遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

ローゼルのごとく。

「絶対さぁ...天は二物を与えずさ。ぶっ細工に決まってる!」

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「アシエルさん、やめて下さい!我々近衛騎士隊の創設者かつ偉大なる英雄に何てこと言うんです!」

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アシエルが無礼千万な軽口を叩くので、生真面目なランスが即座に釘を刺す。

...が、アシエルは全く意に介さない。

「えーだってさぁ、見てくれの記録が残ってないって、おかしいんじゃね?伝説ってのは大体において誇張するもんんだろ?フツーの顔でも超絶イケメン扱いするはずさ。それすらないってことは...つまりお察しってこと!」

「アシエルさん!た...たとえそうだとしても、か、顔のことを言うなんて、失礼ですよッ!バチが当たります!」

「おやおや、そんなに真っ赤な顔して。マジ、お前は親父さんと違って堅いヤツだなぁ...。英雄は心の広いお方だ。これくらいの軽口は許して下さるよ...なッ、イグナシオ!」

アシエルはそう言ってヘラヘラ笑いながら、ポムの火酒をあおっている。こいつが何杯飲んだかなんていちいち数えていないが、既に相当飲んでるのは確かだ。が、顔色は全く変わらない。

一方ランスの顔が赤いのはムキになっているだけではないようだ。ランスはちょっと限界を超えてきたかな...ぶっ倒れないうちにそろそろお開きにした方がいいかもしれない。

 

探索帰りに軽く一杯...ということで、おれたち三人は酒場に立ち寄り、暫くは取り止めのない話をしていた。

そのうちエルネア杯の話から横滑りして、初代龍騎ローゼルの話題になっていた。偉大なる英雄の偉業は我が国の誇りであり、その生涯は様々な書物で手を変え品を変え語り継がれ、この国の住民なら知らぬものなどいない。

...が、ローゼルの業績については微に入り細に入り事細かに記されているにも関わらず、その容貌については何も記録がないのだった。

そこからアシエルがと大英雄にとてつもなく失礼なことを言い始めたわけだが、確かに不思議な話ではある。

ランスがこれ以上頭に血が上らないように、おれはとりあえず話題を別の方向に持っていくことにした。

「容貌が伝わっていないのは、複数の英雄の業績をローゼル一人にまとめたからじゃないか...って説もあるみたいだよ。つまりローゼルは”象徴”としての名前であって個人のものでないかもしれない...ってね。」

「何だそりゃ?」

「初代龍騎士の偉業をより強調するためにさ。だから龍と約束をした人物、騎士隊を作った人物、森を討伐した人物...それぞれは実在したけど、別々の人間だったかも...ってこと。...まあこれは祖父の受け売りの話だけど。今となっては真相を知るのはバグウェルのみさ」

「へえ、面白い説だね...!」

学年主席の優等生だったランスは興味ふかげに聞いていたが、アシエルにはどうでも良い話のようだった。

「はーん、象徴ならなおさらイケメンにすればいいんじゃね?そうしなかったってことはそいつらやっぱり全員...ブ...おい、何すんだモガガ...」

「アシエルさんッ!もう、黙って!!」

半分酔っぱらっていたランスは側にあったパンを引っ掴むなりアシエルの口に突っ込んでいた。

が、アシエルの方が無駄に力が強いので形成はすぐに逆転する。アシエルはパンを口から引っこ抜くと逆にランスの手首を掴み返していた。

「ランスくーん...?先輩にそんなことして.いいのかな〜?」

「せ、先輩だって何だって、失礼なこと言う人には、よ、容赦しませんよっ!」

「ほ〜お〜、容赦しないってね〜じゃあオレもちょっくら本気だしちゃおっかな〜♪おいしく、いただいちゃおっかな〜♪」

そう言いながら顔をランスの方に近づける。

...駄目だこりや。

おれも一応兵団長だ。騎士隊員が酒場で大乱闘...なんてゴシップ騒ぎを目の前で起こさせるわけにはいかない。しかも動機があまりにくだらな過ぎる。

おれはアシエルの腕をぐいっと引っ張った。腕力の強いほうをまず抑えるのが定石だ。

「アシエル、いい加減にしろよ。これ以上続けると騎士隊の隊長代理に報告するぞ。お前が大した理由もなく後輩騎兵に襲い掛かったってな」

「たいちょう...だいり?...わっ!!それは困る!!」

アシエルはその言葉に反応して、掴んでいたランスの手首を即座にパッと離した。

こいつは隊長代理...つまりガイスカ叔父さんになぜか弱いのだった。

「そうですよ、叔父さんに言いつけちゃいますー♪アシエルさん大目玉ですよ、アハハハ!」

自由になったランスはケラケラ笑っていた。いつの間にか想定より酔いが回っているようだ。こっちはこっちでこのままにするとヤバイ気がする。

「とにかく、こんなんじゃもうお開きだ。ランス、お前は送っていくから...」

「わかったよ、じゃ、イグナシオ、くれぐれにもガイスカさんには黙っててくれよ...」

アシエルは困り顔で両手を目の前に組んで拝むような手つきをしている。叔父さんの名は必要以上に効き目はあったようだ。

「それは明日以降のお前次第だ。じゃ、またな」

おれはランスの肩を片側から担いで酒場を後にしたー。

「いぐなしお、いいのに...ひとりでかえれるのに...」

「いいから、気にすんなよ」

おれはランスに返事をしながら、頭では全く別のことを考えていた。

ローゼルの容貌は記録がない-つまりどんな顔に描いても構わない”

これは使えるかもしれないー。

 

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アシエルとランスが「英雄ローゼルの顔」を巡ってあわや喧嘩になりかけてから10日余りが経った。もうすぐジークの誕生日になる。

ジークは今年ナトルの一年生になったところで、今の所学舎生活は楽しくてたまらないようだ。友人も増え、下校後は子供同士で元気にあちこちを駆け回っている。

おれは子供たちが学齢期に達した年の誕生日には絵本を贈ると決めていた。

いずれ兵隊長となる長女のミカサには「山岳の祖ドルム・ニヴの生涯」、優しい性格のアニには「ソル様とエナ様の神話」、それぞれの物語の絵本を既に贈っている。

とうとう今回は末子かつ長男のジークの番だ。

ジークには何が相応しいか、おれはとっくに題材を決めていた。

それはー。

 

「今度は龍騎ローゼルの物語を絵本にしてほしいって?いいよ」

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おれの頼みに、叔父は特有の何とも言えないほんわかとした笑顔で応えてくれた。

「いつもありがとう...マティアス叔父さん」

 

マティアスさんはおれの三番目の叔父に当たる。

祖父ファーロッドのの6人の子供たちでは唯一、公的な職業につかなかった人物。

どこか浮世離れのした人物で、いつもワ国の民族衣装を好んで身に着けている。有職者以外は殆どが青の国民服を着用しているこの国で、民族衣装を着るとかなり浮いてしまう羽目になるが、そんなことは全く気にはしていないようだった。 

何故か仕事の中では採掘が好きなようで、山岳兵団のおれたちとっては有難い協力者だ。

「えー?なぜ採掘が好きかって?いろんな石が出て来るから...面白くて...。」かつて叔父はのんびりした口調でそう語っていた。

しかし農場管理官になるほどにはポイントを稼いでいないのが不思議なところではある。ならないようにポイントを調節しているわけでもないのに。

あくせく働いたり武芸を極めることには殆ど興味がないが、いっぽうで叔父は絵画には並々ならぬ才能を持っていた。普段は兄弟達に「不思議ちゃん」とからかわれているマティアスさんだが、絵筆を持つと表情が変わる。

といっても、その才能を活かして一儲け...とは全く考えてはいない所が彼らしく、叔父の画才は専ら親戚の子供たちに贈る絵本を作ることに発揮されているのだった。勿論、おれがミカサやアニに贈った絵本も、マティアスさんの作品だ。

「マティアスはほんとに欲がないよなあ。俺にマティアス位の画力があったら、今頃きっとせっせと名所旧跡の絵葉書でも量産して、旅人に売りつけてるだろうになあ。」

長兄であるカール伯父さんも生前そんな風に話していた。ちなみにカールさんや母マグノリアの画力は...言わないほうが華だろう。

そんなわけで今回も、マティアス叔父さんの好意に甘えてジークの為の絵本作りを頼んでいる。

「僕にとって絵本を作るのは楽しいことだから、全然気にしないでいいんだよ。ところでイグナシオ、せっかくだからこう描いてほしいとか要望ある?」

実はそう言ってくれるのを待っていた。いつもはマティアスさんの多彩な想像力に完全にお任せしているけれど、今回に限っては違っていた。

「じゃあ、遠慮せず言っちゃっていい?ローゼルの顔立ちについて注文したいんだ」

ローゼルの容姿については伝承がないから、色々妄想をかきたてられるよね。お安い御用さ。で、どんな顔にする?」

 有難いことにマティアスさんはノってくれている。ここで自分のイメージに執着しないでくれるのは助かる。

 「おれがイメージする英雄は...目がポイントなんだ。」

 「へえー?どんな目?」

「目は真っ青。川の水源みたいな澄んだ水色」

「はいはい、水源みたいな色...と。目の形はどんな感じ?」

 叔父は帯に挟んでいた小さな手帳を取り出して、いそいそと書き込み始めた。

これを言うのはネタバレのようで非常に恥ずかしいが...言わねばなるまい。

「形は切れ長。で、タレ目。それで...」

「それで?」

睫毛バシバシそして口元はイムの口にそっくり!

「切れ長の垂れ目で睫毛バシバシでイムの口...っと。イグナシオのイメージするローゼルは、武芸の達人なのに随分と優しい顔立ちなんだね...ん?」

マティアスさんはそこまで言って首をかしげた。たぶんもう気づいただろう...。

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「あっそうか!解ったよ!」

途端にマティアスさんはクスクス笑い出した。

 「これ、ジーク君の顔じゃない?そっかあー。息子の顔を英雄になぞらえるなんて、イグナシオは意外と親バカだったんだね!普段バカ息子なんて言ってるのに。ふふふっ」 

ローゼルの顔をジークに似せるのは確かに意図がある。しかしこれは果たして親バカなのだろうか。

ジークを継承者に決めた以上、あいつは騎士になって龍騎士の剣とスキルを獲得してもらわなくてはいけない。曾祖父のファーロッドのように魔銃師になりたいなんて言われたら困る。しかし自分の経験から息子に望まぬ進路を強制したくない。できれば自ら望んで騎士を目指していただきたいわけだ。まぁ取りあえず一度龍騎士になってくれさえすれば、後は転職するなり遊び呆けるなり好きにしてもらって一向に構わない。

今回のこれは近衛騎士の象徴的存在でもあるローゼルに憧れと親近感を持たせるため思いついた計画だ。どっちかというと親バカではなく腹黒い策略みたいなものだ。それを叔父に言うわけにもいかないが。

「筆が乗りそうだよ。大人になったジーク君を想像すればいいんだね」

叔父は笑いながらもサラサラと手帳にスケッチをしている。あっという間に大人顔のジークの素描が出来上がった。不自然さが全くない、見事な手腕だ。

「凄いね。ほんとにこんな顔になりそうだね。だけど...あんまりソックリ過ぎてばれちゃいそう。あからさまに親バカがバレルのは恥ずかしいな」

本当に親バカなら別にばれても構わないが、残念ながらそうではない。ばれて困るのはおれの真の意図するところだ。

「じゃあ、髪の色を変えよう。絵的に青い目が映えそうだから黒髪にしてみようか。あとは...このままだと顔立ちが優しすぎるから眉毛をもう少しキリッとさせて...っと。こんな感じはどう?似てるけど、そのものじゃない。イイ感じじゃない?」

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マティアスさんは再びサラッと改良を施してくれた。彼の言う通り「ジークに似てるがそのものじゃない」いい塩梅のローゼルになっていた。

「マティアスさん、いいね!じゃあこの顔でお願いしてもいい?」

「勿論さ!出来上がりを楽しみにしててね。ジーク君喜ぶといいね」

「ありがとう、よろしく!」

マティアスさんの作る絵本はいつも素晴らしい出来だ。更に今回は自分の計画の大きな助けとなるものなのでいつにも増して楽しみだった...。

 

