遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

イグナシオの選択

「イグナシオ...そろそろ決めておかなければいけない時期だと思うが...どうするんだ?」

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父と探索に出たときに質問を投げかけられた。

おれの力の後継者として誰を選ぶか、父なりに気にかかっているようだ。

「うん。もう決めてるよ、父さん」

「決めてる?誰に?」

危なげなく兵団リーグを終え、年明けにはミカサの成人が控えている。

更にその一年後にはエルネア杯だ-。

おれなりの結論はもう出ていた。

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「イグナシオ...あなたに任せるわ...。あの子たちのうち誰がいいなんて言う資格、わたしにはない...」

かつて、母とその話題が出た時の答えはこうだった。その時の母の表情は普段と違い暗い影をたたえていた。

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 「おれを選んだとき、母さんは迷わなかった?」

「ええ...。それが一番良いことだと思ってたわ。あなたにとってもね...でもそれが...あなたを却って苦しめてしまった.。だからわたしは...解らないの。一体どうするのが正解なのか...」

絞りだすように話す母の声は震えている。

かつて母がおれを選んだのは純粋に愛情だった。

いずれ長子としてコロミナス家を継ぐ息子にとって、その力が助けになるようにと...。

だがおれにとってそれは重荷で、その重荷を背負うためにおれはハートドロップで人格を変えた。そのことで今も母は自分を責めている。

「母さん...こういうことってそもそも正解はないと思うよ。だから間違いもない。おれも同じように自分なりに「最善と思った」選択をするつもりさ。おれたちにはそうするしかないし...それでいいと思うんだ。」

「イグナシオ...」

「母さんも...この間の魔物討伐に父さんやカール伯父さんと参加したよね?みんな王国随一の戦士だったけど...結局お祖父ちゃんを祖霊として呼びださなければ討伐は完了できなかった...。あんな魔物はこれからも、アベンの門の隙間から沢山湧いて出て来る。だから...その時のために、おれたちはお祖父ちゃんのこの力を引き継いで...次代に伝えていかなくちゃいけないんだよ。これは一族が避けれない運命なんだ。おれはもう覚悟してるし、次の子供にも覚悟させるさ」

母は暫くは何も答えず泣いていた。が、ひとしきり泣き終えた後顔をまっすぐ上げた。

「あなたに引き継ぐ時も言ったけど...わたしは...ジャスタス君と...あなたのお父さんと結婚したことを後悔していないわ。今もね、そして、これからも。だけど...」

そして、おれの顔をきっぱりとした表情で見つめる。

「そのことであなたに辛い重荷を与えたことは、一生背負っていかなければいけない罪だと思ってる。イグナシオ...あなたももしかしたら...いつか同じ気持ちになるかもしれない」

「そうだね...。」

力の継承は、栄誉であると同時に呪いでもある。

親がそれを与えるということは...結局どうあっても根底に罪をはらんでいる。

本来であれば一生をかけての鍛錬によってのみ、得られるはずの武器とスキル。

それを古の魔法によって、ほんの一瞬ににして引き継ぐことができる。僅かな訓練時間で最強の戦士が誕生するというわけだ。

ただしそれはあくまでも期間限定の儚い魔法。次代に引き継いでしまえば、逆に全てがからっぽの無力な状態で放り出される。しかもその時には既に若くはない。

おれにはこの力はずっと重荷だったが...逆に重荷でなかったとしても...恐らくそれはそれで...。

結局は、おれは選んだ子を後に苦しめることになるかもしれない。

母はここで、おれの肩にしっかりと手を置いた。よくカール伯父さんがやっていた仕草だ。やっぱり兄妹だけあってよく似ている。

「イグナシオ、あなたがいつかその罪を自覚するとき、わたしは多分もう、あなたの側にはいない...。でも忘れないで。お祖父ちゃんやわたしが同じように背負ってきた罪だから。罪を背負うのはあなただけじゃない...。あなたは一人じゃない。そのことを、忘れないで...!」

