遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

オレは泣かない!

カール伯父さんが亡くなった後も、身近な人々の訃報は続いた。

まず、パティ女王陛下

次にオリンピアの父アルヴィン。

母の親友である魔銃導師アンジェリカ。

特に兄、古くからの友人二人と相次いで親しい者を失った母にはかなり堪えたようだ。

「この年だから仕方がないけれど寂しいわ...。もっとも、わたしがいつか旅立つときにみんなが向こうで待っていてくれる...そう思えばいいのかしらね」

旅立つ者...残される者、どちらにも悲しみはある。

だが旅立つ者の為にも...残される者は前を向いて生きていかなければならない。

 

「いえーい、ひっさつ、バグウェルスラーッシュ!」

「こらジーク、うるさいぞ、もう少し静かにしなさい!」

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...悲しい出来事が多い中でも、ひとすじの光明はある。

赤ん坊だったジークが1歳を迎え、歩きだすようになったのだった。

コロミナス家の食卓も一段と賑やかになった。

特に父を失い傷心だったオリンピアにとっては、大きな慰めになったようだ。

オリンピアは「初めての息子」に大層ご執心となり、姉二人は少々ヤキモチを焼いている。

 

しかしこの息子...顔立ちはオリンピアに似て女の子のように端正だが、とにかく...無駄に元気すぎるのだ。朝食を食べると弾丸のように飛び出して行き、暫く帰ってこない。

いつもどこにいるのか解らないので、探すのに苦労する。

大抵「こんなところに?」というような場所で見つかる。

ある時は、果樹園のポムの木のてっぺんによじ登っていたので、降ろすのに苦労した...。

 

「イグナシオもアルベルトも大人しい子だったし...オリンピアちゃんだって、そうでしょ?一体誰に似たのかしらね...」

「そりゃ、一人しかいないだろう」

夕食後の寛ぎの時間、父は母をチラっと横目で見やる。

「なんですって!」

「...ジークは君たち兄妹を足して二で割った感じだと思うよ。ヒルダもお転婆だったが..それもきっと君に似たんだな」

おれは母やカール伯父さんの子供の頃を当然知らないが...まあ何となく想像はつく。

 

ジーク、大きくなったら何になりたい?」

話題の人となっている息子に、お約束として一応聞いてみる。

「オレ?...もっちろーん...」

ジークはパッと両手を広げて高らかに宣言する。

「バグウェルー!!」

自分が「人類という種族」であることを、まだ認識していないらしい...。

「あら、ジーク君、バグウェルなの。亡くなった大伯父さんと一緒だね!」

 「おおおじさんー?ばあば、それだれー?」

「カール大伯父さん。ジークがポッケに入れてる木剣くれた人だよ。おばあちゃんの、お兄ちゃん。でもお兄ちゃんは大人になってバグウェルじゃなくて龍騎士になったんだけどね」

「りゅうきしー!すげー!」

ジーク君もなってみる?」

オリンピアジークの頭を撫ぜながら言う。とにかく可愛くて仕方がないようだ。

「んー、でもオレ、バグウェルがいい!」

 「あら、どうして?」

「だって、そらとんだり、ほのおはいたりできるじゃん!そっちのほうが、カッコイイ!」

 ...やはり自分が人間であるという自覚がない。

 「だからね、こないだ、ポムの木にのぼって、そらとぶれんしゅうしようとしてたんだ。そしたら父ちゃんにおろされちゃった」

...あの時さっさと降ろしておいて良かった。しかし、降ろすとき何やらぎゃーぎゃー言って怒ってたのは、バグウェルになろうとしたのを邪魔されたからなのか...。

そういえば、タナンの高炉の目の前で見つかった時もあったが、あれはまさか、炎を...

もしあの時、ジークを見つけるのが数分遅かったら。

背筋がぞくりと寒くなった。

これは今のうちに言っておくしかあるまいー。

ジーク」

おれはジークの頭にぽん、と手を置いた。

「残念ながら、お前は大人になっても、バグウェルにはなれない」

「...!!!」

ジークの目がひときわ大きくなった。そして顔がブルブルワナワナ震えている。

どうやらもの凄い衝撃のようだ。

「なんで-!」

「なぜならお前は人間で...対してバグウェルは”龍”という全く別の生き物だからだ。人間は空も飛べないし、炎も吐けない。いくら練習しても、無駄だ。全くの無駄。」

「えええ....」

「ちょっとイグナシオさん、そんな言い方じゃ、あまりに身も蓋もないわ...ジーク君が傷ついちゃうわ」

オリンピアが不満を漏らす。本来妻はもっと冷静で聡明な女性なんだが...。恋は盲目ならぬ、息子愛は盲目...といったところか。

ジークが骨折したり火傷するほうが、今傷つくよりよっぽど恐ろしいことだよ。わかったな、ジーク。ポムの木から飛び降りようとしたり、タナンの高炉から炎を取りだそうとしたり、二度とするなよ。痛かったり熱かったりするだけで、絶対にバグウェルにはなれないからな」

「うー...」

ジークの顔が真っ赤になり、目に涙が溜まってきた。

こりゃ、泣くな...、すごい泣き声になりそうだな...

どうなだめるか身構えたが、その瞬間は訪れなかった。

ジークは涙を目に溜めながらも、泣き出さないよう小さな拳を握りしめて、ブルブルと震えながらもじっと耐えているのだった。

ジーク....」

「くやしい..」

ジークは下を向きながら呟いた。

「オレ、バグウェルになろうとおもって、いっしょうけんめいれんしゅうしたのに...。ニヴの岩に向かってうぉーって叫んだり、つよいほのおがだせるように赤ペピかじったり...ひみつのとっくんたくさん...やったのに...なれないなんて...」

そんなことまでしていたのか。まあ、木から飛び降りたり炎に近づこうとするより遥かに可愛い行為ではあるが。

「くやしい...」

そう言いながらも目に溜まった涙がジワジワと頬に垂れてくる。

ジークはそれが嫌なようで顔をしかめている。

ジーク、無理しなくてもいいんだぞ、泣いたって誰も怒らないから...別にお前が悪いわけじゃないし。」

「...やだ」

ジークを小さな拳を握りしめたまま首を振る。

「オレ、なくのやだ。ぜーったい、なかねっ!そんなかっこわるいの、やだ!」

...なんとまあ意地っ張りな...。

そうはいっても所詮は子供なので堪えきれず涙はボロボロと落ちてきているが。

ジークは泣かないよ。わたしと喧嘩してもぜったいに、泣かないの!ほんと可愛くない!」

「そうなの、ジークはいっつもそうなんだよ」

姉たちが横から口を出してくる。おれの目の届かない所でもそうなのか...。それにしても長女のミカサは「ハルバードは渡せない」と言って以来少し不安定で、そのせいかジークに結構当たっている。ミカサは来年成人するし...この子にももう少しフォローが必要だ...。

それはそうと、とりあえずジークをこのままにもしておけない。

おれはもう一度ジークの頭に手を置く。

ジーク、お前は人間だからバグウェルみたいに空を飛んだり炎を吐いたりはできない。だが、人間にしかできないやり方で戦うことができる」

「...エ、どういうこと...?」

下を向いてブルブル震えていたジークの動きはピタリと止まり、代わりにおれの顔を見上げてきた。とりあえず興味を持ったらしい。

「...まず、魔法。それにもう一つ、斧や剣、銃といった武器を使う。魔法はバグウェルの炎、武器はバグウェルの牙と同じようなものだ。魔法と武器...その力は、おまえの頑張り次第で...本当にバグウェルの炎と牙に近いものにできるかもしれない」

「ぶきと...まほう?それで...バグウェルみたいに...なれるの?」

「それはお前次第だな。お前の頑張り次第だよ」

「がんばればなれる!バグウェルみたいに、わーい!バグウェルじゃないけど、バグウェルみたいになれる、わーお!」

ついさっきまで涙を堪えてブルブルしてたのが嘘のように、両手を広げて喜んでいる。

といっても頬には涙の筋がついたままだが。それにしても立ち直りの早い奴だ。

「...でさ父ちゃん」

「何だ?」

「どういうとっくんすれば、いいの?」

...既にやる気満々のようだ。

「今はまだ特別にやることはない。お前がもう少し大きくなって森の小道に入れる歳になったら、魔法や武器の使い方を教えてやるから。」

「えー、つまんないー」

「まあ、今できることと言ったら、足腰を鍛えておくことかな。友達と駆けっこしたりするのはいいんじゃないか?」

「あらいいじゃない。ジーク君、お隣のギョーム君でも駆けっこに誘ってみたら?」

オリンピアが助け舟を出してくれる。

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ギョームはペトレンコ家の山岳長子で、おれの従妹ロシェルの息子でもあった。気弱な父親アンテルムと違って、結構しっかり者のようだ。同じ年のジークとは既に仲がいい。

「うん、そうする!あしたのあさになったら、ギョームさそう!」

「...それがいいよ。そういうわけで繰り返すが、木から飛び降りたり、高炉に手を入れるのは絶対ダメだぞ。それは悪い特訓だからな。良い特訓とは、そんな簡単に手っ取り早くできることじゃなく、地道な積み重ねのことを言うんだ。つまりお前がしばらくやることは、とりあえず....走ることだ、わかったな、ジーク」

「わかった、オレ、はしる!あしたから、はしるのがんばる!」

「そうしなさい、じゃあ、もう寝ろ」

「えー」

「ぐっすり寝て力を蓄えないと、明日駆けっこでギョーム君に負けちゃうわよ。さあ、ジーク君、一緒にベッドへ行きましょう、ミカサもアニも、いらっしゃい」

「ね、ジーク、いこ」

アニがジークの手を取ってくれた。ジークはしぶしぶながら母と姉たちと一緒に二階に上がっていった。

「バグウェルパーンチ!」

「もー、ジークうるさい!」

暫くの間、二階からそんな声が聞こえてきたが、ちょっと経ってからようやく静かになり、子供たちを寝かしつけたオリンピアが一階に戻ってきた。

 

 「お疲れ様、オリンピア。...ありがとう」

「ふふ...イグナシオさんもね。」

 「それにしても、あいつがあんなに意地っ張りだとは思わなかった。ああいう部分は一体誰に....」

「俺かもしれないな...」

やり取りをずっと静観していた父が口を開いた。

「父さんが?」

「まあ...あそこまで極端じゃないかもしれないが...俺も人前で泣くのは嫌だったな。母さんにも厳しく言われてたしね、あなたはコロミナス家の跡継ぎなんだから、やたらめったら泣くものじゃありません...ってね」

「そう言えば子供の時、ジャスタス君泣いてたの、ほんとに見たことなかったね。色々言ってたけど結局自分にも似てるんじゃん!」

「ハハ...」

痛い所を突かれて父は困り顔のまま笑っている。

「誰に似てても、いいじゃないですか...血が繋がってるから、当たり前だし。あの子たちは、みんなのいろんな部分を受け継いで、また次の世代に受け継いでいくんですよ...」

オリンピアが静かな声で、皆に語りかけるように言う。

「そうだね...そうやって受け継がれて...命は繋がっていくんだものね。オリンピアちゃん、いいこと言うね」

受け継ぐ。

その言葉で、自分がやらなければいけないことを思い出した。

おれの力を誰に受け継がせるか。

ジークが歩きだし、ミカサの成人が近い。もういい頃合いだ。

「選ばれる者」をおれは決定しなくてはならないー。

これもおれに課せられた仕事の一つだから...。

 

*******************************************************************

「父ちゃん、オレ、かけっこでギョームにかったよ!」

翌日の夕食時、ジークは得意顔で話しかけてきた。よっぽど嬉しかったのか、目がキラキラ輝いている。

 

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 「そりゃ良かったな、ジーク」

「でね、オレ、はしるときのひっさつわざ、考えたんだ。こうやって...」

バグウェルダーッシュ!ってね」

そう言っておもむろにポーズを取ろうとする。

「もう、ジーク、うるさいっ!」

ジーク、食事中に大きな声を出すのはやめなさい」

「ごめんなさい....」

父に叱られて一転、しゅんとして静かになるが、また暫く立つと...

