遠くから来て遠くまで。

エルネア王国プレイ中に生じた個人的妄想のしまい場所。

選ばれた子と選ばれなかった子

「イグナシオ、神妙な顔にならなくてもいい...。ランスの入隊も決まったし、騎士隊はきっと、ガイスカがしっかり守ってくれる。カミサン...アラベルにも、マグノリアがついてるし、後のことは何も心配はしていないんだ。それに...俺は夢も叶えられたし、やりたいことはやりきったんだ。もう十分だよ、これ以上は...」

f:id:OBriens185:20201128192518p:plain

伯父は優しい表情で諭すように言った。おれの動揺を和らげようとしてくれているのだろう。心残りがないはずがないのに。

せっかくランスが騎士隊に入隊できたんだ。父親として今後も成長を見守りたいだろうし、アルドヘルムだってまだ成人したばかりだ。いくら親友である母が側にいるからといっても、残していくアラベル伯母さんのことが心配でないはずがない。

伯父はいつもそうだった。軽口を叩きながらも、自分のことは後回しにして、常に家族や友人の様子を気づかってくれる。

伯父は明らかに「オブライエン一族」の精神的支柱だった。

伯父がいなくなることで、親族の皆は計り知れない悲しみを負うことになるだろう。

おれはどう言葉を返せばいいかやはり解らず、下を向いて沈黙を続けるしかなかった。

無意識のうちに唇を噛みしめていた。

 f:id:OBriens185:20201128192650p:plain

「ああそうだ、一つだけ...。俺の身体はもうこんな状態だから...例の討伐に呼んでもらっても...あまり役に立たないかもしれない。これからはガイスカやグラハムを呼んでやってくれよ。いきなり「父さん」が出て来たらびっくりするかもしれないけど...」

事務的な内容なら会話を続けられると判断してか、伯父はさらりと話題を変えた。

少し前から、王国の数か所に奇妙な空間の裂け目が出現し、それが原因で近隣の樹海に見慣れない奇妙な魔物がうろつくようになっていた。

そこで魔物の発生を根本から絶つために、各自討伐隊を結成して異空間に突入し魔物の掃討に当たるよう、武術職全員に王命が下されていたのだ。

※プレイ当時のイベント「雷炎の猛り」に準拠している設定です(^^)

おれは両親のどちらかと伯父とでチームを組んで、何度も討伐に出かけていた。

尤も、戦うのは実は自分ではない。

おれの身体を借りた祖父ファーロッドだ。

f:id:OBriens185:20201128192222p:plain

祖父が使った「継承の魔法」は、実は子供への能力引継ぎだけではなかった。

引継ぎ時点の自身の「分身」を創りだし、有事に限って「祖霊」として呼び出せることも含まれていた。呼び出された「祖霊」は現在の継承者の身体を借りて戦うことになる。

そして今、祖父の出番が必要になるということは、祖父自身が生前語っていたように、「アベンの門」が少しずつ開きかけていることを示す証拠でもあった。

 

「カールさん...。じいちゃん、伯父さんがいないと寂しがると思うよ。龍騎士になった姿見て喜んでたって言ってただろう?」

 「お前がわざわざ父さんを呼びだすのは何のためだ?討伐を有効に進めるためじゃないのか?俺と父さんが昔話をして懐かしむためじゃない。いつ何時戦えなくなるかわからない人間じゃあ意味がない。」

その通りだった。彼は生来気のいい人間だが、いっぽうで龍騎士であり騎士隊長なのだ。その辺の線引きははっきりしている。

そもそも同行者に両親と伯父を選んだのも、現時点で能力的に一番信頼がおけるメンバーだったからだ。伯父の言う通り、家族の再会のためではなかった。

自分も今はコロミナス家の兵隊長であり、間もなく山岳兵団をも預かる身だ。

その自分が今やるべきことは、一刻も早く魔物の脅威を取り去ること、それ以外にない。

「解ったよ。じゃあ、ガイスカさんにでも来てもらおうかな」

「それがいい...ガイスカには俺からも言っておくから。これでもう、お前に伝えるべきことは伝えたかな...」

伯父は安堵の表情を浮かべてから、ふと思案するように空を見上げたあと、言葉を続けた。

「本当は...」

「どうしたの?」

「お前とエルネア杯で手合わせできなかったことが残念だよ。俺は結構楽しみにしていたんだけどな」

「カールさん...」

おれとしては複雑だった。伯父が試合に出てくれば、明らかに脅威になるのが解っていたから。ある意味、仕事の邪魔者と言ってもいいかもしれない。

かといって勿論、こんな結末を望んでいたわけではない。

 「残念だけど、武人にとって最大の敵は「己の寿命」だから仕方ないな。あの父さんですら寿命にだけは勝てなかった。これはもう、仕方がない」

 伯父は寂し気に一瞬だけ目を閉じたが、すぐに笑顔に戻り、おれの左肩に手を置いた。

「イグナシオ、後は頑張れよ。立場上優勝してくれとは言えないが...。お前も龍騎士を目指してるんだろ?武人の夢であり目標だからな。健闘を祈ってるよ」

 ...夢?

一体この人は何を言ってるんだ?

龍騎士になることを、夢だと思ったことなんて一度もない!

おれにとっては単なる義務だ。しかも厄介極まりない。

その先にあるらしい自由だけが、ある意味夢かもしれない。

この人は優しく気働きができる人だけど、自分に課せられた重荷なんて、実はちっとも理解してくれてはいなかったんだ...!

おれは肩に乗せられた伯父の手をゆっくりと引きはがし、彼の目を睨みつけるようにして答えた。

「...おれは龍騎士になるよ。必ずね。誰にも負けるつもりはない。それがおれの仕事だから」

f:id:OBriens185:20201128195026p:plain

「イグナシオ...!」

伯父は驚いた顔をしていた。何か言いたげだった。でももう話す気はなかった。

...伯父さんにはこの気持ちは、理解なんてできないだろう

「じゃあ、用事があるから、おれはこれで」

おれは伯父に背を向けて歩きだした。

冷たい風が吹いて、闘技場の砂を巻き上げていった。

余命いくばくもない伯父に対して最低の態度だとわかっていた。

でも、何も言いたくはなかった。この場にいると、伯父に不必要な苛立ちをぶつけてしまいそうだった。

 「待て、イグナシオ」

背後で伯父の声が響いた。その声にはさっきと打って変わって厳しさがあった。

振り向く以外なかった。

「気が変わった。今度討伐に参加するときは、必ず俺を呼びだしてくれ」

振り向いて対峙した伯父の顔は、険しい表情に変わっていた。

「...え?でもカールさん、身体が...」

「時々動けなくなるだけだ。討伐中万が一そうなったらその時点で離脱する。俺は父さんと話したい。頼んだぞ」

「分かったよ...」

伯父が祖父に何を言いたいのかは解らない。

だがこれは、死を前にした伯父の最後の願いだ。聞かないわけにはいかなかった...。

 

*****************************************************

俺は子供の頃のイグナシオのことを思い返していた。

f:id:OBriens185:20201128204748j:plain

いつも優しく穏やかな子だった。

それなのに。

肩に置いた俺の手を引き剥がしたイグナシオの目は、底冷えするような冷たさをはらんでいた。

本来、あんな目をする奴じゃなかった。

マグノリアの話によると、その優しさを弱さと恥じて、性格を変える薬を飲んでしまったらしいー。

妹は、自分の選択が、結局息子を追い詰めてしまったと苦しんでいた。

山岳家にに嫁いだこと、息子にその力を引き継いだこと。

そうじゃない。

この事態を引き起こした原因は父さんだ。

父さんが、マグノリアとイグナシオに不要な重荷を持たせてしまったんだ。

力の引き継ぎなんて、する必要はなかった。自分が龍騎士になった今なら解る。

父さん...本当に、これで良かったのか?

俺は父に会って、そのことを投げかけたかったんだ。

 

f:id:OBriens185:20201128211214p:plain

イグナシオは俺との約束を守ってくれた。

俺は父とマグノリアと三人で、魔物の討伐に召喚された。

恐らくこれが俺にとって、最後の討伐になるだろうが。

有難いことに、身体は最後まで動いてくれた。

f:id:OBriens185:20201128211705p:plain

「カール、本当に強くなったな。お陰で討伐が楽になったよ」

「祖霊」として呼び出された15歳の父は、無邪気な様子で俺の「成長」を喜んでいた。

今では俺が父の年齢をとっくに越してしまっているのだ。

「父さん...」俺は話を切りだした。

f:id:OBriens185:20201128212341p:plain

「なんだ?」

父の笑顔はあくまで穏やかだった。

ここにいるのは、娘に能力を引き継いだ直後の父だ。

娘と、世界にとってよかれと信じて魔法を使った男。

おそらくその決断の正しさに、微塵も疑いを持っていないだろう。

その父に俺は-。

 

「何でもない。多分、こうして父さんに会えるのは今回が最後だから...お別れを言いたくて」

言えなかった。

言ったところで何になる?

