遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

残される者。

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兄のガノスへの旅立ちから一夜明け、葬儀はしめやかに執り行われたー。

 

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「...ランス、喪主の大任、お疲れ様だったね。これから大変だろうけれど、兄さんは君のことは何も心配していないって言ってたから...自信を持って。困ったことがあれば私にいつでも相談してくれて構わないから...」

我ながら月並みな励ましだとは思ったが、今は自分とてこれ以上の言葉が思いつかなかった。

それでも、甥は殊勝に私の言葉を受け止め、涙ぐみながらも

「叔父さん、ありがとうございます。父の名に恥じないよう、頑張るつもりです」

私の目を真っ直ぐに見てこう返してくれた。芯の強い青年だ。確かにこれなら兄も安心して旅立つことができただろう...。

「お義姉さんも、アルドヘルム君も、何かあったらいつでも....」

「ありがとう、ガイスカ君。わたしたちは大丈夫よ...。でも助かるわ。カールはいつもあなたのことを自慢の弟だって言っていたから...。何かあったらあなたとマグノリアに遠慮なく頼らせてもらうわね。」

義姉は昨日号泣していた姿が嘘のようだった。ランスの芯の強さはこの義姉から来ているのかもしれないー。

 

「ガイスカ君」

そこへ兄の親友だった王配殿下が声をかけてきた。いつもの剽軽な感じは影を潜めて随分と憔悴していた。幼い頃からの親友であると同時に、信頼できる側近でもあった騎士隊長を失ったのだから無理もないかー。

「カールの代わりに、今後は君の力を借りる場面が多くなるが...期待しているよ...」

と、彼はここで一段声を潜めてひそやかに話しだした。

「今は内密にしてほしいが...近々...ベニーが新しい王として即位することになるだろう...その時には隊長代理として...よろしく頼む」

彼の妻-パティ・ガイダル陛下にも寿命が近づいていることは、隊長業務の引き継ぎ時に兄から聞いていた。この人は親友に続き、人生の伴侶まで相次いで失うことになるとはー。しかも、パティ陛下は姉と同じ年だった。その事実から連想される恐怖が私の心を脅かす。

しかし、それらはあくまでも個人的な感情だ。いま私に求められている答えではない。

「かしこまりました。その際には、隊長代理として謹んで任を全うさせていただきます...。どうぞ王配殿下にはご心配のなきよう-」

胸に手を当て一礼しながら、恭しく言葉を返した。

「後任の君が頼もしくて何よりだ...。さて、ここからは俺の個人的な頼みになるが...今度俺が森にムタンを取りに行く際は...良かったら伴をしてもらえないかな?あいつの思い出話でもしながら...な」

殿下は、そこで初めて笑顔に戻った。兄と一緒にいるときよく見せていた表情だった。

兄は「ルチオがムタン採りについてこいと言ってきても応じなくていい」と言っていたけれど...兄さん、そういうわけにはいかないよ...。

「ええ、殿下。ぜひそちらもお伴させていただきます。いつでもお声をかけてください」

兄がガノスで頭を抱えている姿が見えるようだった。

 

「う...ぐすっ。ぐすっ...」

背後から鼻をすすり上げるような泣き声が聞こえてきた。振り向くと娘婿のアンテルムが花束を抱きしめながら肩を震わせて泣いている。そういえば、兄と結構親しくしていたことを思い出した

「この間久しぶりにお会いしたとき、オレが兵隊長になったことを伝えたら、頑張れよって言ってくれたんです...予定が合えば試合応援に行くからって...それなのに...」

確か5日の初戦ではイグナシオと当たって容赦なく吹っ飛ばされたらしいがー、多分イグナシオでなくてもどの相手でも同じ結果になるだろう。兄がそれを見たとして一体どんな反応をするのだろうか...。

「婿殿」はこんなことを言いつつも、決して日々の鍛錬に熱心な男でないのは良く知っていた。私は兄ほど面倒見が良くないし心が広いわけでもないので、そんな娘婿に対して冷めた感情を持っていた..だが...