「今日ね、ギョームとすっげーでかいダダ虫見たんだよ、それがたくさんで...

ダダムシ、ザザムシ、ゾーロゾロ♪

ダダムシ、ザザムシ、ニョーロニョロ♪

今度は聞いたことない珍妙な歌を歌い出す。

ジークやめてよっ!食事中に虫の唄なんて歌わないで!」

ジーク、食事中に歌うのはやめなさい」

「ごめんなさい...」

そして再びしゅんとなる

...何なんだコイツは...。

 

無駄に元気で、無駄にやる気があって、無駄に意地っ張り。

果たして大人になった時、こいつのこの部分が、どういう風に変化するか...。

 

来るべき「選択」の時に向けて、まだまだ悩むことが多そうだ...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イグナシオ番外編:星に願いを(後編)※完結

カレンが奏女になったことで、プラマー家とオブライエン家の縁組は自然消滅した。

父さんはジャンナさんに少しだけ嫌味を言われたようだが、まあそもそもあくまでも「打診」レベルの話だったから...誰が悪いというわけでもないのだった。

「サンチャゴ、こんなことになっちゃって申し訳ない」

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「なんでお前が謝るんだよ?...まああの子、俺が話してても何となく上の空...って感じだったから、こうなりそうな気がしてたんだ..。そういう状況でズルズル会い続けるのも何だしな、心機一転、また相手探しするわ!」

サンチャゴが前向きな奴なのが救いだった。こういう奴だからこそカレンに合うかと思ったけど、それはどちらにとっても「余計なお世話」だったのかもしれない...。

 

幸いなことに、それから程なくしてサンチャゴにはちゃんと彼女が出来た。

彼女の名はおれの親戚でもあるエイドリアン・ピット。ピット家も武術職を多く輩出する旧家ということで、ジャンナさんも満足とのことだった。

「カレンちゃん...奏女になんかなっちゃって...あの子大人しいからきっと押し付けられたんだわ...大丈夫かしら...」

母はそう言って心配していたが...後でガイスカ叔父さんに聞いたところ、「本人の強い意志」らしい。

「その辺はあまり本人に問い詰めたりしないほうがいいと思う」と叔父は言った。

おれ自身も聞くべきでないと思った。もう本当に、おれが彼女の縁談に関わるべきではないだろう。たとえ両親に頼まれたとしても...。

エルネア杯が終わった後、おれはオリンピアと結婚し、年明け後には祖父はガノスへ旅立ってしまった。

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そんな中でもカレンの奏女生活は暫く続いていたが...やがて奏女居室に通い詰める農場管理官の男をたびたび目にするようになった。

おれたちの同級生マヌエルで、特に親しくはなかったが誠実な人柄であることは知っていた。そのマヌエルの優しさに心を溶かされたか、ほどなく二人は恋人同士となり、カレンはようやく奏女服を脱ぐこととなった。交際は幸いにして順調に進み、婚約したとの話がコロミナス家にも伝わってきた。

「良かったわ、カレンちゃん。これでガノスの父さん母さんも安心するわ...」

母は安堵して喜んでいた。おれもようやく全てが「終わった」ような気がしていた...

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「カレン、山岳のプラマー家のご長男がお相手を探しているそうだ。お前と同じ年だからよかったらどうかとマグノリアから話があったんだが...どうだ?会ってみるか?」

父娘二人だけの夕食の最中、父が縁談の話を持ち出してきた。

「知ってるわ...今日イグナシオからも話があったの。とりあえずお会いしてみるって返事しておいたわ」

「それは良かった。聞けば中々の好青年だそうだよ。気が合うといいな」

父は上機嫌に見えた。らしくないと思った。

「ねえ父さん...」

「何だ?」

「姉さんがお義兄さんと結婚するって言いだしたときは父さん大反対したんじゃないの?プラマー家だって同じ山岳一族だわ...。しかもコロミナス家より遥かに歴史が古いお家よ、父さんはそれでいいの?」

「ああ、そのことか...。今思えば父さんも随分大人気なかったよ。まあジャスタス君は今では兵団長だし、何といってもマグノリアがとても幸せそうだからね。私も山岳一族に対する考えが随分変わったんだ。プラマー家はコロミナス家よりしきたり等は厳しいかもしれないが..お前なら十分やっていけるだろう。すぐ近くに姉さんもいるから困ったときは相談できるしね」

「...そう」

「それに...私だってもうそうは長くは生きていられないだろう。出来れば...お前が幸せになるのを見届けてからガノスに旅立ちたいと思っている。親のエゴと言われればそれまでだがな...」

そうね...父さん。

でも何もわかっていないのね。

姉さんが幸せなのは、山岳に嫁いだからじゃない。愛する人と共にいられるからだわ。

あたしの望む幸せがどこにあるか...父さんは知る由もないでしょう...

 

 

「カレン、イグナシオから相手を紹介されたって?」

翌日の朝、親友のロザンナが声をかけてきた。

「ええ...私たちの同級生だったサンチャゴ君ですって。今日森の小道でお会いすることになっているの」

「サンチャゴ?えー!あの悪戯坊ちゃん?結構クソガキだった奴じゃん。なんとまあ...。それにしてもイグナシオ、良くヌケヌケとあんたに相手を紹介してきたものね。自分に彼女が出来た余裕なのかしら?」

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ロザンナは憤慨していた。彼女も子供の頃からイグナシオに想いを寄せていけれど...何度か告白までしたにも関わらず結局彼は別の女性を選んだ。

そのことに少し安堵している自分がいた。親友としてこんなことを思うのは申し訳ない。

でもイグナシオがもしロザンナを選んでいたら...あたしは耐えられなかったかもしれない。自分達三人が「子供時代の親密な仲間」だったからこそ...。

「あいつさあ、なんかすごく素っ気なくて不愛想になっちゃって。あれじゃあ別人よ!感じ悪いったりゃありゃしないわ。...まあ、それでこっちも踏ん切りがついたけどね。こんな人だったら付き合わなくて良かったって」

イグナシオがハートドロップを飲んだことについて彼女は知らない。いや、知っていたら元に戻ってと彼に懇願したかも...。

...だけど自分には...イグナシオの内面が大きく変わったようには思えないのだった。むしろそう思えてしまえたらどんなに楽だろう...。

ロザンナのように「別人」と思えて心も離してしまえたら...。

確かに以前のイグナシオなら、子供の頃の二人の関係を無視して別の相手を紹介してくることなど考えられなかった。

でも昔に戻れとは言えない。

父が彼に背負わせた重い運命をあたしはわかっている。

そしてその運命を共には背負えない間柄にあることも。

結局は、彼の残酷な提案を受け入れることも、今の自分達には必要なことに思えた。

「...まあ、お話してから考えるわ。大事な友達だからこそ紹介したいってイグナシオも言ってたから」

「そっか。きっかけは何にせよ出会いの幅を広げるのはいいことだからね。あんた特に頑ななところあるから、ちょっと心配してたんだ。プラマー家のお坊ちゃん、気が合うといいね!」

ロザンナは行動や物言いが率直だから誤解されやすいところもあるけれど...逆にそういうことろが付き合いやすくもあった。今のロザンナの励ましは有難かった。

「ありがとう、ロザンナ

「じゃあ、頑張って!あとで結果聞かせてね!」

気づいたらロザンナの恋人、オスカルがやってきていたので、ロザンナは笑顔で手を振って去っていった。二人は付き合いだしたばかりだったが順調なようだ。

 

「カレンちゃん...だよね?ナトルの時は殆ど話したことなかったけど...改めて、ヨロシク!」

「サンチャゴ君...イグナシオからお話は良く聞いてるわ。こちらこそ...よろしくお願いします」

明るく元気な人。それが彼の印象だった。子供時代の腕白振りは影を潜めていた。話題の選び方にも気遣いを感じたし、イグナシオが「大事な友人だからこそ紹介したい」そう言った理由も解った気がした。

だけど...

イグナシオと初めて出会った子供時代の思い出を振り返ると...。

彼が話しかけてくれた時の安堵感、一緒に時を過ごした心地よさ...それに勝る感覚は得られなかった。

これから何度かお会いしたら気持ちも変わるのかしら...?

けれど自分の直感は否と告げている。

 

「サンチャゴ君とお会いしてみてどうだった?」

帰宅してから、父は心配そうに尋ねてきた。

エルネア杯開催期間のこともあって、父は最近ずっと帰宅時間が早い。

なるべく親子二人で夕食を取ろうと気遣ってくれているのが感じ取れた。

「...ええ、まあ、とても気さくでいい人よ。」

「そうか。ジャスタス君はガチガチの堅物だが、同じ山岳長子でもやっぱり違うんだな。婿殿としては付き合いやすいかな」

父はポムの火酒を飲みながら笑っている。まるでもう縁組が決まったかのように。

だけどあたしは...。

 

「あの...」

エルネア杯の決勝戦の日。

父の応援に向かおうとした先に、奏女の服装をした女性に声をかけられた。

「あなたに奏女の後任として神殿勤めをお願いしたいのですが、いかがですか?」

...あたしに?

奏女になれば神殿に居を構え、親の世帯からは完全に独立することになる。

つまり、父は一人であの広い魔銃導師居室に残される。たとえいつか奏女を辞しても、父のもとへ戻ることはもうない。

父のことを思うと少し胸が痛んだ。

一方で、たとえようもない解放感が心に広がる。

自分が望むことがはっきりと形になった気がした。

「これもシズニのお導き。喜んで承ります」

迷いなく、しっかりと声が出た。

「...そうですか。それではさっそく参りましょう」

彼女に導かれ、あたしはシズニ神殿に足を踏み入れた。

神殿の静謐な空気に心が落ち着く。今はここが自分の望む場所だった。

「シズニの神よ、ここに新たな担い手が参りました。どうかその教えの光で、新たな担い手をお導きください-」

奏女と自分のふたりだけの空間。彼女の声が荘厳に響く。

その瞬間、空から光が降り注いだ。一瞬だけ、そこにシズニ様が本当に降り立ったような気がした。

胸の前に組んだ手に力を込めて、いらっしゃるはずの神様に祈りを捧げる。

-どうかシズニ様、あたしを導いて しばらくは あたしの想いを守らせてー

気づいたら、視界がヴェールに覆われていた。服装も奏女の長いローブに変化している。

「...これで引き継ぎは果たされました」

目の前には 前任者だった女性が国民服を着て立っている。

先刻まで彼女に漂っていた神秘性は消え失せ、ありふれた普通の女性に戻っていた。

「...良かった。中々引き継ぐ方が見つからなくて...。先ほど貴女を見かけて、直感でああこの人だ!って思ったんです。奏女でいる間は、少しシズニ様から神秘の力を分けていただけるようで...一番相応しい方を自然に見つけられるようになるんですよ」

...奏女に相応しい女性とは即ち、恋人がいないか、いても関係が浅い者。

意中の相手と相思相愛の人間が選ばれることはまずないー。

...人によっては選ばれたことに憤るかもしれないが、自分にとってはむしろそれが有難かった。

「これもシズニ様のお導きですから...。ご退任を選ばれたということは、ご結婚なさるんですか?」

「ええ!彼がプロポーズしてくれたんです!とても嬉しくて...」

女性は頬を上気させていた。この上もなく幸せそうだった。

「おめでとうございます。愛する方と結ばれることは幸せなことですものね...。今後もシズニ様のご加護がありますように」

「ありがとうございます!では、よろしくお願いします」

女性が立ち去った後、神殿にたった一人で残された。けれど寂しさは感じない。

その時、王立闘技場の方向から歓声らしきものが聞こえてきた。

 恐らく、父の四回目の優勝が決まったのだろう-。

結局、何も言わずに家を出ることになってしまった。

父が望んでいた花嫁としての旅立ちではなくー。

 