あんたの決断は間違いだった、そう言ったところで何も変わらない。

俺がそう責めたかった「本当の父」はとっくにガノスに旅立ってしまっている。

ここにいるのはあくまでも、その幻影に過ぎない。

アベンの門が再び開くその時まで、この姿のまま戦い続けるしかない幻影だ。

その「幻影の父」に、決断の結果を突き付けたところで、何もならない。

未来永劫存在し続ける人間に、今更償えない罪を突き付けたところで...相手に永遠の苦しみを与えるだけだ。俺は父さんに罰を与えたいわけじゃない。

「そうか...。カール、今までよく頑張ったな。父さんはお前を誇りに思うよ」

父は涙ながらに俺を抱きしめてきた。

側でマグノリアも目頭を押さえていた。

...結局俺は、この言葉が欲しかったのだろうか。

単なる幻影のはずなのに、父の腕は温かかった。

 

「兄さん、さっき父さんに何か別の事、言いかけたような気がしたんだけど...気のせい?」

三人で異世界のゲートを出た後、妹が心配そうに問いかけてきた。

イグナシオは用があるといって、別の方向に足早に去って行ってしまった。

「気のせいさ。それより...俺がいなくなったら、アラベルのこと、頼んだよ」

父のことも、イグナシオのことも、マグノリアには伝えないことにした。

もう妹に、余計な苦しみを与えたくなかったから...。

 

 

 

 

僕がいるべき場所

※唐突にすみません。switchで再び初期ウィルマ国をプレイしていたら、初代の駆けだし時代が急に懐かしくなって...。この時代のスクショは無いので文章だけですが、良かったら...お読みいただけると嬉しいです。

初期国民ガイスカ・フィールドさんが重要なキャラとして出てきますが、設定された性格に紐づいた人称ではなく中の人のイメージの人称と口調使ってます。御了承くださいませ。

 

「アルシアちゃん、明日から学校に行くことにしたんだ」

「学校に行くって...ファーロッドさん、誰が?」

カールをあやしていた妻が、大きな目を更に丸くして振り向いた。

「僕がだよ。」

「...えっ?どうして?...ファーロッドさん、大人なのに」

「恥ずかしいけど...僕はこの国で、子供が当たり前に知っていることすら知らないんだ。勿論旅人だったから...というのもあるんだけど、そもそも大人になるまで、学校というものに行ったことがなくて...。読み書きだけは、孤児院に時々来てた神官さんに教わったけど」

*************************

僕はこの年明け、農場管理官を首になったばかりだった。

自分なりに一生懸命やったつもりだけど、どうしても皆と同じように仕事がテキパキこなせなかったのだ。色んな作業を同時にやるのが本当に苦手だった。

「仕事が合わなかっただけ。あんたに向いてる仕事は他にきっとあるよ。」

仕事納めの日、当時代表だったキャリーさんはそう言って励ましてくれたけど、僕は打ちのめされたような気分だった。

自分の居場所を求めてこの国にやってきて、「農場管理官」に選ばれた時はとても嬉しかった。こんな自分でも必要とされているんだ、そんな気がして。

...でも駄目だった。

「...向いてる仕事...。この僕にそんなもの、あるんでしょうか?」

「あんたの好きなことをまず考えてごらん。あんたみたいな子は、好きなことならきっと夢中になって出来ると思うよ。」

好きなことか。

確かにラダの乳を絞ったり、チーズを作ることは「好きなこと」ではなかった。

麦の種を配ったりポムを採ることなんて論外だった。

「そこの新人さん、トロトロしないで!」

農場の行事があるたびに、世話役の人に何度怒られたことか。

...最終的には、一日中乳しぼりやチーズ作りをやることにどうしても耐えられなくて、午後になると探索に出るようになった。

武術職じゃないから難しいダンジョンには行けないけど、探索で出てくる色んな宝物を確認することはとても楽しかった。最初は出てくるものの一つ一つがどんなものかさっぱり解らないから、ガイを捕まえてさんざっぱら聞きまくったっけ。

※畏れ多くも初期国民ガイスカ・フィールドさんのこと。ファーロッドはずうずうしくも彼のことをこう呼んでいます(^^;

ガイは本当に物知りで、知らないことなど何もないような感じだった。それでいて魔銃の名手で、へなちょこな僕はダンジョンで随分助けてもらった。実は魔銃師会のトップ「魔銃導師」まで経験したことがあるらしい。そんなことを決して自分から言ったりはしないけれど。

...彼は僕の師匠であり憧れだった。

彼と一緒に働けたらな、その時ふとそう思った。

...そうか。

僕が魔銃師会に入ればいいんだ!

そんな考えが稲妻のように閃いた。

 

*************************

「魔銃師会?...あそこに入るには探索ポイントで16人中2位以内に入らないと無理なんだぞ?ハードル高すぎるよ!」

農官時代に出来た唯一の友人、オズウェル・ホフバウエルに自分の考えを話してみた。彼も僕と同様、年明けに農官を解雇されている

お互い愚痴でも言い合おうぜ、と新年早々ウィアラの酒場に誘われて、今ここにいるというわけだ。

オズウェルは呆気にとられて、手にしていたポムの火酒の瓶を床に落としそうになっていた。

「俺達みたいな、農官首になるような奴がそんなこと出来ると思うか?」

「...農場の仕事と探索は違うよ。もうエントリーは済ませてきたから」

「まじかっ!...それでもお前、練習試合で俺にも勝てないような奴じゃん...探索、大丈夫なのか...?」

「取りあえず数さえこなせばポイントは付くから...。何にせよ、やってみないと解らないだろ?オズウェルだって受ければ良かったのに」

オズウェルも農作業より探索が好きだと前に話していた。そういう所で気が合ったのも友達になった理由の一つだった。

「そりゃそうだけど...」

「じゃあこうしよう、僕が今年二位以内に入って見事魔銃兵になれたら、君も自信がつくだろ?僕みたいなヘタレな奴でもなれるんだって。そしたら来年エントリーしたらいいよ」

「ああ、はいはい、わかったよ。お前が魔銃兵になれたら、俺も来年エントリーする」

オズウェルは明らかに僕の言葉を信じていないようで、手をヒラヒラさせながら気だるげに返事をした。ちょっと腹が立ったが、逆に闘志が涌いてきた。

 

*************************

魔銃兵の選抜試験にエントリーしたことは、当然ガイにも話をした。

ガイは細い目を一瞬大きくさせて驚いた後、顎に手を当てて首を左右に振りながら自問自答するように言った。

「...そうか...。結構大変だぞ...。古参はクセのある連中ばかりだし...うん...でもまあ、お前くらい神経図太ければ...大丈夫かな」

「大変なのは解ってる。でも、好きなことなら...もしかしたら頑張れるかなって。探索は好きだし...出てくる宝物について調べたりするのもね。」

「好きと、それを仕事に出来るかどうかは違うぞ。仕事となれば、好きな事だけやってればいいというわけじゃないからな。それに...魔銃師会の人間としていい仕事をしたいと思えば、下地となる知識も絶対必要だ。見たところ、お前にはまだそれが欠けている。勿論それはお前のせいじゃないが」

「下地となる知識って?」

「この国の人間は三歳から学舎に通う。シズニ神のことから生活に関すること、我々武術組織のことなど、幅広い基礎知識と教養を学ぶんだ。お前は他所からきた人間だから当然知らないことだ。ましてや今まで、元の国でも学校に通ったことないんだって?」

「うん...そうだけど...。魔銃兵の仕事とそれが関係あるの?」

「新年の誓いで、魔銃導師が話す言葉を聞いたことないか?〚王国の篤き庇護にお応えすべく、この世界の真理を探究し、王国にその成果を捧げる〛ってやつだ。これが本来の魔銃師会の役割だ。探索はあくまでもその手段にすぎない。

いくら探索ポイントを稼いでも、探索で得たものをきちんと分析・報告できないと、本当の意味で魔銃兵として仕事をしたことにはならないんだ。」

僕はガイが話す内容を聞いて恥ずかしくなった。単純に探索できて楽しいとか、その程度の薄っぺらい理由でしか、魔銃兵を目指していなかったから。

「...つまりだ。探索の成果をきちんと文書として形にして、更にそこから研究に繋げていくためには、下地となる知識が絶対に必要となる。だがお前にはその知識がない。」

「...」

僕は絶望的な気分になった。やっと自分が出来る仕事が見つかったかと思ったのに、そもそものスタートラインが他の国民と違っていたんだ。

だけどガイは、にっこり微笑みながら俺の肩に手を置いて、こう言葉を続けた。

「そんな顔するなよ、ファーロッド。だからここからは、俺の提案だ。お前、学校に行ってみないか?」

「え?」

晴天の霹靂だった。そんなことが出来るのか?

