遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

選ばれなかった子(8)

「イグナシオの今後のことを考えたら、兵長を早めに引き継いで実戦経験を積ませた方がいいかとも考えたけど...次のエルネア杯までは続けることにしたよ」※1

俺が騎士隊長になったばかりの評議会帰り、義弟ジャスタスはこんなことを話していた。

「といっても、今度こそ本当に最後にするつもりさ。龍騎士になれる最後のチャンスに賭けたいんだ」

「...マグノリアの...ためにか?」

俺は余計なことだと思いつつ、思わず聞いてしまった。

マグノリアは父が選んだ「龍騎士の力の継承者」であり、父も本人も龍騎士になることを望んでいた。

しかし妹は山岳長子であるジャスタスと恋に落ち...結局彼の妻となる道を選んだ。

それは龍騎士の夢を諦め、一介の山岳兵として、婚家と兵団に尽くすことを意味する。

それでも妹は、彼と共に生きたいと父に告げ、ジャスタス本人も、彼女の夢を引き継いで自らが龍騎士になると、父の前で啖呵を切っていた。

「それは勿論だ。だけど...それだけじゃない」

義弟は言葉を続けた。

「俺自身の、武人としての意地でもある。」

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ジャスタスはそう言うと、口を真一文字に引き結んだ。

 

そこから2年の時が立ち、俺達はそれぞれの組織の長として戦うことになった。

213年。エルネア杯準決勝。

お互いに負けられない戦いだった。

 

エルネア史上初の龍騎士・英雄ローゼルは、その名の通り近衛騎士隊の創設者であり、

彼亡き後も騎士隊はその遺志をつぎ、何人もの強力な「龍騎士」を輩出してきた。

だがここ暫くのエルネア杯では、魔銃師会の勢いに押され、騎士隊は優勝を阻まれてきた。父ファーロッドの登場が、更に魔銃師会優勢に拍車をかけた。

歴代の騎士隊長達は皆、俺より遥かに優秀だったが、それでも父に勝つことはできなかった。

しかしどんな英雄にも寿命はある。父の逝去により、武術三組織のパワーバランスは明らかに変わった。

組織独自の公式試合がなく、強化は完全に会員個々に委ねられている魔銃師会は、その個人主義が仇となり、弱体化を許してしまうことになった。

現に今、準決勝で残っているメンバーに、魔銃師会の人間はいない。

-これは我々にとって大きな好機だった。

エルネア杯で優勝し、近衛騎士隊の威信を復活させる。

俺は騎士隊のトップとして、先人からの悲願を達成しなければならない。

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一方、義弟が率いる山岳兵団は、まだ組織から「龍騎士」を出したことはない※2

昔からの家長制度を軸においた組織構成では、どうしても各兵隊長の能力にばらつきが生じる。

また、引退制度があるため、どんなに優れた戦士であっても、公式試合に出場できる期間は限られていた。それが恐らく、今まで龍騎士を出せなかった大きな要因だろう。

だがここに来て、義弟は兵団全体の強化に尽力し、地力の底上げをはかってきたと聞く。そして義弟自身の能力値は、今大会出場選手のNO.1だった。

ここでジャスタスが龍騎士となれば、山岳兵団の士気は多いに高揚するに違いない。

「採掘や精錬...山岳兵の仕事はかなり過酷だ。しかも長子とその配偶者には職業選択の自由はない。だからこそ、俺が龍騎士となって、山岳兵団の皆に希望を与えたいんだ」

...かつて彼がこう語っていたのも聞いたことがある。

 

俺がジャスタスに勝てば、妹夫婦の長年の夢は、ここで「完全に」打ち砕かれることとなる。

勿論あいつ自身の、兵団長としての意地と誇りも。

兵長の引退年齢については、明確な規定は実はないらしいが...

自分の意地のために、息子の将来を犠牲にするような男ではないことはよく知っていた。

 

ジャスタスは、俺を倒すことを躊躇するだろうか?