「カレン...父さんは驚いたぞ」

緑色の勇者服に身を包んだ父が、間もなくして神殿にやってきた。

「父さん、ごめんなさい...。こんな形で家を出ることになってしまって...。

父さんを一人にしてしまって...」

「いや、そんなことはいいんだ。別に...。今まで通り、研究と探索の日々さ。むしろ一人のほうが気楽なくらいだよ。ただ...」

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父が何を言いたいのか解っていた。

「サンチャゴ君とのことは...いや...彼のことだけじゃない。お前はこれから...」

「しばらくは...シズニ様にお仕えしたいの。それがあたしの望みなの。お願い、あたしの望むままにいさせて。父さんなら...解ってくれるでしょう?」

父さんはずっと好きなことをしてきたでしょう?あたしと父さんはよく似ているの。望まないことは出来ないの、自分の気持ちに嘘はつきたくないのー。

「カレン...。そうか、解った...。お前の望むようにするといい。」

父はそういいながら俯いて、目頭を押さえていた。それから顔を上げてあたしを抱きしめる。

「生きている間には恐らく...お前の素顔を見れないかと思うと寂しいよ...。だが...こんな駄目な父親だが...お前の幸せを一番に望んでる。それを忘れないでほしい」

「ありがとう、父さん...そして、勇者様。どうかご武運を...」

抱きしめてくれた父の胸に温かさを感じながら、これからの自分の幸せとは何かを、改めて考えた...。

 

今年の星の日は神殿で迎えることとなった。

年に一度の感傷的で美しい情景とあって、この日に結婚を誓う恋人達も多く、庭のあちこちでは愛を語らう声が聞こえる。

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香水を作る手を少し休めて空を見上げた。
ワフ虫が輝きながら舞う風景は、子供の頃から全く変わらない。

 

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「ほら...こうしてるとね...お星さまが空から降って来るみたいじゃない?」

「ほんとだー」

2年前の記憶が蘇る。

あの時は何も知らない子供だった。

あの時待ち望んでいた「2年後の白夜」は明日...。

 

あの時願いたかったこと。

イグナシオとずっと一緒にいたかった。

でもそれは...願ってはいけないことだったの。

 

イグナシオ。あなたは今どこにいるのかしら...。

きっとオリンピアさんと一緒にこの光を見ているでしょうね...。

明日の願い事は...もう決まった?

 

あたしは...

願ってはいけない想いだと解っていたとしても

二年前のあの気持ちを大事にしたいの。

あの時待ち望んでいた明日が来るまでは...。

誰にも気兼ねすることなく、自由な心で。

今あたしは確かに、幸せを感じてる。

誰にも解らないだろうけど...それでいい。

 

暗い空の中、「星」が泳ぎ舞う様は永遠に続くようで,

あたしは暫く 空をずっと見上げていた。

舞うワフ虫たちの遠く向こうに 本当の星が輝いている。

恋人たちの声は もう耳に入らなかったー。

 

*************************************************

翌日の夕刻、父は危なげなく龍騎士となった。

やがて夜の刻が訪れても、空はしらじらと明るい。

今こそが白夜の時間。今こそ願いを込めるとき。

神殿の庭でひとり、空に祈ったー。

 

イグナシオ。

どうかあなたが進む道に 光がありますように...。

そしていつか...あたし達がガノスに召されても...

遠い子孫のどこかで...また運命が繋がることを...願ってもいいかしら...?

一生あなたを思って生きる気はないわ。

それはあなたを苦しめることになるから...。

いつかあたしは再び 他の誰かを愛するでしょう。

四年後の白夜にはきっと 違うことを願ってる。

でも今は...。

 

空の彼方で 一瞬何かが輝いた気がした。

 

*************************************************

2年後の211年。

あたしは同級生のマヌエル・ストルイピンと結婚した。

彼はあたしが奏女になった後、奏女居室に足しげく通ってくれた優しい男性だった...。

 

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それから間もなくして長男にも恵まれた。

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自分の一生は、今は新しい家族とともにある。

 

やがて息子も成人し、旅人の女性と結婚したいと言い出した。

夫は難色を示したけれど、あたしの答えは一つだった。

「ねえマヌエル...。あたしにだって旅人の血が流れているわ。

愛する人と共にあること、それ以上の幸せなんてないの。二人を祝福してあげましょう」

「カレン...」

 

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そう、心から愛する人と共にいれること。

それに勝る幸せなんてない...。

 

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-38年後ー※地球換算114年後

エルネア歴 249年

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「ねえサーザ君、知ってた?母さんのひいお祖母さんね、あなたのコロミナス家のご先祖の妹さんだったのよ!私にも英雄ファーロッド・オブライエンの血が流れていたの」

「え、マジで?」

「ほら、この家系図見てみて。ここのところ。私のご先祖様の一人が、カレン・ストルイピン。サーザ君の山岳のご先祖様...マグノリア・コロミナスさんの妹でしょ?」

「ほんとだ。だけどヘイリーのご先祖様、20歳で亡くなってるんだ...短命だったんだな。気の毒に...。」

「そうね...。だけど短くても幸せな人生だったかもよ。それにしても...わたしたちも婚約するまで色々あったけど、こうして遥か昔にご先祖様が繋がってたなんて...不思議な縁だね」

「ヘイリー、そうだね。ご先祖様の為にもこの縁を大事にしていきたいね。

これからも、ずっと...。君と一緒にいられることが、オレの幸せだから...」

 

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星に願いを・終

 

☆最後までお読みいただいてありがとうございました!

obriens185.hatenablog.com

イグナシオ番外編:星に願いを(中編)

成人まではあっと言う間だった。

カレンは子供の時の印象そのままに、透けるような白い肌と大きな黒い瞳の美しい女性に変わっていた。

成人してからは、おれはカレンとは数えるほどしか接触していない。

「成人の記念に」と祖父がおれたちを遺跡に誘ってくれたときと...

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もう一回は、祖母が亡くなった時だった。

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カレンは5歳にして大事な母親を喪うことになった。

打ちひしがれたカレンの様子は見ていてとても痛々しく、おれは言葉をかけるべきかどうか迷っていた。

「カレン...」

そう一言しか言えずカレンの肩に手を置くと、振り向いたカレンは涙を浮かべた顔でおれを見つめてから、そのまま胸に飛び込み、肩を震わせて号泣した。

カレンはおれの胸の中で泣きじゃくるばかりだった。

皆の前でこんな姿を見せていいのだろうかー。

その迷いと、既に付き合っているオリンピアの顔が頭に浮かんだが、それでも目の前で悲しみに打ちのめされているカレンを引き離すのも忍びなく、おれはただカレンの頭や背中を軽く撫ぜ、落ち着かせようと努めることしかできなかった。

 

翌日の葬儀の時も、カレンの背負う悲痛さはそのままだった。

すぐ上の兄のグラハムはまだ独身だったが、騎士隊所属となり家を出たばかり。

父親ーおれにとっては祖父のファーロッドは多忙を極める魔銃導師。カレンと接する時間は大して持っていだろう。

成人まもない不安な中で、母親を喪うということはどれだけの傷となったかー。

 

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しかし、これ以上おれがカレンにしてやれることは、今のところ何もないのだった...。むしろ、下手な接触は子供時代の傷をぶり返すだけだ。

祖母の葬儀の日を最後に、おれとカレンはお互い顔を合わせることがなかった。

 

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マグノリア、君の妹と向こうの長男の縁組はどうかって、プラマー家から内々に打診があったんだけど...」

「まあ、カレンちゃんと?」

「うちはイグナシオの結婚が決まったが、向こうのサンチャゴ君の婚活は芳しくないそうで、母親のジャンナはちょっと焦っているらしい。彼女は結構こっちをライバル視しているようだから...」

祖母の死から幾日か経過した朝食の時、父がそんな話を持ち出してきた。

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山岳家にとって一番恐ろしいのは家系断絶だ。なので自分の家の長子が婚活にあぶれない様、様々なネットワークを駆使して相手を見繕うのは良くある話だった。

「そうね、カレンちゃんなら成績も良かったし、何よりも斧使いだものね。山岳家...合ってるかもしれないわね...。あの子はあんなに可愛いんだから、本当ならもうとっくに誰か特定の相手がいてもおかしくないのに。母さんも亡くなる間際まであの子のことを心配してたわ」

その言葉で少し胸が痛んだ。自分たちがお互いの関係について、どういうものかもっと早くに理解して弁えていれば、カレンのほうこそもっと早く別の相手と婚約していたかもしれない...。

 

「だから...もし良かったらお義父さんに、君のほうから話をしてみてくれないか?といっても...俺達の時だってあれだけもめたんだ、お義父さんが簡単に首を縦に振るとは思えないけどね」

「あらお父さん、この頃は随分丸くなったと思うわよ。きっと大丈夫よ。でも一応話してみるわね。ねえイグナシオ、あなたサンチャゴ君ともカレンちゃんとも仲良いじゃない?とりあえず先に森の小道まで仲人してあげてよ!それで仲良くなっておけば、たとえお父さんが反対したところで既成事実になるし」

母の目は生き生きと輝いていた。実は母は「仲人」行為が大好きなのだった。伯父夫婦ー、つまり自分の兄と親友を結びつけたのは自分だ!と事あるごとに得意気に話していた。ちょっと前も叔父のルシアーノの婚活を手伝ったが、結局は叔父は自力で相手を見つけていた。リベンジに再び誰かのお節介をしたくてうずうずしていたようだ。

「既成事実?いいのか?俺みたいに龍騎士銃で吹っ飛ばされるはめになるんじゃない?」

...両親が結婚の約束を交わした際、激怒した祖父に父は呼び出され、練習試合という名の決闘に付き合わされていた。結果は父本人が語る通り、龍騎士銃に吹っ飛ばされてあっけなく終わりだ。

「そんなこともあったね。わかった!イグナシオ、一応サンチャゴ君にそのことも伝えておいてよ。それで怖気づくようだったらそもそも親戚付き合いもままならないしね」

「うん...解ったよ...」

正直、このおれがどの面をさげてカレンを森の小道に誘えるのか...と思ったが、サンチャゴはいい奴だ。

山岳六家の中でも常に上位につけてきたプラマー家の跡取りだけあってプライドが高い所はあるが、情には篤い男でもある。もしカレンを妻にすることになれば、きっと大事にしてくれるだろう...。

 

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そういえば、一つ年上のアシエルがカレンを紹介してくれと煩かったが、こいつは女にだらしない札付き野郎だと解ってからは却下しているんだった...。サンチャゴには少なくともそうところはなさそうだから安心だ。

おれはとりあえず、サンチャゴに話をしてみることにした。

 

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「カレンちゃん?ああ、お前の親戚の子だよな。覚えてるよ、可愛くて大人しい子だった。あの時はお前といつも一緒にいたから、俺はてっきり「そういうこと」だと思ってたよ。だから近づかなかったんだ。内心お前には結構ムカついてたけどな!なんでこいつの周りには可愛い子ばっかり寄ってくるんだって..。結局お前凄い美人と婚約してるし、羨ましいよ、その女運!」

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女運...果たして良いことになるんだろうか。勿論おれとオリンピアを結びつけてくれた運命には感謝しているが。