「学舎の方にはツテがあるから、良かったら俺から話をしてみるよ。授業の聴講自体は自由だけど、毎日大人が通ってたら奇妙に思われるかもしれないからな。子供に混じって授業を受けるのは恥ずかしいかもしれないが...どうだ?」

「いや、全然恥ずかしくないよ!行けるのなら行きたい」

絶望に叩きのめされたかと思ったら、天空に引っ張り上げられるような嬉しさだった。

「ハハ、お前にはそういう羞恥心はなさそうだから大丈夫かと思ったよ。入国そうそう初対面の俺に、図々しくも友達になってくれなんて言う奴だからな。」

「そんなこともあったっけ...。あの時はとにかく不安で、ガイのことがすごく頼もしく思えたから...」

その時の自分の直感は間違っていなかったのだと、目の前の親友に改めて感謝した。

「だが、あくまでも学校で学ぶ内容は子供のためのものだから、学んだ内容はムーグの図書室でも調べ直せよ。より深い知識を身に着けておかないと、就職した後、周りに太刀打ちできないからな。」

「大丈夫さ。調べものは好きなんだ。」

「一応釘を指しとくが、勉強だけをしておけばいい、ってわけじゃないぞ。当然他のライバルに負けないよう探索ポイントも稼がなきゃいけない。相当きついぞ?」

勉強しながら探索に行く...確かに大変そうだ。

でもその時は、大変さなんかよりも、そこから広がる新しい世界、その輝きのほうが遥かに勝っていた。

-あんたみたいな子は、好きなことならきっと夢中になってできる-

キャリーさんの言葉が脳裏に蘇った。

大丈夫。多分僕は、この仕事が好きになれる。不思議と確信があった。

「きつくても平気さ...。何より僕は、自分が必要とされる場所に行きたいんだよ」

 

*************************

「学校ねえ...。わたくしなんて、もう学校で習ったことなんて忘れてしまったわ。勉強、苦手だったもの」

妻はムタンタルトを軽やかな手付きで切り分けながら話を続けた。

アルシアちゃんは勉強は苦手かもしれないけど、それを補うだけの料理の才能がある。彼女のムタンタルトは絶品なのだった。

タンタルトに限らず、アルシアちゃんの料理は素晴らしい。レシピなど見なくても、ある食材を上手に組み合わせてあっと言う間に作ってのける。

僕にはとても真似できない。料理のことでも、家事のことでも、僕はアルシアちゃんに世話になりっぱなしなのだ。そんな自分が情けなかった。

「僕は他にできることがなさそうだから...。だからごめん、しばらくは探索と勉強中心の生活になって、一緒に出かけたりする時間がなかなか取れないかもしれないけど...。この埋め合わせは必ずするからね」

僕は膝に乗っけていたカールを抱きあげながら立ち上がり、アルシアちゃんの額に軽くキスをした。

「まあファーロッドさん...そんなことより、わたくしはあなたの身体が心配だわ。くれぐれも無理をしないでね」

アルシアちゃんはあくまでも優しい。僕は彼女がいたから、この国に留まろうと決心したのだった。この子と一緒にこの国で暮らしたいー。その気持ちが全ての始まりだった。

「自分のできることとかー、そんなに自分を卑下しないでね。わたくしはあなたが側にいるだけで十分なの。あなたの居場所は、ちゃんとここにあるのよ。それを忘れないでね。絶対よ、ファーロッドさん」

妻は僕の頬を両手で優しく包み込むようにして、唇にキスを返してくれた。

「うーあー?」

腕に抱いてるカールが首をかしげた。

僕の居場所。

今カールとアルシアちゃんがいる場所こそがそれなのだ。

もう一つを求めるなんて本来は、贅沢なのかもしれない。

これから開ける新しい世界、そこへの期待に高鳴る鼓動を、もはや抑えることはできない。

でも今ここにある幸せも、決して忘れてはいけないんだー。

カールを抱いている手にふと目をやると、薬指に付けた結婚指輪が、窓から差し込む陽光を受けてキラキラと輝いていた。

(終わり)

 

※オズウェル君がファーロッドと一緒に農官首になったのはプレイ中本当にあった話。オズウェル君と探索に行った記憶は無いので、首になったのはファーロッドのせいではありません...多分(^^;

ちなみにファーロッドは公約?通り一年で魔銃師会に入りますが、その翌年オズウェル君も魔銃師選抜にエントリー!上のお話の通りとなります。以後オズウェル君は”魔銃師会の盟友”として長年にわたりファーロッドと苦楽を共にすることになります☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予期せぬ告白。

f:id:OBriens185:20201119194656j:plain

ジークが生まれた後も試合は続いた。

勝ち方はともかく、取りあえず今年の目標は最後まで勝ちきることだったので、

「格上には剣で、同等以下では斧で」のポリシーを最後まで貫いた。

結果としてリーグ戦を全勝で終え、無事優勝することができた。

 

f:id:OBriens185:20201119195207p:plain

...勿論エルネア杯の年までこのままでいいわけじゃない。

だが、探索の成果も上々だったので、来年以降は斧で勝ち通せる自信が既にあった。

***********************************************

「あれ、アンテルム?お前がなんでいるんだ?カティーナさんは?」

リーグ戦終了後の日々はあっという間に過ぎていき、気づいたら「炉じまいの儀式」の日になっていた。

この場を取りしきるのは今年度の兵団長ー、ペトレンコ家の隊長カティーナのはずなのに、彼女はその場におらず、替わりに来ていたのは息子のアンテルムだった。

アンテルムは何とも所在なげな感じでしょんぼり立っている。

サンチャゴはそんなアンテルムの姿を目ざとく見つけて、声をかけたのだった。

「...母さんは引退したよ」

アンテルムは下を向きながら呟いた。

「エルネア杯でも近衛のお義父さんにあっさり負けちゃったし、今回もイグナシオにすら勝てなかったろ?本職の騎士じゃないのに...。自分の限界をこれで悟ったって。あとはあなたがしっかりやりなさい、てさ...」

...おれの行動が彼女の引退を早めてしまったのかもしれない。

だけど、遅かれ早かれ誰でもその時は必ずやってくるんだ。

あれだけ強かった父もそうだった。だから、同情はしない。

「カティーナさんもう1年くらいやるかと思ったが、意外だな...。まあ、お前も嫁さんもらったんだし、いい頃合いじゃないか。一緒に頑張ろうぜ」

f:id:OBriens185:20201119204016p:plain

サンチャゴはアンテルムの肩をポンポン叩いて励ました。

「オレ、もう少しのんびりしたかったよ...。どうせ来年はみんなにボコボコにやられるに決まってるんだ!...勘弁してくれよって感じさ...」

誰がどう見てもアンテルムは兵隊長に向いていなかった。向いていなくてもやる気があればまだしも本人にもその気がない。普通の国民であれば、本人の希望通りのんびり暮らしていけるものを...。

 

残念ながら、山岳家の長子に生まれた以上選択権はほぼない。

まず、兵隊長の側から「引き継ぐ相手」を「選ぶ」ことはできない。

何か特別な事情があって、引き継ぐにはあまりにも不適格な場合は長子以外に引き継ぐことも可能だが...それには他の兵隊長と兵団顧問全員の同意が必要となっている

兵隊長が恣意的に長子から継承権を奪うことを防止するため定められたものだ。

いっぽう、長子が望めば、継承権を弟妹に引き継ぐことは「一応」可能になっている。

ただし、弟妹が成人済みでなおかつ長子が独身である場合に限る。

勿論弟妹自身の同意が必要なのは言うまでもない。

弟妹に同意してもらえるかどうか解らない状態で、自身の結婚を先延ばしにする...というのは中々に度胸のいる行動になるので、この選択肢を選ぶ者も、そう沢山はいない。

アンテルムが兵隊長に向いていないといっても、こいつがなったら兵団に著しい損害をもたらすとか、そこまで酷いレベルではない。

また、妹に継承権を譲る選択肢についても、妻のロシェルにはとにかく惚れ込んでいたので、譲れるかどうかわからない継承権のために結婚を延期するなんて、おっかない賭けに出る気は全くなかったようだ。

 

...おれたちは選べない。

ならば、選べない中で覚悟を決めるしかない。

「ボコボコにされたくないんだったら、強くなるしかないだろ?ここに来た以上、くだらない泣き言言うなよ」

「...酷いよ、イグナシオ...そ、そこまで言わなくても...」

「泣き言は家でロシェルにでも聞いてもらえよ」

アンテルムは泣きそうな顔をしていたが、相手にしないことにした。

別に家で泣き言をいうことまで駄目出しをしていないんだ、間違ったことは言ってない。

「全く、お前は相変わらず言い方に身も蓋もなさすぎるぞ...。とはいっても、来年の兵団長サマだからな...。言い返せないよ。今はな」

サンチャゴが肩を竦めて溜息をついた。

そうこうしているうちに儀式が始まった。

f:id:OBriens185:20201119202333j:plain
f:id:OBriens185:20201119211900j:plain

引退したカティーナの代わりにカランドロ家のアイオンがその場を取り仕切り、滞りなく儀式は終わった。

来年は自分がこの役割を担うことになるー。

 

***********************************************

29日になると、殆どの国民は仕事休みに入るが、来年度の組織長予定者だけは重要な仕事が残っていた。

来年の評議会議長決定のための選挙に出なくてはならない。

「評議会の一員になるということは、兵団のみならず、王国の政治にも責任を持つということだ。しっかりやれよ」

父はそう言って送りだしてくれた。

 

「イグナシオ、兵団長就任おめでとう!まさかお前と一緒に評議会に出れるとは思ってなかったよ。これから宜しくな!」

議会に出向くと真っ先に、伯父のカールが笑顔で声をかけてきた。

伯父はこの度のトーナメントでも、勿論危なげなく優勝していたのだった。

「偉大な龍騎士」である伯父と自分が肩を並べる存在になるとは...何とも不思議な感覚だ。

f:id:OBriens185:20201119214202j:plain

選挙の結果は...勿論若造で新参者のおれが選ばれるなどということはなく...

