遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

僕がいるべき場所

※唐突にすみません。switchで再び初期ウィルマ国をプレイしていたら、初代の駆けだし時代が急に懐かしくなって...。この時代のスクショは無いので文章だけですが、良かったら...お読みいただけると嬉しいです。

初期国民ガイスカ・フィールドさんが重要なキャラとして出てきますが、設定された性格に紐づいた人称ではなく中の人のイメージの人称と口調使ってます。御了承くださいませ。

 

「アルシアちゃん、明日から学校に行くことにしたんだ」

「学校に行くって...ファーロッドさん、誰が?」

カールをあやしていた妻が、大きな目を更に丸くして振り向いた。

「僕がだよ。」

「...えっ?どうして?...ファーロッドさん、大人なのに」

「恥ずかしいけど...僕はこの国で、子供が当たり前に知っていることすら知らないんだ。勿論旅人だったから...というのもあるんだけど、そもそも大人になるまで、学校というものに行ったことがなくて...。読み書きだけは、孤児院に時々来てた神官さんに教わったけど」

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僕はこの年明け、農場管理官を首になったばかりだった。

自分なりに一生懸命やったつもりだけど、どうしても皆と同じように仕事がテキパキこなせなかったのだ。色んな作業を同時にやるのが本当に苦手だった。

「仕事が合わなかっただけ。あんたに向いてる仕事は他にきっとあるよ。」

仕事納めの日、当時代表だったキャリーさんはそう言って励ましてくれたけど、僕は打ちのめされたような気分だった。

自分の居場所を求めてこの国にやってきて、「農場管理官」に選ばれた時はとても嬉しかった。こんな自分でも必要とされているんだ、そんな気がして。

...でも駄目だった。

「...向いてる仕事...。この僕にそんなもの、あるんでしょうか?」

「あんたの好きなことをまず考えてごらん。あんたみたいな子は、好きなことならきっと夢中になって出来ると思うよ。」

好きなことか。

確かにラダの乳を絞ったり、チーズを作ることは「好きなこと」ではなかった。

麦の種を配ったりポムを採ることなんて論外だった。

「そこの新人さん、トロトロしないで!」

農場の行事があるたびに、世話役の人に何度怒られたことか。

...最終的には、一日中乳しぼりやチーズ作りをやることにどうしても耐えられなくて、午後になると探索に出るようになった。

武術職じゃないから難しいダンジョンには行けないけど、探索で出てくる色んな宝物を確認することはとても楽しかった。最初は出てくるものの一つ一つがどんなものかさっぱり解らないから、ガイを捕まえてさんざっぱら聞きまくったっけ。

※畏れ多くも初期国民ガイスカ・フィールドさんのこと。ファーロッドはずうずうしくも彼のことをこう呼んでいます(^^;

ガイは本当に物知りで、知らないことなど何もないような感じだった。それでいて魔銃の名手で、へなちょこな僕はダンジョンで随分助けてもらった。実は魔銃師会のトップ「魔銃導師」まで経験したことがあるらしい。そんなことを決して自分から言ったりはしないけれど。

...彼は僕の師匠であり憧れだった。

彼と一緒に働けたらな、その時ふとそう思った。

...そうか。

僕が魔銃師会に入ればいいんだ!

そんな考えが稲妻のように閃いた。

 

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「魔銃師会?...あそこに入るには探索ポイントで16人中2位以内に入らないと無理なんだぞ?ハードル高すぎるよ!」