ジークの誕生日、マティアスさんは約束通り絵本を持って訪ねてきてくれた。

ジーク君、お誕生日おめでとう。絵本のプレゼントだよ」

「わー!マティアスさん、ありがとう!すげー、バグウェルがいるー!!かっけー!!」

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ジークは今でもバグウェルの信奉者なので、表紙を見てまずはバグウェルの姿に興奮している。

「バグウェルもかっこいいけど、バグウェルと戦う英雄ローゼルも同じくらい強くてかっこいいんだよ。ジーク君、ぜひじっくり読んでみてね」

「うん、うん、はやくよみてー!母ちゃん、読んで!!いますぐ読んで!」

学校に通い始めたとはいえ、まだ長文を自分で読み切るのは厳しいので、ジークはオリンピアに読み聞かせをねだった。

「はいはい、ママが読んであげましょうね。ジーク君、いらっしゃい」

「はーい!」

当然の権利のようにジークはオリンピアの膝にちょこんと座る。オリンピアも息子が可愛くて仕方がないので満更でもない様子だった。

「それじゃあジーク君、お話を楽しんでね。じゃあ僕はこれで...」

「あらマティアス、折角来たんだからもうちょっとゆっくりしていけば?一緒にケーキ食べようよ」

母が引き留めるが、マティアス叔父さんは笑顔のままゆっくりと首を振る。

「せっかくイグナシオから絵の具をもらったからね。早速何か描きたいんだよ」

叔父には絵本のお礼にと鉱石から作った特製絵の具を渡していた。

「マティアスさん、本当にありがとう...」

「いやいや、僕自身も楽しませてもらったから...」

叔父は下駄の音をカラコロ響かせながら家を出て行った。一方ジークは挨拶もそこそこにオリンピアの読み聞かせに聞き入っている...。

 

そのとき、ローゼルの剣の重い一撃がバグウェルの巨体をぶるんと揺るがせました。バグウェルはたまらずゆっくりと地面に膝をついてしまいました...。人間であるローゼルが初めて龍に勝利したのです。「ばんざーい!」「勇者ローゼルばんざーい!」王立闘技場は勝利を祝う人たちの割れんばかりの歓声で満たされていきました...”

 

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 「すげえ、ローゼルが龍に勝った!」

オリンピアの朗読に引き込まれていたジークは、熱い展開に思わず声を出していた。

「そうよ、ローゼルは人間で初めて龍に勝った人なのよ」

「うわぁ、バグウェルもすげーけどローゼルもすげーんだな。いいな...」

ジークはすっかり勇者ローゼルの虜になったようだ。

”-こうして、ローゼルは人間自らが王国を護る力があることを、自らの力をもって証明したのですー。それからたとえ世代が移り変わっても人間が鍛錬を怠らぬよう、国で一番の勇者が四年に一度、人間の代表として護り龍と戦う決まりになりました。これが今も続くエルネア杯の始まりです...”

オリンピアの語るローゼルの物語が終わっても、ジークはしばらく動かなかった。

身体が小刻みに震えている。ああこれは例のやつか...。

ジークどうした?もしかしてバグウェルが怖かったのか?」

「...ちがう。」

ジークは例のごとく涙をこらえてブルブル震えているのだ。しかし怖いわけではないとは?

「オレ、かんどうしたっ!ローゼル、すごい!強い!偉い!かっこいい!そうおもったらなんかよくわからないけど...めのおくがあつくなったんだ!父ちゃんオレ...こわいからじゃ、ないからな!」

何と、絵本に感動して泣きそうになったのか。そこまで感情移入するとは...おれには無かった経験なので何とも不思議な光景だった。

オリンピアの膝に乗ったまま、暫く鼻をスンスンとすすり上げていたジークはぽつりと言った。

「...オレ、ローゼルみたいになりたい...。つよくて、やさしい、りっぱなきしに。バグウェルにはなれないけど...ローゼルみたいには...なれるかな?」

「大丈夫」

オリンピアは膝の上の息子の頭を優しく撫ぜながら静かに答える。

ジーク君なら、なれるわよ。あなたは真っすぐで頑張り屋の、とってもいい子だもの...」

「そうかな...」

流石のジークもちょっと自信なさげだった。それだけ英雄ローゼルは眩しい存在に思えるのだろう。

ローゼルみたいになりたいんだったら、まずはローゼルが創った近衛騎士隊に入らないとな。実際の騎士隊はどんな感じか、今度試合を観に行ってみるといい。お前の大叔父さん二人も騎士隊員だし、父さんの友達も何人か騎士隊に入ってる。色々話を聞くこともできるだろう」

それを聞いてジークの顔がパァっと明るくなる。

「うん、オレ、本物の試合、見たい!今度騎士隊の試合、行ってみるー!」

ガイスカ叔父さんやランスは理想的な騎士だが、現実にはアシエルみたいなローゼルの理想とは程遠い奴もいる。ジークはそれを見てどう感じるだろう。まぁそれもある意味反面教師としては良いかもしれないな。取りあえず第一段階としてその気になってくれたようで何よりだ...。

 

「...父ちゃん、あのさ...」

「何だ?」

夜になり寝る時分になってジークは恥ずかしそうにモジモジしながらこちらに寄ってきた。

「あのさ...ローゼルってさ...」

下を向いたまま手を後ろに組んで呟く。

「顔...オ...オレに似てね?

...似せて描いてもらったから当たり前なのだが、息子にはその辺の大人の事情は解らない。

「そうね。似てたわね。ママもびっくりしたわ...」

そこへオリンピアが間髪入れずに優しく返答する。

「あれだけ良く似ているんだもの。もしかしたら、ジーク君ローゼルの生まれ変わりかもよ...」

「えー...!!」

ジークの顔色が夜明けのように赤く染まった。表情はモジモジからニヤニヤに変わっている。

「だからきっと大丈夫よ、頑張ればきっと龍騎士になれるわ」

「う...うん!オレ、頑張る。じゃあ...父ちゃん母ちゃん、おやすみ-」

「はい、お休み」

ジークは脱兎のごとく自分のベッドに戻っていった。ベッドに入った後一瞬、

「えへへへーっ!」

そう満面の笑みで奇声を上げたと思うと、すぐすやすやと寝入ってしまった。何かよくわからないが満足したのだろう。

 

オリンピアありがとう...。おれが答えたらきっと棒読みになるところだった」

ジークが完全に寝入ったのを見届けると、おれは傍らのオリンピアに声をかけた。

「うふふ...イグナシオさん、そういうの得意じゃなさそうだものね。」

オリンピアのしっとりとした声が耳に心地よく響く。こうしていつも妻に助けられている。

「今回のことも計画したのは自分だから言い訳はできないけど...いつかこれが「幸せな勘違い」だったってあいつは気づくだろう...。そのときに絶望しなければいいが...」

ジークはもともと才能に溢れた子供だ。学校に行きだしてからそれが如実に現れてきた。おれから龍騎士の力を受け継げば更に磨きがかかる。このまま行けば間違いなく竜騎士になれるだろう-。でもいつか必ず「英雄」から「無力な人間」に叩き落される日がやってくる。そこからは逃げることは許されない。

「イグナシオさん...あの子はそれにも耐えられる子だと思ったから、あの子を選んだんでしょう...?大丈夫よ。わたくしはあの子を信じてるわ。あの子もきっと自分自身を信じられるはずよ...。」

気づいたら、オリンピアの白い手がおれの髪を梳いていた。息子と同じようにされている自分が少し恥ずかしい。

「あなたも、あまり自分を追い詰めないで...自分を責めないで。昔言ったでしょう?あなたの仕事と運命を、わたくしも一緒に背負って行きたいって...。あの子に進路を強制することなく自然な形で導きたいって思ったのも、あなたの優しさなんだから...そんなあなただから、そばにいたいと思ったのよ...」

「ありがとう...」

自分のやってることが正しいなんて端から思ってはいない。それでもこうしてそんな自分を受け入れてくれる妻の存在は有難かった。

-今の兵団リーグが終わったら次はエルネア杯だー

ジークに引き継ぐ前にまだおれ自身の仕事が残っている。

その前に今は、今だけは-

髪を梳くオリンピアの手に心地よさを感じながら、おれは目を閉じ眠りに落ちていった...

 

 

(よもやま話)引き継ぎのサミシサ。

お話はまだ3代目後半のちょっと手前でウロウロしていますが、2021.4月現在のリアルプレイでは只今11代目に突入したところです。

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ネタバレといえばネタバレだけど今のスピードだと10・11代目の話をここで取り上げるのには多分何年もかかるから問題ないだろう(^^;

もう10回もこの瞬間をを繰り返しているというのに、未だこの時の何とも言えない寂しさに耐性ができない自分がいます。

 

この寂しさの中にはいろんな感情が入り混じっていて、なおかつ

A 前PCでのプレイの充実度

B 親NPCになった前PCの現PCに対する態度

C 新PCの引き継ぎ時点での人間関係

D 新PCとしての人間関係構築の難易度

(隠れパラメータの魅力度の高低)

これらの要素の掛け算によって、寂しさの質は大きく変わっていきます。

例えば、前PCでの生活がすごく楽しくて別れづらくても、新PCでの人間関係構築が簡単で、なおかつ前PCが親として優しくフォローしてくれる...なんて環境に運よく恵まれれば、引き継ぎの寂しさなんていつの間にか記憶の彼方に飛んでいってくれるわけです。

 

...が、そんな幸運あんまりは無いもので(>_<)

 

楽しいPC生活終了から一転...

 

交遊リストは身内だけ( °Д°) 

つまり友達ゼロ!

引き継いだ途端に親ガン無視! 

しかし他の兄弟とは話してる...ハ(キ゚Д゚)(゚Д゚メ)ァ!?

今までの友達の態度が一変!

あんなに仲良くしてたのに...(இдஇ; )

誰も仲良しになってくれない! 

比較的仲良くなりやすいはずの子供ですら「考えとくー♪」なんて軽くあしらわれる

 

なんてなってしまったら立ち直るまで地獄の日々...。

(↑の四大コンボは○代目で実際に起こった出来事です...マジでトラウマ...。)

 

まあ、地獄の日々も長くは続かないもので、不人気PCはPCなりにコツコツ地道に合う人を探していけば、次代の引き継ぎが視野に入るころには、十分幸せなPC生活になっているんですけどね。そして何故か不遇だったPCほど、不思議と親になった時優しくしてくれたりして...。

 

そして、引き継ぎがハッピーに終わるか暫くブルーな日々になるかは、蓋を開けてみるまで全く読めないのが怖い所であります。

 

ふと思ったんですけど...この感覚...アレに似てませんか?

 

クラス替え!

 

替わった後の何ともいえない所在の無さとか不安感とか...。

仲の良かった友達が違うクラスになった途端に、何とも「遠い存在」に見えて来るところとか...。

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しょちゅう飲み明かしたお前が

 

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肘鉄食らわせて来る(((ꎤ >口<)̂ꎤ⁾⁾⁾⁾

コイツの手こずらせ方は異常だった。何回スマホタップしたことか...おのれえええアルベルト...

(今はもう仲良しです(^^))

勿論運が良ければ、仲の良い友達と一緒になれて周りもみんな良い人ばかり!ってことですぐに新クラスに馴染んじゃうケースもあり...そんなところも...似ている。

 

そんな居心地悪さをやり過ごすうちに、ひょっこり新たな出会いがあったりするところもね。

 

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現実のクラス替えだと、ハズレクラスは居心地悪いままずっと続いたりする罰ゲームもあったりしますが(>_<)、ゲームだとそうはならないのも有難いところです。
(現実でも必ず「終わり」があるから大丈夫だけどね!)

 

さて、10代目ジルベルトから11代目のアレクシスへの引き継ぎは...といいますと...

先代の友人の殆どに塩対応されてめげた...なんてアクシデントもありましたが、少しずつ「アレク自身」の新しい人間関係を、手探りで構築していってる途中です。

昔の友達に冷たくされて悲しかったのは、裏返せば10代目ジルではほんとに、良い友達に恵まれてた証でもあります。

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そんなジルも実は引き継ぎ直後は肘鉄食らう毎日。ツィッター上で「ぴえん人生」などと愚痴っていたこともあったのでした(^^;

幸い、仕様変更のお陰で両親兄弟はとても優しかった為グレルことなく乗り切れましたが(^^;(山岳の両親祖父母にガン無視された○代目はやさぐれて悪魔少年と化しました..)