陛下の信任厚い「龍騎士カール・オブライエン」が今年に引き続き議長に選ばれた。

勿論おれも伯父に投票したひとりだった。

f:id:OBriens185:20201119214659p:plain

 

「カールさん、評議会で一緒になれた記念...というわけじゃないんだけど、良かったら練習試合に付き合ってもらえないかな」

選挙終了後、思い切って伯父を練習試合に誘ってみた。

「ああ、構わないよ。そういえば、お前と試合するのは初めてだな。いくらでも、かかって来いよ」

伯父はいたずらっぽく笑いながら、快く承知してくれた。

 

2年後のエルネア杯では、伯父の存在が一番の脅威となるのは間違いない。

昨年のバグウェル戦の勝利から、伯父は更に力を伸ばしている。

勿論今の自分で勝てるとは思えないが、相手の力は早くから知っておく必要があった。

今後自分がどのように強化すればよいか、相手を知ってこそわかるというものだ。

 

「闘技場の使用料は120ビー!お前の分も、俺が出しておこうか?」

伯父が目くばせして聞いてきた。これは勿論冗談だ。

「おれはもういい大人だよ。その120ビーはいずれジークがお世話になった時でも」

 「..........。ああ、そうそう、俺はジークが近衛に入るまで待ってなきゃいけなかったな。じゃあ、始めるかイグナシオ」

伯父が一瞬沈黙したのが何故か気になったが、取りあえず今は試合に集中するべき時だ。

「正々堂々、いざ!」

 

先手を取られるのを覚悟していた。

だが実際に、先手を取れたのはおれの方だった。

数回刃を交わしただけなのに、伯父のほうがあっさりと膝をついてくずおれてしまった。

...明らかに様子がおかしい。

 

「カールさん!」

おれは慌てて伯父にかけよったが、もう悪い予感しかしなかった。

「...見ての通りさ」

伯父は額に手をあてながら、ゆっくりと立ちあがった。

「寿命が近づいているようだ。残念ながら、俺はもう長くない...。時々こんな風に、身体が言うことを聞かなくなるのさ...。このところ、だいぶ回数が増えてきてな...。」

伯父は微笑んでいたが、その顔色は青白くなっている。

 

それは一番聞きたくなかった言葉だった...。

 

f:id:OBriens185:20201119222316p:plain

ゲーム内の性格設定だとイグは伯父さんでも呼び捨てにしちゃうんですけど、流石にそれはいかがなものかということで、イグの「おじさんズ」四人のうちカール・ガイスカ・マティアスの三人は普通に「さん」付けで呼ぶ設定にしています。カールやガイスカなら呼び捨てだと注意しそうだしね。しかしグラハムだけは呼び捨てかもしれない(^^;なんとなく

 

※山岳のこんな設定は勿論ゲーム本編ではありません。捏造です。毎度すみません...(>_<)

 

 

幸運の輝き。

「イグナシオさんどうしたの、試合の時と全然違うわ、そんなにウロウロしなくても。もう三人目ですもの、大丈夫よ...」

「何人目だろうと心配なことに変わらないよ...オリンピア、痛いところはない?大丈夫?」

試合が終わった後すぐ、飲みにいこうという悪友アシエルの誘いを一蹴して自宅に戻った。

 

今日は特別な日だった。

三人目の子供がこれから生まれることになっている。

産む当人のオリンピアは落ち着いていたけれど、見守る立場の自分で出来ることは少なく、かといって何もできないことも申し訳なく、結局ただ所在なげにウロウロしているだけだった。

「ウロウロしてるだけでも、いいのよ。その場にいないことが一番、腹立つの!」

母はそう言いながら、隣に立つ父の顔をチラっと見やった。

「どこかの誰かさんみたいにね」

「...あ、あの時は仕事や探索で余裕がなくて...でも、出産の時には間にあっただろう」

父は痛いところを突かれてしどろもどろになっている。

「まあいいわ...ジャスタス君頑張ってたのは知ってるから許してあげる。そうそう、イグナシオはあの時から優しかったものね。忙しいお父さんの代わりにずっと側についててくれたわ。」

f:id:OBriens185:20201013215256p:plain

...あの時母の側にいたのは今のおれじゃない。

意識の底に沈めた昔のイグナシオだ。

自分にあの時と同じ優しさが残っているかどうか、自分ではわからない。

けれど、オリンピアの気持ちが少しでも落ち着くなら...今は彼女の側についていたかった。それは本心からの気持ちだった。

 

「お義母さん...イグナシオさんは勿論今でも優しいですよ...あッ!」

普通に話していたオリンピアの表情がいきなり苦痛に歪んだ。陣痛が始まったようだ。

オリンピアちゃん!いけない...巫女さんまだかしら?探してくるわね。イグナシオ、オリンピアちゃんの手をしっかり握ってあげてて!」

母が階下に降りようとしたときー、

「兄貴、巫女さんきたよー!」

一階から、妹のヒルデガルドの声がした。ちょうど到着したらしい。

「良かったわ...。じゃあ、邪魔になるといけないから、私たちは一階で待っていましょうね」

「えー、わたし、赤ちゃんが生まれるとこ、みたいー」

「あたしもー!」

娘たちはぐずったが、父が二人の頭を撫ぜながらなだめた。

「あんまり沢山人がいると、赤ちゃんもびっくりしちゃうんだよ。赤ちゃんとは後でいっぱいお話できるから、下でじいじとばあばと一緒に待っていようね。」

「うん...おじいちゃん、待ってる間遊んでくれる?」

「じいじ、お人形遊び、しよう!」

「お人形...あ...ああ、いいよ...じゃあ、行こう」

父は孫二人の手を引いて下に降りて行った。

厳めしい父が人形遊びをしている姿を見たいところだが...今はそれどころではない。

 

家族と入れ違いに巫女のフローラがやってきて、いよいよ出産が始まった。

 苦しむ妻の手を握って励ますことしかできないのがもどかしいが...

後はフローラと妻に全てを託すしかなかった。

f:id:OBriens185:20201115134837p:plain

 

f:id:OBriens185:20201115172430p:plain
f:id:OBriens185:20201115172444p:plain
f:id:OBriens185:20201115172456p:plain

 

 ふぎゃあ、ふぎゃあ!!

 上二人の娘たちの時よりひときわ大きな産声が響いた。

f:id:OBriens185:20201115173137p:plain

「お母さん、頑張りましたね。元気な男の子ですよ」

...三番目の子供は、夫婦にとって初めての男の子だった。

「可愛い赤ちゃん...」

ようやくひと仕事を終えたオリンピアは、安堵に満ちた笑顔を浮かべた。

f:id:OBriens185:20201115173507p:plain

 

「名前をつけてあげてくださいね」

フローラがそう言って、息子をオリンピアに引き渡したその瞬間ー

子供の左肩のあたりがキラリと光った。

f:id:OBriens185:20201115174127p:plain

フローラはその輝きが何であるかすぐに気づいたようだ。

「あら?この子は神から特別な才能を授かったようですね。ほら...ここに印が※」

フローラが指し示した息子の鎖骨のきわには、小さく星形の痣があった。

「これは”グリニーの導き”の印だわ...おめでとうございます!」

グリニーの導き。

それは別名”罠除けの才”とも呼ばれ、この才を持つ者は、ダンジョンに張り巡らされた無数の罠を事前に察知できる特殊な感覚を持つことになる。武術職には就く者には非常にありがたい才能だった。

自分の血統には出やすい才のようで、曽祖父・祖父・父もこの才能の持ち主だ。

残念ながら自分にも弟妹にも発現しなかったし、二人の娘も同様だったから、てっきり父の代で途切れたと思っていた。

 