「カレンは...妹みたいなものだよ。戸籍上では叔母さんになるけどね。で、どう?この話」

妹みたいなもの。

それは嘘だった。少なくとも過去においては。だけどこのまま時が過ぎていけば、本当にそういう風に思えるようになるかもしれない。

「...いやー、そりゃ勿論...。有難いよ!お前にだから言うが、ぶっちゃけこのままじゃ結構ヤバイかもって思ってたところでさ...。まあ、会って話してみないことには何とも言えんが、とりあえず世話にならせてもらうわ!」

 サンチャゴがそれなりに乗り気なようでホッとした。しかしもうひとつ大事な話が残っている。

「良かったよ...。だけど、ひとつ言っておかないといけないことがあるんだ」

「へ?何だ?」

サンチャゴはサラダをもぐもぐ頬張りながら聞いてきた。

「コロミナス家としてはこの縁組を勿論応援したいんだけど、肝心のオブライエン家の当主は...つまりおれの祖父なんだけど、ちょっと山岳家に対して厳しい所があって、もしかしたら...お前の実力を見たいとかいって...決闘をふっかけるかもしれない...そういうの...大丈夫?」

「決闘?お前の祖父さんって...あの「龍騎士殿」だよな!」

サンチャゴは驚いた様子だった。

 「うん。うちの父さんなんて、母さんと結婚する時龍騎士銃で吹っ飛ばされたって」

「まじか!兵団長を...ほえー...。」

これを聞いても果たして良いと言えるのか。こいつが余程マゾヒスティックな人間でもない限り、駄目なような気がしてきた。

が、回答は予想外だった。

「いいじゃん!」

「え?」

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「エルネア杯四連覇に王手を掛けてる大英雄と手合わせできるなんて、こんなオイシイ話、そうそうないじゃん?俺面識ないし、大体実力がダンチから俺から練習試合なんて申し込めない。それが向こうから来ていただけるなら、願ったりだよ!」

只今エルネア杯の真っ最中。サンチャゴは13日の祖父の試合を観て、その戦いぶりにすっかり魅了されていたのだった。

「手合わせというか...悪いけど...そもそも吹っ飛ばされて終わりだと思うけど?」

「あたぼうよ!」

サンチャゴはテーブルを勢いよくばん、と叩いた。

「今だって、お前とやり合って二回に一回は吹っ飛ばされてる。吹っ飛ばされるのが怖くて戦士の称号を名乗れるか!龍騎士様だって何だって、どんと来い、だぜ!」

そうだった。

コイツは超がつくくらい前向きで、タフな男なのだった。単純で脳天気とも言えるが。

 でもまあ...このくらい元気な方が、むしろ繊細なカレンには合ってるかもしれないし、祖父も意外と気に入るかもな。父は完璧な優等生だったから余計に鼻についたのもあるだろうし。

「わかった。じゃあお前が祖父ちゃんに吹っ飛ばされた時には手当てしてやるよ。」

「おう!宜しくな」

話の中心がカレンとの縁組なのか祖父との対戦なのか解らなくなってきたが、とりあえずサンチャゴとは話がついた。あとはカレンと話をするだけだ。むしろこっちのほうが気が重い...。

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「カレン...今ちょっと、話をしてもいい?」

「イグナシオ、久しぶりね。...あぁ、遅ればせながら、婚約おめでとう。オリンピアさん...だったっけ?とても綺麗な人ね。学舎ではあまり見かけなかったから面識はなかったけど」

薬師の森で採取をしていたカレンに声をかけた。この時期の新成人はたいてい目当ての異性と来るものだが、彼女は一人のようだった。

「ありがとう」

「「叔母として」お祝いを言わせてもらうわ...。で、どうかしたの?話って」

カレンは笑顔だったが、心の奥底はそこからは見えなかった。

聞くのは気が引けたが、とりあえず聞くしかない。

「今...付き合ってる人とか、気になってる人とか...いる?」

カレンは真顔になった。

「...いいえ」

むしろここで、誰か既に恋人か、好きな異性がいると答えてもらう方が気が楽だった。サンチャゴには申し訳ないが。

しかしその期待は裏切られた。もうこのまま突き進むしかない。

「あのさ...おれの友達で、カレンに合いそうな奴がいるんだけど、一度会ってみない?おれと同じ山岳兵のサンチャゴって奴。同級生だったから知ってるかな?良かったら今度、森の小道で引き合わせるから」

「ああ...顔と名前くらいは知ってるわ...」

カレンはおれの顔を、昔と変わらぬ大きな黒い瞳でじっと見つめてきた。

おれがカレンに友人を紹介することが彼女にとって残酷となるかどうか、今のカレンの気持ちが見えない以上何ともわからない。

だがたとえそうであったとしても、昔に戻れない以上どうしようもない。それならば前に進む可能性がある選択肢を提示するほうが、いくらかましに思えた。

「おれが言うのもなんだけど...いい奴だよ。だからカレンに紹介したいと思ったんだ」

「そう...」

カレンは下を向いて少し沈黙した後、顔を上げて再び笑顔を見せた。

「解ったわ。じゃあ、とりあえずお会いしてみようかしら」

「良かった。じゃあ明日昼一刻に、森の小道の前で」

...気の重い任務の第一段階がとりあえず終わった...。

 

「二人に話したらOKもらったよ」

「良かった!私もね、今日父さんに会ったついでにサンチャゴ君のこと話してみたのよ。そしたら父さん構わないって!」

夕食時、とりあえず引き合わせが決まった旨を母に告げると、母からも意外な返事が返ってきた。

「あのお義父さんが!?一体どういう心境の変化で?」

父は食事の手を止めて驚いていた。

「むしろプラマー家なら姉であるお前も近くにいるから安心だ、だって!サンチャゴ君吹っ飛ばされずに済みそうよ」

「...逆に俺は吹っ飛ばされ損ってわけか...」

父は納得いかなそうだ。母はそんな父の肩をポンポンと叩いた。

「私たちが上手くいってるから父さんも山岳家との縁組を理解してくれるようになったのよ、そんなに、すねなさんな」

「...だといいけどね...」

結婚時の大騒動を乗り越えて、両親がとても仲の良い夫婦なのは事実だった。

サンチャゴとカレンも、この二人のような夫婦になってくれればいいけれど...。

とりあえず今確実なことは、サンチャゴと祖父との「手合わせ」は無くなったということだけで、サンチャゴとカレンはどうなるかは未知数だ。

 

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翌日、森の小道で二人を引き合わせた。

一応同級生ということでお互い面識はあったので、紹介自体はスムーズだった。

しばらく三人で雑談した後は、おれは一歩後ろに下がって二人に会話させることにした。

サンチャゴが一方的にベラベラ話しているのが気になりはしたが、もともとカレンは人見知りだし、口数が多い方ではない。とりあえずサンチャゴの話を聞きながらカレンは笑い声を出している。初回としてはまあ良い反応なのかもしれないー。

 

「うん、まあ、品のいい子だな。ちょっと緊張してるのかな?って気はしたけど、二人で話すのは今回初めてだから仕方ないかな。もう数回会ってみてもいいよ」

小道での散策が終わった後、サンチャゴにどうだったか聞いてみたらこう返ってきた。

意気投合!とまでは行かなかったのが残念だが、カレンの性格を考えれば時間がかかるのは仕方ないかもしれない。

「そうね...とても明るくて元気な人ね。こちらが圧倒されるくらい。次回?サンチャゴさんが望まれるんだったら...お会いするわ」

カレンの返事も似たようなものだった。

とりあえず、お互いの印象自体は悪くないようだから、もう少し回数を重ねれば距離が近づくのを期待するか...。

 

しかし、数回の小道散策が終わったところで、その期待は望まぬ形で終わることとなった。

エルネア杯決勝の日。

いつもなら祖父の応援に来ているはずのカレンの姿がない。

祖父が危なげなく決勝に勝利した後、「奏女交代」を告げる大きな鐘が鳴り響いた。

「このタイミングで奏女交代?」

「新しい奏女は誰?」

決勝に来ていた観客達からもザワザワとした声がした。

悪い予感がした。

祖父に祝福の言葉を告げた後、神殿前の掲示板を確認に走った。

そこに新しい奏女として書かれていた名前は

「カレン・オブライエン」

 

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 カレンは祖父を一人導師居室に残し、奏女として独立したのだった。

交際未満の相手がいる状態で奏女を引き受けることは、ある意味相手に対する拒絶とも取られる行為だったー。

 

(続く)

 

毎度毎度長々とすみません

 最後までお読みいただいてありがとうございます。

次で終わらせます!

 

イグナシオ番外編:星に願いを(前編)

※またまた唐突にすみません。カールが旅立って話がいったん落ち着いたので、流れ的に本編に入れられなかったエピソードを...。文中の「台詞」と語り口調でイグナシオの一人称が「ボク」と「おれ」に乖離しているのは、大人になったイグナシオが「回想」しているという設定のためです。一応補足まで...。

初めてカレンと話をしたのはいつだっただろうか。

...確かアルシアお祖母ちゃんが「うちに泊まりにおいで」と声をかけてくれたのが最初だった気がする。

両親と離れて泊まりにいくなんて初めてだったので、おれはドキドキしていた。

母に連れられて魔銃導師居室を訪ねると、ガイスカ叔父さんが笑顔で出迎えてくれた。

「やあ、よく来たねイグナシオ」

「こんにちは...」

緊張して挨拶すると、ガイスカ叔父さんの後ろから女の子がひょこっと顔を出した。

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その子の大きな黒い瞳はガイスカ叔父さんによく似ていた。真っ白な肌色と燃えるようなオレンジの髪はお祖父ちゃん譲りだ。

「あら、カレンちゃん、歩けるようになったのね。こんにちは!」

母がその子に声をかけた。

カレンと呼ばれたその子は母の年の離れた妹で、おれと同じ年に生まれたのだった。

娘の子供と同級生になる子を産んじゃうなんて...って、いつか祖母は恥ずかしそうに母に語っていた。

「こん...にちは...」

その子は小さな声で応えた後、またすぐに叔父さんの後ろに身を隠してしまった。

「カレン、大丈夫だよ...お姉ちゃんとその子供のイグナシオだから。姉さん、イグナシオ、御免ね。この子はすごく人見知りするから...」

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「そうなのね!恥ずかしがり屋さんなの。可愛いわね。カレンちゃん、この子...イグナシオは意地悪しない子だから安心してね。仲良くしてね」

母がそう言ってカレンに笑いかけると、カレンは母をその大きな目で見上げてこっくりと頷いた。その控えめな仕草が何とも可愛く思えた。

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「あらイグナシオ、いらっしゃい!お祖母ちゃん、お菓子たくさん用意してるよ。夜にはお祖父ちゃんも探索から帰ってくるからね」

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「おー!イグナシオだ-!遊ぼうぜー!」

祖母と叔父二人もやってきた。

「お母さん...今日一晩イグナシオがお世話になります。これ、私たちで焼いたピザ、良かったら、みんなで食べてね」

母はランチボックスから7枚に高々と積み上げたピザを取りだして、祖母に手渡していた。

「うっわー!おいしそー!」

叔父たちが歓声をあげる。

「まあマグノリア...悪いわね。それじゃあこれは夜にみんなでいただきましょうね。イグナシオのことは任せて。今日はジャスタス君と夫婦水入らずで過ごしてね」

「ありがとう...夜はお義父さんたちがいるから水入らずじゃないけどね。お言葉に甘えてデートでも誘ってみようかな。じゃあ、イグナシオ、明日また迎えに来るからね。いい子にするんだよ」

母はそう言っておれの頭を撫でる。

「う...うん、わかった!ボク、いい子にしてお祖母ちゃんたちといる!」

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本当は母と離れるのは不安だったけど、強がって笑顔で返事をした。母は安心したようで、みんなに手を振って帰っていった。

 