母の目にはまだ涙が光っていた。

「ありがとう...母さん」

これからのおれの選択には正解は無い。誰を選んでも、その子は他の誰とも共有しえない孤高の道を歩いていかなくてはいけない...。おれも途中までしか共には行けない。

それでも「おれたちは」選ばなければならない。

 

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おれは父に説明を始めた。

「まず...」

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「ミカサは除外する。次の継承者が目指すべきなのは近衛騎士だ。今はこの力は山岳に留めておくべきじゃない。そもそもあの子はもう成人してしまう。おれが次のエルネア杯で龍騎士になるまでに引継ぎが間に合わない」

「そうか...」

父の声は少し落胆しているようだった。元山岳兵団長としては、おれとミカサで二代続けて龍騎士になってほしい...そう思っていても無理はないだろう。

「イグナシオ...ミカサの将来の夢、聞いたことがあるか?あの子はいつも龍騎士になりたいと言っていた...」

「うん、知ってる。」

「それでもか?娘の夢を叶えてやりたいとは..思ったりしないか?」

「可哀そうだけど仕方がない。父さん...そもそもおれも父さんも...「選べなかった」じゃない?将来の選択肢は、何も。ミカサも同じさ...。残念だけど、どうしようもないんだ...あの子には受け入れてもらうしか。」

ハルバードをねだった時の娘の無邪気で愛らしい表情を思い出し胸が痛む。せめて武器だけでも、渡せるものなら渡したい...だがそれは不可能なのだった。

「そうだな...。逆にお前は希望してないのに山岳長子の立場と龍騎士の力を受け取ることになったわけだしな...。かつて兵団を預かった者として、王国の命運もかけるような決断に...私情を交えるべきでないのというのも...理解しているつもりだ。」

洞窟に父の低音の声が静かに響いていく。

「ただイグナシオ...お前が支えてやれよ...あの子がその理不尽さを乗り越えていけるように」

「うん、解ってるよ。おれは一生、このドルム山であの子を支えて行くつもりさ...父さんがおれに対してしてくれたようにね」

 そうさ。おれは受け入れている。このまま山岳兵団の人間として一生を終える。かつては別の道を夢見なかったわけじゃない。でもおれは意識の底に沈めた「もう一人のイグナシオ」と約束したんだ。おれはそのために呼びだされた人格だ。仕事は全うしてみせる。

それに...

おれは一人じゃない。オリンピアがいる。彼女はおれの運命を一緒に背負うと言ってくれた。人格が変わったおれをも受け入れてくれた。だから大丈夫だ。

「次に...アニだけど」

おれは話題を移した。

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「あの子は優しい子だ。戦士には向いていない。父さん...これはおれの我儘かもしれないけど、自分の子供にはハートドロップを飲んでほしくないんだ。」

ここで、父はなんとも悲しそうな表情をした。父のこんな顔は今まで見たことがなかった。

「イグナシオ、すまない...俺は例の薬を飲む前のお前を...正直持て余していた。こんな弱気で本当に兵隊長が務まるのか...そんなことばかり思っていたんだ。だから...お前が今のお前になったとき、正直これで楽になったとまで思ってしまったくらいさ...。」

 もう一人の自分と交代するとき、今までのイグナシオが生きてきた記憶と感情も一緒に引き取った。確かに-「彼」は苦しんでいた。父の求める姿になれず、期待に応えられなかった自分に。

「俺はお前と違って...兵隊長をやることに抵抗が無かった。それ以外の道を考えたことも無かったし、むしろ誇りに思っていた。両親...特に母からは厳しくしごかれたが、目の前に与えられた課題を次々とクリアしていくのは、そもそも嫌いじゃなかったんだ。今思えば...たまたま自分に与えられた進路が、能力や性格に合っていた...それだけだった。皆がそういう幸運に恵まれるわけじゃない。なのに傲慢にもそのことが見えなかった...。お前の気持ちに寄り添ってやることができなかった。...余裕が無かったというのは...言い訳だな」

「父さん」

おれは正直、どう答えていいかわからなかった。あの時の「彼」の苦悩が自分の中にあり続ける以上、簡単に「気にしないで」とも言えない...だけど..

