遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

イグナシオ番外編:星に願いを(中編)

成人まではあっと言う間だった。

カレンは子供の時の印象そのままに、透けるような白い肌と大きな黒い瞳の美しい女性に変わっていた。

成人してからは、おれはカレンとは数えるほどしか接触していない。

「成人の記念に」と祖父がおれたちを遺跡に誘ってくれたときと...

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もう一回は、祖母が亡くなった時だった。

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カレンは5歳にして大事な母親を喪うことになった。

打ちひしがれたカレンの様子は見ていてとても痛々しく、おれは言葉をかけるべきかどうか迷っていた。

「カレン...」

そう一言しか言えずカレンの肩に手を置くと、振り向いたカレンは涙を浮かべた顔でおれを見つめてから、そのまま胸に飛び込み、肩を震わせて号泣した。

カレンはおれの胸の中で泣きじゃくるばかりだった。

皆の前でこんな姿を見せていいのだろうかー。

その迷いと、既に付き合っているオリンピアの顔が頭に浮かんだが、それでも目の前で悲しみに打ちのめされているカレンを引き離すのも忍びなく、おれはただカレンの頭や背中を軽く撫ぜ、落ち着かせようと努めることしかできなかった。

 

翌日の葬儀の時も、カレンの背負う悲痛さはそのままだった。

すぐ上の兄のグラハムはまだ独身だったが、騎士隊所属となり家を出たばかり。

父親ーおれにとっては祖父のファーロッドは多忙を極める魔銃導師。カレンと接する時間は大して持っていだろう。

成人まもない不安な中で、母親を喪うということはどれだけの傷となったかー。

 

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しかし、これ以上おれがカレンにしてやれることは、今のところ何もないのだった...。むしろ、下手な接触は子供時代の傷をぶり返すだけだ。

祖母の葬儀の日を最後に、おれとカレンはお互い顔を合わせることがなかった。

 

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マグノリア、君の妹と向こうの長男の縁組はどうかって、プラマー家から内々に打診があったんだけど...」

「まあ、カレンちゃんと?」

「うちはイグナシオの結婚が決まったが、向こうのサンチャゴ君の婚活は芳しくないそうで、母親のジャンナはちょっと焦っているらしい。彼女は結構こっちをライバル視しているようだから...」

祖母の死から幾日か経過した朝食の時、父がそんな話を持ち出してきた。

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山岳家にとって一番恐ろしいのは家系断絶だ。なので自分の家の長子が婚活にあぶれない様、様々なネットワークを駆使して相手を見繕うのは良くある話だった。

「そうね、カレンちゃんなら成績も良かったし、何よりも斧使いだものね。山岳家...合ってるかもしれないわね...。あの子はあんなに可愛いんだから、本当ならもうとっくに誰か特定の相手がいてもおかしくないのに。母さんも亡くなる間際まであの子のことを心配してたわ」

その言葉で少し胸が痛んだ。自分たちがお互いの関係について、どういうものかもっと早くに理解して弁えていれば、カレンのほうこそもっと早く別の相手と婚約していたかもしれない...。

 

「だから...もし良かったらお義父さんに、君のほうから話をしてみてくれないか?といっても...俺達の時だってあれだけもめたんだ、お義父さんが簡単に首を縦に振るとは思えないけどね」

「あらお父さん、この頃は随分丸くなったと思うわよ。きっと大丈夫よ。でも一応話してみるわね。ねえイグナシオ、あなたサンチャゴ君ともカレンちゃんとも仲良いじゃない?とりあえず先に森の小道まで仲人してあげてよ!それで仲良くなっておけば、たとえお父さんが反対したところで既成事実になるし」

母の目は生き生きと輝いていた。実は母は「仲人」行為が大好きなのだった。伯父夫婦ー、つまり自分の兄と親友を結びつけたのは自分だ!と事あるごとに得意気に話していた。ちょっと前も叔父のルシアーノの婚活を手伝ったが、結局は叔父は自力で相手を見つけていた。リベンジに再び誰かのお節介をしたくてうずうずしていたようだ。

「既成事実?いいのか?俺みたいに龍騎士銃で吹っ飛ばされるはめになるんじゃない?」

...両親が結婚の約束を交わした際、激怒した祖父に父は呼び出され、練習試合という名の決闘に付き合わされていた。結果は父本人が語る通り、龍騎士銃に吹っ飛ばされてあっけなく終わりだ。

「そんなこともあったね。わかった!イグナシオ、一応サンチャゴ君にそのことも伝えておいてよ。それで怖気づくようだったらそもそも親戚付き合いもままならないしね」

「うん...解ったよ...」

正直、このおれがどの面をさげてカレンを森の小道に誘えるのか...と思ったが、サンチャゴはいい奴だ。

山岳六家の中でも常に上位につけてきたプラマー家の跡取りだけあってプライドが高い所はあるが、情には篤い男でもある。もしカレンを妻にすることになれば、きっと大事にしてくれるだろう...。

