遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

白鋼のハルバード

異次元に巣くう魔物の討伐も大詰めとなり、報酬がある程度たまったので、キャラバン商会で武器を注文することにした。

期間限定で良い武器が入荷しているらしい。

「ようイグナシオ、久しぶりだな。今回の討伐じゃあ随分と活躍しているそうじゃないか?報酬もたんまり溜まったからここに来たんだろう?お勧めがあるぜ」

店主のカルロスはニヤリと笑いながら出迎えてくれた。

活躍しているのは実はおれじゃなくて、祖霊として呼びだしている祖父ファーロッドだ。多少複雑ではあるが、祖霊は異次元の中でしか実体化できないので、どのみち武器を注文することはできない。

それにおれが得た武器は、祖父が祖霊として存在し続ける限り、これから半永久的に使うことができるんだ。注文する人間が違うだけのことだ。

おれもいつかは自身の影を祖霊に変えて、遠い子孫を助けることになる。そして子孫がその報酬で新しい武器を得る、そうやって順繰りに巡っていくんだ。だから遠慮なくおれの名義で注文させてもらうことにしよう。

「お勧め?どんな感じ」

「まあ、待ってな」

カルロスは倉庫から六種類の武器をいそいそと取りだし、目の前に広げた絨毯の上にゆっくりと置いた。

「今回のお宝は両手武器だ。残念ながら防御力はないが...それを引き換えにしてもお釣りがくるくらいの破壊力がある代物だ。「鉄」と「白鋼」の二種類があるが、勿論「白鋼」のほうが頑丈にできてる。斧と剣に関しては切れ味も違う。その分値は張るがな...どうだい?」

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安いが威力はそこそこの武器と、高い分高性能の武器。

買えるだけの資金があるなら、答えは決まっている。

ショボい武器を多数集めても意味がない。それであれば通常の探索で手に入る武器で十分だ。

「じゃあ、これをもらおうかな...「白鋼のハルバード」」

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今回武器を仕入れる目的は勿論、「山岳兵の代表」として、来るエルネア杯で勝つこと。

ならば選ぶのは、この武器以外に考えられなかった。

「白鋼のハルバードか。流石目が高いね。魔人の洞窟の怪物なんかもう、ひとたまりもないぜ!それに、見た目も随分と派手だろう?これを持って立ってるだけで目立つし箔がつく。」

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通常の戦斧と違い、柄がとにかく長い。刃先を含めた全長はおれの身長をゆうに超えるほどだ。この長い柄をうまく使いこなせれば、相手の懐に飛び込むことなく攻撃できるので、通常は不利となる騎士相手にも互角以上に戦える。

また、斧部分で切り払うだけでなく、柄の上部と斧部分の反対側に突いている突起を使って、「突く」「引っ掛ける」等多彩な攻撃を繰り出すことができる。

カルロスが言うような見た目の派手さも有難い。

おれ自身は別に派手好みではないけれど...

「山岳兵初の龍騎士」として兵団の「希望の象徴」になるのであれば、武器にも「見た目の特別感」があったほうが良いだろう。

「ありがとう。一刻も早く使いこなせるようにするよ」

おれはカルロスに報酬を渡し、引き換えにハルバードを受け取った。

手にしたハルバードは通常の戦斧の倍ほどの重さがあったが、両手で扱うことを考えれば、慣れたら問題なく使いこなせるようになりそうだ。

早速明日にでも、探索で試用してみることにしよう。

「イグナシオ、老婆心だが...お前、それを試合に使うつもりなのか?」

カルロスに一瞥して帰ろうとすると、彼らしくない言葉をかけられた。

「そのつもりだよ。武器なんだから...当然じゃない?」

「俺が言うようなことじゃないが...それは本来「対魔人用」に作られた武器なんだ。それを人間相手に使うというのは...よそでは実例がないんだ」

自分から売りつけておいて人間に使うのを云々言うのは変な話だ。

「使う相手は一般国民じゃない。鍛え上げられた武術職の連中だよ。魔人と互角に戦えるレベルの連中に使うんだ。問題ないよ。武術職の人間は、いつ来るかもわからない魔物の侵攻に備えるのが本来の役目さ。魔人用の武器でどうこうなるようじゃ、役目を果たせない。」

アベンの門の封印はいつ解けるかわからないが、その時はいつか必ず来るだろう。今回の魔獣の活性化は、明らかにその兆候だった。

「そうか...。まあ、使う時はそれなりに加減しろよ。」

「大丈夫だよ。その辺は心得てるから」

「イグナシオ..お前、「変わった」な。まあ、ハートドロップを使ったから当然なんだが...。昔のお前さんが、時々懐かしくなるよ」

ハルバード同様、当のハートドロップを売りつけた張本人が言う台詞じゃないだろうと思ったが、目の前で商品の「効果」を見せつけられるのも、彼の立場に立ってみれば気持ちの良いものでないのかもしれない。

