遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

イグナシオ番外編:星に願いを(前編)

※またまた唐突にすみません。カールが旅立って話がいったん落ち着いたので、流れ的に本編に入れられなかったエピソードを...。文中の「台詞」と語り口調でイグナシオの一人称が「ボク」と「おれ」に乖離しているのは、大人になったイグナシオが「回想」しているという設定のためです。一応補足まで...。

初めてカレンと話をしたのはいつだっただろうか。

...確かアルシアお祖母ちゃんが「うちに泊まりにおいで」と声をかけてくれたのが最初だった気がする。

両親と離れて泊まりにいくなんて初めてだったので、おれはドキドキしていた。

母に連れられて魔銃導師居室を訪ねると、ガイスカ叔父さんが笑顔で出迎えてくれた。

「やあ、よく来たねイグナシオ」

「こんにちは...」

緊張して挨拶すると、ガイスカ叔父さんの後ろから女の子がひょこっと顔を出した。

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その子の大きな黒い瞳はガイスカ叔父さんによく似ていた。真っ白な肌色と燃えるようなオレンジの髪はお祖父ちゃん譲りだ。

「あら、カレンちゃん、歩けるようになったのね。こんにちは!」

母がその子に声をかけた。

カレンと呼ばれたその子は母の年の離れた妹で、おれと同じ年に生まれたのだった。

娘の子供と同級生になる子を産んじゃうなんて...って、いつか祖母は恥ずかしそうに母に語っていた。

「こん...にちは...」

その子は小さな声で応えた後、またすぐに叔父さんの後ろに身を隠してしまった。

「カレン、大丈夫だよ...お姉ちゃんとその子供のイグナシオだから。姉さん、イグナシオ、御免ね。この子はすごく人見知りするから...」

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「そうなのね!恥ずかしがり屋さんなの。可愛いわね。カレンちゃん、この子...イグナシオは意地悪しない子だから安心してね。仲良くしてね」

母がそう言ってカレンに笑いかけると、カレンは母をその大きな目で見上げてこっくりと頷いた。その控えめな仕草が何とも可愛く思えた。

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「あらイグナシオ、いらっしゃい!お祖母ちゃん、お菓子たくさん用意してるよ。夜にはお祖父ちゃんも探索から帰ってくるからね」

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「おー!イグナシオだ-!遊ぼうぜー!」

祖母と叔父二人もやってきた。

「お母さん...今日一晩イグナシオがお世話になります。これ、私たちで焼いたピザ、良かったら、みんなで食べてね」

母はランチボックスから7枚に高々と積み上げたピザを取りだして、祖母に手渡していた。

「うっわー!おいしそー!」

叔父たちが歓声をあげる。

「まあマグノリア...悪いわね。それじゃあこれは夜にみんなでいただきましょうね。イグナシオのことは任せて。今日はジャスタス君と夫婦水入らずで過ごしてね」

「ありがとう...夜はお義父さんたちがいるから水入らずじゃないけどね。お言葉に甘えてデートでも誘ってみようかな。じゃあ、イグナシオ、明日また迎えに来るからね。いい子にするんだよ」

母はそう言っておれの頭を撫でる。

「う...うん、わかった!ボク、いい子にしてお祖母ちゃんたちといる!」

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本当は母と離れるのは不安だったけど、強がって笑顔で返事をした。母は安心したようで、みんなに手を振って帰っていった。

 

母が帰った後は、年の近い叔父二人ーマティアスとグラハムと一緒にカード遊びをした。カレンはおれたちの輪に入らずに、祖母とガイスカさんの側にくっついて遠くからチラチラと見ていた。

おれは遊びながらもカレンのことが気になったので、勇気を出して声をかけてみた。

「カレンちゃんも...いっしょにやる?」

「ん...」

カレンは頭を左右交互に揺らして迷った仕草をしていた。こちらに来る様子はない。

ちょっと迷ったけれど、もう一段階勇気を振り絞ることにした。

おれは立ち上がり、カレンのほうに歩み寄って手を取った。

「いっしょにやろうよ!」

「やりかた...わからない...」

それは小さな小さな声だった。でも、呼びかけに答えてくれたのが嬉しかった。

「だいじょうぶ!」

おれはカレンの手を引っ張って、叔父たちの所に連れていった。

「ボク、おしえてあげるから!」

カレンはびっくりした様子だったけれど、おとなしくついてきてくれて、おれの横にちょこんと座った。

「さいしょは、ボクと二人一組でいっしょにやろう。...じゃあ、カレンちゃんもカード一緒に持ってね」

「うん...」

カレンはおれが差し出したカードを素直に受け取って頷いた。

「あらあら、イグナシオはカレンのお兄ちゃんみたいね」

「カレンはマティアスとグラハムが誘っても今までカード遊びの仲間に入ったことがなかったんだよ..。凄いね、イグナシオ」

お祖母ちゃんとガイスカさんがびっくりしていた。

カレンはおれに気を許してくれたようで、カード遊びが終わっても、おれの側から離れなかった。そのあとは、二人一緒にガイスカさんに絵本を読んでもらったり、積み木でお城を作ったりして遊んだ。