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今後の11代目アレクシスのPCとしての目標はいろいろ決めているものの、最終的な人間関係がどう行きつくかは全く解りません。

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だけど歴代の”継承者”たちがそうだったように、良い思い出もそうでない思い出も、仲の人に脳内に沢山残してくれることを楽しみにして、プレイを続けていきたいと思っています。

”我々は 遠くから来て遠くまで行くのだ。

終わりなき物語を-”

 

 

 

 

迷い道の真中で。

前回までの話でエルネア杯前年まで行きましたが、ここでちょっととだけ時を巻き戻します。時系列的にはその約半年前...カールが亡くなって7-8日後から始まるエピソードです。

”イグナシオを倒せ。それがあいつを龍騎士の呪縛から解放することにもなる”

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私にとんでもない宿題を残して、兄はガノスへ旅立ってしまった。

勿論自分は騎士隊の一員であり、オブライエン姓を継ぐ一人でもある。

通常であれば迷うことはない。試合で相見えた時は、例えそれが親族であろうと全力で叩きのめすのみだ。

だがー。

甥は特別な使命を背負っている。

龍騎士となり新たな力を得、その力を更に次世代に引き継ぐという使命だ。

私が甥を倒すということは、その甥の仕事の邪魔をすることにもなるわけだ。

私個人の武術職としての誇り、騎士隊としての面子、一族の名誉。

それらは果たして、イグナシオが果たすであろう仕事より大事なものなのだろうか?

いつアベンの門が開くかもしれないこの世界にとって...。

そう思う一方で、あの時両肩に置かれた兄の手の重み、そこに込められた想いの強さもまた、振り切ることが出来ない自分がいた...。

 

「ガイスカ、もうそれぐらいにしておけよ」

ポムワインをもう一杯...とボトルに手を伸ばしたところで、騎士隊の同僚兼親友のブレソールに手首を掴まれ制止された。

「まだ二杯しか飲んでない。全然平気だよ」

「俺が何年お前と付き合ってると思ってる?お前の限界は良く解ってるからな。お前が酒飲んでぶっ倒れた事件は俺が全部目撃してるの忘れるなよ。こないだのエルネア杯後の飲み会なんか酷かったじゃないか...酔っぱらって散々グラハム君に説教した挙句...」

「わかった。もういい。飲まないよ。」

...兄が龍騎士になった際の祝勝飲み会の際の醜態を思い出した。幹事のアシエルがワインと火酒を注ぎ間違えたせいで酷い目にあったんだった...。といっても自身には記憶が殆ど残っていないが、それが却って恐ろしい。

飲酒が嗜みの範疇を超えて現実逃避の手段になることの危険性は良く解っている。ブレソールの言う通りだ。

「お前とは付き合いが長いから、お前が柄にもなく深酒したがるのはどういう時かもわかるつもりさ。話なら聞いてやるから、言ってみな。ほら」

友は手のひらをこちらに向けて、私が打ち明けることを促す。

...目の前の憂鬱に一人で向き合い続けるのに疲れたことは確かだ。こう言ってくれる旧友の存在は有難い。といっても全てを話すわけにもいかないが...。

「ブレソール、君も昨年の魔獣討伐に参加していたよね」

「...あぁ。俺の実力じゃ牧場ゲートの弱い魔獣を相手するのが関の山だったが。その点お前は流石だよな、甥っ子の一家と組んで結局魔獣討伐を成功させた。大したもんだよ」

ブレソールは騎士隊では中堅どころに位置している。決して下位の騎兵ではない。

いやそもそも、例え下位であっても騎士隊の16人は選抜試合を勝ちぬいた精鋭ぞろいのはずなのだ。何百人という国民の中での武の頂点ともいえる。それでもその程度でしかない-。

副隊長を務める私とて彼らと大差があるわけではない。途中から兄に替わり危険なエリアの討伐に加わったのは事実だが、「強力な助力者」なしでは到底、最後まで持ちこたえられなかっただろう。

その助力者こそかつての龍騎士-甥イグナシオの身体を借りて一時的に蘇った父ファーロッドの祖霊だった。

「...私は別に大したことはしていないよ。同行者が強かっただけさ。...まぁそのことは置いておいて、これは...大きな流れで見たら、何かの予兆だとは思わないか?」

 ブレソールはぽかんとした表情を返す。

 「予兆...?何の?」

「父が若い頃にも似た事件は起こったそうだよ...。その時は帝国時代の機兵の暴走だったようだけど、背景には次元の向こうで糸を引いている存在がいたかもしれない。何にせよ例の「エッジの日」から800年あまりの歳月が流れたというのに、未だ次元の裂け目は頻繁に出現し、我々の世界に脅威を与え続けているのは確かさ。過去に起こった同様の事件を時系列で追って見て行くと、時代が進むにつれて発生の間隔が短くなっている...つまり...」

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私の話に聞き入っていたブレソールはここで大きく目を見開いて言った。

「アベンの門の封印が解けかけてるってことか!」

「...だと思う。勿論、それがいつになるかは我々には解らないけどね。明日かもしれないし、数千年後かもしれないし...」

「...悩み相談のつもりが、いきなり壮大な話になったな...」

ここまで話すと、目の前の旧友は暫しの間腕組みをして考え込んでいた。

...が、そのあとやおらポムの火酒をぐいっとあおった後、笑顔で切り返してきた。

「昔からだが、お前の洞察力と責任感にはほんとに感服するよ!亡き隊長...「偉大な龍騎士」の後任を任されてるわけだから、色々考え込んでしまうのも無理もない。確かに平和に見えるこの王国にも、いつなんどき厄災が襲ってくるか解らない。だがな..」

そう言いながらブレソールはテーブルに置かれた私の手をぽんっ、と軽く弾く。

兄といいこの幼馴染といい、人の身体のどこかしらに手を置いて諭すのが好きなようだ。思い返せば姉もそうだ。私はそんなタイプの人間に縁が深いのかもしれない。

「何にしたって、俺達武術職のやることは変わらないだろ?その脅威に備えて日々腕を磨く。極めてシンプルだがそれが唯一の道さ。それに各事象の調査や分析自体は魔銃師会の仕事なんだから、騎士隊員であるお前が過剰に心配することはない」

「それはそうだね...」

確かにそうかもしれない。だが...

それだけでは足りない。

我々の力だけでは...せいぜい次元の裂け目からチョコチョコとやってくる魔獣に対抗するぐらいが関の山だ。

そして個人個人が鍛錬を積んで強くなったとて、残念ながらその寿命は有限だ。龍騎士たる父も兄も寿命には抗えなかった。

しかしもしその力を...世代を超えて受け継ぎ、更に高めていけるのであれば、「来るべき日」、来襲するアンゲロスの軍勢を迎え撃つ大きな切り札になるはずだ。

父ファーロッドはそう考え、遺跡で発見した「継承の魔法」を迷いなく使い、まだ子供だった姉マグノリアにその力を引き継がせた。今その力はイグナシオの中にある。

兄はそれが姉と甥を苦しめる結果になったと、父の決断に否定的だったが...

私は魔獣討伐を経験してから、むしろそれは必要悪だったのでは...と考え始めている。

イグナシオも多分同じ考えだろう。

「再来年はエルネア杯だ。騎士隊としての連覇の期待が実質NO.1のお前にかかってる。先の脅威を必要以上に憂うより、目の前の試合を大事にしろよ。結局はそれが王国を護ることにつながるんだからな。ガノスの隊長だって、きっとお前に期待してるよ。俺も、お前ならきっと龍騎士になれると思ってるから!」

そんな単純なものじゃない...と返したいところだが、本来ブレソールの助言はこんな特殊な状況でなければ有難いものだった。単に「偉大な隊長の立場を引き継いだプレッシャー」に悩んでいるだけであれば...。

それでも、こうやって心を寄せてくれる友がいるのは有難いことではある...。

 「...ありがとう、ブレソール。お陰で少し楽になったよ」

「それは良かった!また、何かあったらいつでも言ってくれよ。とにかく、一人で深酒をする前にまず俺を呼ぶんだぞ、解ったな」

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「ああ、そうさせてもらうよ...」

付き合ってくれた親友には感謝するが、結局心の霧は晴れることはなかった。

 

**********************************************************************

「ええ〜?次は準決勝?隊長には申し訳ないけど、あたし、ラッキーだわ!」

15日のトーナメントは、兄カールが既に亡くなっていたため対戦相手の不戦勝となった。

若い近衛騎兵アサンタ・ラーゴがキャアキャアと嬌声を上げて喜んでいた。死者への敬意に欠ける軽薄なはしゃぎぶりに私は苛々していた。もともと銃持ちの騎兵で武器相性のみで初戦を勝利した女だ。兄にとっては本来敵にすらならない相手のはずだったが、書類上ではこの女に負けたこととなる。尤も不戦敗自体は規定にそった結果なので文句を付けるわけにはいかないが...。

「あ、副隊長〜♪」

視界に私の姿を認めたその女は内股の小走りでこちらに近寄ってきた。

「やあ、アサンタ」

おめでとうとは口が裂けても言いたくなかったので挨拶だけに留める。

「信じられないんですけどぉ〜あたし、準決勝進出が決まっちゃいましたぁー!副隊長と戦うことになったら、お手柔らかにしてくださいね〜。」

腰までの長い髪を必要以上にかきあげながらクネクネと動く、アサンタの武術職らしからぬ仕草に内心嫌悪感を感じながらも、礼儀上顔に出すのは失礼にあたるので作り笑顔で応対する。

「私は17日にアシエルと戦うからその結果によってだね。まあその時は宜しくね」

他の相手であれば容赦しない...位のことを言っただろうが、この女にはその価値すら見出していなかった。そう言うのは相手に武人としての敬意を払えてこそのことだ。

「えー!アシエル〜!あのチャラ男ぉー!あいつ昔、このあたしにもナンパしてきたことあるんですよぉー。まぁあたしぃー相手に不自由してないから断っちゃいましたけどぉ―。そんな奴に負けるわけないでしょぉーうふふっ。」

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アシエルがチャラチャラした男であることは概ね同意だが、潜在能力は入隊当初から非常に高かった。特に最近メキメキと実力を上げてきている。もはや侮れない相手だ。この女からすれば同類かもしれないが、実力は較べるべくもない。

「私生活と剣の腕は関係ないよ。彼はあんな風でいて、最近はうちの甥達と一緒に探索に行ってるようだからね。もともと才がある人間が、それなりにでも努力するようになれば怖いものだよ...」

「へー、そんなものですかぁー」

武器相性の有利さのみでこの場所に立っている君には解らないだろうけどねー。

そんな皮肉を言いたくなったが、きっとそれすらも通じないに違いないー。

アサンタに言ったように、イグナシオは最近良くアシエルやランスを連れてゲーナの森へ探索に出ている。本来は山岳兵であるイグナシオがゲーナで実力を発揮できているのは、父や姉から受け継いだ能力あってのことだろう。

龍騎士の力を持つ者は、直接もしくは間接的に他者の能力を引き上げることができるー。

なぜならば、その能力をもって他者の鍛錬の補助ができるだけでなく、強い者の存在は、他者にとっても目指し超えるべき道標と成りうるからだ。

兄や弟、そして私自身もかつては同じように姉のサポートを受けてゲーナを探索していた。我々が今の地位に就けたのも姉の助力あってのことだ。それを忘れるわけにはいかなかった。

イグナシオが次のエルネア杯で龍騎士になれば、全てのダンジョンの探索権を得る。サポートできる範囲は一気に広がることになる。しかもまだ若い。彼の行動次第だが、組織を超えて武術職全体のレベルの底上げにつながるかもしれない。

結局兄の遺志には反する形になっても、イグナシオが目的を達成した方が、王国にとっては益になるように思えた...