 

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そういえば、一つ年上のアシエルがカレンを紹介してくれと煩かったが、こいつは女にだらしない札付き野郎だと解ってからは却下しているんだった...。サンチャゴには少なくともそうところはなさそうだから安心だ。

おれはとりあえず、サンチャゴに話をしてみることにした。

 

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「カレンちゃん?ああ、お前の親戚の子だよな。覚えてるよ、可愛くて大人しい子だった。あの時はお前といつも一緒にいたから、俺はてっきり「そういうこと」だと思ってたよ。だから近づかなかったんだ。内心お前には結構ムカついてたけどな!なんでこいつの周りには可愛い子ばっかり寄ってくるんだって..。結局お前凄い美人と婚約してるし、羨ましいよ、その女運!」

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女運...果たして良いことになるんだろうか。勿論おれとオリンピアを結びつけてくれた運命には感謝しているが。

「カレンは...妹みたいなものだよ。戸籍上では叔母さんになるけどね。で、どう?この話」

妹みたいなもの。

それは嘘だった。少なくとも過去においては。だけどこのまま時が過ぎていけば、本当にそういう風に思えるようになるかもしれない。

「...いやー、そりゃ勿論...。有難いよ!お前にだから言うが、ぶっちゃけこのままじゃ結構ヤバイかもって思ってたところでさ...。まあ、会って話してみないことには何とも言えんが、とりあえず世話にならせてもらうわ!」

 サンチャゴがそれなりに乗り気なようでホッとした。しかしもうひとつ大事な話が残っている。

「良かったよ...。だけど、ひとつ言っておかないといけないことがあるんだ」

「へ?何だ?」

サンチャゴはサラダをもぐもぐ頬張りながら聞いてきた。

「コロミナス家としてはこの縁組を勿論応援したいんだけど、肝心のオブライエン家の当主は...つまりおれの祖父なんだけど、ちょっと山岳家に対して厳しい所があって、もしかしたら...お前の実力を見たいとかいって...決闘をふっかけるかもしれない...そういうの...大丈夫?」

「決闘?お前の祖父さんって...あの「龍騎士殿」だよな!」

サンチャゴは驚いた様子だった。

 「うん。うちの父さんなんて、母さんと結婚する時龍騎士銃で吹っ飛ばされたって」

「まじか!兵団長を...ほえー...。」

これを聞いても果たして良いと言えるのか。こいつが余程マゾヒスティックな人間でもない限り、駄目なような気がしてきた。

が、回答は予想外だった。

「いいじゃん!」

「え?」

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「エルネア杯四連覇に王手を掛けてる大英雄と手合わせできるなんて、こんなオイシイ話、そうそうないじゃん?俺面識ないし、大体実力がダンチから俺から練習試合なんて申し込めない。それが向こうから来ていただけるなら、願ったりだよ!」

只今エルネア杯の真っ最中。サンチャゴは13日の祖父の試合を観て、その戦いぶりにすっかり魅了されていたのだった。

「手合わせというか...悪いけど...そもそも吹っ飛ばされて終わりだと思うけど?」

「あたぼうよ!」

サンチャゴはテーブルを勢いよくばん、と叩いた。

「今だって、お前とやり合って二回に一回は吹っ飛ばされてる。吹っ飛ばされるのが怖くて戦士の称号を名乗れるか!龍騎士様だって何だって、どんと来い、だぜ!」

そうだった。

コイツは超がつくくらい前向きで、タフな男なのだった。単純で脳天気とも言えるが。

 でもまあ...このくらい元気な方が、むしろ繊細なカレンには合ってるかもしれないし、祖父も意外と気に入るかもな。父は完璧な優等生だったから余計に鼻についたのもあるだろうし。

「わかった。じゃあお前が祖父ちゃんに吹っ飛ばされた時には手当てしてやるよ。」

「おう!宜しくな」

話の中心がカレンとの縁組なのか祖父との対戦なのか解らなくなってきたが、とりあえずサンチャゴとは話がついた。あとはカレンと話をするだけだ。むしろこっちのほうが気が重い...。

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「カレン...今ちょっと、話をしてもいい?」

「イグナシオ、久しぶりね。...あぁ、遅ればせながら、婚約おめでとう。オリンピアさん...だったっけ?とても綺麗な人ね。学舎ではあまり見かけなかったから面識はなかったけど」