「懐かしく思ってくれたら、きっと「あいつ」も喜ぶよ、じゃあ」

あれからもう何年も経っていて、もう皆、今のおれに慣れてしまっている。まるで元々最初からこういう人格だったごとくに。

そのほうが楽であることは確かだがー時折、本来のイグナシオに申し訳なく思うんだ。

おれ自身は自分みたいな男より、あいつの方が好きだった。だから誰であっても...あいつのことを思いだしてくれるのはありがたい...。

いつか、全てが終わったら、眠ってるあいつを起こしてやることができればいいが。

「全てが終わる」それは、一体いつになるだろう...。

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「パパ、新しい武器、カッコイイ!」

「うん、うん、絵本にでてくる、英雄さんが持ってるやつみたいね!」

ハルバードを持って帰宅すると、見慣れぬ武器を前にして家族たちはちょっとした大騒ぎになった。

「凄いな...これがあれば、確かにお前の言う通り、対近衛騎士戦も有利だろう」

父は顎に手を置いた姿勢で興味深げに全体を眺めていた。

「いいな、わたしも使ってみたかったな、こういうの!」

武器を見つめる母の目は好奇心に満ちていた。確かにこれを振り回す母の姿を見てみたい気がした。武器の貸し借りが出来ないのが残念だ。

「はーうー?」

「あらあら、駄目よ、ジーク君。怪我しちゃうわ」

オリンピアに抱かれたジークが、必死に身体と手を伸ばして刃先に触れようとしたのをオリンピアが制止した。

こいつは武器に興味があるらしく、目を離すとしょっちゅうおれの武器に手を触れようとするのだった。

「刃じゃなくて、柄の部分ならいいよ、ほら」

オリンピアにしゃがんでもらって、ジークに柄を軽く触れさせようとしたところー

「ダメ!ジーク!駄目!」

長女のミカサの声がした。

「それにさわっちゃ、駄目!これは大人になったら、ミカサがもらうんだから!」

ミカサは前に飛び出して、ジークに柄を触らせないように母と弟の前に立ちはだかった。

「ミカサ...!」

ミカサはジークの代わりに自分で柄を握ると、おれを見上げてねだるような声で言った。

「ねえパパ、ミカサは将来、コロミナス家の兵隊長になるんだよね?ミカサね、頑張って訓練して、おじいちゃんやパパみたいな強くてかっこいい兵隊長になるよ。だからこの武器、そのときに...ミカサがもらえるんだよ、ね?」

ミカサはおれと違って兵隊長になることを嫌がっていなかった。それは親としては助かることだった。娘にハートドロップなんて飲んでほしくない。

娘がそれを望むなら、親として最大限の手助けをしてあげたかった。

だがー。

 

自分が迂闊だったが、ミカサは「継承者」には選べない。

なぜなら、おれがエルネア杯に出て龍騎士になる前に、ミカサは成人してしまう。

「力の継承の魔法」は残念ながら、「成人前の子供」にしか使えないのだ。

おれの次の継承者には「龍騎士の剣とスキル」を取ってもらわなくてはいけない。将来兵隊長になるミカサが継承者となる確率はもともとかなり低かった。

長女が継承者となるのは、アニとジークの双方が、能力人格共に継承者となる資質を欠き、課題を更に次の世代に持ち越す場合のみだった。

おれは長子であるがゆえに継承者に選ばれたが、ミカサは長子であるがゆえに選ぶことができない。

かつて祖父は似た理由で、伯父のカールを選ばなかったといっていた。

伯父は選ばれたらきっと、喜んでその責務を果たしただろうに。

こんなふうに生まれた順番で、意思を無視して運命が決まるのもおかしな話だ。

この不条理は、山岳を離れる次世代では解消されるだろう。

けれど今は過渡期にある。ミカサが望んでも叶えてあげることはできない。

本当は、せめてこの武器だけでもミカサに渡したいー、しかし継承には「中間の選択」などない。

あるのは「0か100か」の二択だけだった。

「ミカサ...」

おれは武器を持っていないもう片方の手で、娘の頭を撫ぜながら言った。

「ごめんよ。この武器は、ミカサにはあげられないんだ...。パパの武器は、アニかジークかどちらか、近衛騎士になる方の子に、全部、あげなきゃいけない。そういう決まりなんだ」

「...え...」

柄を握るミカサの顔がみるみる曇り、目には涙が一気に溢れてきた。

「ミカサ、その代わり、パパは一生、ミカサの側にいて、ミカサを助けるから...ごめんね。ミカサ、立派な兵隊長になれるよう、パパと一緒に頑張ろうね」

おれに言えるのはこれが精一杯だった。

「いや...」

子供に聞き入れられるわけがない。

「いやー!なんで!下の子たちはもらえて、ミカサはもらえないの、いや、いや、いやー!」

ミカサは大粒の涙を振りまきながら泣きだした。ハルバードの柄はしっかりと握ったままだった。

「うー...やあー!」

ミカサの泣き声に釣られてジークまで火のついたように泣き出してしまった。

ジーク君、ミカサちゃん、いい子にしようね...」

「おねえちゃん、ジーク、泣き止んで、ねえ...」

家族が一斉に二人をなだめに回ったが、一度泣き出した子供というものは、そう簡単に止まるものではない。おそらく泣き出した本人たちにも難しいだろう。

 

望まなかった運命に、家族全体が振り回されているー。

しかし、今後いつか必ず訪れる「その日」のことを思えば...

祖父の下した残酷な決断を、おれは責める気にはなれないのだった...。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

今回のお話、武器についての記述は、こちらを参考にさせていただきました。

www.amazon.co.jpくゲーム中に出てくる武器も紹介されててお勧めです。

「戦斧」はもともと「工具」由来の武器だと、この本で初めて知りました。山岳兵の武器にぴったりですね(^^)