 

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17日、いつもと違いすっきりしない精神状態のままアシエルとの対戦を迎えたが、現時点ではまだまだアシエルの剣技には粗さと隙があり、そこを突くことで勝利することができた。
「今回はオレ結構探索頑張ったんっすけど、やっぱり副隊長、凄いですね!」

「まだまだ改善の必要はあるけど、今までと違って明らかに進歩が感じられた。やはり努力は裏切らないね」

...ここでいつものようにヘラヘラ笑っていたアシエルの表情が一変し、握手していた手を強く握ってきた。

「...次は追いつきますよ。副隊長はオレの目標ですから!貴方の剣筋、とても綺麗でオレ、好きなんです」

普段見せない真剣な目で見られるとどうにも落ちつかない。

「私ごときを目標にしてはいけないよ...もっと高い志を持たないと」

私はアシエルにそう言い残して闘技場を後にした。

「副隊長、来年からは隊長ですねー!楽しみにしてますよー!」

後からアシエルの声が響いていた。どうやら私の優勝を疑っていないようだ...。

 

「お前ならできる」兄やブレソールはそう言った。

そしてアシエルは私のことを目標だと...。

残念ながら...私はご期待に沿えるような人間ではないよ...。

本来であれば兄亡き後の騎士隊を背負うべく、それでもここで奮起せねばならないのだろう。

だが一方で、組織の人間としての立場を離れた自分の答えは異なっていた。

イグナシオが龍騎士になれば、その時点で彼の束縛はひとまず解かれる。

何よりも、イグナシオに希望を託した姉の願いも成就する...。

それを望んでいる自分も確実に存在している。

 

こんな迷いを背負った人間が、騎士隊の長として果たして相応しいのだろうか?

心は千々に乱れたまま、私は準決勝を迎えることとなった。

 

「今からホントに準決勝なんですね〜!あたし、やっぱり、ラッキー!」

...ああまったく...五月蝿い。

目の前のアサンタの相変わらずの軽薄さに気勢を殺がれる。

「この幸運をどう活かすかは君の戦い次第だよ。楽しみにしてるからね」

「はぁーい!ヨロシクおねがいしまーす!」

嫌な相手だ。話しているだけで疲れる。

銃持ち騎士の対処法など十分心得ている。こんな試合はさっさと終わらせてしまおう...。

「互いに礼」

「はじめっ!」

神官の合図で試合が始まる。

「...!!」

あえて先手を取らせて相手の銃の軌道を読む戦法を取ったが、それが裏目に出てしまった。僅かな勘の狂いが、普段なら避けれるレベルの攻撃をまともに受ける羽目になった。

-迂闊だった-

本来銃持ち相手には細心の神経を払わねばいけないのに、今まで勝ってきた無意識の奢りからそれを忘れていた...。

「勝者、アサンタ・ラーゴ!」

結局計算が外れた焦りから自身の攻撃もうまく機能せず、私はアサンタに敗れた...。

「え、スゴイ。あたし、副隊長に勝っちゃった、キャー!」

アサンタは無邪気に飛び回って喜んでいる。

「おめでとう、アサンタ。見事だったよ」

内心屈辱感があったが、それを隠して平静を装って握手した。

「はーい!ありがとうございます。こうなったら優勝目指して頑張りまーす!」

アサンタはそう言って家族のもとに駆け寄ろうとしたが、その前に立ち止まってくるりときびすを返してきた。

「あ、副隊長」

「?」

「このあいだ、努力が大事って仰ってましたよね!だからあたし、今回カルネに行ったりして鍛えてたんです〜!そしたら勝っちゃった〜。やっぱり努力って大事ですね、ありがとうございます〜」

「...それは良かった...」

ここで私は、自分が先入観で相手を侮っていたことを理解した。銃持ちと言うだけで、向上心のない人間と勝手に決めつけていた。私の言葉が届くはずなどないと...。

結局、私の負けは必然的なものだったのだ...。

「副隊長」

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再び去っていくアサンタの後ろ姿を茫然と見つめていた私のところに、アシエルが声をかけてきた。振り向くとなんとも不満げな表情をしている。

「どうしたんです...全く、あなたらしくない試合だった」

「...私らしくない?私はもともと、こんなものさ。君は誤解をしているよ」

「そんなわけないでしょう。オレは入隊してからずっと、あなたの戦いを見てきたんです...。だから、解ります。あなたらしくない」

...自分らしくない、か。

確かに自分を見失っていたと思う。

騎士隊長の代理という立場にありながら、無様な戦いぶりを晒したことを恥ずかしくも思っている。

そうだ。

自分を大した人間と思っているわけではないが、やはり誰であっても負けたくはない。誇りを持って戦いたい。

結局自分にも「武人の本能」というものがしっかりと根付いているのだった。いかな理由があっても、そこに蓋をして戦うことはしたくない。

「アシエル、自分にはよく解らないが...そう言ってくれるのは有難いかもしれないね...」

 

エルネア杯の開催まではあと1年ある。

イグナシオ、果たしてお前とどう戦うべきかー。

騎士隊員として、遺言を託された弟として、そしてそれら全ての柵を外した一個人として、それぞれ相反する意思が自分の中で交錯している。

自分の在り方を今一度整理するのに、長い一年となりそうだった...。

 

※捏造設定「継承の魔法」について

ゲーム上で「PCの特権」となっている「武器と能力の継承」。

当初は「龍騎士ならだれでもできる」魔法として考えていました。

初代ファーロッド以前の龍騎士が魔法を使わなかったのは、龍騎士になった時には既に子供が成人していたり、子供に武の才がないとみなしたなどの事情があったからだと。

じゃあ、初代長男カールの場合はどうするの?って問題は...

カールが龍騎士になった時点では、次男アルドヘルムがギリギリ子供。引き継げるのに引き継がなかった理由は「兄ランスを「選ばれなかった子」の立場にすることで発生する「兄弟の確執」を避けるため」あえて引き継がなかった...という設定を作っていました。これはこれでその後のランスとアルドヘルムのドラマを作れるので、美味しい設定ではあったのですが...

しかしゲームを進めるにつれ「PC以外の龍騎士」がボンボン誕生し(今はむしろNPC龍騎士を見る方が楽しい)、その龍騎士たちが全員あえて「引き継がない」というのもご都合主義すぎるやろ!と思い、「龍騎士ならだれでも引き継げる」設定をここで没にすることにしました。

そこで代わりに作ったのが「継承の魔法」の設定。この魔法は「最初に使った者とその継承者」にしか使えない」ことにしております。初代は魔銃師だったので、禁断の遺跡でこの魔法が書いた魔術書を発掘したのです!それでも突っ込みどころ満載課と思いますが、まあこれも生暖かく見過ごしていただけると...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな決意。

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波乱の一年も今日一日で終わりとなった。

しかし来年も、コロミナス家にとっては重要な節目の一年となるはずだ。

まずおれにとっては、エルネア杯を控えた勝負の年。

確実に龍騎士となるためには、今年もリーグ優勝を果たさなくてはならない。

そしてもう一つー

長女のミカサが成人を迎える。

山岳長子であるこの子にとって、大人になることの意味は普通の国民より大きい。

将来ファミリーを率いる者としての責任を成人直後から負うことになるからだ。

これから数年は、兵隊長見習いとして探索や仕事に邁進してもらわなくてはいけない。

-本人の意思がどうかに関わらず...。

 

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成人の直前ということで、おれと父はミカサを森の小道に誘った。

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昔のおれと違って、ミカサは臆病な子供ではない。

しっかりしろと厳しく言う必要がないのでほっとする。

状況によっては言わねばいけないのは理解しているが、言われた立場の苦い記憶が残っているため、できればいいたくないのが本音のところだ。

「ねえおじいちゃん、わたし明日から大人になるんでしょ?そしたら一緒に「帰らずの洞窟」に入れるんだよね。森の小道じゃもうつまんない。だから楽しみだよ!」

「ああそうだよ。探索だけじゃなくて、高炉の使い方も教えてあげるからね。ミカサが大好きなハニーピッツァも自分で焼けるし、いろんな工芸品も作れるようになるよ。」

「ほんと!じゃあミカサ、ピッツァ作ってみんなにご馳走してあげる!」

「いいね。ミカサのピッツァはきっと美味しいだろうね。おじいちゃんも楽しみだよ」

...二人のやりとりを眺めていると、父も丸くなったものだなと思う。

 

勿論おれが子供の時も、いつも鬼のように恐ろしかったわけではなく、普段は優しくしてくれていた。

それでも、勉強や訓練に関することにはかなり要求が高く、厳しい父であることに変わりはなかった。

 

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「帰らずの洞窟」の一般開放期間中に無理やり連れていかれた時、おれは最後まで逃げなかったけれど、それは勇敢だったからじゃない。

...逃げた後で父に怒られるのが怖かったからだった。

 

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「イグナシオ、明日からお前は大人になる。将来コロミナス家の兵隊長となる第一歩だ。皆の手本となるよう、探索も仕事も頑張らなければいけないぞ。」

「うん...」

「そんな弱腰でどうする?このままのお前ではとてもじゃないが、ファミリーを守る責任を負うことができない。プレッシャーが辛い気持ちも勿論解るが...そこは乗り越えないと駄目だ。俺も父さんもそうやってきた。その血を継ぐお前にできないはずがない」

「...わかりました。がんばります...」

父と成人前に交わした会話はおれにとってはひたすら重く、うんざりするような内容だった。といっても、今では当時の父の気持ちも理解できる。

父は若くして兵団長の重責を担い、日々激務に明け暮れていた。

そんな余裕のない中で、自分とは似ても似つかない頼りない息子をどう導くか途方に暮れていただろうー。

 

「イグナシオ、俺は先に帰るから、ミカサと二人で話していくといい。」

「おじいちゃん、またあとでねー!」

「あぁ、じゃあね、ミカサ。また夜にね」

父はミカサに手を振ってひと足先にドルム山に帰って行った。

 

成人を目前にした長子に、大人になることの意味を伝え後継者としての自覚を促す。

山岳一族に代々伝わってきた習わしのようなものだ。

「ミカサ、パパと一緒に滝までお出かけしようか」

「うん!」

娘は子供らしい笑顔で返事をする。

こんなあどけない姿を見るのも、明日の午前までとは寂しいものだ。

さて、おれはミカサに何を話すべきかー。

 

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 滝の音はいつも変わらない。

力強い水音は、不思議と気持ちを落ち着けてくれる。

そのせいか両親も、何か大事なことを話す時は滝の前が多かったが、その理由が解る気がする―。

「ミカサも明日のお昼には大人になるね。」

「うん。」

「怖くない?大丈夫?」

「大丈夫。大人になったら、できること沢山増えるでしょう?入れるダンジョンも増えるし。さっきおじいちゃんが言ってたように...お仕事もできるし。だからミカサ、大人になるの楽しみなの」

「それは良かった」

おれの時は「ダンジョンに入らねばならない」「仕事をしなくてはならない」と義務感ばかりが先行していて気が重かったが、娘はそうではないようだった。殊更に「長子としての義務」を説かなくても良さそうなので安心した。

「それにね...」

ここで娘は、恥ずかしそうに下を向きながら言葉を続けた。

「大人になったら...好きな子と...デートしたりもできるんでしょ?」

そうか。そういえばこの時期は本来なら、仕事よりそっちの方に興味があるものだよな。

この子は山岳長子だから、まず最初に仕事や探索の方を話題にあげてたけど...。

ふと一瞬、自分と「叔母」カレンとの間に起こった残酷な結末が頭をよぎったが、慌てて意識の外に追いやった。

「そうだね。ミカサはもう...好きな子いるのかな?」

「...えー...。恥ずかしいから、言わない!」

そう言ってくるん、と反対の方向に顔を向ける。

言わなくても何となく見当はついていた。

スウィア家のルーファス君だろうな。良く探索についてきてくれと頼まれていたから。アカデ持ちで度胸のある子だ。先の話だけどあの子が婿入りしてくれれば、親としては確かに安心かもしれないー。

何にせよ、娘には相思相愛の相手と幸せな結婚をしてほしい。

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 ここまで話した感じだと、娘には「山岳長子」としての自覚は十分にある気がする。

そこは問題ない。

ただ、一つだけ懸念事項があった。

この子は将来「コロミナス家の兵隊長」となる以上、おれの龍騎士の力は渡せない。なぜなら次の継承者には「龍騎士の剣とスキル」を取ってもらわなくてはいけないからー。

そこだけは絶対に譲れない。

だが、ミカサを「選外」とすることで、この子に複雑な感情を抱かせてしまうかもしれないー。兵隊長としての「義務」だけ引き継いだ上で、「龍騎士の力を引き継いだ兄弟」と将来競う羽目になるのだから...。

実際「ハルバードは渡せない」と告げた時から時折不安定になり、特に弟のジークにはよく喧嘩をふっかけている。おれがジークを「選んだ」ことを薄々感じ取っているのか...。

今あえてこの子に言うべきなのだろうか?