薬師の森で採取をしていたカレンに声をかけた。この時期の新成人はたいてい目当ての異性と来るものだが、彼女は一人のようだった。

「ありがとう」

「「叔母として」お祝いを言わせてもらうわ...。で、どうかしたの?話って」

カレンは笑顔だったが、心の奥底はそこからは見えなかった。

聞くのは気が引けたが、とりあえず聞くしかない。

「今...付き合ってる人とか、気になってる人とか...いる?」

カレンは真顔になった。

「...いいえ」

むしろここで、誰か既に恋人か、好きな異性がいると答えてもらう方が気が楽だった。サンチャゴには申し訳ないが。

しかしその期待は裏切られた。もうこのまま突き進むしかない。

「あのさ...おれの友達で、カレンに合いそうな奴がいるんだけど、一度会ってみない?おれと同じ山岳兵のサンチャゴって奴。同級生だったから知ってるかな?良かったら今度、森の小道で引き合わせるから」

「ああ...顔と名前くらいは知ってるわ...」

カレンはおれの顔を、昔と変わらぬ大きな黒い瞳でじっと見つめてきた。

おれがカレンに友人を紹介することが彼女にとって残酷となるかどうか、今のカレンの気持ちが見えない以上何ともわからない。

だがたとえそうであったとしても、昔に戻れない以上どうしようもない。それならば前に進む可能性がある選択肢を提示するほうが、いくらかましに思えた。

「おれが言うのもなんだけど...いい奴だよ。だからカレンに紹介したいと思ったんだ」

「そう...」

カレンは下を向いて少し沈黙した後、顔を上げて再び笑顔を見せた。

「解ったわ。じゃあ、とりあえずお会いしてみようかしら」

「良かった。じゃあ明日昼一刻に、森の小道の前で」

...気の重い任務の第一段階がとりあえず終わった...。

 

「二人に話したらOKもらったよ」

「良かった!私もね、今日父さんに会ったついでにサンチャゴ君のこと話してみたのよ。そしたら父さん構わないって!」

夕食時、とりあえず引き合わせが決まった旨を母に告げると、母からも意外な返事が返ってきた。

「あのお義父さんが!?一体どういう心境の変化で?」

父は食事の手を止めて驚いていた。

「むしろプラマー家なら姉であるお前も近くにいるから安心だ、だって!サンチャゴ君吹っ飛ばされずに済みそうよ」

「...逆に俺は吹っ飛ばされ損ってわけか...」

父は納得いかなそうだ。母はそんな父の肩をポンポンと叩いた。

「私たちが上手くいってるから父さんも山岳家との縁組を理解してくれるようになったのよ、そんなに、すねなさんな」

「...だといいけどね...」

結婚時の大騒動を乗り越えて、両親がとても仲の良い夫婦なのは事実だった。

サンチャゴとカレンも、この二人のような夫婦になってくれればいいけれど...。

とりあえず今確実なことは、サンチャゴと祖父との「手合わせ」は無くなったということだけで、サンチャゴとカレンはどうなるかは未知数だ。

 

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翌日、森の小道で二人を引き合わせた。

一応同級生ということでお互い面識はあったので、紹介自体はスムーズだった。

しばらく三人で雑談した後は、おれは一歩後ろに下がって二人に会話させることにした。

サンチャゴが一方的にベラベラ話しているのが気になりはしたが、もともとカレンは人見知りだし、口数が多い方ではない。とりあえずサンチャゴの話を聞きながらカレンは笑い声を出している。初回としてはまあ良い反応なのかもしれないー。

 

「うん、まあ、品のいい子だな。ちょっと緊張してるのかな?って気はしたけど、二人で話すのは今回初めてだから仕方ないかな。もう数回会ってみてもいいよ」

小道での散策が終わった後、サンチャゴにどうだったか聞いてみたらこう返ってきた。

意気投合!とまでは行かなかったのが残念だが、カレンの性格を考えれば時間がかかるのは仕方ないかもしれない。

「そうね...とても明るくて元気な人ね。こちらが圧倒されるくらい。次回?サンチャゴさんが望まれるんだったら...お会いするわ」

カレンの返事も似たようなものだった。

とりあえず、お互いの印象自体は悪くないようだから、もう少し回数を重ねれば距離が近づくのを期待するか...。

 

しかし、数回の小道散策が終わったところで、その期待は望まぬ形で終わることとなった。

エルネア杯決勝の日。

いつもなら祖父の応援に来ているはずのカレンの姿がない。

祖父が危なげなく決勝に勝利した後、「奏女交代」を告げる大きな鐘が鳴り響いた。

「このタイミングで奏女交代?」

「新しい奏女は誰?」

決勝に来ていた観客達からもザワザワとした声がした。

悪い予感がした。

祖父に祝福の言葉を告げた後、神殿前の掲示板を確認に走った。

そこに新しい奏女として書かれていた名前は

「カレン・オブライエン」

 

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 カレンは祖父を一人導師居室に残し、奏女として独立したのだった。

交際未満の相手がいる状態で奏女を引き受けることは、ある意味相手に対する拒絶とも取られる行為だったー。

 

(続く)

 

毎度毎度長々とすみません

 最後までお読みいただいてありがとうございます。

次で終わらせます!