遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

イグナシオ番外編:星に願いを(後編)※完結

カレンが奏女になったことで、プラマー家とオブライエン家の縁組は自然消滅した。

父さんはジャンナさんに少しだけ嫌味を言われたようだが、まあそもそもあくまでも「打診」レベルの話だったから...誰が悪いというわけでもないのだった。

「サンチャゴ、こんなことになっちゃって申し訳ない」

f:id:OBriens185:20210131003926p:plain

「なんでお前が謝るんだよ?...まああの子、俺が話してても何となく上の空...って感じだったから、こうなりそうな気がしてたんだ..。そういう状況でズルズル会い続けるのも何だしな、心機一転、また相手探しするわ!」

サンチャゴが前向きな奴なのが救いだった。こういう奴だからこそカレンに合うかと思ったけど、それはどちらにとっても「余計なお世話」だったのかもしれない...。

 

幸いなことに、それから程なくしてサンチャゴにはちゃんと彼女が出来た。

彼女の名はおれの親戚でもあるエイドリアン・ピット。ピット家も武術職を多く輩出する旧家ということで、ジャンナさんも満足とのことだった。

「カレンちゃん...奏女になんかなっちゃって...あの子大人しいからきっと押し付けられたんだわ...大丈夫かしら...」

母はそう言って心配していたが...後でガイスカ叔父さんに聞いたところ、「本人の強い意志」らしい。

「その辺はあまり本人に問い詰めたりしないほうがいいと思う」と叔父は言った。

おれ自身も聞くべきでないと思った。もう本当に、おれが彼女の縁談に関わるべきではないだろう。たとえ両親に頼まれたとしても...。

エルネア杯が終わった後、おれはオリンピアと結婚し、年明け後には祖父はガノスへ旅立ってしまった。

f:id:OBriens185:20210131004424p:plain
f:id:OBriens185:20201006222250p:plain

そんな中でもカレンの奏女生活は暫く続いていたが...やがて奏女居室に通い詰める農場管理官の男をたびたび目にするようになった。

おれたちの同級生マヌエルで、特に親しくはなかったが誠実な人柄であることは知っていた。そのマヌエルの優しさに心を溶かされたか、ほどなく二人は恋人同士となり、カレンはようやく奏女服を脱ぐこととなった。交際は幸いにして順調に進み、婚約したとの話がコロミナス家にも伝わってきた。

「良かったわ、カレンちゃん。これでガノスの父さん母さんも安心するわ...」

母は安堵して喜んでいた。おれもようやく全てが「終わった」ような気がしていた...

*************************************************

 

「カレン、山岳のプラマー家のご長男がお相手を探しているそうだ。お前と同じ年だからよかったらどうかとマグノリアから話があったんだが...どうだ?会ってみるか?」

父娘二人だけの夕食の最中、父が縁談の話を持ち出してきた。

「知ってるわ...今日イグナシオからも話があったの。とりあえずお会いしてみるって返事しておいたわ」

「それは良かった。聞けば中々の好青年だそうだよ。気が合うといいな」

父は上機嫌に見えた。らしくないと思った。

「ねえ父さん...」

「何だ?」

「姉さんがお義兄さんと結婚するって言いだしたときは父さん大反対したんじゃないの?プラマー家だって同じ山岳一族だわ...。しかもコロミナス家より遥かに歴史が古いお家よ、父さんはそれでいいの?」

「ああ、そのことか...。今思えば父さんも随分大人気なかったよ。まあジャスタス君は今では兵団長だし、何といってもマグノリアがとても幸せそうだからね。私も山岳一族に対する考えが随分変わったんだ。プラマー家はコロミナス家よりしきたり等は厳しいかもしれないが..お前なら十分やっていけるだろう。すぐ近くに姉さんもいるから困ったときは相談できるしね」

「...そう」

「それに...私だってもうそうは長くは生きていられないだろう。出来れば...お前が幸せになるのを見届けてからガノスに旅立ちたいと思っている。親のエゴと言われればそれまでだがな...」

そうね...父さん。

でも何もわかっていないのね。

姉さんが幸せなのは、山岳に嫁いだからじゃない。愛する人と共にいられるからだわ。

あたしの望む幸せがどこにあるか...父さんは知る由もないでしょう...