「そろそろ、子供は寝る時間ですよ」

祖父が帰ってきて皆でピザを食べた後、祖母がベッドに入るよう促してきた。

そのとき、カレンはおれの手をぎゅっと握ってきた。

「まあ、カレンちゃん、イグナシオと寝たいのね。いつもはわたくしやガイスカお兄ちゃんにくっついてくるのに。イグナシオ、今晩はカレンちゃんと寝てあげてくれる?」

「うん...」

おれも寝るときはいつも母にくっついている。まだ兄弟がいないので同じくらいの年の子と一緒に寝るのは初めてだった。顔を合わせてベッドに入るのはちょっと恥ずかしかった。でも祖母が歌う子守唄が心地よくて、いつの間にか眠りについてしまった。カレンはずっとおれの手を握ったままだった。

「今日が初対面なのに二人は随分と仲がいいようだね。まるで兄妹みたいだな...」

「そうね。本当は「叔母と甥」なのにね...。」

祖父母がおれたちを覗き込んで話す声に一瞬目が覚めたけれど、またすぐ眠りに落ちてしまった。

-ねえおばあちゃん、「おばとおい」ってなに?-夢の世界に戻る前にそんな言葉が頭に一瞬浮かんで消えた。

「叔母と甥」。その言葉の意味がまだ、当時はわかっていなかった。

今思えばその時に、はっきりと聞いておくべきだったのだろうか。

 

「お父さんお母さん、ガイスカ君たちも、昨日はありがとう!」

「すみません、昨日はイグナシオがお世話になりまして...息子は悪戯などしなかったでしょうか?」

翌朝になり、朝食後両親が迎えにきてくれた。

「大丈夫よ、イグナシオはずっといい子にしてたから。子供たちもイグナシオが来てくれて楽しかったみたいだし。」

「イグナシオ、またいつでも遊びに来るといい。」

「うん、おじいちゃん、おばあちゃん、みんなもありがとう」

祖父母から両親に引き渡されて帰ろうとしたその時だった。

ふと祖母にくっついているカレンの顔を見ると、目に涙を浮かべていた。

「あらあらカレンちゃんたら、すっかりイグナシオが気に入ったのね」

祖母が気づいてカレンの頭を撫ぜた。

「まあ、一日でそんなに仲良しになっちゃったの!イグナシオ良かったね、遊ぶお友達が増えて」

「じゃあ、今度はカレンちゃんが山岳の家に遊びに来るといいよ。山の家はここより標高が高いから星が綺麗に見えるよ。ぜひおいで」

父が笑いながらカレンに手を差し出した。強面の父にカレンが怯えるのじゃないかとドキドキしたが大丈夫なようだった。カレンはおずおずとしながらも父の手を取った。

「...ほんと?」

「本当だよ。これからもイグナシオと仲良くしてね」

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 涙を浮かべていたカレンがぱあっと笑顔に変わった。まるで花が咲いたような笑顔だった。

その様子を見て、おれもなんだか嬉しくなった。

「じゃあね、カレンちゃん、またあそぼうね!」

おれが手を振ると、カレンもおずおずと手を振り返してくれた。

それから、カレンとおれは互いの家を行き来して、「お泊り」をする間柄となった。

特におれの住む「山岳の家2」の窓やニヴの丘から、一緒に星を眺めるのが二人の楽しみとなっていた...。

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「ワフ虫がお星さまみたいだねー」
「ねえ、ここに寝っ転がってみて」

「うん」

「ほら...こうしてるとね...お星さまが空から降って来るみたいじゃない?」

「ほんとだー」

初めて出会ってから三年。おれたちは4歳になっていた。

星の日。おれとカレンはニヴの丘の草原の上に横になって、輝きながらふわふわと漂うワフ虫をじっと眺めていた。暗い藍色の空の中、一面に漂うワフ虫の光が眼前に広がり、本当に星の海の中にいるようだった。