お前には力も武器も渡せないが、粛々と運命を受け入れろと。だが長子の役目はしっかり果たせ、兄弟を恨むなと...

「...パパ」

おれが躊躇していると、ミカサが先に口を開いた。

「わたし明日には大人になるけど...直さなきゃいけないことがあるよね」

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「わたし...とっても「嫌なおねえちゃん」になってるよね?いつもジークに意地悪ばかりして...。ほんとはジークが生まれるの、楽しみにしてたのに...弟のこと、可愛いと思ってたのに」

「ミカサ...」

「ねえパパ...パパの「武器と力」あげるのは、ジークなんだよね?アニは大人しいもの...。だからね、ジークに焼きもちやいてたの。なんでわたしじゃないの?わたしは一生懸命いろんなこと頑張ったのに、なんでわたしじゃなくてこの子なの...って」

 娘は背筋をぴんと伸ばして立ち、父親の顔をしっかりと見据えている。

かつてハルバードを握りしめてわんわん泣いていた姿とは別人のようだった。

「でもわたし...そういうのやめる。わたしは将来、パパやおじいちゃんみたいに、コロミナス家の兵隊長になるんだもの。家族を...守る人になるんだもの!ジークだって家族なんだから!」

...この子はおれや父と同じように運命を「選べなかった子」だ。だがそれと同時に「選ばれなかった子」でもある...。

ある意味この子の背負っているものは、おれよりも過酷だ。

それでも自分なりの誇りを持って、理不尽な現実を乗り越えようとしている―。

そこに至るまでの娘の心境を想うと胸が熱くなってきた。

「ねえパパ...わたし、大丈夫かな...今からでも...いいお姉ちゃんに...なれるかな?」

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 「なれるよ...ミカサ」

ここでおれはひざまずき、娘をしっかりと両腕で抱きしめた。

「お前は強くて優しい子だ...。いいお姉ちゃんにも、立派な兵隊長にも、ちゃんとなれるよ」

「パパ...ほんと?」

抱きしめた娘の体はまだまだか細く小さい。この小さな体で葛藤と戦っていたかと思うと胸が痛み、いっそうこの子が愛おしく感じた。

「兵隊長でいることは楽じゃない...。辛いことも苦しいことも沢山ある。だけど...お前が家族を守るように、家族もお前を支えてくれる。パパも...生きてる限りはミカサの側にいるからね。だから安心して、胸を張って生きるんだよ。パパはいつもお前の後ろにいるから」

「ありがとう...パパ!」

娘が小さな手でおれの背中にしがみついてくる。こんなことをしてくれるのも今日が最後だなー。

 

「パパ、滝の音すごいね」

「そうだね」

話し終えた後、おれとミカサは暫くの間滝を見つめていた。

この子が歩けるようになってから、何度ここに連れてきたことだろうか。

ミカサは今後は親とではなく恋人とこの場所に来ることになるだろう...。父親としては複雑な気持ちも多少はある。

そしていつかは我が子を連れて、母としてこの場に...。

この堂々たる滝の姿は遥か太古の昔から変わらない。

人間だけが世代を重ね、移り変わっていく。

「わたし...今日のこと忘れないね。大人になっても辛くなったら思い出すね」

「そうか...自分を支えてくれる思い出ができるのはいいことだね。」

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おれは龍騎士になり、祖父が言うような「自由な存在」に成りえたとしても、決してドルム山を離れることはできないだろう。おれの運命は生まれた時からあの場所に固く結び付けられている。

今まではそのことは「束縛」としてとらえていた。束縛であっても受け入れるしかない運命だと。

けれど今日初めて、このままドルム山に魂を埋める人生でも...それはそれで良いかと思えた。娘を心から...支えたいと思ったから。そう思わせてくれたのは、娘の健気さと強さだった。

家族を支えていると自負してきたが、おれ自身もまた家族に支えられているー。

家族とはそういうものなのだろう。

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こうして、娘に残された「子供の時間」は着々と過ぎ―

216年1日。

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昼一刻の成人の儀を持って、娘は美しい大人の女性へと変身を遂げた。

「お父さん、お母さん...私はこれから将来のコロミナス兵隊長として...家業に探索に尽力します。どうかこれからも、よろしくお願いします」

おれたちに落ち着いた声で挨拶するミカサの姿はとても凛々しく、将来の兵隊長としての風格を十分に漂わせている。

「ほんとにお姉ちゃん?かっこいい!綺麗!素敵!」

「ねーちゃん、大人になったぁ...すげぇ...」

下の子供二人にとっては、姉の変貌は大きなインパクトを与えたようだ。特にジークは口をあんぐりさせて驚いている。

昨日までの「自分を追っかけまわしていたおっかないねーちゃん」の面影はどこにもないから無理もないだろう。

ジーク」

ミカサは弟に優しく声をかけた。

「良かったら...今持ってる絵本...読んであげようか?」

ジークはほんの一瞬だけ躊躇したが...

すぐに「うん!」と笑顔で返事をした。姉の内面が変化したのを、無意識に感じ取っているのか。

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「じゃあ、おいで」

「わぁい!」

ジークは姉の膝に飛び乗った。

「これは水の魔術師エリア様のお話だね...」

膝に乗せたジークの髪を撫ぜながら、絵本を読み聞かせる娘の姿は妻のオリンピアによく似ている。

そこに不思議な命の繋がりを感じた。

娘はきっと、コロミナス家をしっかりと守って行ってくれるだろう。

おれたちがガノスに召された後も-。

 

おまけ:〚子供→大人への変化+加齢について〛

ゲーム上ではご存知の通り、儀式でおもむろに「子供→大人」へ「変身」しますよね。

プレイヤーの解釈も様々で、ゲーム上のアレはあくまでもシステム的なやむを得ない表現で、実際は普通の人間と同じように徐々に成長していると捉える方、ゲーム同様「一気に変身」と捉える方...様々で興味深いです。

わたしの場合は...ゲーム同様「成人の儀で子供→大人に変身する」形をとることにしました。エルネア世界の彼らは、地球人類とは別の「そういう種族」なのです!そうなのです!

プレイしてても肌感覚として「変身」として受け止めていて、成人直前の子供キャラクターが思春期のミドルティーンにはとても変換できなくて(^^;...感覚のほうを優先することにしたのです。

もう一つ「加齢」についても補足させていただくと...

わたし個人はPC+周辺の親しい人物が白髪になったらすぐ髪染めしちゃって、あんまり「お年寄り」として見ていないところがありまして...そのためブログ上の人物も実際は熟年なのにも関わらず言動が若くなってしまう時があります。

(カールも最後は地球換算63歳なんですが、全然そういう風には描けませんでした

(^^;)

実年齢考えると全然リアルじゃないし、年齢なりの渋さを逆に好まれる方には違和感があるかもしれませんが、自身の妄想ながらもプレイ時の感覚を生かしたい気持ちがありまして...その辺はサラッと生暖かく見過ごしてただけると...大変ありがたいです。

 

 

 

 

 

イグナシオの選択

「イグナシオ...そろそろ決めておかなければいけない時期だと思うが...どうするんだ?」

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父と探索に出たときに質問を投げかけられた。

おれの力の後継者として誰を選ぶか、父なりに気にかかっているようだ。

「うん。もう決めてるよ、父さん」

「決めてる?誰に?」

危なげなく兵団リーグを終え、年明けにはミカサの成人が控えている。

更にその一年後にはエルネア杯だ-。

おれなりの結論はもう出ていた。

 *************************************************************

「イグナシオ...あなたに任せるわ...。あの子たちのうち誰がいいなんて言う資格、わたしにはない...」

かつて、母とその話題が出た時の答えはこうだった。その時の母の表情は普段と違い暗い影をたたえていた。

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 「おれを選んだとき、母さんは迷わなかった?」

「ええ...。それが一番良いことだと思ってたわ。あなたにとってもね...でもそれが...あなたを却って苦しめてしまった.。だからわたしは...解らないの。一体どうするのが正解なのか...」

絞りだすように話す母の声は震えている。

かつて母がおれを選んだのは純粋に愛情だった。

いずれ長子としてコロミナス家を継ぐ息子にとって、その力が助けになるようにと...。

だがおれにとってそれは重荷で、その重荷を背負うためにおれはハートドロップで人格を変えた。そのことで今も母は自分を責めている。

「母さん...こういうことってそもそも正解はないと思うよ。だから間違いもない。おれも同じように自分なりに「最善と思った」選択をするつもりさ。おれたちにはそうするしかないし...それでいいと思うんだ。」

「イグナシオ...」

「母さんも...この間の魔物討伐に父さんやカール伯父さんと参加したよね?みんな王国随一の戦士だったけど...結局お祖父ちゃんを祖霊として呼びださなければ討伐は完了できなかった...。あんな魔物はこれからも、アベンの門の隙間から沢山湧いて出て来る。だから...その時のために、おれたちはお祖父ちゃんのこの力を引き継いで...次代に伝えていかなくちゃいけないんだよ。これは一族が避けれない運命なんだ。おれはもう覚悟してるし、次の子供にも覚悟させるさ」

母は暫くは何も答えず泣いていた。が、ひとしきり泣き終えた後顔をまっすぐ上げた。

「あなたに引き継ぐ時も言ったけど...わたしは...ジャスタス君と...あなたのお父さんと結婚したことを後悔していないわ。今もね、そして、これからも。だけど...」

そして、おれの顔をきっぱりとした表情で見つめる。

「そのことであなたに辛い重荷を与えたことは、一生背負っていかなければいけない罪だと思ってる。イグナシオ...あなたももしかしたら...いつか同じ気持ちになるかもしれない」

「そうだね...。」

力の継承は、栄誉であると同時に呪いでもある。

親がそれを与えるということは...結局どうあっても根底に罪をはらんでいる。

本来であれば一生をかけての鍛錬によってのみ、得られるはずの武器とスキル。

それを古の魔法によって、ほんの一瞬ににして引き継ぐことができる。僅かな訓練時間で最強の戦士が誕生するというわけだ。

ただしそれはあくまでも期間限定の儚い魔法。次代に引き継いでしまえば、逆に全てがからっぽの無力な状態で放り出される。しかもその時には既に若くはない。

おれにはこの力はずっと重荷だったが...逆に重荷でなかったとしても...恐らくそれはそれで...。

結局は、おれは選んだ子を後に苦しめることになるかもしれない。

母はここで、おれの肩にしっかりと手を置いた。よくカール伯父さんがやっていた仕草だ。やっぱり兄妹だけあってよく似ている。

「イグナシオ、あなたがいつかその罪を自覚するとき、わたしは多分もう、あなたの側にはいない...。でも忘れないで。お祖父ちゃんやわたしが同じように背負ってきた罪だから。罪を背負うのはあなただけじゃない...。あなたは一人じゃない。そのことを、忘れないで...!」

母の目にはまだ涙が光っていた。

「ありがとう...母さん」

これからのおれの選択には正解は無い。誰を選んでも、その子は他の誰とも共有しえない孤高の道を歩いていかなくてはいけない...。おれも途中までしか共には行けない。

それでも「おれたちは」選ばなければならない。

 

 *************************************************************

おれは父に説明を始めた。

「まず...」

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「ミカサは除外する。次の継承者が目指すべきなのは近衛騎士だ。今はこの力は山岳に留めておくべきじゃない。そもそもあの子はもう成人してしまう。おれが次のエルネア杯で龍騎士になるまでに引継ぎが間に合わない」

「そうか...」

父の声は少し落胆しているようだった。元山岳兵団長としては、おれとミカサで二代続けて龍騎士になってほしい...そう思っていても無理はないだろう。

「イグナシオ...ミカサの将来の夢、聞いたことがあるか?あの子はいつも龍騎士になりたいと言っていた...」

「うん、知ってる。」

「それでもか?娘の夢を叶えてやりたいとは..思ったりしないか?」

「可哀そうだけど仕方がない。父さん...そもそもおれも父さんも...「選べなかった」じゃない?将来の選択肢は、何も。ミカサも同じさ...。残念だけど、どうしようもないんだ...あの子には受け入れてもらうしか。」

ハルバードをねだった時の娘の無邪気で愛らしい表情を思い出し胸が痛む。せめて武器だけでも、渡せるものなら渡したい...だがそれは不可能なのだった。

「そうだな...。逆にお前は希望してないのに山岳長子の立場と龍騎士の力を受け取ることになったわけだしな...。かつて兵団を預かった者として、王国の命運もかけるような決断に...私情を交えるべきでないのというのも...理解しているつもりだ。」

洞窟に父の低音の声が静かに響いていく。

「ただイグナシオ...お前が支えてやれよ...あの子がその理不尽さを乗り越えていけるように」

「うん、解ってるよ。おれは一生、このドルム山であの子を支えて行くつもりさ...父さんがおれに対してしてくれたようにね」

 そうさ。おれは受け入れている。このまま山岳兵団の人間として一生を終える。かつては別の道を夢見なかったわけじゃない。でもおれは意識の底に沈めた「もう一人のイグナシオ」と約束したんだ。おれはそのために呼びだされた人格だ。仕事は全うしてみせる。

それに...