 

 

「カレン、イグナシオから相手を紹介されたって?」

翌日の朝、親友のロザンナが声をかけてきた。

「ええ...私たちの同級生だったサンチャゴ君ですって。今日森の小道でお会いすることになっているの」

「サンチャゴ?えー!あの悪戯坊ちゃん?結構クソガキだった奴じゃん。なんとまあ...。それにしてもイグナシオ、良くヌケヌケとあんたに相手を紹介してきたものね。自分に彼女が出来た余裕なのかしら?」

f:id:OBriens185:20210131004651p:plain

ロザンナは憤慨していた。彼女も子供の頃からイグナシオに想いを寄せていけれど...何度か告白までしたにも関わらず結局彼は別の女性を選んだ。

そのことに少し安堵している自分がいた。親友としてこんなことを思うのは申し訳ない。

でもイグナシオがもしロザンナを選んでいたら...あたしは耐えられなかったかもしれない。自分達三人が「子供時代の親密な仲間」だったからこそ...。

「あいつさあ、なんかすごく素っ気なくて不愛想になっちゃって。あれじゃあ別人よ!感じ悪いったりゃありゃしないわ。...まあ、それでこっちも踏ん切りがついたけどね。こんな人だったら付き合わなくて良かったって」

イグナシオがハートドロップを飲んだことについて彼女は知らない。いや、知っていたら元に戻ってと彼に懇願したかも...。

...だけど自分には...イグナシオの内面が大きく変わったようには思えないのだった。むしろそう思えてしまえたらどんなに楽だろう...。

ロザンナのように「別人」と思えて心も離してしまえたら...。

確かに以前のイグナシオなら、子供の頃の二人の関係を無視して別の相手を紹介してくることなど考えられなかった。

でも昔に戻れとは言えない。

父が彼に背負わせた重い運命をあたしはわかっている。

そしてその運命を共には背負えない間柄にあることも。

結局は、彼の残酷な提案を受け入れることも、今の自分達には必要なことに思えた。

「...まあ、お話してから考えるわ。大事な友達だからこそ紹介したいってイグナシオも言ってたから」

「そっか。きっかけは何にせよ出会いの幅を広げるのはいいことだからね。あんた特に頑ななところあるから、ちょっと心配してたんだ。プラマー家のお坊ちゃん、気が合うといいね!」

ロザンナは行動や物言いが率直だから誤解されやすいところもあるけれど...逆にそういうことろが付き合いやすくもあった。今のロザンナの励ましは有難かった。

「ありがとう、ロザンナ

「じゃあ、頑張って!あとで結果聞かせてね!」

気づいたらロザンナの恋人、オスカルがやってきていたので、ロザンナは笑顔で手を振って去っていった。二人は付き合いだしたばかりだったが順調なようだ。

 

「カレンちゃん...だよね?ナトルの時は殆ど話したことなかったけど...改めて、ヨロシク!」

「サンチャゴ君...イグナシオからお話は良く聞いてるわ。こちらこそ...よろしくお願いします」

明るく元気な人。それが彼の印象だった。子供時代の腕白振りは影を潜めていた。話題の選び方にも気遣いを感じたし、イグナシオが「大事な友人だからこそ紹介したい」そう言った理由も解った気がした。

だけど...

イグナシオと初めて出会った子供時代の思い出を振り返ると...。

彼が話しかけてくれた時の安堵感、一緒に時を過ごした心地よさ...それに勝る感覚は得られなかった。

これから何度かお会いしたら気持ちも変わるのかしら...?

けれど自分の直感は否と告げている。

 

「サンチャゴ君とお会いしてみてどうだった?」

帰宅してから、父は心配そうに尋ねてきた。

エルネア杯開催期間のこともあって、父は最近ずっと帰宅時間が早い。

なるべく親子二人で夕食を取ろうと気遣ってくれているのが感じ取れた。

「...ええ、まあ、とても気さくでいい人よ。」

「そうか。ジャスタス君はガチガチの堅物だが、同じ山岳長子でもやっぱり違うんだな。婿殿としては付き合いやすいかな」

父はポムの火酒を飲みながら笑っている。まるでもう縁組が決まったかのように。

だけどあたしは...。

 

「あの...」

エルネア杯の決勝戦の日。

父の応援に向かおうとした先に、奏女の服装をした女性に声をかけられた。

「あなたに奏女の後任として神殿勤めをお願いしたいのですが、いかがですか?」

...あたしに?