それでも彼が兄の死を悼む気持ちは本物なのだろう...。

「アンテルム君...兄の為に泣いてくれてありがとう。兄も君の頑張りを期待していると思うよ。さあ、兄のために持ってきてくれた花をお供えしてあげて...」

私は兄がいつも誰かにしていたように、彼の肩に手を置いてそう伝えた。

「お義父さん、ありがとうございます」

「父さん、ありがとう...」

娘のロシェルは私の心中を察したのか、一瞬こちらに申し訳なさそうな顔を向けた。

その後二人は一つの花束を二人で持ち、墓所の床へゆっくりと手向けた後、跪いて祈りをささげていた。

※カールとアンテルムの関係は「ヘタレ山岳兵と龍騎士様」参照

 

「副隊長...オレ達...もう...入ってもいいでしょうか?」

今度は騎士隊員のアシエルが声をかけてきた。葬儀は親族と近しい者しか出られないが、見送りの儀式が終われば地下墓地への入場は自由だ。殆どの騎士隊員が亡き隊長の為に駆けつけてくれていた。

「ありがとう...もう大丈夫だ。君たちが来てくれて、隊長も喜んでいると思う。心置きなく祈りを捧げてくれ」

隊員達は花束を捧げる代わりに、剣を胸の前に捧げ持つ「敬礼」の姿勢を次々に取っていった。いつもは真面目とは言い難いアシエルもこの時ばかりは神妙な面持ちで剣を捧げている。

...兄さん...あなたは最後まで立派な騎士だったよ...皆それを解ってるんだ..

「ランス、グラハム、我々も隊長に敬礼しよう」

私はランスと弟グラハムに声をかけ、同じように剣を胸の前に捧げ持った...。

 

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「何かね...胸にポッカリ穴が開いちゃった気分なの...お兄ちゃんはいつも近くにいるの当たり前だったから...あ、「兄さん」って言わなきゃいけないのに...いい年して恥ずかしいね。ガイスカ君、聞かなかったふりしてね」

「姉さん、大丈夫だよ...今は二人だけだから。誰も聞いてないから...そのままでいいよ」

 

私たち兄弟はそれぞれの配偶者と共に葬儀に参列していた。しかし「こんな時は兄弟水入らずの方が良いだろうから」と配偶者たちは先に帰ることとなり、結局兄弟5人だけが最後まで神殿に残って兄の思い出話に花を咲かせた。兄は常に家族の中心にあった人だから、話題には事欠かなかった。

それからなんとなく解散となった後は、私は姉のマグノリアと二人で北の森付近を歩いていた。お互い話が尽きることがなかったため、少し遠回りをしてからそれぞれの家に帰ろうー、そんな合意がいつの間にか出来ていた。

先ほど5人で話していた時は、姉は兄のことをきちんと「兄さん」と呼んでいたのに、自分と二人になった途端「お兄ちゃん」という幼い時からの呼び名が出るとは...

それだけ他の兄弟より自分との心の距離が近い気がして、こんな時だが私は嬉しかった。

 

私にとって兄と姉は特別な存在だった。歩きだすようになった後はいつも兄と姉の二人を追いかけていた。二人とも足が速いので追いつくのが大変だった。私がなかなか追いつけないのが解ると、二人は立ち止まって待っていてくれた。

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兄はほどなくして成人したため一緒に遊ぶことはなくなり、私が後を追いかけるのは姉だけになった。同い年の遊び友達も次第に増えてきたけれど、それでも姉といるのが好きだった。

しかし姉の走る先に黒髪褐色肌の少年がいることが多くなり、私は姉を追いかけるのをやめた。

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そうしているうちに姉も成人し、あっという間に結婚して家を出ていってしまった。

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 「そういえばね...私は姉さんの結婚式に出た後、姉さんがまたすぐ家に帰ってくると勘違いしていたんだよ。夜まで起きて待っててね。恥ずかしいけど「結婚」の意味が良く解っていなくて、何かのお祭りみたいなものだとばかり思ってた。兄さんが「ガイスカ、寝るぞ!」って呼びに来たとき、「おねえちゃんが帰ってくるの待ってる」なんて言ってね。兄さん大笑いしてたね。「ガイスカ...お前...結婚の意味解ってなかったんだな!」ってね...」