「イグナシオさん...この子に名前をつけてあげないと」

才能の発現に気を取られていて、大事なことを忘れるところだった。

名前は二人で事前に考えていた。

ジーク」

「この子の名前は、ジーク・コロミナスです」

f:id:OBriens185:20201115180207p:plain

子供たちの名前は、ワ国に伝わる有名な叙事詩の登場人物から選んでいた。
ジーク」はなかでもひときわ強力な戦士で、その名は「勝利」を意味する。

天賦の才を持つこの子にはうってつけかもしれない。

「ほら、赤ちゃんも素敵な名前をもらって喜んでますよ」

何はともあれ、オリンピアの胸に抱かれて微笑む息子は、才能など抜きにして愛らしかった。特徴的な長い睫毛は妻の方に似たようだ。

おれはジークのふわふわの頬をそっと撫でてみた。息子は反応してきゃっきゃと笑った。

「すごいよ...可愛いなあ。きっとオリンピアに良く似た、綺麗な目をした子になるね。男の子だけど...女の子みたいな美人になったりして!」

f:id:OBriens185:20201115181237p:plain

「イグナシオさん...早くも親バカだね」

「はは...だってそりゃあ...自分の子供は可愛いに決まってるよ。」

f:id:OBriens185:20201115181828p:plain

「親バカなくらいでちょうどいいんですよ...愛情で健やかに育ててあげてくださいね」

フローラは優しく穏やかな声でそう言い残して帰っていった。

 

「パパ!赤ちゃん生まれたの!!」

「おとうとー!あたし、おねえちゃんになったんだね!」

入れ違いに娘たちがけたたましい声をあげて二階に駆け登ってきた。

f:id:OBriens185:20201115183127p:plain

「こらこらあんた達、そんなに大きな声を上げると赤ちゃんびっくりしちゃうよ、そーっとしなきゃ、ダメ」

ヒルダ姉ちゃん、はーい」

妹、それに父と母も一緒にやってきた。

オリンピアちゃん、お疲れ様、イグナシオもね。明日はケーキでお祝いだね」

「二人ともおめでとう。無事に生まれて何よりだよ...。」

家の中全体が喜びの空気に包まれていた。めいめいがジークを抱きあげたり話しかけたりして、新しい家族の誕生を祝福してくれた。

 

夜も更け、家族達もそれぞれの床に入ってようやく寝静まったが、おれはまだ一人眠れずにいた。

ジークはおれの横ですやすやと寝息を立てている。

ーさて、まだ先のことだけど、どうするかなー

子供の人数は三人にしておこうと、オリンピアと事前に決めていた。そのうち長女のミカサも成人して結婚するから、娘の子作りに差し障りがないようにするためだった。

となると、例の「龍騎士の力の後継者」はこの三人から選ばなければいけない。

ジークがある程度大きくなり性格がはっきりしたら、その時が決め時だ...。

後継者が誰になろうと、その子が自分のように「ハートドロップ」を飲む羽目になるのだけは避けたかった。

三人のうち誰かが、自ら望んで宿命を背負い、使命を果たす意欲を持ってくれれば、それに越したことはない...。そうなってくれることを祈りたかった。

 

f:id:OBriens185:20201115190302j:plain

「はい、今日はケーキだよ。昨日ジークが生まれたお祝いね。」

「わーい!でもおばあちゃんのケーキがないよ?おばあちゃんだけパウンドケーキ?」

「ボワの実が足りなかったの。でもいいの。こっちにはたっぷりポムの火酒を効かしてるからね、おばあちゃんは大人の味で、い・い・の♪」

翌日もコロミナス家は祝祭ムードだった。

 

「よう!今度は男の子だったって?おめでとう!!」

そこへ伯父夫婦が訪ねてきてくれた。

f:id:OBriens185:20201115192033p:plain

「わーい!カールさんとアラベルさんだー!」

子供好きの二人の登場に、娘たちは歓声をあげて喜んだ。

ジーク君何が好きか解らないから、お祝いにおもちゃ一通り持ってきたのよ」

「えー?ジークだけ?わたしたちには?」

アラベル伯母さんはにっこり微笑んで、ミカサとアニにリボンを巻いた小箱を手渡した。

「はい、ミカサちゃんには、積み木。アニちゃんにはお人形ね。二人の好きなものは、大伯母さんちゃーんと解ってますからね。」

「わーい、ありがとう!!」

「アラベルさん、いつもすみません...」

こんな感じで、伯父夫婦は折に触れて娘たちに贈り物をよこしてくれる。

「うちはもうアルドも成人しちゃったから...。ランスの所に二人目ができるのも当分先だしね。こうしてミカサちゃんたちと遊べるの、私たちこそ楽しみにしてるのよ。気にしないでね」

「じゃ、早速だけど坊主の顔を見させてもらおうか。」

「どうぞどうぞ、ぜひ私の可愛い孫に会ってあげてちょうだい!」

母が伯父夫婦を先導して二階に案内してくれた。

 

「さて。未来の大物君、初めまして。君のご所望のおもちゃ、教えてくれるかな?」

伯父がまるで王族に対するような恭しい手付きで、オリンピアに抱かれたジークの目の前に、三種類の玩具を差しだした。

f:id:OBriens185:20201115194524p:plain

「ぱぷ...?」

ジークは一瞬だけきょとん、と首をかしげたが、すぐに木剣に手を伸ばし、しっかりと握りしめたと思ったら、今度はブンブンと振り回し始めた。

「きゃ、きゃは、きゃはは!」

「ハハハ!こいつは随分とやる気満々だな!俺はそういうの大歓迎だよ、お前、将来近衛騎士隊に入るかい?」

「はーいー♪」

「はーいー?そうか!じゃあ俺、長生きして待ってなきゃいけないな!」

...こいつが伯父の言う通り近衛騎士隊に入ってくれるなら、龍騎士の剣とスキルを得る確率が上がるわけだから、確かにこちらとしても願ったりだ。

だけどそう上手くいくかな?

 

f:id:OBriens185:20201115182405p:plain

おれはジークがご機嫌でケラケラ笑う姿を見ながら、今後のことをぼんやりと考えていた...。

 

※天賦の才の発現と種類、巫女さんどうしてわかるの?とプレイしながら疑問だったので、ついつい「聖痕」みたいなものがあるに違いない!と設定を勝手に捏造してしまいました(^^;痕が出る位置については個人によって異なります。ジークの位置を「鎖骨の際」にしたことは...単純に、「成人した後セクシーだから」という理由です。変態ですねすみません...(^^;

 

 

波乱の兵隊長デビュー。

f:id:OBriens185:20201112224811p:plain

 

 ...父さん、何か似合わないなあ...。

今日は山岳兵団リーグの開会式。兵団顧問となった父が目の前で司会をしている。

同日に開催される騎士隊トーナメント開会式の厳かな雰囲気に較べて、山岳兵団のそれは何ともくだけた雰囲気だ。

尤も、あちらは陛下が列席し、試合の審判は神官直々に執り行う。くだけてなんていられようはずがない。

対してこちらは審判も自前、観戦者も殆ど身内ばかり。

どうしても「親戚の集まり」的な内輪のノリになってしまうのは仕方ないのかもしれない。

 ...ともあれ去年までは、「威厳ある兵団長」だった父が、無理して明るい口調で司会をしている姿はとても違和感があり、寂しくもあった。

かつてナトルで教師をしていたとき、「ジャスタス先生はなんか怖い」と子供たちに言われたことがあるそうなので、父なりに気にしているのだろうか。

 

似合わないのは自分も同じだった。

父に替わってコロミナス家の兵隊長となったものの、ここで熱く意気込みを語るような気分にはどうしてもなれなかった。

長子の立場にある以上覚悟はしていたが、今日一緒にデビューを果たす幼馴染サンチャゴと違って、別にいまかいまかとその日を待っていたわけでない。

どちらかと言うと、ああ...ついに来てしまったか、といった感じだ。

 

f:id:OBriens185:20201112224317p:plain

 ...しかしある意味この開会式が「内輪のノリ」で良かったと思う。

 取りあえず「序列最下位の兵隊長」らしく、道化のような台詞で笑いを取ることで、その場を取り繕うことができたから。

 

*******************************************************

山岳兵団のリーグは長丁場だ。

自分の力量に関わらず、最上位から最下位まで、兵隊長5人全員と戦うこととなる。

おれの初戦の相手はウォルター・カランドロ。

現時点での兵団内序列は第二位。明らかに格上の相手だった。

「パパ、頑張って!」

「あたしが応援するから、ぜったい勝つよ!」

「イグナシオさん...頑張ってね」

家族の応援を受け、これから人生初の試合が始まる。

 

家督を引き継いだばかりの新米兵長が「ベテランの洗礼」を受けるのも、兵団リーグの風物詩だ。

試合前に出くわしたウォルターも、よもや自分が負けるなどとは全く考えないようで

ーさて、この新人をどう料理してやろうか-

明らかにそんな目でこちらを見ていた。

開会式では道化のように振舞ったけれど、試合でまで道化になる気はなかったので

おれは自分から、相手を挑発する言葉を投げかけた。

f:id:OBriens185:20201113202830j:plain

-新人のくせに生意気な-

ウォルターはそう思っただろうが、別に構わない。

 

f:id:OBriens185:20201113212653j:plain
f:id:OBriens185:20201113212628j:plain

 