「イグナシオ...知ってる?星の日は昼間なのにお外が暗い日じゃない?だけど反対に四年に一回、「白夜の日」って言って...夜でもお空が暗くならない日があるって...」

「知ってる...確か、祖父ちゃんが龍騎士になったときがそうだったよね」

「お祖父ちゃん?ああ...お父さんのことね。そうそう、その日。お空が暗くならないのは...お陽様とは別に、特別に明るく輝くお星さまが現れるからなんだって」

「そうなんだ...」

「それでね...そのお星さまにお願い事をすると叶うそうなの。ガイスカお兄ちゃんに教えてもらったんだ」

「う、うん...」

「白夜の日...あと何年したら来るかな?」

「こないだが...二歳の時だから...二年前。四年にいっぺんだから、あと二年かな?」

「あと二年...?そしたら、あたしたち...もう大人になってるね。ねえイグナシオ...」

カレンは空から俺の顔に視点を移してきた。黒い大きな瞳に近くでじっと見つめられて、おれはどうしていいかわからなくなった。

「な、何?」

「イグナシオは...その時、何をお願いするの?」

「え、えっと...」

大人になったときのことなんて今言われても正直解らない...でも、今なら...。

言いたいことはあったけど...恥ずかしくてとても言えず、おれは口ごもった。

「あたしはね...」

カレンがおれの手をぎゅっと握ってきた。初めて祖父母の家に泊まったあの日のときのように。

「イグナシオと、ずっと一緒に...」

その時だった。

草原をサクサクと踏みわけて駆けてくる音がした。

「あ、カレンとイグナシオ、ここにいたー!ねえねえ、大人の人たちにお菓子をもらいに行こうよ!」

おれたちと同級生かつ仲良しのロザンナだった。既に星の日用の葉っぱの仮面をつけている。エナ様に扮してお菓子をもらいまくる気満々のようだ。

「ふたりとも、お面つけないと、ダメじゃん!お菓子もらえないよ!」

「あ、うん!」

おれは起き上がって慌てて傍らに置いていた仮面をつけた。

「ほら、カレンも行くよ!」

ロザンナに腕を引っ張られてカレンも起き上がった。ちょっと不服そうな顔をしていた。

さっきカレンが言いかけた言葉の続きを聞くべきだったのか...聞かなくて良かったのか...。

きっと聞かなくて良かったんだ。自分とカレンの関係を理解したときからおれはそう思っていたけれど、カレンにとってはどうだったのだろうか...。

※カレンはデフォルト設定だと両親のことを「父ちゃん」「母ちゃん」と呼ぶ性格ですが、流石にこの場面にそぐわないので...きっと学校入学前の「幼児」の時だけこの呼び方だったのでしょう(^^;

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年が明け、とうとうおれたちは最終学年になった。

あと一年で成人ー、ということで、皆それぞれに大人になった時のことを自然と考えるようになっていた。

自分たちの将来...それはもちろん「就きたい仕事」に関することもあったけど、やっぱり...皆の関心事の大部分は...「誰と一緒になるか」だった。

仲良しの異性がいる者は、自然とその相手との将来を意識するようになっていた。

おれがその時心に描いていたのは...勿論カレンとの未来だった。

だけど...。

「ねえイグナシオ、大人になったら、あたしと結婚しない?」

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そんな流れに乗って、ロザンナが単刀直入に言ってきた。

ロザンナとは仲良しだったけど、「一番大好きな将来の相手」とは思っていなかった。

おれは正直に自分の思うことを言うことにした。

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 「ごめんね...ロザンナちゃん...ボクはカレンと...」

「あたしも...イグナシオがいいな...」

カレンと二人でそう言った瞬間、ロザンナは呆れた顔をした。

「え、何言ってるの?カレンとイグナシオは結婚できないじゃない!

だって、カレンはイグナシオのお母さんの妹でしょ?近い親戚同士は結婚できないって、お父さんから聞いたよ!」

...え?