農官時代に出来た唯一の友人、オズウェル・ホフバウエルに自分の考えを話してみた。彼も僕と同様、年明けに農官を解雇されている

お互い愚痴でも言い合おうぜ、と新年早々ウィアラの酒場に誘われて、今ここにいるというわけだ。

オズウェルは呆気にとられて、手にしていたポムの火酒の瓶を床に落としそうになっていた。

「俺達みたいな、農官首になるような奴がそんなこと出来ると思うか?」

「...農場の仕事と探索は違うよ。もうエントリーは済ませてきたから」

「まじかっ!...それでもお前、練習試合で俺にも勝てないような奴じゃん...探索、大丈夫なのか...?」

「取りあえず数さえこなせばポイントは付くから...。何にせよ、やってみないと解らないだろ?オズウェルだって受ければ良かったのに」

オズウェルも農作業より探索が好きだと前に話していた。そういう所で気が合ったのも友達になった理由の一つだった。

「そりゃそうだけど...」

「じゃあこうしよう、僕が今年二位以内に入って見事魔銃兵になれたら、君も自信がつくだろ?僕みたいなヘタレな奴でもなれるんだって。そしたら来年エントリーしたらいいよ」

「ああ、はいはい、わかったよ。お前が魔銃兵になれたら、俺も来年エントリーする」

オズウェルは明らかに僕の言葉を信じていないようで、手をヒラヒラさせながら気だるげに返事をした。ちょっと腹が立ったが、逆に闘志が涌いてきた。

 

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魔銃兵の選抜試験にエントリーしたことは、当然ガイにも話をした。

ガイは細い目を一瞬大きくさせて驚いた後、顎に手を当てて首を左右に振りながら自問自答するように言った。

「...そうか...。結構大変だぞ...。古参はクセのある連中ばかりだし...うん...でもまあ、お前くらい神経図太ければ...大丈夫かな」

「大変なのは解ってる。でも、好きなことなら...もしかしたら頑張れるかなって。探索は好きだし...出てくる宝物について調べたりするのもね。」

「好きと、それを仕事に出来るかどうかは違うぞ。仕事となれば、好きな事だけやってればいいというわけじゃないからな。それに...魔銃師会の人間としていい仕事をしたいと思えば、下地となる知識も絶対必要だ。見たところ、お前にはまだそれが欠けている。勿論それはお前のせいじゃないが」

「下地となる知識って?」

「この国の人間は三歳から学舎に通う。シズニ神のことから生活に関すること、我々武術組織のことなど、幅広い基礎知識と教養を学ぶんだ。お前は他所からきた人間だから当然知らないことだ。ましてや今まで、元の国でも学校に通ったことないんだって?」

「うん...そうだけど...。魔銃兵の仕事とそれが関係あるの?」

「新年の誓いで、魔銃導師が話す言葉を聞いたことないか?〚王国の篤き庇護にお応えすべく、この世界の真理を探究し、王国にその成果を捧げる〛ってやつだ。これが本来の魔銃師会の役割だ。探索はあくまでもその手段にすぎない。

いくら探索ポイントを稼いでも、探索で得たものをきちんと分析・報告できないと、本当の意味で魔銃兵として仕事をしたことにはならないんだ。」

僕はガイが話す内容を聞いて恥ずかしくなった。単純に探索できて楽しいとか、その程度の薄っぺらい理由でしか、魔銃兵を目指していなかったから。

「...つまりだ。探索の成果をきちんと文書として形にして、更にそこから研究に繋げていくためには、下地となる知識が絶対に必要となる。だがお前にはその知識がない。」

「...」

僕は絶望的な気分になった。やっと自分が出来る仕事が見つかったかと思ったのに、そもそものスタートラインが他の国民と違っていたんだ。

だけどガイは、にっこり微笑みながら俺の肩に手を置いて、こう言葉を続けた。

「そんな顔するなよ、ファーロッド。だからここからは、俺の提案だ。お前、学校に行ってみないか?」

「え?」

晴天の霹靂だった。そんなことが出来るのか?