相手は確かに「格上」だ。

「斧使い」としては。

 

f:id:OBriens185:20201113213025j:plain

だが、ウォルターのエルネア杯での戦いぶりを見ていたから

苦手武器を克服するだけの力量でもないのを知っていたー。

 

f:id:OBriens185:20201113213403p:plain

おれが選んだ武器はビーストセイバーだった。

自分の才は斧より剣の方にあったので、これなら相手に勝てる自信があった。

「...!!」

ウォルターは明らかに驚いていた。

その動揺にそのまま乗じる形で、おれは相手の斧を剣で弾き飛ばした。

「勝者、イグナシオ・コロミナス!!」

 

「パパ、やったー!!」

父親の初勝利に、娘たちは歓声を挙げ喜んでいたが、子供の歓声に混じってザワザワとした声も聞こえた。不穏な空気だ。

ウォルターも何か言いたげな表情だった。

おそらくは「卑怯だ」とでも言いたいのだろう。

試合に出てくる兵隊長で剣を使う者はいない。

別に武器種類の定めはないのに、暗黙の了解でなぜかそうなっている。

もし卑怯だと言われたら、言い返す言葉は沢山あった。

今まで散々、銃持ちの兵隊長を恰好の餌食にしてきたくせに、自分が不利になる条件では文句を言うのはおかしい、同じ武器の決まった相手としか戦わないから、いつまでたっても山岳兵団はエルネア杯で勝てないのだ-云々。

...が、相手は現時点のNO.2。

流石にそんな子供じみた突っかかりはしてこなかった。

 

f:id:OBriens185:20201113220324p:plain

すぐに落ち着いた表情に戻り、向こうから握手を求めてきた。

再び観客席から拍手が鳴り響き、不穏な空気はとりあえずは浄化された。

家族のもとに戻ると、皆口々に良かったねと笑顔で労ってくれた。

が、父だけは苦笑いの表情のまま腕組みをしていた-。

何か言われるかと思ったけれど、父は何も言わなかった。

 

 試合は続いたが、その後もおれは勝ち星を重ねた。

同等以下の実力の者には斧で。

格上の相手には剣で。

f:id:OBriens185:20201114125843j:plain

 山岳兵らしく、普通に斧で戦いつつ、年単位で少しずつ順位を上げる-

そういう方法もあることは解っていたが、とっとと兵団長になってしまいたかった。

素質に恵まれた父でも、兵団長に上がるには4年近くかかっている。

残念ながら、自分には祖父や父のような素質はない。「普通の方法」では最悪、兵団長に上がれぬまま兵長の任期を終える危険すらある。

兵団長になれば新しい技も得られるし、報酬も増えて強化のための費用を補える。

そしてエルネア杯では、有利な立場で試合に臨むことができるー。

それに、斧と並行して剣の能力を鍛えるのも、来るべき「騎士隊長との対決」に役立つはずだ。剣によって磨かれる速さの能力を高めれば先制される確率は下がる。

その時の相手が誰になるかはわからないが、龍騎士となった伯父カールであれば正直厄介だ。あの父でさえ勝てなかった相手で、しかも今は龍騎士の剣とスキルを持っている...。

f:id:OBriens185:20201114131721p:plain

が、相手が龍騎士であろうと、負けるわけにはいかない。

任期の中で自分に与えられた「エルネア杯への出場チャンス」は二回。

絶対に最初の機会で龍騎士になろうと決めていた。

おれにとって、あくまでもこれは「仕事」だから。

締め切り間際で焦る羽目にはなりたくなかった。

 

*******************************************************

「イグナシオ、解っているとは思うが...」

ある夜、今まで何も言ってこなかった父が、ようやく重い口を開いた。

「お前が勝つためにどういう手段をとろうと、試合の規定に沿ったものである限り、俺は咎めだてをする気は一切ない。」

f:id:OBriens185:20201114133858p:plain

 「ただ...山岳兵団から龍騎士が初めて現れるとするならば、それは兵団の「希望の星」となるはずなんだ。ずっとこんな山奥の辺境の地で、過酷な採掘や精錬作業に従事してきた俺達のな...」

 

確かに、山岳兵団に割り当てられた仕事は他組織より重労働だった。

炭石や輝光石程度であれば浅く掘る程度で採掘できるので、一般国民の協力を簡単に得られる。

...が、貴重な資源となるゴールドや、鉄や鋼の元となるハッカ石・鉄鉱石を掘り出すのはかなり骨の折れる仕事のため、基本山岳兵団員に限定されていた。

更にそこから先の高炉の操作は肉体的な過酷さと共に危険も伴う。しかもおれたちは、その仕事を自ら「やりたくて」希望する訳ではない。

たまたま山岳家系に生まれついたというだけで付随する義務だ。

仕事の過酷さと引き換えに、多額の報酬と☆5ダンジョンに無条件で入れる特典が付与されていたが、全ての団員がそれを欲する訳ではないだろう。

 

父は話を続けた。

「仕事は過酷だが、我々の作りだす工芸品は我が国の基幹産業だ。俺達の仕事の成果が王国にもたらす富は計り知れない。それゆえに誇りを持って取り組んできた。

そして「斧」は始祖ドルム・ニヴの時代から、山岳兵団の力の象徴だ。だからこそ、兵団を束ねる者には「戦斧の達人」の称号が付与される。

その英雄となる者が、他組織で主流とされる武器を使って龍騎士になるということは...

皆がどういう気持ちになるか...できれば考えてほしいんだ」

「......」

「俺は、息子のお前が兵団の夢を叶えて英雄になれるなら本望だよ...。だからこそ...言っておきたかった」

おれ個人にとって龍騎士になることは使命であっても夢ではない。

でも、自分に与えられた二つの使命のうちもう一つは、「兵隊長として山岳兵団の発展のために尽力すること」だった。

兵団が、自組織初の龍騎士に求めているのは「剣や銃の英雄」などではなく、あくまで「斧の英雄」だ。

組織が求める役割を完璧に果たすのも、確かに自分の仕事なのだった。

ここで仕事をしっかり果たさないと...ハートドロップで無理やり意識の底に沈めた「以前のイグナシオ」にも申し訳がたたない。

f:id:OBriens185:20201114154350p:plain

「解ってるよ。今年は剣無しで勝ちきるのは厳しいと思うけど...探索の成果も順調なんだ。来年には斧一本で行けると思う」

「そうか...。お前がここ数年で順調に力をつけてきているのは解っている。その言葉を信じるよ。最終的に斧で勝てるようになるのであれば、現時点での過程は問わない。」

父は安心したようだった。

ついでにこの機会に、気にかかっていたことを聞いてみることにした。

「父さん」

「...何だ?」

「おれがこういうやり方で勝っていることで...父さん、周りから風当りが強くなったりしていない?」

別に自分が何と思われようと全く気にならないが、父に余計な気苦労を与えるのは本意ではなかった。

「まあ...古参の長老たちには嫌味を言われることもあるが...。別にお前が悪事を働いているわけじゃない。お前に全てを任せると決めたのは俺だ。俺は気にしていないし、お前も気にする必要はない」

f:id:OBriens185:20201114155740p:plain
f:id:OBriens185:20201114155752p:plain

「ありがとう...父さん」

 

母が自分の夢を諦めてまで、父との人生を選んだのも分かった気がした。山岳長子の立場に生まれたのは自分の本意ではなかったが...父の息子で良かったと思えた。

託された使命は未だに重いが、家族の存在に随分と助けられていた...。

 

 

-最後までお読みいただいてありがとうございます-

 

【イグの口調についての補足】

性格変更後のイグは「行動的な性格」のため一人称は基本「俺」なのですが...

カール伯父さんも「俺」ジャスタス父ちゃんも「俺」幼馴染サンチャゴも「俺」。

かようにイグの周りに「優しさ-1の一人称俺男子」が多すぎて、「俺」が乱立したあげくに大阪のオバチャンよろしく「どこの俺や!」となる事態を避けるため、主役のイグはひらがなの「おれ」で表記することにしました。悪しからずご了承くださいませ(^^;

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カール編おまけ:ヘタレ山岳兵と龍騎士様

※こちらは「兵長継承」「もう一つの準決勝」とほぼ同時期のお話です(^^;

「よう騎士隊長殿、ムタンの種が採りたい。ゲーナの森まで、付き合ってくれよ」

f:id:OBriens185:20201110215531p:plain

親友のルチオから誘いを受けたのは、エルネア杯の準決勝が終わった翌日のことだった。こっちは決勝を控えた大事な時期だというのに...コイツは一体何を考えているのか。

「なんだよ、お前王配なんだから護衛がいなくても一人で入れるだろ※」

「こらこら、俺達か弱い王族をお守りするのも騎士隊長さまのお仕事だぞ。サッと行ってサッと出てくるだけのことさ。いいじゃないか」

俺としてはゲーナでコイツとちんたら散歩する暇があるなら、瘴気の森に籠って少しでもレベルを上げたいところだ。

...が、確かに「王族の護衛」も騎士隊の重要な任務であるので、要請がある以上は断れないのだった。

といってもその護衛内容が「ムタンの種採りのお手伝い」というのは断じて納得がいかないが。

「全く...しょうがないな。じゃあ、お言葉通りサッと行ってサッと帰るぞ」

「狙い通り種が出たら、な。出なかったらもうひと往復だ」

そう言いながら、ルチオはご自慢の白い歯をむき出しにして二カッと笑った。

この男と「ムタン種採りマラソン」を何往復もするのは御免被りたいので、最初の探索でムタンの種が大量に出るのを期待して、俺達はゲーナの入口へと向かった。

 

