選ばれなかった子(7)
騎士隊に入隊してから5年。
ようやくこの場に立つことができた。
闘技場の空気は乾いていて、時折頬を通り抜ける風は冷たい。
不思議と心は落ち着いていた。
そう。俺は今から、決勝戦を戦う。
決勝戦の相手はフレッド・ウルフスタン。
銃持ちの騎士だが、本来武器相性の悪いはずの斧使い・ホセを下した強者だ。
当然能力値も高い。
全てにおいて圧倒的に不利なのは俺の方だ。
俺が勝っているのは「速さ」だけ。
ならば徹底的に、その速さを武器にするしかない。
なんとしても先手を取ってやるー。
選手名がコールされ、俺はそれに答えて右手を挙げる。
以前とは違う胸の高鳴りがあった。
俺とフレッドが向かい合い、礼を交わしたあとで
神官の声が響いた。
「試合始め!」
先手を取れた!
しかし銃相手には俺の剣の威力は減殺され、相手を仕留め切ることはできなかった。
フレッドが反撃してくる。
すぐさま防御に入ったが、予想通り銃で受けるダメージは大きい。
体力が大きく削られる。
だが、たった一撃だが、攻撃をかわすことができた。
-これが勝負の分かれ道になった!
俺は渾身の力を持って剣を奮った。
敵もさるもの、数回攻撃を回避されたが、
それでも最後の一撃で、相手の銃を弾き飛ばすことができた。
「そこまで!」
再び神官の声がかかる。
「勝者、カール・オブライエン!」
俺は決勝に...勝利した。
「カール君、見事だったよ」
フレッドが笑顔で手を差し伸べてくれた。
「-ありがとう」
俺は差し伸べられた手をしっかりと握った。
「次は負けないけどな」
彼らしい不敵な表情だった。
「こちらこそ。いつでも相手になってやるよ」
様になっていたかどうかわからないが、俺も同じようにニヤっと笑ってみた。
-表彰式が始まった。
この場にこの立場で立っているのが何とも不思議だったが
これはまぎれもない現実なのだった。
パティ・ガイダル陛下からお言葉をいただく。
「見事優勝を勝ち取った、カール・オブライエンよ
栄光あるローゼル騎士隊を背負って立つに相応しい技量であった。
今後もたゆむことなく鍛錬に励み、騎士達の模範になることを期待する」
-騎士達の模範-
さんざん先輩騎士達に、「しっかりしろ」と言われていた俺が...?
これから自分が背負うことになる立場の重みを、改めて自覚した。
身が引き締まる思いだった。
もう、昔の自分に戻ることは許されない。
ーいや、自分が許してはいけないんだ。
「兄さん...良かった!ほんとに良かったね!!おめでとう!!」
閉会式後、いつの間にか「お兄ちゃん」から「兄さん」呼びに変わった妹が※
アラベルと一緒に駆け寄ってきた。
「ありがとう、マグノリア。ところでお前、山岳兵団の閉会式は?」
「ジャスタス君が優勝することは、昨日の時点でもう解ってたから...今日は兄さんの試合の方を優先させてもらったの。ジャスタス君も『大事な試合だから、兄さん優先でいい』だって」
決勝まで優勝者が確定しない、騎士隊のトーナメント方式と違って、
山岳兵団はリーグ戦方式を採用している。なので余程乱戦にならない限り、
最終戦を前にして、優勝者はほぼ確定しているのが常だった。
現時点でジャスタスの力は突出しており、
1戦も落とすことは考えられなかったから猶更だった。
これでこの義弟と俺は、立場の上では並ぶこととなる。
長きに渡り縮まらなかった距離が、ようやくここでゼロとなった。
「お父さんも喜んでるよ...。きっと。」
「そうだといいけど、な」
父は確かに喜ぶかもしれない。
でもこう付け加えるのを忘れないだろう
「カール、ここで終わりだと思ったら大間違いだぞ」と。
そう。
常に終わりは始まり。
来年、再来年の今日も、この場所に立っていないと意味がない。
エルネア歴211年。
俺は、ローゼル近衛騎士隊隊長 及び 評議会議員に就任した。
俺は全てを背負う覚悟を決めた。
騎士隊長として、
そして
「龍騎士ファーロッド・オブライエンの息子」としての誇りと責任を。
あの緑の護り龍が降り立つ場所へ辿りつくために。
(つづく)
※マグノリアの性格「まじめ」では、本来兄のことは「お兄ちゃん」呼びになりますが、
流石にもういい年なので、お兄ちゃん呼びはやめた...という設定です。
実際は身内だけだったら、いい年になっても未だに子供時代の呼び方で話したりしますけどね(^^;
...最後までお読みいただきありがとうございました。
次でようやく、本編(?)の時間軸「213年エルネア杯」に戻ります。
カール編&「213エルネア杯編」はあと3回で終わる予定です。長々と引っ張ってすみません...