母が帰った後は、年の近い叔父二人ーマティアスとグラハムと一緒にカード遊びをした。カレンはおれたちの輪に入らずに、祖母とガイスカさんの側にくっついて遠くからチラチラと見ていた。

おれは遊びながらもカレンのことが気になったので、勇気を出して声をかけてみた。

「カレンちゃんも...いっしょにやる?」

「ん...」

カレンは頭を左右交互に揺らして迷った仕草をしていた。こちらに来る様子はない。

ちょっと迷ったけれど、もう一段階勇気を振り絞ることにした。

おれは立ち上がり、カレンのほうに歩み寄って手を取った。

「いっしょにやろうよ!」

「やりかた...わからない...」

それは小さな小さな声だった。でも、呼びかけに答えてくれたのが嬉しかった。

「だいじょうぶ!」

おれはカレンの手を引っ張って、叔父たちの所に連れていった。

「ボク、おしえてあげるから!」

カレンはびっくりした様子だったけれど、おとなしくついてきてくれて、おれの横にちょこんと座った。

「さいしょは、ボクと二人一組でいっしょにやろう。...じゃあ、カレンちゃんもカード一緒に持ってね」

「うん...」

カレンはおれが差し出したカードを素直に受け取って頷いた。

「あらあら、イグナシオはカレンのお兄ちゃんみたいね」

「カレンはマティアスとグラハムが誘っても今までカード遊びの仲間に入ったことがなかったんだよ..。凄いね、イグナシオ」

お祖母ちゃんとガイスカさんがびっくりしていた。

カレンはおれに気を許してくれたようで、カード遊びが終わっても、おれの側から離れなかった。そのあとは、二人一緒にガイスカさんに絵本を読んでもらったり、積み木でお城を作ったりして遊んだ。

「そろそろ、子供は寝る時間ですよ」

祖父が帰ってきて皆でピザを食べた後、祖母がベッドに入るよう促してきた。

そのとき、カレンはおれの手をぎゅっと握ってきた。

「まあ、カレンちゃん、イグナシオと寝たいのね。いつもはわたくしやガイスカお兄ちゃんにくっついてくるのに。イグナシオ、今晩はカレンちゃんと寝てあげてくれる?」

「うん...」

おれも寝るときはいつも母にくっついている。まだ兄弟がいないので同じくらいの年の子と一緒に寝るのは初めてだった。顔を合わせてベッドに入るのはちょっと恥ずかしかった。でも祖母が歌う子守唄が心地よくて、いつの間にか眠りについてしまった。カレンはずっとおれの手を握ったままだった。

「今日が初対面なのに二人は随分と仲がいいようだね。まるで兄妹みたいだな...」

「そうね。本当は「叔母と甥」なのにね...。」

祖父母がおれたちを覗き込んで話す声に一瞬目が覚めたけれど、またすぐ眠りに落ちてしまった。

-ねえおばあちゃん、「おばとおい」ってなに?-夢の世界に戻る前にそんな言葉が頭に一瞬浮かんで消えた。

「叔母と甥」。その言葉の意味がまだ、当時はわかっていなかった。

今思えばその時に、はっきりと聞いておくべきだったのだろうか。

 

「お父さんお母さん、ガイスカ君たちも、昨日はありがとう!」

「すみません、昨日はイグナシオがお世話になりまして...息子は悪戯などしなかったでしょうか?」

翌朝になり、朝食後両親が迎えにきてくれた。

「大丈夫よ、イグナシオはずっといい子にしてたから。子供たちもイグナシオが来てくれて楽しかったみたいだし。」

「イグナシオ、またいつでも遊びに来るといい。」

「うん、おじいちゃん、おばあちゃん、みんなもありがとう」

祖父母から両親に引き渡されて帰ろうとしたその時だった。

ふと祖母にくっついているカレンの顔を見ると、目に涙を浮かべていた。

「あらあらカレンちゃんたら、すっかりイグナシオが気に入ったのね」

祖母が気づいてカレンの頭を撫ぜた。

「まあ、一日でそんなに仲良しになっちゃったの!イグナシオ良かったね、遊ぶお友達が増えて」

「じゃあ、今度はカレンちゃんが山岳の家に遊びに来るといいよ。山の家はここより標高が高いから星が綺麗に見えるよ。ぜひおいで」

父が笑いながらカレンに手を差し出した。強面の父にカレンが怯えるのじゃないかとドキドキしたが大丈夫なようだった。カレンはおずおずとしながらも父の手を取った。

「...ほんと?」

「本当だよ。これからもイグナシオと仲良くしてね」

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 涙を浮かべていたカレンがぱあっと笑顔に変わった。まるで花が咲いたような笑顔だった。

その様子を見て、おれもなんだか嬉しくなった。

「じゃあね、カレンちゃん、またあそぼうね!」

おれが手を振ると、カレンもおずおずと手を振り返してくれた。

それから、カレンとおれは互いの家を行き来して、「お泊り」をする間柄となった。

特におれの住む「山岳の家2」の窓やニヴの丘から、一緒に星を眺めるのが二人の楽しみとなっていた...。

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「ワフ虫がお星さまみたいだねー」
「ねえ、ここに寝っ転がってみて」

「うん」

「ほら...こうしてるとね...お星さまが空から降って来るみたいじゃない?」

「ほんとだー」

初めて出会ってから三年。おれたちは4歳になっていた。

星の日。おれとカレンはニヴの丘の草原の上に横になって、輝きながらふわふわと漂うワフ虫をじっと眺めていた。暗い藍色の空の中、一面に漂うワフ虫の光が眼前に広がり、本当に星の海の中にいるようだった。

「イグナシオ...知ってる?星の日は昼間なのにお外が暗い日じゃない?だけど反対に四年に一回、「白夜の日」って言って...夜でもお空が暗くならない日があるって...」

「知ってる...確か、祖父ちゃんが龍騎士になったときがそうだったよね」

「お祖父ちゃん?ああ...お父さんのことね。そうそう、その日。お空が暗くならないのは...お陽様とは別に、特別に明るく輝くお星さまが現れるからなんだって」

「そうなんだ...」

「それでね...そのお星さまにお願い事をすると叶うそうなの。ガイスカお兄ちゃんに教えてもらったんだ」

「う、うん...」

「白夜の日...あと何年したら来るかな?」

「こないだが...二歳の時だから...二年前。四年にいっぺんだから、あと二年かな?」

「あと二年...?そしたら、あたしたち...もう大人になってるね。ねえイグナシオ...」

カレンは空から俺の顔に視点を移してきた。黒い大きな瞳に近くでじっと見つめられて、おれはどうしていいかわからなくなった。

「な、何?」

「イグナシオは...その時、何をお願いするの?」

「え、えっと...」

大人になったときのことなんて今言われても正直解らない...でも、今なら...。

言いたいことはあったけど...恥ずかしくてとても言えず、おれは口ごもった。

「あたしはね...」

カレンがおれの手をぎゅっと握ってきた。初めて祖父母の家に泊まったあの日のときのように。

「イグナシオと、ずっと一緒に...」

その時だった。

草原をサクサクと踏みわけて駆けてくる音がした。

「あ、カレンとイグナシオ、ここにいたー!ねえねえ、大人の人たちにお菓子をもらいに行こうよ!」

おれたちと同級生かつ仲良しのロザンナだった。既に星の日用の葉っぱの仮面をつけている。エナ様に扮してお菓子をもらいまくる気満々のようだ。

「ふたりとも、お面つけないと、ダメじゃん!お菓子もらえないよ!」

「あ、うん!」

おれは起き上がって慌てて傍らに置いていた仮面をつけた。

「ほら、カレンも行くよ!」

ロザンナに腕を引っ張られてカレンも起き上がった。ちょっと不服そうな顔をしていた。

さっきカレンが言いかけた言葉の続きを聞くべきだったのか...聞かなくて良かったのか...。

きっと聞かなくて良かったんだ。自分とカレンの関係を理解したときからおれはそう思っていたけれど、カレンにとってはどうだったのだろうか...。

※カレンはデフォルト設定だと両親のことを「父ちゃん」「母ちゃん」と呼ぶ性格ですが、流石にこの場面にそぐわないので...きっと学校入学前の「幼児」の時だけこの呼び方だったのでしょう(^^;

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年が明け、とうとうおれたちは最終学年になった。

あと一年で成人ー、ということで、皆それぞれに大人になった時のことを自然と考えるようになっていた。

自分たちの将来...それはもちろん「就きたい仕事」に関することもあったけど、やっぱり...皆の関心事の大部分は...「誰と一緒になるか」だった。

仲良しの異性がいる者は、自然とその相手との将来を意識するようになっていた。

おれがその時心に描いていたのは...勿論カレンとの未来だった。

だけど...。

「ねえイグナシオ、大人になったら、あたしと結婚しない?」

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そんな流れに乗って、ロザンナが単刀直入に言ってきた。

ロザンナとは仲良しだったけど、「一番大好きな将来の相手」とは思っていなかった。

おれは正直に自分の思うことを言うことにした。

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 「ごめんね...ロザンナちゃん...ボクはカレンと...」

「あたしも...イグナシオがいいな...」

カレンと二人でそう言った瞬間、ロザンナは呆れた顔をした。

「え、何言ってるの?カレンとイグナシオは結婚できないじゃない!

だって、カレンはイグナシオのお母さんの妹でしょ?近い親戚同士は結婚できないって、お父さんから聞いたよ!」

...え?

「お姉さんの子供...そういうのって「甥」って言うんだって!イグナシオはカレンの「甥」なの!で、カレンはイグナシオの「叔母さん」!だから結婚なんて、できないよ!」

「おばとおい」

かつて祖母が言っていた言葉はこれだったんだ...。

母の男兄弟たちのことは「叔父さん」と習ったけれど、カレンのことは何も聞いていなかった。きっと同じ年...厳密に言えばおれの後から生まれたカレンを「叔母さん」と呼ばせることは忍びなかったのだろう。

「うそ...」

カレンは一転泣きそうな顔になった。

「あたしは大丈夫だよ!あたしもイグナシオの親戚だけど、イグナシオのお母さんの「従妹」なの!それなら遠い親戚だから大丈夫だって!だからあたしと...」

ロザンナちゃんのお父さんは、イグナシオの祖母アルシアちゃんの弟、初期国民リカルド君なのです(^^)

ロザンナなら結婚できるとかそういうことじゃない...。

今重要なのは「カレンとは結婚できない間柄」ということだった。

「そんなの!本当かどうか、わかんないよ!ボク、他の大人に聞いてくるから!」

「誰に聞いたって、同じだよ!」

おれは誰か、信頼できる大人を探すことにした。

ただし、両親や祖父母には聞きたくなかった。

もし本当にそうであれば、カレンとおれのことを知られたくなかったから...。

 

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「やあイグナシオ、そんなに血相変えてどうしたの?」

信頼できる大人ー、ということで、おれはガイスカ叔父さんに聞いてみることにした。

「ガイスカさん...あのね、親戚でも「結婚できる親戚」と「結婚できない親戚」がいるって聞いたんだけど...ほんと?」

ガイスカさんは目を丸くして驚いていた。

「イグナシオ、一体どうしてそんなことを?」

「う、うん...何でもないけど...知りたくて...」

ガイスカさんならたとえ本当のことを言っても黙っていてくれそうだけど、流石に自分から言うのはためらわれた。

幸いにもガイスカさんはそこに深入りはしてこなかった。それが解っていたからガイスカさんを選んだのもあるけれど。

「...そうか、何故かはとりあえず聞かないことにしよう。結婚できる親戚と、できない親戚だよね。例えばだけど...君とロシェルやノエルは結婚できるよ。「従妹」って関係になるからね。」