奏女になれば神殿に居を構え、親の世帯からは完全に独立することになる。

つまり、父は一人であの広い魔銃導師居室に残される。たとえいつか奏女を辞しても、父のもとへ戻ることはもうない。

父のことを思うと少し胸が痛んだ。

一方で、たとえようもない解放感が心に広がる。

自分が望むことがはっきりと形になった気がした。

「これもシズニのお導き。喜んで承ります」

迷いなく、しっかりと声が出た。

「...そうですか。それではさっそく参りましょう」

彼女に導かれ、あたしはシズニ神殿に足を踏み入れた。

神殿の静謐な空気に心が落ち着く。今はここが自分の望む場所だった。

「シズニの神よ、ここに新たな担い手が参りました。どうかその教えの光で、新たな担い手をお導きください-」

奏女と自分のふたりだけの空間。彼女の声が荘厳に響く。

その瞬間、空から光が降り注いだ。一瞬だけ、そこにシズニ様が本当に降り立ったような気がした。

胸の前に組んだ手に力を込めて、いらっしゃるはずの神様に祈りを捧げる。

-どうかシズニ様、あたしを導いて しばらくは あたしの想いを守らせてー

気づいたら、視界がヴェールに覆われていた。服装も奏女の長いローブに変化している。

「...これで引き継ぎは果たされました」

目の前には 前任者だった女性が国民服を着て立っている。

先刻まで彼女に漂っていた神秘性は消え失せ、ありふれた普通の女性に戻っていた。

「...良かった。中々引き継ぐ方が見つからなくて...。先ほど貴女を見かけて、直感でああこの人だ!って思ったんです。奏女でいる間は、少しシズニ様から神秘の力を分けていただけるようで...一番相応しい方を自然に見つけられるようになるんですよ」

...奏女に相応しい女性とは即ち、恋人がいないか、いても関係が浅い者。

意中の相手と相思相愛の人間が選ばれることはまずないー。

...人によっては選ばれたことに憤るかもしれないが、自分にとってはむしろそれが有難かった。

「これもシズニ様のお導きですから...。ご退任を選ばれたということは、ご結婚なさるんですか?」

「ええ!彼がプロポーズしてくれたんです!とても嬉しくて...」

女性は頬を上気させていた。この上もなく幸せそうだった。

「おめでとうございます。愛する方と結ばれることは幸せなことですものね...。今後もシズニ様のご加護がありますように」

「ありがとうございます!では、よろしくお願いします」

女性が立ち去った後、神殿にたった一人で残された。けれど寂しさは感じない。

その時、王立闘技場の方向から歓声らしきものが聞こえてきた。

 恐らく、父の四回目の優勝が決まったのだろう-。

結局、何も言わずに家を出ることになってしまった。

父が望んでいた花嫁としての旅立ちではなくー。

 

「カレン...父さんは驚いたぞ」

緑色の勇者服に身を包んだ父が、間もなくして神殿にやってきた。

「父さん、ごめんなさい...。こんな形で家を出ることになってしまって...。

父さんを一人にしてしまって...」

「いや、そんなことはいいんだ。別に...。今まで通り、研究と探索の日々さ。むしろ一人のほうが気楽なくらいだよ。ただ...」

f:id:OBriens185:20210131003124p:plain

父が何を言いたいのか解っていた。

「サンチャゴ君とのことは...いや...彼のことだけじゃない。お前はこれから...」

「しばらくは...シズニ様にお仕えしたいの。それがあたしの望みなの。お願い、あたしの望むままにいさせて。父さんなら...解ってくれるでしょう?」

父さんはずっと好きなことをしてきたでしょう?あたしと父さんはよく似ているの。望まないことは出来ないの、自分の気持ちに嘘はつきたくないのー。

「カレン...。そうか、解った...。お前の望むようにするといい。」

父はそういいながら俯いて、目頭を押さえていた。それから顔を上げてあたしを抱きしめる。

「生きている間には恐らく...お前の素顔を見れないかと思うと寂しいよ...。だが...こんな駄目な父親だが...お前の幸せを一番に望んでる。それを忘れないでほしい」

「ありがとう、父さん...そして、勇者様。どうかご武運を...」

抱きしめてくれた父の胸に温かさを感じながら、これからの自分の幸せとは何かを、改めて考えた...。

 