おれは一人じゃない。オリンピアがいる。彼女はおれの運命を一緒に背負うと言ってくれた。人格が変わったおれをも受け入れてくれた。だから大丈夫だ。

「次に...アニだけど」

おれは話題を移した。

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「あの子は優しい子だ。戦士には向いていない。父さん...これはおれの我儘かもしれないけど、自分の子供にはハートドロップを飲んでほしくないんだ。」

ここで、父はなんとも悲しそうな表情をした。父のこんな顔は今まで見たことがなかった。

「イグナシオ、すまない...俺は例の薬を飲む前のお前を...正直持て余していた。こんな弱気で本当に兵隊長が務まるのか...そんなことばかり思っていたんだ。だから...お前が今のお前になったとき、正直これで楽になったとまで思ってしまったくらいさ...。」

 もう一人の自分と交代するとき、今までのイグナシオが生きてきた記憶と感情も一緒に引き取った。確かに-「彼」は苦しんでいた。父の求める姿になれず、期待に応えられなかった自分に。

「俺はお前と違って...兵隊長をやることに抵抗が無かった。それ以外の道を考えたことも無かったし、むしろ誇りに思っていた。両親...特に母からは厳しくしごかれたが、目の前に与えられた課題を次々とクリアしていくのは、そもそも嫌いじゃなかったんだ。今思えば...たまたま自分に与えられた進路が、能力や性格に合っていた...それだけだった。皆がそういう幸運に恵まれるわけじゃない。なのに傲慢にもそのことが見えなかった...。お前の気持ちに寄り添ってやることができなかった。...余裕が無かったというのは...言い訳だな」

「父さん」

おれは正直、どう答えていいかわからなかった。あの時の「彼」の苦悩が自分の中にあり続ける以上、簡単に「気にしないで」とも言えない...だけど..

「公私全てに対して完璧にケアできる人間なんていないよ。あの薬を飲む前から、「おれ」はそれでも父さんのことを尊敬してた。若くから兵団を率いるために不断の努力をして、兵団の為に身を粉にして働いて、誰に対しても公明正大だった父さんのことをね。勿論...今のおれもだよ。その気持ちは変わってない。今はそのことだけを覚えててほしい」

「イグナシオ、ありがとう...。お前は俺より、本当はずっと強いよ。子供の頃から...今まで、ずっとな...。あの時にそれを言ってやれなかったのが、心残りだな...」

父はそれ以上何も答えず、ただ目頭を抑えていた。

 「何にせよ...おれとは違って...アニはありのままで、自由に生きてほしいんだ。」

姉と弟が喧嘩すると、いつも仲裁している。争い事を好まず、控えめで優しい娘。その娘に...時には冷徹な判断も下さなければいけない後継者の道は...進ませたくはなかった。

「そうだな...俺もそれには同意するよ...。だけどイグナシオ、そうなると...」

ミカサもアニも選ばない。

そうなると、もう一人しかいない。

「継承者はジークにする」

おれはきっぱりと言った。

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 「あいつはグリニー持ちで、朝昼晩しょっちゅうバグウェルパンチって叫んでる好戦的な性格だ。いかにも戦士向きじゃない?それに無駄に負けず嫌いだし。試合に明け暮れる近衛騎士にはうってつけだよ」

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 「.好戦的...イグナシオ、わからないことはないがもう少しいい方ってものがあるだろう...まぁその通りだが」

父は先ほどの辛そうな様子から一変して笑いをこらえるような表情をしていた。まあジークのことを思い出すとそうなるだろう。ジークは無駄に元気でやかましくて、何をやらかすか解らないので大人としては見ていてハラハラする。しかし一方で変な愛嬌があって、結局何をやっても許したくなってしまうのだ。かつて鬼の兵団長と言われた父ですら例外ではない。末っ子らしい得な性分だ。

「それに、あいつはバグウェルにはなれないと解ってから、今度は毎日隣のギョーム君とかけっこ三昧さ。「人間として」強くなるためにね。三日で飽きると思ったら、10日程経った今でもずっと続けてるらしい。ギョーム君が付き合わない時は一人で走ってる。一度目標を決めたらたゆまず持続する...これもポイントが高い」

「確かにな」

...といっても、そういったことはジークを選んだ本質的な理由ではない。

「父さん..おれは.継承者に最も必要なのは、試練を受け止めて立ち向かう強さだと思ってる。あいつ...無駄に強情な所があって絶対に泣こうとしないだろう?」

「ああ...ある意味困ったところだが」

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 「おれは泣かないことが良いことだとは思ってない...それはいつか教えるつもりさ...ただ...例えば、バグウェルになれないことが解った...それはあいつにとって人生最初の絶望だったと思う。でもあいつは泣くまいと踏ん張った。それがジークの強さだよ。たとえ絶望的な現実に直面しても...踏みとどまろうとする強さ。自分を律しようとする強い意志。龍騎士の力を背負うには...それが必要なんだ。だからおれは...ジークを選ぶ」

父はおれの言葉を聞いて、安堵の表情を浮かべた。

「そうだな。イグナシオ...俺もそれには賛成だ。ジークはきっと立派な戦士になってくれるだろう。継承者については、お前が何も言わないのでどうするつもりか心配だったが...納得いく意見を聞けて良かったよ」

「ありがとう...。父さんにそう言ってもらえて、おれも安心できた」

そう。

選択についてはもう迷わない。

ただ...ジークの運命の方向性を、おれがこうして定めてしまったことには、親として心残りがないわけはない。

ジークは間違いなくおれ以上の強い戦士になる。あいつは間違いなく、継承者として託された使命を果たし、龍騎士になるに違いない。

しかし...いつか必ず、その力を全て失わなくてはいけない運命が待っている。

ジークがその絶望を乗り越えてくれることを願うしかない。

 

多分おれは両親と同じように、ある種の悔恨を背負って生きて行くことになるだろう...。だがそこから逃げるつもりはないー。

オレは泣かない!

カール伯父さんが亡くなった後も、身近な人々の訃報は続いた。

まず、パティ女王陛下

次にオリンピアの父アルヴィン。

母の親友である魔銃導師アンジェリカ。

特に兄、古くからの友人二人と相次いで親しい者を失った母にはかなり堪えたようだ。

「この年だから仕方がないけれど寂しいわ...。もっとも、わたしがいつか旅立つときにみんなが向こうで待っていてくれる...そう思えばいいのかしらね」

旅立つ者...残される者、どちらにも悲しみはある。

だが旅立つ者の為にも...残される者は前を向いて生きていかなければならない。

 

「いえーい、ひっさつ、バグウェルスラーッシュ!」

「こらジーク、うるさいぞ、もう少し静かにしなさい!」

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...悲しい出来事が多い中でも、ひとすじの光明はある。

赤ん坊だったジークが1歳を迎え、歩きだすようになったのだった。

コロミナス家の食卓も一段と賑やかになった。

特に父を失い傷心だったオリンピアにとっては、大きな慰めになったようだ。

オリンピアは「初めての息子」に大層ご執心となり、姉二人は少々ヤキモチを焼いている。

 

しかしこの息子...顔立ちはオリンピアに似て女の子のように端正だが、とにかく...無駄に元気すぎるのだ。朝食を食べると弾丸のように飛び出して行き、暫く帰ってこない。

いつもどこにいるのか解らないので、探すのに苦労する。

大抵「こんなところに?」というような場所で見つかる。

ある時は、果樹園のポムの木のてっぺんによじ登っていたので、降ろすのに苦労した...。

 

「イグナシオもアルベルトも大人しい子だったし...オリンピアちゃんだって、そうでしょ?一体誰に似たのかしらね...」

「そりゃ、一人しかいないだろう」

夕食後の寛ぎの時間、父は母をチラっと横目で見やる。

「なんですって!」

「...ジークは君たち兄妹を足して二で割った感じだと思うよ。ヒルダもお転婆だったが..それもきっと君に似たんだな」

おれは母やカール伯父さんの子供の頃を当然知らないが...まあ何となく想像はつく。

 

ジーク、大きくなったら何になりたい?」

話題の人となっている息子に、お約束として一応聞いてみる。

「オレ?...もっちろーん...」

ジークはパッと両手を広げて高らかに宣言する。

「バグウェルー!!」

自分が「人類という種族」であることを、まだ認識していないらしい...。

「あら、ジーク君、バグウェルなの。亡くなった大伯父さんと一緒だね!」

 「おおおじさんー?ばあば、それだれー?」

「カール大伯父さん。ジークがポッケに入れてる木剣くれた人だよ。おばあちゃんの、お兄ちゃん。でもお兄ちゃんは大人になってバグウェルじゃなくて龍騎士になったんだけどね」

「りゅうきしー!すげー!」

ジーク君もなってみる?」

オリンピアジークの頭を撫ぜながら言う。とにかく可愛くて仕方がないようだ。

「んー、でもオレ、バグウェルがいい!」

 「あら、どうして?」

「だって、そらとんだり、ほのおはいたりできるじゃん!そっちのほうが、カッコイイ!」

 ...やはり自分が人間であるという自覚がない。

 「だからね、こないだ、ポムの木にのぼって、そらとぶれんしゅうしようとしてたんだ。そしたら父ちゃんにおろされちゃった」

...あの時さっさと降ろしておいて良かった。しかし、降ろすとき何やらぎゃーぎゃー言って怒ってたのは、バグウェルになろうとしたのを邪魔されたからなのか...。

そういえば、タナンの高炉の目の前で見つかった時もあったが、あれはまさか、炎を...

もしあの時、ジークを見つけるのが数分遅かったら。

背筋がぞくりと寒くなった。

これは今のうちに言っておくしかあるまいー。

ジーク」

おれはジークの頭にぽん、と手を置いた。

「残念ながら、お前は大人になっても、バグウェルにはなれない」

「...!!!」

ジークの目がひときわ大きくなった。そして顔がブルブルワナワナ震えている。

どうやらもの凄い衝撃のようだ。

「なんで-!」

「なぜならお前は人間で...対してバグウェルは”龍”という全く別の生き物だからだ。人間は空も飛べないし、炎も吐けない。いくら練習しても、無駄だ。全くの無駄。」

「えええ....」

「ちょっとイグナシオさん、そんな言い方じゃ、あまりに身も蓋もないわ...ジーク君が傷ついちゃうわ」

オリンピアが不満を漏らす。本来妻はもっと冷静で聡明な女性なんだが...。恋は盲目ならぬ、息子愛は盲目...といったところか。

ジークが骨折したり火傷するほうが、今傷つくよりよっぽど恐ろしいことだよ。わかったな、ジーク。ポムの木から飛び降りようとしたり、タナンの高炉から炎を取りだそうとしたり、二度とするなよ。痛かったり熱かったりするだけで、絶対にバグウェルにはなれないからな」

「うー...」

ジークの顔が真っ赤になり、目に涙が溜まってきた。

こりゃ、泣くな...、すごい泣き声になりそうだな...