ロシェルとノエルはガイスカさんの娘だった。

「姉さん...君のお母さんと私はきょうだいだから..「きょうだいの子供」同士は結婚できるんだ。だけど、きょうだい同士とか...」

ガイスカさんの顔が一瞬曇った気がしたけど、きっと気のせいだろう。

「自分のきょうだいの子供とは...結婚できない。近すぎるから」

きょうだいの子供。

それはまさに、カレンとおれとの関係だった。ロザンナの言ったことは嘘じゃ無かった。

「そう...」

これではっきりした、カレンと自分とは結婚できない。

「ガイスカさん...ありがとう...わかったよ...」

「イグナシオ...こんなことを聞いてきた理由については深入りしないけれど...、なるべく早いうちに気持ちを切り替えた方がいいよ。幸いにも、君はまだ子供だから...」

多分ガイスカさんはカレンとのことを気付いているのだと思う。

でもはっきり触れてこないでくれるのがありがたい。

もしこの時お前はおかしいとか異常だとか言われたら、きっと耐えられなくなって、全てに対して心を閉ざしていただろうから。

「こういうことを引きずったら自分が苦しくなるだけだから...いいね。」

ガイスカさんの目は真剣だった。まるで自身も同じ立場に立ったことがあるようだった。でも、ガイスカさんがカレンとのことを触れないでくれていたように、自分もそのことに触れるべきでない。それぐらいは子供心にもわかっていた。

 

カレンと自分は結婚できない。

ならばこの気持ちは、なるべく早いうちに断ち切ったほうがいい。

おれがそのためにとった処置は...カレンに会わないため「学校に行かない」ことだった。会わなければ、いつかは忘れられる...。

 

しばらく学校に行かなかったことが両親にばれて大目玉をくらったけれど、自分の頭を冷やすにはそれなりの効果があった。

学校をさぼって父親に怒られた話はこちら

 

学校に復帰した時、カレンはおれを見て何か話したそうにしていた。

でも、もうお互い何も話さないほうが良いと思った。気持ちを蘇らせないために...。

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オリンピアちゃん、遊ぼう!」

おれは図書館で知り合った女の子、オリンピアに声をかけた。

彼女と将来どうこうはまだ考えていなかったけど...一緒にいて心地よさを感じ始めていたのも事実だった。

 

そして成人後-

おれは紆余曲折を経た末、オリンピアと将来を歩むことに決めた。

その時にはもうカレンとのことは、痛みを残した思い出となっていた...。

 

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(つづく)

 

最後までお読みいただいてありがとうございます。

毎度のことながら無駄に長くなってしまった(^^;

次で...ちゃんと終わるのかコレ?

幽霊騒動。

「あっ...あねきっ!」

「あらグラハム君...こんな朝からどうしたの?」

兄カールがガノスに旅立ってから3日後。

山岳の我が家に弟が血相変えて飛び込んできた。

「で...出たんだよ!」

「出たって、何が?」

「兄貴の幽霊!」

...お兄ちゃんの?

「何言ってるの?そんなこと、あるわけないじゃない!あの兄さんが幽霊になって出てくるなんて...」

「いや、ほんとですよ。オレも見たんです、北の森にぼーっと立ってました!アレは間違いなく隊長ですよ、あのグリングリンの赤毛といい、背格好といい...」

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弟の後ろからひょこっともう一人顔を出してきた。

イグナシオの子供の頃からの友達で、今は近衛騎士隊の一員であるアシエル君だった。

「どうしよう...俺達が探索さぼってるから怒って出てきたのかな...」

二人とも剣の才はあるのに探索に行かないで遊びほうけているものだから、いつも探索ポイントは仲良く下の方を彷徨ってるのは知っていたわ。

それでも取り合えず初戦は勝つから首の皮一枚で解雇を免れているんだよね。

「あいつら、なまじ腕はあるから中途半端に勝っちまうのが始末に悪い。勝ちさえすればいいってもんじゃないのに...全く」

「困ったものだよね。こうなったら、対戦相手にヴェスタ渡して強制的に負けさせちゃう?そしたらお尻に火が付くんじゃない?」

「いや、流石にそれは公平の原則に反するだろう。にしても、あいつら、何とかしないとな...」

「お兄ちゃんとガイスカ君」=「隊長と副隊長」がよくこう言ってぼやいていたのは私もよく覚えてる。

にしても、お兄ちゃんはわざわざそんなことのために幽霊になったりするかしら?

お兄ちゃんが最後まで案じてたのは、息子のランス君とアルド君のこと。そして何よりも一人残されるアラベルちゃんのことで...。

「あんたたちの所にわざわざ出てくる程、兄さんも暇じゃないと思うよ。」

「いや、そんなことないよ!兄貴の性格上、こいつらちょっと脅かしてやるか...なんて変な悪戯心を起こすかもしれないぜ!」

「ありえますよ。隊長結構そういう所ありましたから」

...まあ、お兄ちゃんとは付き合い長いから、それも否定できないけど...それにしても...。

 

その時だった。

ガタっと足音がして、グラハムとアシエル君が振り向いたその先にいたのはー

確かにグリングリンの赤毛、青い目、近衛騎士の鎧姿...

お兄ちゃん?

「ギャーッ!!」

グラハムとアシエル君は大きな叫び声をあげてしまった。

「兄貴、さぼった俺が悪かった!だからおとなしくガノスに戻ってくれ!」

「た、隊長...すいませんすいません、これからは心を入れ替えてちゃんと探索行きますから...」

大の男二人がブルブル震えてる。情けないったらありゃしない。

わたしは、お兄ちゃんだったらちっとも怖くなんかない...ん?

「なんだ」

...そこにいるのはお兄ちゃんの幽霊なんかじゃなかった。

「ランス君じゃない」

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マグノリア叔母さん、おはようございます。イグナシオ君を探索に誘いに来たんですけど...」

「え?ランス?」

「あれお前、あの整髪剤テカテカのオールバック止めたの?」

髪形を変えたランス君は、本当に見間違うくらいお兄ちゃんに似ていた。

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「あ、はい...変ですか?」

「変っていうか、紛らわしいよ!全く...兄貴が化けて出てきたかと思ったぞ!」

「...まあとりあえず、隊長の幽霊じゃなくて、良かったっスね。じゃあ、行きますか。グラハムさん」

「おう、問題は解決したから、釣りでも行くか!そのあと酒場で一杯...」

「ちょっとあんたたち...釣りじゃなくて、せっかくなんだから探索に行きなさいよ!じゃないとほんとに兄さんが出てくるかもしれないよ」

「うわっ!そりゃまずい!しょうがない。ここは腹くくって行くしかないっすね、探索...」

「仕方ない。ゲーナでも行くか...それじゃあ姉貴、邪魔したな!」

二人は不承不承の様子で出ていった。

「全くもう...先輩たちはしょうがないね。ランス君はあんな風になっちゃだめだよ」

「大丈夫です...それこそ父さんが見てますから...。腕はまだ父さんどころかあの二人にも及ばないですけど...でもじきに追いつきたいと思ってます」

「頼もしいね。兄さんもきっと安心してるよ。それはそうと髪の毛...子供の頃はまっすぐだったけど、癖毛になってきたんだね」

子供の頃のランス君のおかっぱ頭を懐かしく思い出した。

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「そうなんです。癖が出てきたから落ち着かせようと整髪剤つけてオールバックにしててたんです。..でも無理しなくていいかなって思うようになって。父さんも自然にしてたし」

「ふふ。兄さんは最初から癖毛だったけど、やっぱり真っ直ぐに整えてたことあったんだよ。ボサボサ頭じゃ女の子にモテないからってね。毎朝一生懸命セットしてたよ。結婚してからやめちゃったけどね。」

お兄ちゃんに中々彼女ができないから、髪形でも変えてみたらいいんじゃない...?家族でそうアドバイスしたのがきっかけだった。あの時はまだ父さんも母さんも元気だったな...。あの頃のことは昨日のように思い出せるのに、もう家族のうち三人はいないんだ...。

「あの父さんが?父さん、お洒落なんて全く興味がなさそうだったのに」

お兄ちゃん、ランス君にまでこんなこと言われてるよ?聞いてるかな?

「若気の至り、ってやつだよ。それにしても、そうしてると本当に兄さんによく似てる...グラハム達じゃないけど、本当に兄さんが帰ってきたかと思っちゃった」

「...そうですか...。でも、見かけだけじゃなく...中身ももっと近づかなきゃ、駄目ですね...僕はまだまだです...父さんみたいになるには...」

「中身?そんなのいいの、兄さんみたいに下らない冗談まで言うようになったら大変だよ、ランス君はランス君のままでいいんだから、頑張ってね。じゃあ、イグナシオ呼んでくるね。」

お兄ちゃん、ランス君は心配ないから、安心してね!

今はガノスにいる兄に、そう伝えてあげたくなった。

*********************************************

「ほんとはね...マグノリアさんには恥ずかしいからちょっと嘘ついたんだけど、わざと父さんと同じ髪形にしたんだ。形から入るってわけじゃないけど...少しでも近づきたくて」

一緒に出掛けたゲーナの森で、ランスはこっそり告白してきた。

「いいんじゃない?形から入ってるうちに本物になるって言うし」

「ならいいんだけどね...。まだまだ、道のりは長いよ。取り合えず、今年は一回戦で負けちゃったから、探索ポイントを稼がないと...。今回の最低目標は残留だけど、もうひと頑張りして探索ポイントで上位につければ、来年はトーナメントで有利な立場に立てる。一つ一つ積み重ねて行こうと思ってるんだ」

こういう考え方は伯父よりランスの方が堅実な気がする。どちらかというとガイスカさんの方により近いような。姿形は伯父によく似ているけど、しっかりランス独自の個性が出ている。

「だからイグナシオ...良かったら、また探索に付き合ってもらっていいかな?」

「勿論だよ。いつでも声をかけて」

「ありがとう...助かるよ」

おれとこいつは所属する組織が違う。

山岳兵団と近衛騎士隊。

普段は共に王国を守るものとして協力体制を組んでいるが、エルネア杯では一転してライバル関係となる。

ランスも強くなり立場が重くなれば、今のように気軽に二人で探索に出ることもなくなるだろう。

近い未来、エルネア杯で互いの組織を背負って戦う時も来るかもしれないー伯父と父のように。

その時は勝ちを譲る気など勿論ない。

でも今はまだその時じゃない。

伯父さんへの恩返しとしても、友としても、おれはランスに協力したかった。

「そのうちに...瘴気の森も一緒に行こう、ランス」

「うん、是非行きたいね..あれ?それって...山岳兵は瘴気の森に入れないから、イグナシオが龍騎士になるってことだよね?」

「勿論そうだよ?当たり前じゃない?」

「兵団長だからって、随分と大きく出たね!でもその前に君は僕と魔人の洞窟に行くことになると思うよ」

ランスはおれの山岳帽子を笑いながらこづいてきた。

こんな時間は心地よかった。

いつかはこの時間に終わりが来ることが解っていても...。

 

※ほんとはカールは熟年だから白髪なんですが、染めてるので...(^^;

残される者。

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兄のガノスへの旅立ちから一夜明け、葬儀はしめやかに執り行われたー。

 

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「...ランス、喪主の大任、お疲れ様だったね。これから大変だろうけれど、兄さんは君のことは何も心配していないって言ってたから...自信を持って。困ったことがあれば私にいつでも相談してくれて構わないから...」

我ながら月並みな励ましだとは思ったが、今は自分とてこれ以上の言葉が思いつかなかった。

それでも、甥は殊勝に私の言葉を受け止め、涙ぐみながらも

「叔父さん、ありがとうございます。父の名に恥じないよう、頑張るつもりです」

私の目を真っ直ぐに見てこう返してくれた。芯の強い青年だ。確かにこれなら兄も安心して旅立つことができただろう...。

「お義姉さんも、アルドヘルム君も、何かあったらいつでも....」

「ありがとう、ガイスカ君。わたしたちは大丈夫よ...。でも助かるわ。カールはいつもあなたのことを自慢の弟だって言っていたから...。何かあったらあなたとマグノリアに遠慮なく頼らせてもらうわね。」