「公私全てに対して完璧にケアできる人間なんていないよ。あの薬を飲む前から、「おれ」はそれでも父さんのことを尊敬してた。若くから兵団を率いるために不断の努力をして、兵団の為に身を粉にして働いて、誰に対しても公明正大だった父さんのことをね。勿論...今のおれもだよ。その気持ちは変わってない。今はそのことだけを覚えててほしい」

「イグナシオ、ありがとう...。お前は俺より、本当はずっと強いよ。子供の頃から...今まで、ずっとな...。あの時にそれを言ってやれなかったのが、心残りだな...」

父はそれ以上何も答えず、ただ目頭を抑えていた。

 「何にせよ...おれとは違って...アニはありのままで、自由に生きてほしいんだ。」

姉と弟が喧嘩すると、いつも仲裁している。争い事を好まず、控えめで優しい娘。その娘に...時には冷徹な判断も下さなければいけない後継者の道は...進ませたくはなかった。

「そうだな...俺もそれには同意するよ...。だけどイグナシオ、そうなると...」

ミカサもアニも選ばない。

そうなると、もう一人しかいない。

「継承者はジークにする」

おれはきっぱりと言った。

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 「あいつはグリニー持ちで、朝昼晩しょっちゅうバグウェルパンチって叫んでる好戦的な性格だ。いかにも戦士向きじゃない?それに無駄に負けず嫌いだし。試合に明け暮れる近衛騎士にはうってつけだよ」

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 「.好戦的...イグナシオ、わからないことはないがもう少しいい方ってものがあるだろう...まぁその通りだが」

父は先ほどの辛そうな様子から一変して笑いをこらえるような表情をしていた。まあジークのことを思い出すとそうなるだろう。ジークは無駄に元気でやかましくて、何をやらかすか解らないので大人としては見ていてハラハラする。しかし一方で変な愛嬌があって、結局何をやっても許したくなってしまうのだ。かつて鬼の兵団長と言われた父ですら例外ではない。末っ子らしい得な性分だ。

「それに、あいつはバグウェルにはなれないと解ってから、今度は毎日隣のギョーム君とかけっこ三昧さ。「人間として」強くなるためにね。三日で飽きると思ったら、10日程経った今でもずっと続けてるらしい。ギョーム君が付き合わない時は一人で走ってる。一度目標を決めたらたゆまず持続する...これもポイントが高い」

「確かにな」

...といっても、そういったことはジークを選んだ本質的な理由ではない。

「父さん..おれは.継承者に最も必要なのは、試練を受け止めて立ち向かう強さだと思ってる。あいつ...無駄に強情な所があって絶対に泣こうとしないだろう?」

「ああ...ある意味困ったところだが」

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 「おれは泣かないことが良いことだとは思ってない...それはいつか教えるつもりさ...ただ...例えば、バグウェルになれないことが解った...それはあいつにとって人生最初の絶望だったと思う。でもあいつは泣くまいと踏ん張った。それがジークの強さだよ。たとえ絶望的な現実に直面しても...踏みとどまろうとする強さ。自分を律しようとする強い意志。龍騎士の力を背負うには...それが必要なんだ。だからおれは...ジークを選ぶ」

父はおれの言葉を聞いて、安堵の表情を浮かべた。

「そうだな。イグナシオ...俺もそれには賛成だ。ジークはきっと立派な戦士になってくれるだろう。継承者については、お前が何も言わないのでどうするつもりか心配だったが...納得いく意見を聞けて良かったよ」

「ありがとう...。父さんにそう言ってもらえて、おれも安心できた」

そう。

選択についてはもう迷わない。

ただ...ジークの運命の方向性を、おれがこうして定めてしまったことには、親として心残りがないわけはない。

ジークは間違いなくおれ以上の強い戦士になる。あいつは間違いなく、継承者として託された使命を果たし、龍騎士になるに違いない。

しかし...いつか必ず、その力を全て失わなくてはいけない運命が待っている。

ジークがその絶望を乗り越えてくれることを願うしかない。

 

多分おれは両親と同じように、ある種の悔恨を背負って生きて行くことになるだろう...。だがそこから逃げるつもりはないー。