どうなだめるか身構えたが、その瞬間は訪れなかった。

ジークは涙を目に溜めながらも、泣き出さないよう小さな拳を握りしめて、ブルブルと震えながらもじっと耐えているのだった。

ジーク....」

「くやしい..」

ジークは下を向きながら呟いた。

「オレ、バグウェルになろうとおもって、いっしょうけんめいれんしゅうしたのに...。ニヴの岩に向かってうぉーって叫んだり、つよいほのおがだせるように赤ペピかじったり...ひみつのとっくんたくさん...やったのに...なれないなんて...」

そんなことまでしていたのか。まあ、木から飛び降りたり炎に近づこうとするより遥かに可愛い行為ではあるが。

「くやしい...」

そう言いながらも目に溜まった涙がジワジワと頬に垂れてくる。

ジークはそれが嫌なようで顔をしかめている。

ジーク、無理しなくてもいいんだぞ、泣いたって誰も怒らないから...別にお前が悪いわけじゃないし。」

「...やだ」

ジークを小さな拳を握りしめたまま首を振る。

「オレ、なくのやだ。ぜーったい、なかねっ!そんなかっこわるいの、やだ!」

...なんとまあ意地っ張りな...。

そうはいっても所詮は子供なので堪えきれず涙はボロボロと落ちてきているが。

ジークは泣かないよ。わたしと喧嘩してもぜったいに、泣かないの!ほんと可愛くない!」

「そうなの、ジークはいっつもそうなんだよ」

姉たちが横から口を出してくる。おれの目の届かない所でもそうなのか...。それにしても長女のミカサは「ハルバードは渡せない」と言って以来少し不安定で、そのせいかジークに結構当たっている。ミカサは来年成人するし...この子にももう少しフォローが必要だ...。

それはそうと、とりあえずジークをこのままにもしておけない。

おれはもう一度ジークの頭に手を置く。

ジーク、お前は人間だからバグウェルみたいに空を飛んだり炎を吐いたりはできない。だが、人間にしかできないやり方で戦うことができる」

「...エ、どういうこと...?」

下を向いてブルブル震えていたジークの動きはピタリと止まり、代わりにおれの顔を見上げてきた。とりあえず興味を持ったらしい。

「...まず、魔法。それにもう一つ、斧や剣、銃といった武器を使う。魔法はバグウェルの炎、武器はバグウェルの牙と同じようなものだ。魔法と武器...その力は、おまえの頑張り次第で...本当にバグウェルの炎と牙に近いものにできるかもしれない」

「ぶきと...まほう?それで...バグウェルみたいに...なれるの?」

「それはお前次第だな。お前の頑張り次第だよ」

「がんばればなれる!バグウェルみたいに、わーい!バグウェルじゃないけど、バグウェルみたいになれる、わーお!」

ついさっきまで涙を堪えてブルブルしてたのが嘘のように、両手を広げて喜んでいる。

といっても頬には涙の筋がついたままだが。それにしても立ち直りの早い奴だ。

「...でさ父ちゃん」

「何だ?」

「どういうとっくんすれば、いいの?」

...既にやる気満々のようだ。

「今はまだ特別にやることはない。お前がもう少し大きくなって森の小道に入れる歳になったら、魔法や武器の使い方を教えてやるから。」

「えー、つまんないー」

「まあ、今できることと言ったら、足腰を鍛えておくことかな。友達と駆けっこしたりするのはいいんじゃないか?」

「あらいいじゃない。ジーク君、お隣のギョーム君でも駆けっこに誘ってみたら?」

オリンピアが助け舟を出してくれる。

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ギョームはペトレンコ家の山岳長子で、おれの従妹ロシェルの息子でもあった。気弱な父親アンテルムと違って、結構しっかり者のようだ。同じ年のジークとは既に仲がいい。

「うん、そうする!あしたのあさになったら、ギョームさそう!」

「...それがいいよ。そういうわけで繰り返すが、木から飛び降りたり、高炉に手を入れるのは絶対ダメだぞ。それは悪い特訓だからな。良い特訓とは、そんな簡単に手っ取り早くできることじゃなく、地道な積み重ねのことを言うんだ。つまりお前がしばらくやることは、とりあえず....走ることだ、わかったな、ジーク」

「わかった、オレ、はしる!あしたから、はしるのがんばる!」

「そうしなさい、じゃあ、もう寝ろ」

「えー」

「ぐっすり寝て力を蓄えないと、明日駆けっこでギョーム君に負けちゃうわよ。さあ、ジーク君、一緒にベッドへ行きましょう、ミカサもアニも、いらっしゃい」

「ね、ジーク、いこ」

アニがジークの手を取ってくれた。ジークはしぶしぶながら母と姉たちと一緒に二階に上がっていった。

「バグウェルパーンチ!」

「もー、ジークうるさい!」

暫くの間、二階からそんな声が聞こえてきたが、ちょっと経ってからようやく静かになり、子供たちを寝かしつけたオリンピアが一階に戻ってきた。

 

 「お疲れ様、オリンピア。...ありがとう」

「ふふ...イグナシオさんもね。」

 「それにしても、あいつがあんなに意地っ張りだとは思わなかった。ああいう部分は一体誰に....」

「俺かもしれないな...」

やり取りをずっと静観していた父が口を開いた。

「父さんが?」

「まあ...あそこまで極端じゃないかもしれないが...俺も人前で泣くのは嫌だったな。母さんにも厳しく言われてたしね、あなたはコロミナス家の跡継ぎなんだから、やたらめったら泣くものじゃありません...ってね」

「そう言えば子供の時、ジャスタス君泣いてたの、ほんとに見たことなかったね。色々言ってたけど結局自分にも似てるんじゃん!」

「ハハ...」

痛い所を突かれて父は困り顔のまま笑っている。

「誰に似てても、いいじゃないですか...血が繋がってるから、当たり前だし。あの子たちは、みんなのいろんな部分を受け継いで、また次の世代に受け継いでいくんですよ...」

オリンピアが静かな声で、皆に語りかけるように言う。

「そうだね...そうやって受け継がれて...命は繋がっていくんだものね。オリンピアちゃん、いいこと言うね」

受け継ぐ。

その言葉で、自分がやらなければいけないことを思い出した。

おれの力を誰に受け継がせるか。

ジークが歩きだし、ミカサの成人が近い。もういい頃合いだ。

「選ばれる者」をおれは決定しなくてはならないー。

これもおれに課せられた仕事の一つだから...。

 

*******************************************************************

「父ちゃん、オレ、かけっこでギョームにかったよ!」

翌日の夕食時、ジークは得意顔で話しかけてきた。よっぽど嬉しかったのか、目がキラキラ輝いている。

 

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 「そりゃ良かったな、ジーク」

「でね、オレ、はしるときのひっさつわざ、考えたんだ。こうやって...」

バグウェルダーッシュ!ってね」

そう言っておもむろにポーズを取ろうとする。

「もう、ジーク、うるさいっ!」

ジーク、食事中に大きな声を出すのはやめなさい」

「ごめんなさい....」

父に叱られて一転、しゅんとして静かになるが、また暫く立つと...

「今日ね、ギョームとすっげーでかいダダ虫見たんだよ、それがたくさんで...

ダダムシ、ザザムシ、ゾーロゾロ♪

ダダムシ、ザザムシ、ニョーロニョロ♪

今度は聞いたことない珍妙な歌を歌い出す。

ジークやめてよっ!食事中に虫の唄なんて歌わないで!」

ジーク、食事中に歌うのはやめなさい」

「ごめんなさい...」

そして再びしゅんとなる

...何なんだコイツは...。

 

無駄に元気で、無駄にやる気があって、無駄に意地っ張り。

果たして大人になった時、こいつのこの部分が、どういう風に変化するか...。

 

来るべき「選択」の時に向けて、まだまだ悩むことが多そうだ...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イグナシオ番外編:星に願いを(後編)※完結

カレンが奏女になったことで、プラマー家とオブライエン家の縁組は自然消滅した。

父さんはジャンナさんに少しだけ嫌味を言われたようだが、まあそもそもあくまでも「打診」レベルの話だったから...誰が悪いというわけでもないのだった。

「サンチャゴ、こんなことになっちゃって申し訳ない」

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「なんでお前が謝るんだよ?...まああの子、俺が話してても何となく上の空...って感じだったから、こうなりそうな気がしてたんだ..。そういう状況でズルズル会い続けるのも何だしな、心機一転、また相手探しするわ!」

サンチャゴが前向きな奴なのが救いだった。こういう奴だからこそカレンに合うかと思ったけど、それはどちらにとっても「余計なお世話」だったのかもしれない...。

 

幸いなことに、それから程なくしてサンチャゴにはちゃんと彼女が出来た。

彼女の名はおれの親戚でもあるエイドリアン・ピット。ピット家も武術職を多く輩出する旧家ということで、ジャンナさんも満足とのことだった。

「カレンちゃん...奏女になんかなっちゃって...あの子大人しいからきっと押し付けられたんだわ...大丈夫かしら...」

母はそう言って心配していたが...後でガイスカ叔父さんに聞いたところ、「本人の強い意志」らしい。

「その辺はあまり本人に問い詰めたりしないほうがいいと思う」と叔父は言った。

おれ自身も聞くべきでないと思った。もう本当に、おれが彼女の縁談に関わるべきではないだろう。たとえ両親に頼まれたとしても...。

エルネア杯が終わった後、おれはオリンピアと結婚し、年明け後には祖父はガノスへ旅立ってしまった。

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そんな中でもカレンの奏女生活は暫く続いていたが...やがて奏女居室に通い詰める農場管理官の男をたびたび目にするようになった。

おれたちの同級生マヌエルで、特に親しくはなかったが誠実な人柄であることは知っていた。そのマヌエルの優しさに心を溶かされたか、ほどなく二人は恋人同士となり、カレンはようやく奏女服を脱ぐこととなった。交際は幸いにして順調に進み、婚約したとの話がコロミナス家にも伝わってきた。

「良かったわ、カレンちゃん。これでガノスの父さん母さんも安心するわ...」

母は安堵して喜んでいた。おれもようやく全てが「終わった」ような気がしていた...

*************************************************

 

「カレン、山岳のプラマー家のご長男がお相手を探しているそうだ。お前と同じ年だからよかったらどうかとマグノリアから話があったんだが...どうだ?会ってみるか?」

父娘二人だけの夕食の最中、父が縁談の話を持ち出してきた。

「知ってるわ...今日イグナシオからも話があったの。とりあえずお会いしてみるって返事しておいたわ」

「それは良かった。聞けば中々の好青年だそうだよ。気が合うといいな」

父は上機嫌に見えた。らしくないと思った。

「ねえ父さん...」

「何だ?」

「姉さんがお義兄さんと結婚するって言いだしたときは父さん大反対したんじゃないの?プラマー家だって同じ山岳一族だわ...。しかもコロミナス家より遥かに歴史が古いお家よ、父さんはそれでいいの?」

「ああ、そのことか...。今思えば父さんも随分大人気なかったよ。まあジャスタス君は今では兵団長だし、何といってもマグノリアがとても幸せそうだからね。私も山岳一族に対する考えが随分変わったんだ。プラマー家はコロミナス家よりしきたり等は厳しいかもしれないが..お前なら十分やっていけるだろう。すぐ近くに姉さんもいるから困ったときは相談できるしね」

「...そう」

「それに...私だってもうそうは長くは生きていられないだろう。出来れば...お前が幸せになるのを見届けてからガノスに旅立ちたいと思っている。親のエゴと言われればそれまでだがな...」

そうね...父さん。

でも何もわかっていないのね。

姉さんが幸せなのは、山岳に嫁いだからじゃない。愛する人と共にいられるからだわ。

あたしの望む幸せがどこにあるか...父さんは知る由もないでしょう...