義姉は昨日号泣していた姿が嘘のようだった。ランスの芯の強さはこの義姉から来ているのかもしれないー。

 

「ガイスカ君」

そこへ兄の親友だった王配殿下が声をかけてきた。いつもの剽軽な感じは影を潜めて随分と憔悴していた。幼い頃からの親友であると同時に、信頼できる側近でもあった騎士隊長を失ったのだから無理もないかー。

「カールの代わりに、今後は君の力を借りる場面が多くなるが...期待しているよ...」

と、彼はここで一段声を潜めてひそやかに話しだした。

「今は内密にしてほしいが...近々...ベニーが新しい王として即位することになるだろう...その時には隊長代理として...よろしく頼む」

彼の妻-パティ・ガイダル陛下にも寿命が近づいていることは、隊長業務の引き継ぎ時に兄から聞いていた。この人は親友に続き、人生の伴侶まで相次いで失うことになるとはー。しかも、パティ陛下は姉と同じ年だった。その事実から連想される恐怖が私の心を脅かす。

しかし、それらはあくまでも個人的な感情だ。いま私に求められている答えではない。

「かしこまりました。その際には、隊長代理として謹んで任を全うさせていただきます...。どうぞ王配殿下にはご心配のなきよう-」

胸に手を当て一礼しながら、恭しく言葉を返した。

「後任の君が頼もしくて何よりだ...。さて、ここからは俺の個人的な頼みになるが...今度俺が森にムタンを取りに行く際は...良かったら伴をしてもらえないかな?あいつの思い出話でもしながら...な」

殿下は、そこで初めて笑顔に戻った。兄と一緒にいるときよく見せていた表情だった。

兄は「ルチオがムタン採りについてこいと言ってきても応じなくていい」と言っていたけれど...兄さん、そういうわけにはいかないよ...。

「ええ、殿下。ぜひそちらもお伴させていただきます。いつでもお声をかけてください」

兄がガノスで頭を抱えている姿が見えるようだった。

 

「う...ぐすっ。ぐすっ...」

背後から鼻をすすり上げるような泣き声が聞こえてきた。振り向くと娘婿のアンテルムが花束を抱きしめながら肩を震わせて泣いている。そういえば、兄と結構親しくしていたことを思い出した

「この間久しぶりにお会いしたとき、オレが兵隊長になったことを伝えたら、頑張れよって言ってくれたんです...予定が合えば試合応援に行くからって...それなのに...」

確か5日の初戦ではイグナシオと当たって容赦なく吹っ飛ばされたらしいがー、多分イグナシオでなくてもどの相手でも同じ結果になるだろう。兄がそれを見たとして一体どんな反応をするのだろうか...。

「婿殿」はこんなことを言いつつも、決して日々の鍛錬に熱心な男でないのは良く知っていた。私は兄ほど面倒見が良くないし心が広いわけでもないので、そんな娘婿に対して冷めた感情を持っていた..だが...

それでも彼が兄の死を悼む気持ちは本物なのだろう...。

「アンテルム君...兄の為に泣いてくれてありがとう。兄も君の頑張りを期待していると思うよ。さあ、兄のために持ってきてくれた花をお供えしてあげて...」

私は兄がいつも誰かにしていたように、彼の肩に手を置いてそう伝えた。

「お義父さん、ありがとうございます」

「父さん、ありがとう...」

娘のロシェルは私の心中を察したのか、一瞬こちらに申し訳なさそうな顔を向けた。

その後二人は一つの花束を二人で持ち、墓所の床へゆっくりと手向けた後、跪いて祈りをささげていた。

※カールとアンテルムの関係は「ヘタレ山岳兵と龍騎士様」参照

 

「副隊長...オレ達...もう...入ってもいいでしょうか?」

今度は騎士隊員のアシエルが声をかけてきた。葬儀は親族と近しい者しか出られないが、見送りの儀式が終われば地下墓地への入場は自由だ。殆どの騎士隊員が亡き隊長の為に駆けつけてくれていた。

「ありがとう...もう大丈夫だ。君たちが来てくれて、隊長も喜んでいると思う。心置きなく祈りを捧げてくれ」

隊員達は花束を捧げる代わりに、剣を胸の前に捧げ持つ「敬礼」の姿勢を次々に取っていった。いつもは真面目とは言い難いアシエルもこの時ばかりは神妙な面持ちで剣を捧げている。

...兄さん...あなたは最後まで立派な騎士だったよ...皆それを解ってるんだ..

「ランス、グラハム、我々も隊長に敬礼しよう」

私はランスと弟グラハムに声をかけ、同じように剣を胸の前に捧げ持った...。

 

*******************************************************************

「何かね...胸にポッカリ穴が開いちゃった気分なの...お兄ちゃんはいつも近くにいるの当たり前だったから...あ、「兄さん」って言わなきゃいけないのに...いい年して恥ずかしいね。ガイスカ君、聞かなかったふりしてね」

「姉さん、大丈夫だよ...今は二人だけだから。誰も聞いてないから...そのままでいいよ」

 

私たち兄弟はそれぞれの配偶者と共に葬儀に参列していた。しかし「こんな時は兄弟水入らずの方が良いだろうから」と配偶者たちは先に帰ることとなり、結局兄弟5人だけが最後まで神殿に残って兄の思い出話に花を咲かせた。兄は常に家族の中心にあった人だから、話題には事欠かなかった。

それからなんとなく解散となった後は、私は姉のマグノリアと二人で北の森付近を歩いていた。お互い話が尽きることがなかったため、少し遠回りをしてからそれぞれの家に帰ろうー、そんな合意がいつの間にか出来ていた。

先ほど5人で話していた時は、姉は兄のことをきちんと「兄さん」と呼んでいたのに、自分と二人になった途端「お兄ちゃん」という幼い時からの呼び名が出るとは...

それだけ他の兄弟より自分との心の距離が近い気がして、こんな時だが私は嬉しかった。

 

私にとって兄と姉は特別な存在だった。歩きだすようになった後はいつも兄と姉の二人を追いかけていた。二人とも足が速いので追いつくのが大変だった。私がなかなか追いつけないのが解ると、二人は立ち止まって待っていてくれた。

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兄はほどなくして成人したため一緒に遊ぶことはなくなり、私が後を追いかけるのは姉だけになった。同い年の遊び友達も次第に増えてきたけれど、それでも姉といるのが好きだった。

しかし姉の走る先に黒髪褐色肌の少年がいることが多くなり、私は姉を追いかけるのをやめた。

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そうしているうちに姉も成人し、あっという間に結婚して家を出ていってしまった。

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 「そういえばね...私は姉さんの結婚式に出た後、姉さんがまたすぐ家に帰ってくると勘違いしていたんだよ。夜まで起きて待っててね。恥ずかしいけど「結婚」の意味が良く解っていなくて、何かのお祭りみたいなものだとばかり思ってた。兄さんが「ガイスカ、寝るぞ!」って呼びに来たとき、「おねえちゃんが帰ってくるの待ってる」なんて言ってね。兄さん大笑いしてたね。「ガイスカ...お前...結婚の意味解ってなかったんだな!」ってね...」

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悲しみに沈んでいる姉の気持ちを少しでも和らげたくて、子供時代の恥ずかしい話まで暴露してしまった。

「そうなの...!ガイスカ君、私やお兄ちゃんの子供の頃より随分物知りだと思ってたのに、そんなこともあったのね。そういえば朝「けっこん、けっこん♪」なんて歌ってくれてたよね。あれはお祭りだと思ってたのね!」

姉がようやく笑ってくれて安心した。

今思い返すと結婚式の雰囲気から、姉が帰ってこないことはほんとうは薄々気づいていたかもしれない。それでもそれを認めたくなかった...。

「...こうして話してると思い出話が尽きないね。ほんとはお兄ちゃんもこの場にいれば大盛り上がりだったろうにね...」

姉は笑顔を見せた後も、寂しさを拭いきれないようだった。兄の存在は大きかった。無理もないことだ...

「きっと兄さんはガノスから見てくれてるよ。俺の悪口言ってないよな?なんて気にしてるかもしれない」

「そうね。聞き耳立ててるね、きっと」姉は再びくすっと笑った。

だがそれからふと空を見上げてー

「伯母さんたちや母さん、父さんを見送ってー今回はお兄ちゃんか...。順番から言うと次は私だね...。」

...姉がそう呟くのを耳にした瞬間、身体に電撃が走るような気がした。

駄目だ。

それ以上は聞きたくない。

「私もこうやって、空から思い出話を聞くことになるかな...ガイスカ君、その時はあんまり変なこと話さないでね...」

もう我慢ができなかった。

「姉さん!」

気づいたら姉を引きよせ強く抱きしめていた。

「姉さん...お願いだから...冗談でもそんなこと...言っちゃだめだよ...」

姉を失うことなど考えたくもなかった。抱きしめる腕に力を込めてしまった。

「頼むから...」

森の木々が風に揺らされてザワザワと音をたてていた。

「ガイスカ君...」

そんな中姉の声がした。できればこのまま離したくなかった。それが許されないことだとしても。

「ねえガイスカ君...顔や腕に鎧が当たって...感触...冷たいよ...それに...ちょっと...くるしい」

「...!!ご、ごめん!」

思わぬ苦情に、慌てて姉を開放した。

「あー、びっくりした!」

姉は何事もなかったような表情だった。どうやら自分のやったことの真意は気づかれずに済んだらしい。単純に弟が過剰に姉を心配したと思っているようだ。

「ガイスカ君、力、強くなったんだね!昔は「チカラが弱い」って悩んでたのに。そういえば前にお兄ちゃんが「ガイスカは実は脱いだらスゴイ」なんて言ってたけど、ばっちり筋肉鍛えてるのね、頼もしいわ!」

そう笑いながら話す姉は完全にいつもの調子に戻っていた。取り合えず元気をとりもどしてくれたのだろうか。

「ま、まあ...職業柄貧弱な身体ではいられないからね。それより姉さん、さっきみたいなこと冗談でも絶対に言わないで。約束だよ」

「大丈夫よ。いつもジャスタス君と話してるの、今度のエルネア杯でイグナシオが龍騎士になるのを見届けるまでは、二人とも絶対元気でいようね、って!」

”イグナシオを倒せ”

"イグナシオは父さんの妄執に囚われている”

ふいに、引き継ぎの夜の兄の言葉を思い出した。イグナシオを”龍騎士の呪縛”から解放してほしいー、それが兄からの遺言だった。兄はイグナシオを倒すことが呪縛からの解放に繋がると思っていたが...私自身にはまだその答えは出ていない。姉の想いも無視できない自分がいた。兄は私を買いかぶっている。私はあらゆる意味で、兄より戦士として未熟な人間だ。そんな私に何ができるだろう?