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悲しみに沈んでいる姉の気持ちを少しでも和らげたくて、子供時代の恥ずかしい話まで暴露してしまった。

「そうなの...!ガイスカ君、私やお兄ちゃんの子供の頃より随分物知りだと思ってたのに、そんなこともあったのね。そういえば朝「けっこん、けっこん♪」なんて歌ってくれてたよね。あれはお祭りだと思ってたのね!」

姉がようやく笑ってくれて安心した。

今思い返すと結婚式の雰囲気から、姉が帰ってこないことはほんとうは薄々気づいていたかもしれない。それでもそれを認めたくなかった...。

「...こうして話してると思い出話が尽きないね。ほんとはお兄ちゃんもこの場にいれば大盛り上がりだったろうにね...」

姉は笑顔を見せた後も、寂しさを拭いきれないようだった。兄の存在は大きかった。無理もないことだ...

「きっと兄さんはガノスから見てくれてるよ。俺の悪口言ってないよな?なんて気にしてるかもしれない」

「そうね。聞き耳立ててるね、きっと」姉は再びくすっと笑った。

だがそれからふと空を見上げてー

「伯母さんたちや母さん、父さんを見送ってー今回はお兄ちゃんか...。順番から言うと次は私だね...。」

...姉がそう呟くのを耳にした瞬間、身体に電撃が走るような気がした。

駄目だ。

それ以上は聞きたくない。

「私もこうやって、空から思い出話を聞くことになるかな...ガイスカ君、その時はあんまり変なこと話さないでね...」

もう我慢ができなかった。

「姉さん!」

気づいたら姉を引きよせ強く抱きしめていた。

「姉さん...お願いだから...冗談でもそんなこと...言っちゃだめだよ...」

姉を失うことなど考えたくもなかった。抱きしめる腕に力を込めてしまった。

「頼むから...」

森の木々が風に揺らされてザワザワと音をたてていた。

「ガイスカ君...」

そんな中姉の声がした。できればこのまま離したくなかった。それが許されないことだとしても。

「ねえガイスカ君...顔や腕に鎧が当たって...感触...冷たいよ...それに...ちょっと...くるしい」

「...!!ご、ごめん!」

思わぬ苦情に、慌てて姉を開放した。

「あー、びっくりした!」

姉は何事もなかったような表情だった。どうやら自分のやったことの真意は気づかれずに済んだらしい。単純に弟が過剰に姉を心配したと思っているようだ。

「ガイスカ君、力、強くなったんだね!昔は「チカラが弱い」って悩んでたのに。そういえば前にお兄ちゃんが「ガイスカは実は脱いだらスゴイ」なんて言ってたけど、ばっちり筋肉鍛えてるのね、頼もしいわ!」

そう笑いながら話す姉は完全にいつもの調子に戻っていた。取り合えず元気をとりもどしてくれたのだろうか。

「ま、まあ...職業柄貧弱な身体ではいられないからね。それより姉さん、さっきみたいなこと冗談でも絶対に言わないで。約束だよ」

「大丈夫よ。いつもジャスタス君と話してるの、今度のエルネア杯でイグナシオが龍騎士になるのを見届けるまでは、二人とも絶対元気でいようね、って!」

”イグナシオを倒せ”

"イグナシオは父さんの妄執に囚われている”

ふいに、引き継ぎの夜の兄の言葉を思い出した。イグナシオを”龍騎士の呪縛”から解放してほしいー、それが兄からの遺言だった。兄はイグナシオを倒すことが呪縛からの解放に繋がると思っていたが...私自身にはまだその答えは出ていない。姉の想いも無視できない自分がいた。兄は私を買いかぶっている。私はあらゆる意味で、兄より戦士として未熟な人間だ。そんな私に何ができるだろう?

だが...そのことに今は触れるまい。

「エルネア杯とは言わず...ずっと元気でいて。兄さんだって、そう思ってるよ、きっと」

そう...私はあなたを失って残されるのは嫌なんだ。

妻も親友も...大事な存在はもう誰一人失いたくない。

だけどその中でも、とりわけ、あなたを...。