利から、伯父は更に力を伸ばしている。
勿論今の自分で勝てるとは思えないが、相手の力は早くから知っておく必要があった。
今後自分がどのように強化すればよいか、相手を知ってこそわかるというものだ。
「闘技場の使用料は120ビー!お前の分も、俺が出しておこうか?」
伯父が目くばせして聞いてきた。これは勿論冗談だ。
「おれはもういい大人だよ。その120ビーはいずれジークがお世話になった時でも」
「..........。ああ、そうそう、俺はジークが近衛に入るまで待ってなきゃいけなかったな。じゃあ、始めるかイグナシオ」
伯父が一瞬沈黙したのが何故か気になったが、取りあえず今は試合に集中するべき時だ。
「正々堂々、いざ!」
先手を取られるのを覚悟していた。
だが実際に、先手を取れたのはおれの方だった。
数回刃を交わしただけなのに、伯父のほうがあっさりと膝をついてくずおれてしまった。
...明らかに様子がおかしい。
「カールさん!」
おれは慌てて伯父にかけよったが、もう悪い予感しかしなかった。
「...見ての通りさ」
伯父は額に手をあてながら、ゆっくりと立ちあがった。
「寿命が近づいているようだ。残念ながら、俺はもう長くない...。時々こんな風に、身体が言うことを聞かなくなるのさ...。このところ、だいぶ回数が増えてきてな...。」
伯父は微笑んでいたが、その顔色は青白くなっている。
それは一番聞きたくなかった言葉だった...。
ゲーム内の性格設定だとイグは伯父さんでも呼び捨てにしちゃうんですけど、流石にそれはいかがなものかということで、イグの「おじさんズ」四人のうちカール・ガイスカ・マティアスの三人は普通に「さん」付けで呼ぶ設定にしています。カールやガイスカなら呼び捨てだと注意しそうだしね。しかしグラハムだけは呼び捨てかもしれない(^^;なんとなく
※山岳のこんな設定は勿論ゲーム本編ではありません。捏造です。毎度すみません...(>_<)