 

 

「カレン、イグナシオから相手を紹介されたって?」

翌日の朝、親友のロザンナが声をかけてきた。

「ええ...私たちの同級生だったサンチャゴ君ですって。今日森の小道でお会いすることになっているの」

「サンチャゴ?えー!あの悪戯坊ちゃん?結構クソガキだった奴じゃん。なんとまあ...。それにしてもイグナシオ、良くヌケヌケとあんたに相手を紹介してきたものね。自分に彼女が出来た余裕なのかしら?」

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ロザンナは憤慨していた。彼女も子供の頃からイグナシオに想いを寄せていけれど...何度か告白までしたにも関わらず結局彼は別の女性を選んだ。

そのことに少し安堵している自分がいた。親友としてこんなことを思うのは申し訳ない。

でもイグナシオがもしロザンナを選んでいたら...あたしは耐えられなかったかもしれない。自分達三人が「子供時代の親密な仲間」だったからこそ...。

「あいつさあ、なんかすごく素っ気なくて不愛想になっちゃって。あれじゃあ別人よ!感じ悪いったりゃありゃしないわ。...まあ、それでこっちも踏ん切りがついたけどね。こんな人だったら付き合わなくて良かったって」

イグナシオがハートドロップを飲んだことについて彼女は知らない。いや、知っていたら元に戻ってと彼に懇願したかも...。

...だけど自分には...イグナシオの内面が大きく変わったようには思えないのだった。むしろそう思えてしまえたらどんなに楽だろう...。

ロザンナのように「別人」と思えて心も離してしまえたら...。

確かに以前のイグナシオなら、子供の頃の二人の関係を無視して別の相手を紹介してくることなど考えられなかった。

でも昔に戻れとは言えない。

父が彼に背負わせた重い運命をあたしはわかっている。

そしてその運命を共には背負えない間柄にあることも。

結局は、彼の残酷な提案を受け入れることも、今の自分達には必要なことに思えた。

「...まあ、お話してから考えるわ。大事な友達だからこそ紹介したいってイグナシオも言ってたから」

「そっか。きっかけは何にせよ出会いの幅を広げるのはいいことだからね。あんた特に頑ななところあるから、ちょっと心配してたんだ。プラマー家のお坊ちゃん、気が合うといいね!」

ロザンナは行動や物言いが率直だから誤解されやすいところもあるけれど...逆にそういうことろが付き合いやすくもあった。今のロザンナの励ましは有難かった。

「ありがとう、ロザンナ

「じゃあ、頑張って!あとで結果聞かせてね!」

気づいたらロザンナの恋人、オスカルがやってきていたので、ロザンナは笑顔で手を振って去っていった。二人は付き合いだしたばかりだったが順調なようだ。

 

「カレンちゃん...だよね?ナトルの時は殆ど話したことなかったけど...改めて、ヨロシク!」

「サンチャゴ君...イグナシオからお話は良く聞いてるわ。こちらこそ...よろしくお願いします」

明るく元気な人。それが彼の印象だった。子供時代の腕白振りは影を潜めていた。話題の選び方にも気遣いを感じたし、イグナシオが「大事な友人だからこそ紹介したい」そう言った理由も解った気がした。

だけど...

イグナシオと初めて出会った子供時代の思い出を振り返ると...。

彼が話しかけてくれた時の安堵感、一緒に時を過ごした心地よさ...それに勝る感覚は得られなかった。

これから何度かお会いしたら気持ちも変わるのかしら...?

けれど自分の直感は否と告げている。

 

「サンチャゴ君とお会いしてみてどうだった?」

帰宅してから、父は心配そうに尋ねてきた。

エルネア杯開催期間のこともあって、父は最近ずっと帰宅時間が早い。

なるべく親子二人で夕食を取ろうと気遣ってくれているのが感じ取れた。

「...ええ、まあ、とても気さくでいい人よ。」

「そうか。ジャスタス君はガチガチの堅物だが、同じ山岳長子でもやっぱり違うんだな。婿殿としては付き合いやすいかな」

父はポムの火酒を飲みながら笑っている。まるでもう縁組が決まったかのように。

だけどあたしは...。

 

「あの...」

エルネア杯の決勝戦の日。

父の応援に向かおうとした先に、奏女の服装をした女性に声をかけられた。

「あなたに奏女の後任として神殿勤めをお願いしたいのですが、いかがですか?」

...あたしに?

奏女になれば神殿に居を構え、親の世帯からは完全に独立することになる。

つまり、父は一人であの広い魔銃導師居室に残される。たとえいつか奏女を辞しても、父のもとへ戻ることはもうない。

父のことを思うと少し胸が痛んだ。

一方で、たとえようもない解放感が心に広がる。

自分が望むことがはっきりと形になった気がした。

「これもシズニのお導き。喜んで承ります」

迷いなく、しっかりと声が出た。

「...そうですか。それではさっそく参りましょう」

彼女に導かれ、あたしはシズニ神殿に足を踏み入れた。

神殿の静謐な空気に心が落ち着く。今はここが自分の望む場所だった。

「シズニの神よ、ここに新たな担い手が参りました。どうかその教えの光で、新たな担い手をお導きください-」

奏女と自分のふたりだけの空間。彼女の声が荘厳に響く。

その瞬間、空から光が降り注いだ。一瞬だけ、そこにシズニ様が本当に降り立ったような気がした。

胸の前に組んだ手に力を込めて、いらっしゃるはずの神様に祈りを捧げる。

-どうかシズニ様、あたしを導いて しばらくは あたしの想いを守らせてー

気づいたら、視界がヴェールに覆われていた。服装も奏女の長いローブに変化している。

「...これで引き継ぎは果たされました」

目の前には 前任者だった女性が国民服を着て立っている。

先刻まで彼女に漂っていた神秘性は消え失せ、ありふれた普通の女性に戻っていた。

「...良かった。中々引き継ぐ方が見つからなくて...。先ほど貴女を見かけて、直感でああこの人だ!って思ったんです。奏女でいる間は、少しシズニ様から神秘の力を分けていただけるようで...一番相応しい方を自然に見つけられるようになるんですよ」

...奏女に相応しい女性とは即ち、恋人がいないか、いても関係が浅い者。

意中の相手と相思相愛の人間が選ばれることはまずないー。

...人によっては選ばれたことに憤るかもしれないが、自分にとってはむしろそれが有難かった。

「これもシズニ様のお導きですから...。ご退任を選ばれたということは、ご結婚なさるんですか?」

「ええ!彼がプロポーズしてくれたんです!とても嬉しくて...」

女性は頬を上気させていた。この上もなく幸せそうだった。

「おめでとうございます。愛する方と結ばれることは幸せなことですものね...。今後もシズニ様のご加護がありますように」

「ありがとうございます!では、よろしくお願いします」

女性が立ち去った後、神殿にたった一人で残された。けれど寂しさは感じない。

その時、王立闘技場の方向から歓声らしきものが聞こえてきた。

 恐らく、父の四回目の優勝が決まったのだろう-。

結局、何も言わずに家を出ることになってしまった。

父が望んでいた花嫁としての旅立ちではなくー。

 

「カレン...父さんは驚いたぞ」

緑色の勇者服に身を包んだ父が、間もなくして神殿にやってきた。

「父さん、ごめんなさい...。こんな形で家を出ることになってしまって...。

父さんを一人にしてしまって...」

「いや、そんなことはいいんだ。別に...。今まで通り、研究と探索の日々さ。むしろ一人のほうが気楽なくらいだよ。ただ...」

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父が何を言いたいのか解っていた。

「サンチャゴ君とのことは...いや...彼のことだけじゃない。お前はこれから...」

「しばらくは...シズニ様にお仕えしたいの。それがあたしの望みなの。お願い、あたしの望むままにいさせて。父さんなら...解ってくれるでしょう?」

父さんはずっと好きなことをしてきたでしょう?あたしと父さんはよく似ているの。望まないことは出来ないの、自分の気持ちに嘘はつきたくないのー。

「カレン...。そうか、解った...。お前の望むようにするといい。」

父はそういいながら俯いて、目頭を押さえていた。それから顔を上げてあたしを抱きしめる。

「生きている間には恐らく...お前の素顔を見れないかと思うと寂しいよ...。だが...こんな駄目な父親だが...お前の幸せを一番に望んでる。それを忘れないでほしい」

「ありがとう、父さん...そして、勇者様。どうかご武運を...」

抱きしめてくれた父の胸に温かさを感じながら、これからの自分の幸せとは何かを、改めて考えた...。

 

今年の星の日は神殿で迎えることとなった。

年に一度の感傷的で美しい情景とあって、この日に結婚を誓う恋人達も多く、庭のあちこちでは愛を語らう声が聞こえる。

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香水を作る手を少し休めて空を見上げた。
ワフ虫が輝きながら舞う風景は、子供の頃から全く変わらない。

 

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「ほら...こうしてるとね...お星さまが空から降って来るみたいじゃない?」

「ほんとだー」

2年前の記憶が蘇る。

あの時は何も知らない子供だった。

あの時待ち望んでいた「2年後の白夜」は明日...。

 

あの時願いたかったこと。

イグナシオとずっと一緒にいたかった。

でもそれは...願ってはいけないことだったの。

 

イグナシオ。あなたは今どこにいるのかしら...。

きっとオリンピアさんと一緒にこの光を見ているでしょうね...。

明日の願い事は...もう決まった?

 

あたしは...

願ってはいけない想いだと解っていたとしても

二年前のあの気持ちを大事にしたいの。

あの時待ち望んでいた明日が来るまでは...。

誰にも気兼ねすることなく、自由な心で。

今あたしは確かに、幸せを感じてる。

誰にも解らないだろうけど...それでいい。

 

暗い空の中、「星」が泳ぎ舞う様は永遠に続くようで,

あたしは暫く 空をずっと見上げていた。

舞うワフ虫たちの遠く向こうに 本当の星が輝いている。

恋人たちの声は もう耳に入らなかったー。

 

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翌日の夕刻、父は危なげなく龍騎士となった。

やがて夜の刻が訪れても、空はしらじらと明るい。

今こそが白夜の時間。今こそ願いを込めるとき。

神殿の庭でひとり、空に祈ったー。

 

イグナシオ。

どうかあなたが進む道に 光がありますように...。

そしていつか...あたし達がガノスに召されても...

遠い子孫のどこかで...また運命が繋がることを...願ってもいいかしら...?

一生あなたを思って生きる気はないわ。

それはあなたを苦しめることになるから...。

いつかあたしは再び 他の誰かを愛するでしょう。

四年後の白夜にはきっと 違うことを願ってる。

でも今は...。

 

空の彼方で 一瞬何かが輝いた気がした。

 

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2年後の211年。

あたしは同級生のマヌエル・ストルイピンと結婚した。

彼はあたしが奏女になった後、奏女居室に足しげく通ってくれた優しい男性だった...。

 

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それから間もなくして長男にも恵まれた。

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自分の一生は、今は新しい家族とともにある。

 

やがて息子も成人し、旅人の女性と結婚したいと言い出した。

夫は難色を示したけれど、あたしの答えは一つだった。

「ねえマヌエル...。あたしにだって旅人の血が流れているわ。

愛する人と共にあること、それ以上の幸せなんてないの。二人を祝福してあげましょう」

「カレン...」

 

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そう、心から愛する人と共にいれること。

それに勝る幸せなんてない...。

 

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-38年後ー※地球換算114年後

エルネア歴 249年

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「ねえサーザ君、知ってた?母さんのひいお祖母さんね、あなたのコロミナス家のご先祖の妹さんだったのよ!私にも英雄ファーロッド・オブライエンの血が流れていたの」

「え、マジで?」

「ほら、この家系図見てみて。ここのところ。私のご先祖様の一人が、カレン・ストルイピン。サーザ君の山岳のご先祖様...マグノリア・コロミナスさんの妹でしょ?」

「ほんとだ。だけどヘイリーのご先祖様、20歳で亡くなってるんだ...短命だったんだな。気の毒に...。」

「そうね...。だけど短くても幸せな人生だったかもよ。それにしても...わたしたちも婚約するまで色々あったけど、こうして遥か昔にご先祖様が繋がってたなんて...不思議な縁だね」

「ヘイリー、そうだね。ご先祖様の為にもこの縁を大事にしていきたいね。

これからも、ずっと...。君と一緒にいられることが、オレの幸せだから...」

 

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星に願いを・終

 

☆最後までお読みいただいてありがとうございました!

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