いや、それはないだろう。

義弟は幼少の頃から「戦士」としてのあり方を叩きこまれて育っている。

たとえ「妻の兄」であろうと、戦いの場に情を持ち込むなど、恐らく考えたことすらないに違いない。

 

両者それぞれに想い、信念、意地がある。

だが次に繋がるのは勝者のものだけだ。

妹は悲しむかもしれない...

でも俺達は、そういう世界に生きているんだ。

 

絶対に負けるわけにいかないとあれば、勝つための算段を考える必要がある。

戦術なしに勝てる相手は、準決勝まで残ることはない。

一般論として、武器の相性で言えば、義弟より俺の方が有利だ。

...が、二回戦でのジャスタスの戦いぶりを見ていたから

武器相性の有利不利など、

たいした意味をもたないことを知っていた。

 

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相手は騎士隊員・ホセ・フィールド。

ホセは騎士隊では珍しい斧使いだが、武器相性の不利を克服して、

騎士隊四強に登りつめた優秀な騎士だった。

しかし、ジャスタスの強烈な斧の打撃により、わずか3回で地面に沈められた。

「...なんて力だ...」

ジャスタスの一撃一撃はずっしりと重く、それでいて振りのスピードも速かった。

あれをまともに食らったら、たとえ剣でも防御しきれるかどうか怪しい。

逆に、俺が先手を取ったとしても、彼の腕力なら防御で耐えきることも可能だろう。

 

先手を取るのは必須。

だが、相手に反撃を許してはいけない。

先手を取り、なおかつそのまま一気に倒す。

俺が勝つには、その方法しかなかった。

 

 

「速さ」と「威力」を両立させる戦法はあった。

全体重を剣に預け、前傾姿勢をとって相手に突っ込めば、威力と速さは両立する。

だがその体勢を取った場合、次に防御態勢を取ることは難しい。

ある意味賭けでもあった。

だが、小手先の技が通じる相手でもない。

俺は「賭け」を選んだー。

 

15日。

エルネア杯準決勝(第一プール)

山岳兵団長 ジャスタス・コロミナス VS 近衛騎士隊長 カール・オブライエン

 

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「始め!」の声がかかるとともに、俺は足を踏みだし、剣を振り上げた。

 

...デモンタバールが宙をくるくる回りながら落ちていった。
その後...どぉん...という大きな音と共に、砂埃が舞い起こった。
ジャスタスは俺の連続攻撃を受けきれず、地面に倒されたのだった。

「...そこまで!」

「勝者、カール・オブライエン!」

神官の声が大きく響いた。

 

...俺は勝利した。

 

ジャスタスは武器を拾い、身体についた砂埃を払いながら立ち上がった。

そして一瞬天を仰いで目を閉じた後、

すぐに姿勢を正し、俺に手を差し出してきた。

「...おめでとう」

その声は少し掠れていた。

「ありがとう、ジャスタス」

俺は差し出された手を、強くしっかりと握り返した。

義弟は軽く頷いたあと、そのまま無言で場外へと歩き去って行った...

 

「兄さん、準決勝突破おめでとう」

ジャスタスと入れ違いに、弟のガイスカがやってきた。

弟もこれから、もう一つの準決勝を控えている。

次に戦うのは、おそらくこいつになるだろう。

俺はそんな予感がしたー。

(続く)

 

 

※1 カールとジャスタスは子供時代からの友人。マグノリアとの結婚をきっかけに「お義兄さん呼び」&「敬語」に切り替えようとしましたが、カールの「こっ恥ずかしいからやめてくれ」という理由で、タメ口のままという裏設定がございます。

 

※2 すいません...これは捏造設定です。公式では「最初の龍騎士はローゼル」以外は、それ以後の歴史での龍騎士の所属組織は書いていなかったような?PC入国初期の龍騎士は、ウィルマ国では魔銃のイノセンシオさんだし...兵団顧問に龍騎士称号は...いないよな...いたらすみません(>_<)

 

今回無駄に暑苦しくて読みづらかったと思いますが...(>_<)最後までお読みいただき、ありがとうございます。

↓こちらは今回のお話と鏡の構成になっております。同じ出来事を、二代目PCマグノリアの視点で書いております。もしよかったら、合わせてお読みいただけると、とっても嬉しいです☆

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