「...カール、おい、なんだ、ありゃ?」

入り口付近まで来てみると、緑色の髪をした若い山岳兵が、何度も入口を出たり入ったりしているのが目に入った。心なしかブルブルと震えているようだ。

「...ど、どうしよう...えいっ....ああ、やっぱり駄目だ。怖い...」

なにか事情がありそうだ。

「君...どうしたんだ?」

「...あっ...あの...」

振り向いた青年の目は涙目になっている。

俺とルチオは顔を見合わせた。

「理由はわからないけど君が困ってるのはよく解るよ。俺達でよかったら話を聞くけど...」

その山岳兵は一瞬どうしようか...と迷った顔をしたものの、意を決したのかぽつりぽつりと話し始めた。

「オレ今度...結婚するんです。子供の頃から仲良しで...スゴク綺麗で賢くて優しくて、オレには勿体ない相手なんですけど」

「ほー!それはめでたい!...で、お前さんがここを出たり入ったりするのとそれに何の関係が?」

ルチオが即座に突っ込みを返す。

「相手のお家...お父さんが近衛騎士なんです。で、この間婚約パーティで一緒に食事したとき...〚今度一緒にゲーナの森を探索しよう〛なんて誘われちゃって」

「成程な」

「で、でもオレ...山岳兵なのに恥ずかしいんですけど、た、探索、苦手なんです!怖いんです!帰らずの洞窟さえも怖くて途中で出ちゃうのに、ゲーナの森なんて入ったこともなくて...。ほんとにお義父さんと探索に行く羽目になって、情けない姿見られちゃったら、どうしようかと...。だから勇気を振り絞って来てみたものの、やっぱり怖くて。

友達を誘おうかとも考えたんですが、いい年して一人で探索できないのもオレだけなんで、それも恥ずかしくて。両親を誘うのはもっと情けないし」

 

山岳兵といえば一般的に勇猛、のイメージが強いが、どうやら全員そうではないらしい。まあ、他の武術職と違って「なりたい者がなる」わけではないから、こんな悲劇?も起こってしまうということか...。

何にせよ、赤の他人といえど、話を聞いてハイ放置、というのは性分に合わない。

「わかった。じゃあとりあえず、俺達と一緒に探索してみないか?」

「えっ?い、いいんですか?」

「隣にいる彼は王配で、俺は彼の護衛でゲーナに入るところさ。えっと君は...山岳長子?」

「はいそうです...母さんも来年には18になるので...もうすぐ兵隊長に」

「なら、俺と一緒に護衛で入る...ってことにすればいいさ。兵隊長になるための勉強の一環としてさ」

「ハ、ハイ!」

「じゃあ行こうか。君の名前、聞いてもいいかな?」

「アンテルム...アンテルム・ペトレンコです。宜しくお願いします!」

f:id:OBriens185:20201024132628p:plain

ペトレンコ...ああ、明日のガイスカの対戦相手の息子ってわけか!

準決勝まで上がってくる強者が母親じゃ、確かに...プレッシャーがあるよな。

俺自身も散々「龍騎士の息子」という肩書に重荷を感じてきた人間だったので、急に目の前の相手に親近感が涌いてきた。

 

こうして俺達は三人でゲーナに入ったわけだが...まあ予想の通り、怪物をやっつけるのは専ら俺の役目で、ルチオは全くやる気なくニヤニヤ笑いながら後ろで突っ立っていて、アンテルムは逆にブルブル震えながら、一応形だけ斧を構えていたものの...前に出てくる気配は全くなかった。

こりゃあ先が思いやられるな...と少し呆れながらも、あっさり探索は終わった。

「...やったあ...」

森を出た瞬間、アンテルムは半泣きになりながらも、軽く拳を振り上げて喜んでいた。

「...初めて、ダンジョンの最後まで、途中で帰らずに、行けたああああ〜!」

...おいおいそこからか、と思わないこともないが、まあ何にせよ...少しでも以前の自分より進歩があったのなら、それは十分本人にとって収穫だろう。とにもかくにも「はじめの一歩」は大事だから。

「良かったな。これでちょっとは自信がついたろう?この調子で少しずつ頑張っていけばいいよ。じゃあ俺はこれで...」

「...おいカール」

「任務」が終わったので瘴気の森に行こうとすると、ルチオが腕をむんず、と掴んできた。

「何だよ」

「宝箱を開けたが、ムタンの種が入ってなかったぞ」

「...だから何だ。」

「種が採れるまで続けるぞ!行くぞ!」

「あ、じゃあ、オレも一緒に行っていいですか?」

「おう!行くぞ若者!」

「...全く...何なんだよ...全く...」

こんな感じで、それから何度か、俺とルチオとアンテルム、という訳のわからない三人組で、ムタン採りに出かける羽目になってしまった。

アンテルムは相変わらず俺の後ろで斧を構えてブルブル震えていたが、一応回数を重ねるごとに「多少は」攻撃にも参加するようにはなってきた。継続は力なり...ってところか。こいつがリーグ戦に出る頃にはどうなってるだろう。見たいような、怖いような。

 

**********************************************************************

「パパ、おてがみ届いてるよ、おやまから。ハイこれ」

「ああ、ありがとうアルド。」

俺がバグウェルに勝利し龍騎士となった翌日、山岳兵団のマークの入った手紙と招待状が届けられた。封を開けるとアンテルムからだった。

”カールさん 龍騎士おめでとうございます。バグウェル戦、オレも観客席で見てました。こんなすごい人に探索付き合ってもらったんだ...と今更ながら恐縮しています。

突然ですが、カールさんとルチオ王配殿下にはとてもお世話になったので、お二人で是非オレたちの結婚式に参列していただけないでしょうか。ロシェルと二人で楽しみにしています”

-ロシェル?

f:id:OBriens185:20201024132220p:plain

招待状のほうを見ると、新郎新婦の署名はこう書かれていた。

アンテルム・ペトレンコ

ロシェル・オブライエン

 

アンテルムの「綺麗で賢くて優しい婚約者」は、弟ガイスカの娘ー、つまり俺の姪のロシェルなのだった。

-なるほどねー。

つまり「アンテルムをゲーナに誘ったお義父さん」はガイスカだったんだ!

俺はその情景を想像して可笑しくなって、手紙を手にしたままゲラゲラ笑ってしまった。

 

結婚式当日。

神殿でガイスカに会ったので、ゲーナの森での顛末を話し、近々アンテルムと探索に行く予定があるのかどうか聞いてみた。

「...いや、見るからに頼りなさそうな子だったから脅かしてみただけだよ。こっちとしては手塩にかけて育てた娘を山岳に取られるわけだからね...。探索は兄さんの話を聞いただけで十分さ。私なら、苛々してそのまま森の中に置き去りにしてしまいそうだ」

f:id:OBriens185:20201024171916p:plain

「いつも紳士なお前でもそんなこと思うんだな。やっぱり大事な娘が絡むと、違うんだな」

「私ならまだ、いい方さ。父さんなら彼、無事で済まないよ」

f:id:OBriens185:20201024171312p:plain

「そりゃ、そうだ!」

そうして二人で顔を見合わせて笑った。

f:id:OBriens185:20201110225543j:plain
f:id:OBriens185:20201110225528j:plain
f:id:OBriens185:20201110225617j:plain
f:id:OBriens185:20201110225640j:plain

山岳兵が結婚して所帯を持つ重みー、というのは、普通の国民とはわけが違う。

山岳兵隊長として、一族を率いる立場になるための第一歩だ。

f:id:OBriens185:20201110232407j:plain

「王配殿下!カールさん!オレ、頑張ります!」

式が終わった後、アンテルムは元気いっぱい挨拶しにきてくれたけど

さて、コイツは一体どんな兵隊長になるのかな...。

 

f:id:OBriens185:20201110232638p:plain
f:id:OBriens185:20201110232657p:plain

「アンテルムどうしてるかって?まあ、いつも通りだよ。やる気?あいつにそんなものそもそも、あるの?」

その後アンテルムと俺達がゲーナに行くことは無くなったが...ちょっと気になってイグナシオに様子を聞いたら、結局相変わらずらしい。

残念ながらよくも悪くも、人間はそう簡単には変わらないってことか...。

ガイスカに、一度くらいは本当にゲーナに誘うよう、言っておいた方がいいかもしれないな。

(終わり)