「お姉さんの子供...そういうのって「甥」って言うんだって!イグナシオはカレンの「甥」なの!で、カレンはイグナシオの「叔母さん」!だから結婚なんて、できないよ!」

「おばとおい」

かつて祖母が言っていた言葉はこれだったんだ...。

母の男兄弟たちのことは「叔父さん」と習ったけれど、カレンのことは何も聞いていなかった。きっと同じ年...厳密に言えばおれの後から生まれたカレンを「叔母さん」と呼ばせることは忍びなかったのだろう。

「うそ...」

カレンは一転泣きそうな顔になった。

「あたしは大丈夫だよ!あたしもイグナシオの親戚だけど、イグナシオのお母さんの「従妹」なの!それなら遠い親戚だから大丈夫だって!だからあたしと...」

ロザンナちゃんのお父さんは、イグナシオの祖母アルシアちゃんの弟、初期国民リカルド君なのです(^^)

ロザンナなら結婚できるとかそういうことじゃない...。

今重要なのは「カレンとは結婚できない間柄」ということだった。

「そんなの!本当かどうか、わかんないよ!ボク、他の大人に聞いてくるから!」

「誰に聞いたって、同じだよ!」

おれは誰か、信頼できる大人を探すことにした。

ただし、両親や祖父母には聞きたくなかった。

もし本当にそうであれば、カレンとおれのことを知られたくなかったから...。

 

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「やあイグナシオ、そんなに血相変えてどうしたの?」

信頼できる大人ー、ということで、おれはガイスカ叔父さんに聞いてみることにした。

「ガイスカさん...あのね、親戚でも「結婚できる親戚」と「結婚できない親戚」がいるって聞いたんだけど...ほんと?」

ガイスカさんは目を丸くして驚いていた。

「イグナシオ、一体どうしてそんなことを?」

「う、うん...何でもないけど...知りたくて...」

ガイスカさんならたとえ本当のことを言っても黙っていてくれそうだけど、流石に自分から言うのはためらわれた。

幸いにもガイスカさんはそこに深入りはしてこなかった。それが解っていたからガイスカさんを選んだのもあるけれど。

「...そうか、何故かはとりあえず聞かないことにしよう。結婚できる親戚と、できない親戚だよね。例えばだけど...君とロシェルやノエルは結婚できるよ。「従妹」って関係になるからね。」

ロシェルとノエルはガイスカさんの娘だった。

「姉さん...君のお母さんと私はきょうだいだから..「きょうだいの子供」同士は結婚できるんだ。だけど、きょうだい同士とか...」

ガイスカさんの顔が一瞬曇った気がしたけど、きっと気のせいだろう。

「自分のきょうだいの子供とは...結婚できない。近すぎるから」

きょうだいの子供。

それはまさに、カレンとおれとの関係だった。ロザンナの言ったことは嘘じゃ無かった。

「そう...」

これではっきりした、カレンと自分とは結婚できない。

「ガイスカさん...ありがとう...わかったよ...」

「イグナシオ...こんなことを聞いてきた理由については深入りしないけれど...、なるべく早いうちに気持ちを切り替えた方がいいよ。幸いにも、君はまだ子供だから...」

多分ガイスカさんはカレンとのことを気付いているのだと思う。

でもはっきり触れてこないでくれるのがありがたい。

もしこの時お前はおかしいとか異常だとか言われたら、きっと耐えられなくなって、全てに対して心を閉ざしていただろうから。

「こういうことを引きずったら自分が苦しくなるだけだから...いいね。」

ガイスカさんの目は真剣だった。まるで自身も同じ立場に立ったことがあるようだった。でも、ガイスカさんがカレンとのことを触れないでくれていたように、自分もそのことに触れるべきでない。それぐらいは子供心にもわかっていた。

 

カレンと自分は結婚できない。

ならばこの気持ちは、なるべく早いうちに断ち切ったほうがいい。

おれがそのためにとった処置は...カレンに会わないため「学校に行かない」ことだった。会わなければ、いつかは忘れられる...。

 

しばらく学校に行かなかったことが両親にばれて大目玉をくらったけれど、自分の頭を冷やすにはそれなりの効果があった。

学校をさぼって父親に怒られた話はこちら

 

学校に復帰した時、カレンはおれを見て何か話したそうにしていた。

でも、もうお互い何も話さないほうが良いと思った。気持ちを蘇らせないために...。

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オリンピアちゃん、遊ぼう!」

おれは図書館で知り合った女の子、オリンピアに声をかけた。

彼女と将来どうこうはまだ考えていなかったけど...一緒にいて心地よさを感じ始めていたのも事実だった。

 

そして成人後-

おれは紆余曲折を経た末、オリンピアと将来を歩むことに決めた。

その時にはもうカレンとのことは、痛みを残した思い出となっていた...。

 

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(つづく)

 

最後までお読みいただいてありがとうございます。

毎度のことながら無駄に長くなってしまった(^^;

次で...ちゃんと終わるのかコレ?