だが...そのことに今は触れるまい。

「エルネア杯とは言わず...ずっと元気でいて。兄さんだって、そう思ってるよ、きっと」

そう...私はあなたを失って残されるのは嫌なんだ。

妻も親友も...大事な存在はもう誰一人失いたくない。

だけどその中でも、とりわけ、あなたを...。

 

 

 

 

 

 

旅立ちの日。

今日はコロミナス家にとっては「喜びの日」となる予定だった。

妹のヒルが花嫁となって嫁ぐ日であったから。

※今回の登場人物のうちヒルデガルドはヒルダ、アルドヘルムはアルドと愛称で表記します。

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いつもはハスッパで生意気な言動の多い妹も、流石に今日は神妙だった。

兄を兄とも思わない生意気さに腹を立てたことも何度かあったけど、こうやって食卓を囲むことも最後になると思うと寂しいと思う。けれどいつかは慣れていくのだろう。

弟アルベルトの時もそうだった※1

それでも、寂しいとはいっても、ただ住むところが別になるだけ。会おうと思えばいつでも会える。

 

...生きている限りは。

 

「イグナシオ、悪いんだけどこれからエルネア城に行って、兄さんの様子を見に行ってくれないかしら?...結婚式に顔を出してくれることになっているんだけど...心配だわ」

「わかった。すぐ行ってみるよ」

昨日は山岳リーグと重なって観に行けなかったが、ランスと伯父カールの試合が無事終わったことは聞いていた。今日も元気でいてくれればいいけれど...。起きてすぐから胸騒ぎが収まらなかったが、今回も杞憂であることを祈った。

「ごめんね...万が一兄さんの状態が悪かったら、私たち、式が終わったらすぐに駆けつけるからって...アラベルちゃんに伝えてね」

「頼んだよ、兄貴...」

ヒルダも一転泣きそうな顔になっていた。妹も伯父さんには随分可愛がってもらえっていた。

ヒルダ、お前はこれから準備が沢山あるだろ?そんな暗い顔してたらイヴォン君が誤解するぞ。自分との結婚が嫌なのかって...。伯父さんはきっと大丈夫だから、心配しなくていい」

「大丈夫」の根拠など何もなかったけれど、今はこれしか言えない。妹もきっと解っているとは思う。

 

心臓が止まりそうな勢いで隊長居室を訪れると、伯父一家は遅い朝食の最中だった。

食卓の家長席に伯父の姿を見つけ、おれは胸をほっと撫で下ろした。

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声をかけた時もいつも通りに見えた。

...が、それは糠喜びであったことが、すぐに分かった。

 

その後伯父がふらりと倒れそうになったので、慌てて肩を貸した。

「カールさん、大丈夫?」

「あ、ああ...イグナシオ、すまない...このまま寝室まで肩を貸してもらっても...いいか?情けないことだが...もう一人では...歩けそうに...」

「父さん...食卓に歩いて来るまでも大事だったんだよ...それでも「最後は」みんなで食事したいからって...それでこんな時間に...」

側にいたアルドが悲痛な顔をして呟いた。

最後。

決して認めたくはなかったが、親族のこんな状態を見るのは初めてではなかった。

今も記憶に残る...祖父母たちの「旅立ちの日」も確かこんな風だった。

 

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アルドと一緒に両肩を貸して、どうにかして寝室まで伯父を連れていくと、伯父はそのままベッドに力なく横たわってしまった。声をかけるのも憚られるような弱弱しさだった。

「そういえば...」

伯父が口を開いたが、目は閉じられたままだ。

「今日...ヒルダの...結婚式だっけ?せっかく...招待状...もらったのに...行けなくて...悪い...おめでとうって...言っておいてくれ...」

「分かった。カールさん...きっと伝えるよ」

そう言ってからベッド脇に跪いて伯父の手を握ると、感触はひんやりと冷たかった。

こうして見ること感じること全てが、願いと真逆であることが辛かった。手を握りながらも肩が震えてきた。

そうしていると、伯母がおれの肩にそっと手を置いた。

「イグナシオ君、そろそろ行った方がいいわ...。ヒルダちゃんも待ってるわよ。わたしからも...おめでとうって言ってたと伝えてね。マグノリアにも...よろしく」

伯母は涙ぐみながらも優しく微笑んでいた。

「カールさん、おれ、一旦行くね。後から母さんたちも来るから、それまで、待ってて」

「...わかった..」

伯父は弱弱しいながらも手を握り返してくれた。

「伯父さんを頼みます...」

おれは立ち上がり、伯母とアルドに挨拶してから隊長居室を後にした...。

 

家に戻ると、既に皆シズニ神殿へ向かった後だった。

取り合えず...伯父さんのことを伝えるのは、結婚式が終わった後になりそうだー。

 

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花嫁となった妹は、この上もなく幸せそうに見えた。

神殿の窓から優しく光が降り注ぎ、新婚の二人を祝福しているかのようだった。

妹は長年親しんだ山岳の家と慣習を離れ、一般国民として新たな世界に足を踏み入れることとなる。夫のイヴォンと二人でー。

それは、おれには生まれた時から許されなかった「旅立ち」だったー。

 

 式が終わった後、両親に伯父の状態を告げた。

おれが戻ってくるのに時間がかかり、なおかつ結局伯父が現れなかったので、大体のところは察していたようだ。

それでも母は泣き崩れ、父はがっくりと肩を落として項垂れてしまった。

おれは両手で顔を覆って泣いている母の背中に手をあてて、できるだけ優しい口調で声をかけた。

「母さん、伯父さん待ってるから...エルネア城へ...行ってあげてくれる?ヒルダとアルベルトにはおれが伝えるから...」

「...そうね。兄さんに...会いにいかないとね...。私たちの結婚の時...父さんが猛反対したけど...兄さんがイグナシオさん※2と一緒に ...一生懸命説得してくれたのよ...兄さんは私たちの恩人なの...」

ようやく母は立ち上がり涙を拭う。

「だから...ちゃんとお礼と...お別れを言ってあげなきゃね」

そして父の手を取った。

「行きましょう、ジャスタス君。兄さんのところへ...」

「ああ...行こう、マグノリア

父は頷き、二人はエルネア城に向かって歩いて行った。

両親の次は弟妹...それにオリンピアと子供たちに伝えなければいけない..。

 

**********************************************************************

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おれがエルネア城に戻ったのは夕3刻の頃だった。

「別れの挨拶」を言うための客人たちもあらかたは帰っていた。父も母を残して一旦帰宅したようだ。

今は母やガイスカ叔父さんを初めとする兄弟達やルチオ王配殿下など、「特に近しい者」のみが客間で待機している。

もう間もなくやってくる「その時」を見守るためだった...。

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朝に会った時よりも伯父は一層弱っていた。

会話もかろうじて成り立っている...という感じだ。

もうアラベルさん達家族に後は任せて、おれも客間に戻ったほうが良いのかもしれない...そう思った時にふと伯父が、かすかな声でおれの名を呼んだ。

イグナシオ...

ずっと閉じられていた青い目が開いた。

「何?カールさん」

慌てて伯父の手を握った。

いつかお前が...呪縛から解放されて...自分の人生を...生きられることを...祈ってるよ

おれは何と言っていいか解らなかった。

今のおれは自分の人生を生きていないのだろうか?

自分自身にはわからない...。いや、解ろうとしたくないのかもしれないが。

ただ、今はこうしか言えなかった。

「ありがとう、カールさん...」

伯父は満足げな笑みで頷いた。その目の奥が一瞬緑色に輝いた気がしたが...すぐにまた、目は閉じられてしまった。

これが伯父と交わす最後の言葉になったことを悟った。

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おれは側で控えている伯母と従弟たちに一礼して、客間に戻った。

 

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身体が軽い気がする。さっきまで重くて怠くて仕方がなかったのに...。

そこにいるのは誰だっけ...。

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ああ...お前たちか...。せっかく久しぶりに兄弟勢ぞろいなのに、こんな状態で悪いな...。いつかまた、父さん母さんたちも含めて、ピクニックにでも...行こう。随分先になるだろうけど、楽しみにしてるから、お前らはゆっくり来いよ...。

ルチオ...お前と馬鹿話ができなくなって残念だよ。

これからはムタンも自分で取りに行ってくれよ。ガイスカを付き合わせたりしないようにな...。

いつかお前の「その時」が来たら、俺が迎えにいってやるよ。でも当分は来なくていい。

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アルド...。お前はこれからどんな道を行くのかな?

もっと...お前と将来について語りたかったな...うざい親父かもしれないが...。

お前は要領のいいやつだから、どんな道でもうまくやっていけるかな...。

ランス...。お前が選んだ道は、試練の道でもある。

俺がそうだったように、お前も絶えず壁にぶつかることだろう。

でも、お前なら乗り越えられる、昨日戦って...俺はそう確信したよ...。

ああそれから...コゼットに...おじいちゃんはいつでも見守ってるって、伝えておいてくれ...。

 

そして...。

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アラベル...。

正直言うと、一人で残して行くのがとても辛い...。

君がどんな時でも、俺のことを愛して必要としてくれたから、俺はここまで来れたんだ...。子供たちが巣立ったら二人でのんびりしよう、そう話していたのに...。

でも...強くて優しい君だからこそ、後を託せる。子供たちを...オブライエン一族のことを...俺の代わりに見守ってくれ...。君を信じてる。

君には孫や曾孫に囲まれて、幸せに長生きしてほしいんだ。俺はいつでも側にいるから...。

 

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気づくと遠い視線の先に、祖母や伯母たちの姿が見えた。リア祖母ちゃんの傍らには優しい目をした男性が立っている。ああ、確か...。俺の生まれたその日に、祖父はガノスに旅立ったんだっけ...。それから、その横にいる二人は誰だろう?二人ともどことなく...父に似ている気がするけど...もしかしたら...

「カール」

そして、ずっと聞きたかった父と母の声がした...。

 

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俺は幸せだったよ。

みんな...ありがとう...。

 

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すべてが終わった。

伯父さんは旅立っていってしまった。

伯母が母に縋り付いて号泣していた。

その側でランスとアルドヘルムが必死で母親を慰めていた。しかしその二人の目にも涙が光っている。

 

ひとしきり泣いた後伯母は落ち着きを取り戻し、来客達を出口まで見送ってくれた。

「みんな...今日はありがとう...明日の見送りも...来てちょうだいね。カールのために...よろしくね」

涙を堪えた笑顔がなんとも痛々しい。

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隊長居室を出た後も、皆それぞれ重苦しい表情のままだった。

 

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「帰ろう...イグナシオ」
「うん...」

おれは母と二人でドルム山道を登り家路についた。

今日はヒルダの結婚式だった。

でも同時に...伯父さんとのお別れの日にもなった。

 

明日のコロミナス家の食卓からヒルダはいなくなるが、妹は噴水通りのルッケーシ家で元気に目覚め、夫と二人で新婚の食卓を囲むだろう。

でも伯父さんはもうどこにも...いないんだ。

 

※1 実は次男アルベルトは前回エルネア杯の途中で結婚して家を出ております。話の展開上省略してしまいましたが(^^;出番が限りなくゼロに近い次男の紹介はまた別の機会に(^^;

※2 PCイグではなく初期国民イグナシオ・シュワルツさんのこと。PCイグにとっては大伯父さんにあたります。

 


【あとがきのようなもの】

毎度長々と...なおかつ今回は無茶苦茶暗くなってしまいましたが、最後までお読みいただいて、本当にありがとうございます。
私にとって、「初代のはじめての子供」であるカールはやっぱり特別な存在でした。

PCを二代目→三代目と引き継ぐ過程で、カールとPCの関係性は子供から兄→伯父と変わっていきましたが、心の片隅では常に初代の「息子」としての意識が残っていたと思います。なので「余命宣言」の台詞が出た時は本当にショックでした。(「予期せぬ告白」での練習試合→カールあっさり負ける→余命宣言...の下りは実際のゲーム上でのできごとです)それは他の5人の子供たちも同じではありますが、とにかく「最初」のインパクトの強かったこと...。

カールは初期こそ苦労したものの、結局騎士隊長→龍騎士まで登りつめ、最後の対戦相手も息子...という、まるで「漫画の主人公」のような濃密な一生を送ることができました。このブログを書いている時点でPCは9代目ですが、ここまで綺麗に人生を完結させたキャラクターは、PC、NPC併せても未だにカール以外いないのです。初代PC長男カールの偉業とその生き様は、今も私のエルネア史に燦然と輝いています。

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