※実際にゲーム上では王族と武術職が誘い合って☆5ダンジョンには行けないんですよね(王族未体験なのでWikiにて確認)PC王族は☆5に入れるけど単独でしか入れないと...。なのでここは捏造です(^^;

【あとがきのようなもの】

また長々と書いてしまいましたが、最後までお読みいただいて、ありがとうございます。

10回の長さに渡りカールの話を延々と書いていたせいか、カールと離れるのがとても寂しくなってしまい、ついついこんなおまけ話まで書いてしまいました。

アンテルム君は作中に書いた通り、「帰らずの洞窟」も途中で帰ってしまうし、通常年功序列のはずの山岳リーグでも、年齢の割には順位が低かったりと...実際にかなりなヘタレな山岳兵でした。

彼はイグナシオの親友の一人でもありますが、結婚式になぜかカールと親友のルチオ王配殿下が列席していたのです。どういう経緯で親しくなったのか不思議で、脳内に膨らませていた妄想が、今回のお話のもととなりました。

他の話もですが、今までぼんやりと脳内に漂っていた妄想を、拙くはありますが形にできるのは、とても楽しいことでもあります。

次はいよいよイグナシオの兵隊長デビュー...どんな形であれきちんと書けたら...いいな

 

 

 

髪型と髪色って重要だよな。

髪色・髪型と顔立ち・肌色のバランス。生身の人間のお洒落には非常に重要なポイントです。

それはエルネアキャラだって同じですよね。

PCはもとよりお気に入りのNPCに関しては、いつも「ベスト髪型」で迷います。

わたしがキャラの髪型・髪色設定するときこだわってるのは、だいたい下記の3つ。

・大前提として、似合ってるか

・制服がある場合は、制服とのバランス

・そのキャラのポジションに相応しいか(PCなら主役らしい華・組織長なら大人っぽさが欲しいなど)

 

大体のキャラは「ベスト髪型」が割合スムーズに決まるんですが、

・初代長男カール

・三代目PCイグナシオ

この二人に関しては中々ベストが決まらず、過去のスクショを順を追って遡って見るとその迷走っぷりが甚だしく、当時の自分の試行錯誤が懐かしく思いだされます。

 ということで意味もなく、二人の「髪型の変遷」を追ってみようかと(^^;

 カール編

f:id:OBriens185:20201109193449j:plain

デフォルト髪型はひとつ結びでした。今思うと騎士隊長になるまでは、この髪型でも良かったかな?しかし当時の自分は「長髪全般」が苦手なので、割合すぐ断髪。

f:id:OBriens185:20201109194351p:plain

所謂「イケメンカット」にしてみました。カールは2年彼女が出来なかった「もてない君」だったので、見かねた家族がアドバイスした結果ということになっております。

父「カール。お前そのボサボサ頭なんとかしたらどうだ」

妹「お兄ちゃんまかせて。かっこよくしてあげる♪」

カ「...なんか、ちゃらくね?それに俺癖っ毛だから毎日真っ直ぐにするの面倒なんだけど」

父「そんなこと面倒くさがってるからもてないんだ」

カ「あーハイハイわかったよ!やります、やりますって、毎日丁寧に髪セット、ね!」

イケメンカットの効果か、この後アラベルちゃんという可愛い彼女ができて一件落着。しかし...誰でもイケメンになるはずのこの髪型にも一つ弱点が。

f:id:OBriens185:20201109195600p:plain

前髪で目のハイライトが隠れて虚ろな表情になって怖いσ(oдolll)

特にカールの口パーツ、笑うと八重歯?が出てくるっぽいので余計コワイฺ(☼Д☼)

本来お人形みたいに綺麗な6系26番目。前髪上げて顔立ちハッキリ見せた方が、よくね?

ということで、結婚を機にヘアチェンジ!

f:id:OBriens185:20201109200345p:plain

「あれ?お兄ちゃん髪型変えた?」

「別にもうモテル必要もないし、毎朝髪セットなんてやってられないからな。いやー、これ楽でいいよ!」

「んー...ちょっとオッサンくさい...気も」

「別にいいんだよ、オッサンで!」

うん。スッキリ爽やかで良いんですが...カッコイイかというと...微妙。

でも代案も見つからないので、騎士隊に入ってからもしばらくこのままでした。

しかしある日妹マグノリアが出会った「モブ国民の髪型」がヒントとなり、カールの「髪型迷走」はようやく終わりを迎えることに♪

f:id:OBriens185:20201109201508p:plain

キタ───(´∀`)───!!

市場で出会ったモブさんがたまたまこの髪型で6系26番目。

その組み合わせがスゴク合ってたので、カールに試してみたらピッタリマッチしたのでした。26番目の綺麗さが引きだされて、華やかさもプラス。元々この髪型好きなのに、なぜカールで今まで試そうとしなかったか不思議。

弟グラハム「あれ?兄貴、何その髪型?」

カール「...ハ...ハハ...アラベルがちょっと変えてみたらっていうから...変か?」

グラハム「変じゃないけど若作りだな( *^皿^)」

カール「うるさいっ!」

f:id:OBriens185:20200924215440j:plain

最終的にカールは騎士隊長→龍騎士にまで登りつめますが、「見せ場ムービー」でもヒーローっぽい華が出て良かったと思っております♪

 

イグナシオ編

f:id:OBriens185:20201109210017p:plain

三代目PCイグのデフォ髪型はまさかの角刈り(スポーツ刈り?)

このまんま成長すると確実に「ヤン○ー漫画の脇役」になってしまうのが目に見えていたので、速攻でヒーロー髪型にチェンジ。

f:id:OBriens185:20201109210411j:plain

うん可愛い(^^)

子供時代のイグは、ほんと「ニャンコ」みたいで可愛かったです。

当時は無かったけど後から出てきた「猫の着ぐるみ」衣装着せたら似合っただろうな。

これ似合ってたのでそのまま成人へGO!

f:id:OBriens185:20201109210849p:plain

...んー...

PCの「兄弟」ならいいんだけど。PC=主役だし...んー。

こう...なんか「主人公の横でいつも驚いてる人」「主人公に絡むけどすぐ負けてその後友という名の手下になるやつ」みたいな感じ...(いち個人の感想です(^^;)

同じ顔パーツなのに「大人」と「子供」で印象変わるの面白いですね。

ここからイグナシオの「髪色髪型その他迷走」が始まります...

f:id:OBriens185:20201109211542p:plain

意味もなく眼鏡をかけさせてみたり。今見ると「さいきくすお」みたいだな(^^;

魔銃兵ならこれでも良かったかな?しかし山岳服との相性はイマイチ。

f:id:OBriens185:20201109211806p:plain

茶色髪にしてみた。悪くはないけど、パンチに欠ける...。

f:id:OBriens185:20201109212056p:plain

最終手段!大好きな「2番ヘア」にしてみたぞ!でもなんかチガウ...

(2番と6番以外の髪型にしないのかって?私の中で男PCもしくは女PC配偶者の髪型はこの2パターンと決まっているのです...この2つしか惚れないのです...)

f:id:OBriens185:20201109212514p:plain

髪色赤に戻す!まあ、悪くはないけど...

とりあえず6番より2番のほうが似合うので髪型はこれで決定!

f:id:OBriens185:20201109212804p:plain

いかれポンチになりヤケクソで金髪にしてみる。

あれ...意外と...いいんじゃね?

しかしこの髪色この恰好で父から家督継承を受ける羽目になり非常に後悔している

兵長継承。 - 遠くから来て遠くまで。

↑イグのチャラい恰好が厳格な儀式のなか思いっきり浮いてる継承式の模様はこちら

 

でもキンキラキン過ぎる気もするのう...

ハッ!

イグナシオの顔は基本「フランお祖母ちゃん」にソックリ!

f:id:OBriens185:20201109214315p:plain

もしかしたらアッシュヘア、いいんじゃね?

(ΦωΦ)キラーン+ 

試してみる☆

 

f:id:OBriens185:20201109214913p:plain

キタ───(´∀`)───!!

ようやくキター!!

肌色と浮かず自然でいい感じ。

癖毛が柔らかそうな感じになって三白眼の印象を和らげている!

 

f:id:OBriens185:20201109215209p:plain

どうでもいいんですがブラッドレイ家の長子ジェナちゃんと兄妹のようです。

2系目女子もイイネ!

 

f:id:OBriens185:20201109215636j:plain

ようやく主役らしい華のあるビジュアルになって中の人は大満足です!

兵隊長就任以後のイグは「クールでドライ」なキャラにしたかったので、イメージ通り!

 

いやーほんと、「髪色」と「髪型」って重要だよね...っお話でした。

「髪色」「髪型」でキャラが見違えるように変わるのがほんとに楽しくて、

わたしの歴代PCの「かばん」の中にはいつも、髪染め各種と「ヘアカタログ&理容セット」が常備されております(^^)

 

おまけ:初代のオールバック

f:id:OBriens185:20201109221021p:plain

引き継ぎ前に「お父さん」ぽくしようと変えてみたけど似合わないのですぐ撤回(^^;