「学舎の方にはツテがあるから、良かったら俺から話をしてみるよ。授業の聴講自体は自由だけど、毎日大人が通ってたら奇妙に思われるかもしれないからな。子供に混じって授業を受けるのは恥ずかしいかもしれないが...どうだ?」

「いや、全然恥ずかしくないよ!行けるのなら行きたい」

絶望に叩きのめされたかと思ったら、天空に引っ張り上げられるような嬉しさだった。

「ハハ、お前にはそういう羞恥心はなさそうだから大丈夫かと思ったよ。入国そうそう初対面の俺に、図々しくも友達になってくれなんて言う奴だからな。」

「そんなこともあったっけ...。あの時はとにかく不安で、ガイのことがすごく頼もしく思えたから...」

その時の自分の直感は間違っていなかったのだと、目の前の親友に改めて感謝した。

「だが、あくまでも学校で学ぶ内容は子供のためのものだから、学んだ内容はムーグの図書室でも調べ直せよ。より深い知識を身に着けておかないと、就職した後、周りに太刀打ちできないからな。」

「大丈夫さ。調べものは好きなんだ。」

「一応釘を指しとくが、勉強だけをしておけばいい、ってわけじゃないぞ。当然他のライバルに負けないよう探索ポイントも稼がなきゃいけない。相当きついぞ?」

勉強しながら探索に行く...確かに大変そうだ。

でもその時は、大変さなんかよりも、そこから広がる新しい世界、その輝きのほうが遥かに勝っていた。

-あんたみたいな子は、好きなことならきっと夢中になってできる-

キャリーさんの言葉が脳裏に蘇った。

大丈夫。多分僕は、この仕事が好きになれる。不思議と確信があった。

「きつくても平気さ...。何より僕は、自分が必要とされる場所に行きたいんだよ」

 

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「学校ねえ...。わたくしなんて、もう学校で習ったことなんて忘れてしまったわ。勉強、苦手だったもの」

妻はムタンタルトを軽やかな手付きで切り分けながら話を続けた。

アルシアちゃんは勉強は苦手かもしれないけど、それを補うだけの料理の才能がある。彼女のムタンタルトは絶品なのだった。

タンタルトに限らず、アルシアちゃんの料理は素晴らしい。レシピなど見なくても、ある食材を上手に組み合わせてあっと言う間に作ってのける。

僕にはとても真似できない。料理のことでも、家事のことでも、僕はアルシアちゃんに世話になりっぱなしなのだ。そんな自分が情けなかった。

「僕は他にできることがなさそうだから...。だからごめん、しばらくは探索と勉強中心の生活になって、一緒に出かけたりする時間がなかなか取れないかもしれないけど...。この埋め合わせは必ずするからね」

僕は膝に乗っけていたカールを抱きあげながら立ち上がり、アルシアちゃんの額に軽くキスをした。

「まあファーロッドさん...そんなことより、わたくしはあなたの身体が心配だわ。くれぐれも無理をしないでね」

アルシアちゃんはあくまでも優しい。僕は彼女がいたから、この国に留まろうと決心したのだった。この子と一緒にこの国で暮らしたいー。その気持ちが全ての始まりだった。

「自分のできることとかー、そんなに自分を卑下しないでね。わたくしはあなたが側にいるだけで十分なの。あなたの居場所は、ちゃんとここにあるのよ。それを忘れないでね。絶対よ、ファーロッドさん」

妻は僕の頬を両手で優しく包み込むようにして、唇にキスを返してくれた。

「うーあー?」

腕に抱いてるカールが首をかしげた。

僕の居場所。

今カールとアルシアちゃんがいる場所こそがそれなのだ。

もう一つを求めるなんて本来は、贅沢なのかもしれない。

これから開ける新しい世界、そこへの期待に高鳴る鼓動を、もはや抑えることはできない。

でも今ここにある幸せも、決して忘れてはいけないんだー。

カールを抱いている手にふと目をやると、薬指に付けた結婚指輪が、窓から差し込む陽光を受けてキラキラと輝いていた。

(終わり)

 

※オズウェル君がファーロッドと一緒に農官首になったのはプレイ中本当にあった話。オズウェル君と探索に行った記憶は無いので、首になったのはファーロッドのせいではありません...多分(^^;

ちなみにファーロッドは公約?通り一年で魔銃師会に入りますが、その翌年オズウェル君も魔銃師選抜にエントリー!上のお話の通りとなります。以後オズウェル君は”魔銃師会の盟友”として長年にわたりファーロッドと苦楽を共にすることになります☆