今年の星の日は神殿で迎えることとなった。

年に一度の感傷的で美しい情景とあって、この日に結婚を誓う恋人達も多く、庭のあちこちでは愛を語らう声が聞こえる。

f:id:OBriens185:20210130223411p:plain
f:id:OBriens185:20210130223635p:plain

香水を作る手を少し休めて空を見上げた。
ワフ虫が輝きながら舞う風景は、子供の頃から全く変わらない。

 

f:id:OBriens185:20210130224352p:plain

「ほら...こうしてるとね...お星さまが空から降って来るみたいじゃない?」

「ほんとだー」

2年前の記憶が蘇る。

あの時は何も知らない子供だった。

あの時待ち望んでいた「2年後の白夜」は明日...。

 

あの時願いたかったこと。

イグナシオとずっと一緒にいたかった。

でもそれは...願ってはいけないことだったの。

 

イグナシオ。あなたは今どこにいるのかしら...。

きっとオリンピアさんと一緒にこの光を見ているでしょうね...。

明日の願い事は...もう決まった?

 

あたしは...

願ってはいけない想いだと解っていたとしても

二年前のあの気持ちを大事にしたいの。

あの時待ち望んでいた明日が来るまでは...。

誰にも気兼ねすることなく、自由な心で。

今あたしは確かに、幸せを感じてる。

誰にも解らないだろうけど...それでいい。

 

暗い空の中、「星」が泳ぎ舞う様は永遠に続くようで,

あたしは暫く 空をずっと見上げていた。

舞うワフ虫たちの遠く向こうに 本当の星が輝いている。

恋人たちの声は もう耳に入らなかったー。

 

*************************************************

翌日の夕刻、父は危なげなく龍騎士となった。

やがて夜の刻が訪れても、空はしらじらと明るい。

今こそが白夜の時間。今こそ願いを込めるとき。

神殿の庭でひとり、空に祈ったー。

 

イグナシオ。

どうかあなたが進む道に 光がありますように...。

そしていつか...あたし達がガノスに召されても...

遠い子孫のどこかで...また運命が繋がることを...願ってもいいかしら...?

一生あなたを思って生きる気はないわ。

それはあなたを苦しめることになるから...。

いつかあたしは再び 他の誰かを愛するでしょう。

四年後の白夜にはきっと 違うことを願ってる。

でも今は...。

 

空の彼方で 一瞬何かが輝いた気がした。

 

*************************************************

2年後の211年。

あたしは同級生のマヌエル・ストルイピンと結婚した。

彼はあたしが奏女になった後、奏女居室に足しげく通ってくれた優しい男性だった...。

 

f:id:OBriens185:20210130234347j:plain

それから間もなくして長男にも恵まれた。

f:id:OBriens185:20210131005556j:plain

自分の一生は、今は新しい家族とともにある。

 

やがて息子も成人し、旅人の女性と結婚したいと言い出した。

夫は難色を示したけれど、あたしの答えは一つだった。

「ねえマヌエル...。あたしにだって旅人の血が流れているわ。

愛する人と共にあること、それ以上の幸せなんてないの。二人を祝福してあげましょう」

「カレン...」

 

f:id:OBriens185:20210131010135j:plain

そう、心から愛する人と共にいれること。

それに勝る幸せなんてない...。

 

*************************************************

-38年後ー※地球換算114年後

エルネア歴 249年

f:id:OBriens185:20210131001301p:plain

 

「ねえサーザ君、知ってた?母さんのひいお祖母さんね、あなたのコロミナス家のご先祖の妹さんだったのよ!私にも英雄ファーロッド・オブライエンの血が流れていたの」

「え、マジで?」

「ほら、この家系図見てみて。ここのところ。私のご先祖様の一人が、カレン・ストルイピン。サーザ君の山岳のご先祖様...マグノリア・コロミナスさんの妹でしょ?」

「ほんとだ。だけどヘイリーのご先祖様、20歳で亡くなってるんだ...短命だったんだな。気の毒に...。」

「そうね...。だけど短くても幸せな人生だったかもよ。それにしても...わたしたちも婚約するまで色々あったけど、こうして遥か昔にご先祖様が繋がってたなんて...不思議な縁だね」

「ヘイリー、そうだね。ご先祖様の為にもこの縁を大事にしていきたいね。

これからも、ずっと...。君と一緒にいられることが、オレの幸せだから...」

 

f:id:OBriens185:20210131002338j:plain

 

星に願いを・終

 

☆最後までお読みいただいてありがとうございました!

obriens185.hatenablog.com